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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-39.修行

※11/1 誤字修正しました。
※11/1 書き出しを書き直しました。
 サトゥーです。どんなに切れるメスでも、マグロの解体には使えません。多少切れ味が落ちても、相応の長さと大きさが必要なのです。





「とーなのです!」

 ポチの小さな体躯が、一般民家二軒分ほどもある大きな魔物に突貫する。今、ポチ達が戦っているのはレベル39の棘瘤蜥蜴(メイス・リザード)という、この区画最強の魔物だ。頭に棘の生えた瘤が無数にあり、そこに突進するポチは勇者と言える。

 ポチの小魔剣が、根元まで棘瘤蜥蜴の頭に刺さっているというのに、効いた様子がない。棘瘤蜥蜴は、巨大な頭を振って、ポチをペイッとばかりに部屋の隅に振り落とす。

「頭が大きければ賢いというのは、都市伝説だと告げます!」
「アリサ、強化魔法を。ミーア、ヤツの口をこじ開けて下さい」
「ん」
「おっけー」

 ポチに追い討ちのシッポ攻撃をしようとしていた棘瘤蜥蜴が、ナナの挑発に引かれて体の向きを変える。

 ルルの魔砲から打ち出される魔力弾は、棘瘤蜥蜴の体表を削るばかりで致命打にはならないようだ。タマの双剣も同様で、分厚い体皮を抉るばかりでダメージが薄い。

 ミーアの新魔法「膨張弾(バルーン・ショット)」が、棘瘤蜥蜴の口を抉じ開ける。元からある水分を利用する「急膨張(バルーン)」よりも必要な魔力が多いが、この魔法は、自前で必要な水分を生み出すので使い勝手がいい。この前、ミーアに頼まれて作った呪文だ。

「強化行くよ~」
「感謝します」

 アリサの強化魔法が、リザに更なる力を与える。体の内側から湧き上がる熱量に応える様にリザが裂帛の気合と共に技名を叫ぶ。叫ぶ必要は無いんだが、強化魔法を受けた後のリザは、テンションが上がるのか必ず叫ぶ。

「瞬動螺旋撃」

 リザの魔槍から漏れる赤い光が、リザの全身を包んだ。ドンッという空気を割るような音を残して、その姿は10数メートルを一瞬で駆け抜けていた。魔槍と自身を、一本の武器のように見立てて、棘瘤蜥蜴の体を貫く。

 無茶な技だ。

「すごい~?」
「さすがリザさんね」
「肯定。突撃は勇猛だと告げます」

 蜘蛛の巣塗れになって、トボトボと帰ってきたポチを生活魔法で綺麗にしてあげる。

「ポチもお疲れ様」
「ご主人さま、もっと大きな武器が欲しいのです」

 珍しくポチが、我侭と言うか要望を出してきた。実は、敵のレベルが35を超えた辺りから、ポチやタマの武器が短すぎて敵の外皮を突破できない事態が増えて来ていた。オレも昨日から2人の新しい武器を作り始めているのだが、流石に一晩では完成していない。

 ストレージから、既存の色々な武器を出してみる。

「普通の長剣でも使ってみるかい?」
「いっぱい~?」
「大きい武器なのです!」

 目をキラキラさせたポチが、オレの取り出した片手剣、片手半剣、大剣、大鎚、長槍を手に取っては振り回して感触を試している。どの武器も軽々と持ち上げているのだが、ポチ自身の体重が軽いため、どうしても武器を振り回すと慣性を上手く捌けないようだ。

「ご主人さま~? もう一本だして~」

 タマが大鎚を片手に、もう一本をねだってきたので、出してやる。ドワーフの里で振るったミスリル合金の大鎚に比べたら軽いけど、余裕でタマ自身よりも重い。

「みてみて~ コマ~?」

 両手に大鎚を持ったタマが、クルクルと大鎚を振り回してコマのように回る。リザやポチに筋力で負けているから誤解しがちだが、タマの筋力もなかなか高い。アリサとルルが「タマがコマ」とか、ブツブツ言いながら肩を震わせていた。ツボに入ったみたいだ。箸が転がっても楽しい年頃だし、仕方ないよね。

「ううっ、ふらふらするのです」

 ポチは斧槍(ハルバード)みたいな長柄の武器や大剣を使いたいようなので、体に重たい重石をくくり付けてバランスを取らせてみた。

「フラフラしなくなったけど、重くて動けないのです」

 重石を増やしすぎたか。動けないと言いながらも、ポチはズリズリと重石を引きずりながら移動している。

「う~ん、やはり術理魔法系の魔法の刃を生み出すタイプの剣を完成させた方がいいかもね」

 武器の換装もだけど、20レベル後半くらいから、皆のスキルのバリエーションが止まっているんだよね。後衛陣はそれでいいけど、前衛は、もうちょい技系のスキルを増やしたほうが良い気がする。

「武器を完成させるまでの間、エルフの里にでも戻って新しい技でも学んでみるかい?」
「修行ね! 修行パートなのね!」

 それを聞いたアリサの目がキラリと光る――わざわざ光魔法で、そんな効果付けなくていいから。どこまで芸風を広げるのやら。

 乗り気なのはアリサだけでは無いようだ。最近の戦闘で、1戦あたりの戦闘時間が延びてきたのを気にしていたリザやナナも賛成のようだ。

「滝に打たれて~?」
「雪山行軍なのです!」

 少し方向性が違うが、ポチやタマもヤル気みたいだ。

「エルフの里もいいけど、今度は仙人とか竜族の棲む山とかで修行もいいわよね~」

 そんなアリサの戯言を聞き流しつつ、エルフの里に向かう事にした。





「このチートやろぅぅぅ!」

 失礼な。

 ボルエナンの森には、5回ほどの帰還転移の連続行使で戻ってきた。上級魔法の転移と違って帰還転移では300キロほどが上限なので、1回では辿りつけない。なので、なかなか大変だ。人数が増えると消費魔力も増えるので、流星雨1発分近い魔力が必要だったりする。

 ボルエナンの樹上の家には、びっくりした顔のルーアさんが出迎えてくれた。どうやら、部屋の換気をしに来てくれていたらしい。もっとも、オレが転移してくるのには慣れているので、オレが挨拶すると、すぐに普通に挨拶を返してくれた。

「こんにちは、サトゥーさん、今日は(・・・)大勢なんですね」
「皆の修行をさせて貰おうと思って、しばらく滞在させていただきます」
「はい、いつでも大歓迎ですよ」

 後ろでアリサが、「今日は(・・・)?」とか耳ざとくルーアさんの言葉尻を捕らえて来るがスルーだ。反応してはいけない。川の流れのように華麗にスルーだ。

「はい、ポーア達にも声を掛けておきますね。そうそう、ネーアがバニラの抽出が出来たって言ってましたよ」
「はい、それなら昨日アーゼさんから、遠話で伺っています」

 今度はアリサとルルが、昨日のスケジュールを確認し合っている。うん、2人の記憶は間違いない。確かに、一日中、迷宮で魔物と連戦していたし、オレもその後ろでヒマを見つけては魔法道具を作っていた。その魔法道具は、遠隔地の奴隷達と連絡するために開発しているものだ。向こうで緊急事態が起こった時に、連絡手段が無いからね。

「すとーっぷ! じゃすとあもーめんと」

 なぜ英語だ。

「何だ?」
「質問一、どうして『今日は(・・・)』なの?」
「あら、サトゥーさんなら、三日にあげずに戻ってましたよ」

 どう言うべきか迷っているオレに弁明する隙を与えずに、ルーアさんが暴露してしまった。迷宮都市に向かってから、まだ7~8回しか戻ってきてないのに。

「いつの間に……」
「むぅ」

 ルルとミーアが上目遣いに、責めるような視線を向けてくる。

「美味しい食材とか珍しい料理とかを見つけた時に、お裾分けしに戻ってきていたんだよ」

 これは事実。ゲボ煮とか黄奇蜥蜴の肉とか、バジリスクの燻製肉とかを手土産に持って来ていた。他にも抽出方法の思いつかなかったバニラとかの相談をしに、ネーアさんの所を訪れたりもしている。けっして、アーゼさんに会うためだけに、戻って来ていた訳ではない。

「ほうほう? それで遠話って?」
「あれ? 言ってなかったか? オレの遠話やアーゼさんの無限遠話(ワールド・フォン)は、迷宮都市とボルエナンの距離くらいなら会話できるんだよ」

 聞いて無い、とアリサ達に詰め寄られた。
 だって、言ったら「ギルティ」を連発するだろう?

 気まずい空気を感じたのか、ルーアさんが話を逸らしてくれた。

「そうだ、冷蔵倉庫にスプリガンの人達が届けてくれた豆を仕舞ってあるので、確認しておいてくださいな」
「もう届いたんですか、ありがとうございます確認しておきます」
「豆って、まさか!?」

 ふっ、ふっ、ふっ。探索の得意なスプリガンの皆さんに、ボルエナンの森の中を人海戦術で探してもらったのだよ。

「後のお楽しみだよ。今日の晩御飯の後にでも出すから、食べ過ぎるなよ」
「ついに、アレが来るのね! ああ、早く晩にならないかしら。ねぇ、時だましの香とか持ってない?」
「無いよ」

 待ちきれないのは判るが、あれは別に時間が早く過ぎるアイテムじゃ無いだろう。





 皆をボルエナンの森に残して、オレはポチ達の新装備の開発に蔦の館へ戻ろうとしたのだが、ミーアから待ったが掛かった。

「レベル差、解消」
「え~っと? アリサ達とのレベル差を解消したいから、迷宮に行きたいって事か?」
「ん」

 現在、ミーア以外の全員がレベル35、ミーアがレベル27だ。アリサによると、エルフの必要経験値は、人や獣人の丁度2倍くらいらしい。

「判った、それじゃサクサク上げようか」
「ん」

 オレはミーアを連れて迷宮都市へと向かう。転移間際に「サクサクだとぅ」というアリサの言葉が聞こえた気がしたが、空耳という事にしておこう。
※次回更新は、11/3(日)です。
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