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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-37.黒衣の男(2)

※10/27 誤字修正しました。

 サトゥーです。太古の通信手段といえば、狼煙や伝書鳩でしょうか? 早馬や飛脚なんかもありますが、ネットやメールのような即時性は望むべくもありません。異世界には魔法がありますが、通信手段はさほど普及していないようです。





 調合人の娘達を連れて応接間に行く。

「もう一度確認する。名前を変えて別人として生きてゆく覚悟はできたのか?」
「「「はい、お願いします」」」

 5人の娘達が異口同音に承諾の言葉を返してきた。

「ティファリーザ、この5人に新しい名前を付ける。順番に、アン、ベス、クリス、デビー、エミリーだ」

 ABCDEの順番に付けたのは秘密だ。
 3人目の名前を付けたあたりで、ティファリーザが魔力切れを起こしたので、「魔力譲渡(トランスファー)」の魔法で補充した。

 名前を付けた5人を、迷宮都市に一番近いフルサウ市に用意した隠れ家に連れて行く。元奴隷のクリスとエミリーは、一旦奴隷にした後に開放するという面倒な手順を踏んでから自由民にする必要がある。フルサウ市の奴隷商人の所で手続きを済ませてから、他のアン、ベス、デビーの3人と一緒に身分証を発行して貰った。身分証を発行して貰う時に、少し渋られたが衛兵に銀貨を握らせて事なきを得た。

「では、この表に書いてある通りの品を作成してくれ」
「はい、クロ様」

 文字の読めるベスとクリスにレシピの束を渡す。彼女達には、この隠れ家と当面の生活費を提供する代わりに、作成が面倒な中間素材の作成を頼んである。元奴隷のエミリーは剣スキルを持っていたので、護身用に鉄剣を1本渡しておいた。





 次にフルサウ市の向こうにある分岐都市ケルトンの隠れ家まで、奴隷達を連れて行く。そこそこ広い邸宅だが、さすがに55人は入りきらないので20人ずつだ。無詠唱をごまかすのが面倒だったので、目隠しと耳栓をさせて転移した。

 一番小さな奴隷商館を訪れる。奴隷達は隠れ家に待たせたままだ。

「誰かいないか!」
「そんな大声出さなくても聞こえるぜ。こちとら耳はいいんだ」
「頼みがある」
「おう任せときな。金髪巨乳でも銀髪幼女でも好みのタイプを仕入れてきてやるぜ。変わった嗜好があるなら先に言っておけよ。ちゃんと仕込んでやるからなっ」

 計算尺を出しながら、楽しそうに売込みをかけて来る草臥れた中年奴隷商人に、待ったをかける。

「主人を失った55人の奴隷達がいる。彼女達の主人を我に『契約(コントラクト)』させる事、そして25人をその後に奴隷の身分から解放する事、その2点の作業を依頼したい。それらの手続きに必要な諸経費込みで、金貨20枚の報酬でどうだ?」
「引き受けたっ! やるやる、そんな美味しい仕事を他人に任せられるかってんだ」
「よかろう、では、ついて来い」

 留守番を奉公人の少年に任せて、余所行きの外套を着て奴隷商人が店から出てくる。辻馬車に彼を乗せて、隠れ家に連れて行く。良くある陰謀物のように、奴隷商人氏には目隠しをして貰った。別にバレても問題ないんだが、変に吹聴されても良い事はないからね。

 15人ほどの契約(コントラクト)で奴隷商人が魔力切れを起こすので、魔力回復薬を飲ませて休み休み作業を続けさせた。休憩毎に、契約の終わった奴隷を蔦の館へ連れて戻り、新しい奴隷を連れて来る。

 奴隷商人も訝しそうだったが、目の前の金貨に負けて無粋な質問はして来なかった。守銭奴万歳だ。

 帰りも目隠しをして、奴隷商館まで送り届け、約束の金貨20枚と、ボーナス代わりのフルサウ市で買った高級シガ酒をプレゼントした。なぜか、酒を受け取った奴隷商人の顔が引きつっていた。よっぽど疲れたのだろう。旨い酒でも飲んで、いい夢を見て欲しい。





 さて、解放奴隷達の扱いだが、彼らは生産系のスキル持ちなので、市内の空き地に長屋兼工房を建てて生活させようと思っている。土地の買い付けと仮設長屋の建設手配は、救出した探索者達と一緒に外に出たポリナに依頼してある。長屋が出来るまでは、探索者用の木賃宿で寝泊りさせる手はずだ。

 また、主人持ちの奴隷23人の内、18人が出戻ってきている。迷宮から救出した奴隷は、元の主人に優先権があるのだが、迷宮で救出した奴隷は連れ出した探索者に、謝礼という名目で新規購入と同等額を支払う必要がある。出戻りの18人は、主人がその謝礼を拒んだという話だった。現在は、ポリナを仮の主人として登録させてある。

 出戻りおよび未解放の奴隷達は、職人長屋で見習いとして働かせるか、迷宮で探索者をさせる予定だ。どちらを選ぶかは、本人の希望を聞いて決めようと思っている。

 後日、建築された生産長屋が、オレがサトゥーとして探索者育成に使っている空き地の近くだったのは、単なる偶然だ。





 迷宮に入るために必要な木証を手に入れに、東ギルドに向かう。

「ギルド登録を頼みたい。普通登録でいい」
「は、はい。申し訳ありませんが、その仮面をお取り願えますか? それとお名前をお願いします」
「ああ、すまない。名前はクロだ」

 オレは目元を隠していた黒いマスクを外して名乗る。
 声は変声スキルで、渋めの声に変更してある。声優の日取川ミカル氏の声をイメージしてみた。

「これが木証になります――」
「説明は不要だ」

 マニュアル通りの説明をしようとする女性職員を遮って、木証を片手にギルドを後にした。

 東西のギルドを結ぶ馬車が来ていたので、新人探索者らしき少年達の後ろに乗り込む。オレの装備が珍しいのか、しきりに後ろを振り向く少年を、もう一人が窘めている。ベテラン風の中年探索者3人が乗り込んできて、定員になった馬車が発車する。

「よう、兄ちゃん、その武器は、銃じゃないのか?」
「よく知っているな。そうだ、マスケット銃という先込め式の古い銃だ」
「やっぱり、そうか。地元の守護様の館で見た事があったんだよ」

 シガ王国での銃は最新武器では無く、どちらかというと何百年か前に廃れた古い道具という扱いだ。命中精度が低かったのと、硫黄の入手が難しかったのが理由らしい。オレの持っている魔法短銃のような、魔法道具としての銃も出回っていたらしいのだが、火杖や雷杖と呼ばれる軍用の魔法道具の方が人気が高かったため、そちらも廃れたらしい。

「そんな骨董品で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」

 撃つ予定も無いからね。探索者の数だけ種類があるせいか、中年探索者達もそれ以上は詮索してこなかった。さっきから、後ろをチラチラ振り返る少年だけがやや不快だ。言いたい事があるなら、さっさと言えばいいのに。

「何か用か?」
「なあなあ、一人だったらオレ達と一緒に迷宮に入らないか? オレ達も今日登録したばかりなんだ」

 なんだ、仲間に誘いたかったのか。

「すまん。折角の誘いだが、迷宮前で待ち合わせをしているのだ」
「そっか、残念だ」
「だから、やめとけって言っただろ」

 用事が無ければ同行しても良かったのだが、今回は迷賊の運搬作業があるから無理なんだ。

「おいおい、今日は迷宮前が賑やかじゃないか?」
「ああ、あんなに若い娘達ばかりが集まるなんて、中層から赤鉄の連中が戻ってきたんじゃないか? あの数だと『紅の貴公子』目当ての娘達だろう」
「あやかりたいね~」

 高レベルの探索者が少ないと思ったら、中層を攻めていたのか。娘達の一人がオレに気が付き、仲間達に知らせる。

「クロ様!」
「お待ちしてましたクロ様」

 同乗していた少年達が「え? クロ様って? え?」と妙にキョドっている。そういえば、落ち着きの無い彼の名前は「ケロゥー」だった。ちょっと似ているね。

 口々に出迎えの声を掛けて来る娘達は、言うまでも無く解放した探索者達だ。馬車の周りに人が集まって動けなくなったので、途中で降ろしてもらって、皆を引き連れて迷宮へ向かう。

「クロ様、総勢47名。準備万端でお待ちしていました」

 蟻羽の銀剣を下げた隊長さんが、横に並ぶ。47人とか、まるで赤穂浪士みたいだ。前回の転移ポイントまで団体で移動して、彼女達を残して迷賊を運搬しに転移した。





「ひゃっはー! おまえら、今だ、全員で掛かれば勝てるぞ!」
「「「うぉおおおお!」」」

 迷賊達の数が10人ほど減っている。どうやら、頭目争いがあったらしい。幾らなんでも血の気が多すぎるだろう。面倒がらずに、複数の牢屋を用意するんだった。

 武器を取り上げた後だったからか、スリングもどきを作って投石してきたり、何かの骨(・・・・)と石で作った即席の石斧で襲い掛かって来た。

 その発想と努力を真っ当な方面で活かせよ。

 意外に正確に飛んでくる石を、迷賊達もろとも「誘導気絶弾(リモート・スタン)」の三連射で排除する。一人あたり3発ほど当てたので、当分起き上がれないだろう。これで第二陣を連れに来る時は、静かにしていてくれると面倒が無くていいのだが。

 同じ迷賊に殺されてしまった元頭目2人を含む10体の死体を、さきほど襲撃に参加しなかった迷賊達に布を渡して簀巻きにさせる。

 気絶した迷賊達を、10人単位で縛って連結させ、女探索者達の待つ第一区画に転移させる。迷賊達を起こして地上へ連行させる役目は、女探索者達に任せた。起こす時に、やや乱暴な行いがあったようだが、境遇を考えれば殺さない程度なら黙認しようと思う。

 魔剣で魔力を回復させながら、ピストン輸送を続け死体を含む262名の迷賊の男女を運搬した。殺人などの重犯罪を犯していない38名は、仮設牢屋に残してある。今連れて行くと、他の迷賊達と十把一絡げに扱われそうだったからだ。

 後日、ソーケル卿を王国に突き出す時にでも、一緒に連れて行こう。
 時間ができるたびに加筆していたら、いつもの2倍強に膨れ上がったので2話に分割しました。
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