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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-31.魔人薬

※10/20 誤字修正しました。

 サトゥーです。変装というと、有名な怪盗物の主人公が得意にしていたのを思い出します。顎の辺りからニセモノの顔をベロリと剥ぎ取る仕草は、多くの日本人が覚えているのでは無いでしょうか。彼は軽々と使い捨てにしていましたが、実際に用意するとなるとなかなか大変な手間が必要になるようです。





 さて、犯人を見つけよう。

 マップを開いて検索する。検索対象は「魔人薬」だ。

 発見箇所は3箇所。最初の2箇所は1本ずつ、どちらも探索者が所持しているようだ。最後の1箇所が本命だろう。そこには100本近い魔人薬がストックされていた。

 そこは、先日、子爵の晩餐会で出会ったばかりのソーケル卿の屋敷だった。てっきり、デュケリ准男爵の屋敷がヒットするかと思ったのに意外だ。

 ソーケル卿の屋敷を詳細にチェックする。

 彼の屋敷内の隠し部屋に、ストックされているのを確認した。その隠し部屋には、調合と練成スキルを持つ奴隷がいたので間違いないだろう。

 ソーケル卿、及び、その家人や奴隷を全てマーキングする。全部で20人か。その内の一人が下町で、何やら賞罰が色々とついた連中と一緒にいる。その連中は、「ゴブリンの爪」という名前の犯罪ギルドらしい。60人ほどの大所帯なのでマーキングするとマップが煩くなるので、頭目とレベル高めの3人だけをマーキングするだけに留めた。

 彼らが行うとすれば、証拠の隠滅や証人の暗殺だろう。ならば、危ないのは地下牢にいるルダマンを始めとする迷賊の幹部や中継役のベッソ達だろう。

 ベッソ達はともかく、迷宮内の作業に従事している運搬人達や奴隷達の安全は確保してやりたい。だが、こちらは早急に手を打たなくても大丈夫なはずだ。最初に迷宮に入った時に迷賊達の拠点を検索したが、かなり奥地に点在していた。そこを急襲できるほどの戦力を用意できるなら、直接ギルドを襲って証人達を殲滅するだろう。

 ソーケル卿の屋敷にいる錬金術師も危ないが、そう簡単には始末したりしないはずだ。魔人薬を作る重要なキーマンだし、早々替えが用意できるものでは無いだろう。

 さて、犯人探しも終わった事だし、後始末はギルド長に任せようか。

 公爵城に忍び込んだ時のように隠形と潜伏を使い、ギルド長の部屋に侵入して「黒幕はソーケル卿?」という怪文書を残しておいた。念のため、ソーケル卿の屋敷の隠し部屋の場所とベッソ達の潜伏先との事も追記してある。

 用事を済ませたオレは、ルルを連れて探索者ギルドを出た。





「ご主人さま、どこに向かうんですか?」
「屋敷に向かってくれ」

 夕刻までは、まだ2~3時間ある。侯爵夫人のところに顔を出す前にやっておきたい事があるのだ。

「おかえりなさいましぇ、ませ」
「おかえりなさい、ルル様」
「ただいま、ホホにキトナ」

 馬車が屋敷に近付くのが見えたのか、前庭で何か作業をしていた子供達が出迎えに走って来た。ルルは、玄関前でオレを降ろした後、御者台に上げたキトナに手綱を持たせて、操車の練習がてら厩舎に向かった。

「おかえりなさいませ、旦那様」
「ああ、ただいま。子供達の様子はどうだい?」
「はい、寝込んでいた5人は力仕事以外なら問題ありません。ロジーとアニーは言葉遣いがまだまだですが、物覚えが良いですし何よりやる気に満ちているので、思ったより早く一人前の雑役婦になるでしょう」

 一時雇いのつもりだったが、このままミテルナ女史に預けて正式雇用でもいいかもしれない。半月ほど様子をみて問題ないようなら、ミテルナ女史に相談してみよう。

 幾つかの報告を受けたあと、オレは地下室に向かう。ミテルナ女史には、集中したいので、誰も近付けないようにと指示しておく。

 地下室の書斎には、セーリュー市や公都で買った本が並んでいる。内容が重複している初級の魔法書などだ。

 閂状の扉の鍵を閉めて、蔦の館へと転移する。
 ルルには、蔦の館に転移で出かけると遠話で伝えておいた。





「あれ? ミサナリーア様はご一緒ではないのですか? 小ぞっ、サトゥー殿」
「ああ、ミーアなら迷宮で頑張ってるよ。オレは、工房を使いに来たんだ」

 暇そうなレリリルを従えて、工房に向かう。

「人工皮膚とはまた奇妙なものを」
「ああ、ちょっと必要なんだよ」

 今回、工房にやってきたのは、変装セットを作るためだ。正体不明の仮面の人だと、どうしても正体を疑われてしまう。なので、今回は仮面の下につける贋物の顔を作ろうと考えたのだ。人は隠すから暴きたがると、偉い人も言っていた。

 人工皮膚は、トラザユーヤの資料に記載されていた。ホムンクルスの製法より古い資料に載っていたもので、子守用のリビングドールに使うために開発したものらしい。

 まず、培養液を調合する。
 世界樹の樹液を水で100倍に希釈するだけなので、すぐに用意できた。

 続いて人工皮膚の元になる体細胞を、培養液に落とす。レリリルが手持ち無沙汰っぽかったので、指先から血を1滴分けてもらった。

 培養槽に接続された超上級者向けの練成台を操作する。資料に詳細な手順が書かれてあったので実に簡単だ。急速培養でも30分ほどかかるので、並行して作業を進めよう。

 まずはカツラだ。白髪で目が隠れるくらいの長さにする。印象操作が目的なので、前髪を一房だけ黒髪にしておいた。

 まだ時間があるので、次は服と靴だ。

 ストレージから取り出した、黒く染めたユリハ繊維の反物を取り出して、衣装をしつらえる。上着は、撫で肩にならないように肩パットを入れてみた。白地の手袋には、少し悪乗りして、手の甲の部分に青液(ブルー)に浸した翠絹の糸で五芒星を刺繍する。最後に袖なしのインバネスコートを用意して完成だ。

 アリサが見たら涎を流しそうな、戦前の男子学生スタイルだ。帽子は用意したが、下駄までは悪乗りが過ぎるので、クジラ皮のスニーカーにしておいた。

 服を縫い終わる頃に、ようやく必要な面積の人工皮膚が出来上がった。今回は急ぐので、1枚だけで良いだろう。近いうちに、もう4~5枚作っておこう。

 今度はこの人工皮膚をベースに、特撮の特殊メイクに近い処理を施して変装用のマスクを作成する。別人の顔というのは難しいものだ。地球の有名人の顔をベースに、マスクを作るとしよう。オレを連想しないように、若い外人タレントの顔を採用した。

 人工皮膚だけだと顔の骨格までは誤魔化せないので、魔力を注ぐ量で伸縮する繊維と、魔力を注ぐ量で硬化する繊維を作成してマスクに組み込む。どちらの繊維の材料も、ストレージに溢れるほど溜まっている素材の中にある物で足りた。

 作業の間、レリリルが助手のように作業台の用意をしたり、端切れ素材や削りカスなんかを掃除したり、と甲斐甲斐しく手伝ってくれた。

 こうして作った変装マスクは、顔の輪郭や太り方まで変わる魔法道具になってしまった。

 ふと「この素材を利用したら体型まで誤魔化せるんじゃないだろうか?」と脳裏に閃いた。

 いい考えかも知れない。

 もっとも、今は人工皮膚が足りないので、すぐには着手できない。後ろ髪引かれる想いだが、肉襦袢計画は後日に先送りしよう。リビングドールに付加したら、オレの影武者とかも作れそうだ。





 さて、完成した衣装と変装マスクで、ソーケル卿を一網打尽にしよう。

 状況の変化を確認するために、マップを開く。
 どうやら、オレが暢気に工作に勤しんでいる間に、事態は急速に進行したようだ。

 襲撃を警戒してか、地下牢の迷賊達は幹部クラスを除いて、迷宮方面軍の地下牢に移送されていた。

 ベッソとその仲間は、下町の裏路地にいる。2人とも怪我をしているようだ。「遠見(クレアボヤンス)」の魔法で監視した所、ゴロツキっぽい連中に追いかけられていた。たぶん、ゴブリンの爪の構成員だろう。他にもギルド職員風の男達もベッソ達を追いかけている。

 そして、肝心のソーケル卿の邸宅は、太守の衛兵達が占拠していた。

 邸宅にギルド職員もいる事から、あの怪文書を見たギルド長が、太守を炊き付けて兵を出させたようだ。それにしても、証拠もなしに貴族の邸宅を急襲するとは思わなかった。暗躍スキルが優秀なのか、ギルド長のフットワークが軽いのか、魔人薬がヤバすぎるのかのどれかだろう。

 邸宅内の家人や奴隷は、全員、玄関ホールに集められている。その中にソーケル卿は居ない。

 マップ検索のマーカー一覧から、ソーケル卿をタップして現在位置を見る。家令の人と一緒に馬車で迷宮都市の外にいた。例の錬金術師さんも、ソーケル卿と一緒だ。

 北西に向かっている事から考えて、炭鉱街あるいは、そのまま北のエルエット侯爵領に逃げ込む気なのだろう。マップ外なので追っ手の有無を知るために、「遠見(クレアボヤンス)」の魔法で見てみた。5キロほど後方に太守の衛兵達が騎馬で追いかけているので、山道に逃げ込む前に捕まりそうだ。

 さて、せっかく用意した変装セットだが、特に使う必要も無さそうだ。

 そう気が抜けた時に、ルルから「信号(シグナル)」が来た。
 内容は「緊急事態発生」だ。
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