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3-1.日常へ

※2018/6/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。リアルダンジョンアタックはもうしたくないサトゥーです。

 迷宮から蒸発した腕悪魔も気になりますが……。

 とりあえず平穏を享受したいと思います。





 迷宮を出たそこは学校の校庭くらいの広さの更地だった。

 更地の端には高さ2メートルくらいの塀ができている。急造っぽい感じだ。

 外壁がすぐそこに見えることから、騒ぎのあった広場だった所の様だ。


 迷宮の出口を振り返ってみると、3メートルくらいの高さの尖った漆黒の岩の一部が刳り貫かれてできたようだ。材質は黒曜石か?


 出口から50メートルほどの所には砲台が3つ、出口を囲むように配置されている。砲の射線を塞がない位置には先端を削った丸太を並べた馬柵が並べられている。


「サトゥーさん、こっちです」


 馬柵の向こうに立てられた天幕から顔を出したゼナさんに呼ばれる。

 再会したときに抱きついて離れなかったゼナさんだが、遅れてきた同僚のリリオ嬢にからかわれると慌てて飛びのいていた。……よっぽど心配してくれていたんだろう。そこまで好意を持たれる事したっけな~?


 両手にぶら下がるポチとタマに引っ張られながら天幕へ向かう。リザは3歩下がった位置を付いてくる。師弟か。


 オレは入り口で文官のお姉さんに預り証と交換に荷物を預けて中に入る。リザは槍を預けるのを嫌がったが、オレが促すと渋々渡していた。


 天幕の中は意外に広い。学校の教室くらいの広さだ。

 中では先に脱出した美中年神官さんの一行の人たちが治療を受けながら文官風の人達に事情聴取を受けているみたいだ。

 子爵さん親子はいない。別の天幕があるのか?


 ゼナさんが手招きしているのでそっちに向かう。

 そこにはガルレオンの美中年神官ことネビネン氏と、奴隷商人のニドーレン氏がいる。あとは白髪の文官さんと筋肉が溢れてきそうな金属鎧の騎士がいる。騎士さんが、こちらを見るとニカッと笑う。中年の癖にいたずら小僧のような表情だ。


「ほう、キミが魔法士ゼナの想い人か?」

「ち、ちがっ」


 ゼナさんが騎士さんの言葉に被せて否定しようとするが、騎士の人はそれを無視して続ける。


「キミの無事が確認されるまでは憔悴していてね。同じ分隊の者が監視していないと一人で迷宮に飛び込んでいきそうで危なっかしさがあったよ」

「それはご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」


 オレが謝るのも違う気がするが、変に沈黙するよりはいいだろう。


「ハハハ。キミが謝ることはないよ。あの魔法の修行にしか興味がなさそうな堅物が惚れた相手も見れたしね」

「だ、だから惚れて……」


 ゼナさんが再度言葉を挟もうとするが、途中でゴニョゴニョと恥ずかしそうに俯いてしまった。この年でラブコメ空間は辛い。……いや体は15歳だったか。

 そんなゼナさんを面白そうに眺めた後、顎に手を当てつつ、こちらを値踏みするような目でみる。


「しかし、確かに身軽そうではあるが、少人数で迷宮を突破するような豪傑にも見えん」

「彼女達がいなかったら脱出どころか魔物のお腹の中ですよ」


 そう言ってオレはリザ達をアピっておく。足元でしゃがんで大人しくしていたポチとタマが不思議そうに見上げてくるので、誤魔化しに頭を撫でてやる。リザは賢明にも黙礼するだけで何も言わなかった。


「なかなか筋が良さそうだな。亜人でなければ部下に欲しいところだ」


 この騎士さん、人種とか気にしなさそうなナイスガイなのに、亜人差別は根深いね~。

 苦笑しつつフォローしておく。


「一緒にいると、いい仲間なんですけどね」


「ふむ、そうでなければ迷宮脱出もできんか。すまんな、この領の人間は皆、亜人の部族との抗争が何代も続いているので、どうしても相容れないのだよ」


 単なる偏見じゃなくて民族抗争が原因だったのか……根深いはずだ。


「中隊長! 準備できました」


 魔法使いらしいローブの女性が呼びに来た。

 なんの準備だ?


 台座に乗せられた石板があった。3日ぶりのヤマト石か? 前に見たのより大きいような気がする。

 中隊長さんが迷宮から脱出した人々に大きな声で呼びかける。


「失礼なのは承知だが、迷宮から脱出してきた者は全員、このヤマト石でステータスを確認させてもらう。これは伯爵様より特別に借り受けたオリジナルのヤマト石の一つだ。状態異常なども表示される。これは皆が魔族に憑依されていない事を証明するためだ」


 初めは不満そうな感じだった人々も、魔族が憑依されていないことを証明するためと言われると大人しくなった。皆、広場でウースから悪魔の腕が生えるのを見ていたからな。


 やっぱ迷宮突破しておいてレベル1、スキルなしのままだとまずいか?


 メニュー画面の交流タブを久々に操作する。獣娘達がレベル13なので、ちょっと低めにレベルを10に。スキルは商人っぽく「算術」と「相場」。戦闘系スキルが無いと不自然か? あと「回避」も入れておくか。





 順番が回ってきたのでヤマト石に手を置く。うん、設定した情報に更新されている。


「なるほど、『身軽な商人さん』だな」


「……その表現はゼナさんですね?」


「そうだ、よく分かっているな。それにしても兵士や探索者でもないのに、その年でそのレベルとはなかなか苦労しているようだな」


「それ程でもありませんよ」


 謙遜? しておく。

 実際、この人は29歳でレベル30だし。15歳でレベル10でも誇れる程でもないよね? 戦う職業以外はレベルが上がりにくいのか~?


 後ろで小さく歓声が上がる。

 リザがレベル13と奴隷にしては高いレベルな事と4つもスキルを持っている事に驚いているようだ。


 リザは相変わらず表情が読めないので判らないが尻尾がちょっとピクピク動いている。ちょっと得意なのかもしれない。


 つぎはポチだ。手が届かないのでリザに後ろから抱き上げられている。手足をぶらーんとさせて楽しそうだ。

 ヤマト石の担当官の人に言われて手を載せる。リザの時よりも大きな歓声が上がった。10歳で13レベルは凄いのだろう。スキルも4つあるし。

 ポチのシッポはブンブン振られている。こっちを見て鼻をスピスピさせている。


 最後はタマだ。ポチと同じくリザに抱えられている。手足をぶらーんとさせるのがやってみたかったのか、すごく嬉しそうにシッポをペシペシとリザの足に当てている。

 彼女のステータス表示された時の歓声はポチの時より低かった。凄さはポチと同じだが、似たステータスが3人目だと驚きも薄れるのだろう。タマは不満そうだ。


「亜人奴隷をあれだけ鍛えるのは苦労しただろう?」


「それほどでもありませんよ。彼女達は優秀ですから」


 苦労したのは事実だが、優秀だったのもまた事実だ。彼女達が居なかったら死ぬことは無いにしても罠に嵌って嫌な目にあっていたのは間違いない。


 ヤマト石の検査はタマが最後だったようだ。


 白髪の文官さんと何やら話し込んでいたネビネン氏以外は帰宅許可がでたようだ。


「さて検査も通ったようですし、私達も帰宅してよろしいでしょうか?」


「すまんが、キミ達には暴動から魔族出現の事をもう少し聞かせてほしい」





 オレ、ゼナさん、ネビネン氏の3人で、隊長さんと白髪の文官さんに暴動から迷宮に巻き込まれるまでの顛末を話す。


 ウースを突き出したあたりの話でゼナさんがやたらオレを持ち上げようとするのがこそばゆかった。しかもネビネン氏まで暴動が下火になったのは群集の中にいた扇動者(サクラ)達をオレが始末したからだと断定するし……。いや、まあ事実なんだが。


 迷宮に入ったときの悪魔のセリフは、オレより正確に覚えていたのでネビネン氏に語ってもらった。


「完全復活のため……か」

「魔族の復活に必要な魔力がどの程度かわかりませんが、ここは竜の谷に近い」

「そうだな地脈が濃いからな……。それでも数ヶ月は掛かるだろう? その前に迷宮都市セリビーラから高レベルの探索者クランを幾つか招聘した方がよさそうだな」


 うん、知らない単語が多すぎて話についていけない。横では拳を握り締めてゼナさんがうんうんと頷いている。


 とりあえず理解できた言葉だけで纏めると、数ヶ月くらいは悪魔を放置しても大丈夫で、その間に倒せそうな高レベルの探索者? を呼ぶということでOK?


 その後、迷宮にどんな魔物がでるか? どのくらいの数が一度にでるか? どんな罠がでたのか? などが聞かれた。

 戦闘回数は半分くらいで報告したが種類と一度に出る数は誤魔化さなかった。

 始めは普通に事実確認といった感じだったが、ベルトン子爵と合流したのが最後の骨広間の手前だと話すと変な顔をされた。


「どうしました?」

「いえ、その~。魔法使い(スペル・キャスター)無しでそんなに連戦してきたんですか? しかも迷宮ができてから帰還するまでの時間からしたら一戦一戦の時間がすごく短いような気がするんですが? 休憩はちゃんと取っていたんですか?」

「もちろんですよ。機械じゃないんですから」

「そうですよね」

「ええ、3回ほど休憩をとりましたよ3時間ずつくらい」

「どうも法螺を吹いているわけではなさそうだな」


 あれ? 何か失敗した?


「よほど連携の取れたパーティーだったのだろうな。それだけのハイペースでよくも壊滅せずに戦い抜けたものだ」

「そうですね~ 一人でも大怪我したら、そこで全滅ですもん。……わたしが一緒だったら回復やサポートもできたのに」


 あ、ゼナさんの目がウルウルしだした。


「途中で、錬金術士の隠れ家らしき場所で回復薬(ポーション)をたくさんみつけたんですよ。そのお陰もあるんでしょうね~」


 女の子を泣かせるくらいなら、汚れてやるさ。詐術スキルかも~ん。


「うむ、さすがに回復なしで、それほどの連戦は無理だろうからな」


 ええ苦労しましたとも。

 獣娘達に攻撃が当たりそうになるたびにダッシュで受け流しにいったり。囲まれそうになったらタゲとったり。

 ほんと挑発スキルが欲しかった。今度取れないか試してみよう。





 そうだ、忘れてた確認しておかないと。


「あの、質問いいでしょうか?」


「なんだろう? 軍事機密以外ならかまわんぞ? ちなみに私の娘は15歳でなかなか美尻の人気者だぞ?」


 何言ってるのこの人? ここは華麗にスルーだ!


「迷宮のことなんですが、かなり広がっているように感じました。このまま迷宮が広がったりして都市は大丈夫なんでしょうか?」


「そうか説明していなかったか?」


 してませんとも。


「この広場から外壁までの空間以外で迷宮が延びることはないのだ。都市が崩落するような危険はないと断言しよう」


「できれば、安全な理由をお聞きしたいのですが……」


「うむ、そうだな。軍だけでなく市井の魔法使いと錬金術士の合同による結界の設置。市内の全神殿による聖別の儀式。この二重の防波堤によって迷宮が都市の地下に延びないように制限しているのだ」


 なるほど。

 それにしても神殿と魔法使いなんて仲が悪そうなのに。


「キミの考えてる事がわかるよ。仲が良いとは言えない神殿と魔法使いがすぐに協力できたのは、伯爵様が強権を発揮してくれたお陰だよ。それでもこれだけ早く迷宮の隔離ができたのは、魔法士ゼナからの迅速な報告があればこそだ」


「それはサトゥーさんが報告を優先させてくれたお陰です」


 その後しばらくオレとゼナさんの謙遜と功績の譲り合いの応酬が続いたが、白髪の文官さんが上手く捌いてくれた。そのままだと、いつまで続いたかわからない……GJだ白髪さん。


「そういう訳で、結界の維持が大変なものの都市の地下に迷宮が延びる事は無いわけだ。わかってもらえたかな?」


「はい、安心しました」


 よかった。宿で寝てる間に崩落とか怖すぎるからな!



 すこし目だってしまった主人公。半分の報告ではまだ多かったようです。


 ちょっと描写を細かくしたり、チヤホヤ度をアップしてみました。

なかなか思うようには書けないものですね~。


 3章からゼナ、ポチ、タマ、リザをルビ無しに変更しました。


※8/16 他のキャラのルビも最小限に変更。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結構前にアニメを見た覚えがありますが、今更ながらWEB版を読み始めました。後発の様々な作品に影響を与えた名作ですね。きちんと推敲されていて、更なる改稿により誤字脱字等も無く、とても読み易い…
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