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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-27.晩餐と人脈(2)

※2016/8/9 誤字修正しました。
 サトゥーです。ゲームなどではクエストを受けた時に、依頼の品を既に持っているという事は良くある話です。MMOなんかだと移動に時間がかかるので、むしろ依頼の品を集めてからクエストを受けるほうが主流な気がします。





 終了間際のお茶会の席に現れたのは、上機嫌のアシネン侯爵だった。

「やあ、皆さんお揃いで、そちらの方が、ペンドラゴン士爵殿かな」
「これは侯爵閣下、ご尊顔を拝謁できて恐悦至極にございます」

 オレと目があった瞬間に固まった侯爵に、殊更(ことさら)丁寧な挨拶をした。

 彼との間のトラブルは、些細な事だ。

 貿易都市に入る時に、彼の馬車が割り込んできた事に端を発する。割り込みを咎めた年老いた下級貴族と彼の決闘の審判を務めることになってしまった。結果は、侯爵の代理人の圧勝で終わったのだが、オレが勝利を告げても剣を引かず、そのまま老貴族に止めをさそうとしたので、それを止めた。彼は、最初から相手の貴族を血祭りに上げるつもりだった様で、その楽しみを邪魔する形になったのだ。

 そういったトラブルの当事者が、高価な「黄金の裸婦像」を始めとした手土産を持って挨拶に来たのだ。彼の視点だと、下級貴族が自分に侘びを入れ、媚を売り来たと映ったのだろう。

 彼は軽く咳払いした後に、入室した時と変わらない笑顔に戻ってオレに挨拶を返してきた。

「先日は挨拶に出向いてくれたのに、不在で失礼した。君の心尽くしの品は確かに受け取ったよ。なかなか、素晴らしい品だった」
「恐縮です」

 裸婦像じゃなくて、男性の裸の方が良かったかも知れないが、どうせ換金するのだろうから同じ事だろう。

「時に士爵。迷宮都市の外に競鼠(ラットレース)の競技場を作る計画があるのだが、君も投資してみないかね」
「それは興味深いですね」

 競鼠というのに聞き覚えが無いが、競馬みたいなものかな? 雇用の創設という意味では興味深いが、迷宮都市みたいな場所でギャンブルを広めると、身を持ち崩すやつが続出しそうで怖い。

 その事を侯爵に忠告する前に、侯爵夫人から叱られた。

「殿方同士のお仕事の話は、又になさいませ。今はお茶と、たわいのない噂話を楽しむ場ですのよ」
「ああ、愛しのレーテル、そんなに怒らないでおくれ。ペンドラゴン士爵、投資の話は、またいずれ」

 そういい残して、彼は部屋を退去していった。半月近くも公務をサボっていたのだから、仕事が溜まっているのだろう。





 お茶会が解散となった後、侯爵夫人の侍女に呼び止められて、先ほどとは別室のサロンへと案内される。

 そこには、侯爵夫人とデュケリ准男爵の奥さんがいた。

「ホシェス、あなた、ペンドラゴン卿に尋ねたい事があったのではなくて?」
「で、でも……」

 侯爵夫人にそう水を向けられて口ごもったのは、ホシェスさん――デュケリ准男爵の奥さんだ。侯爵夫人の従姉妹に当たるらしい。なかなか言い出せないホシェスさんだったが、隣の侯爵夫人に背中を押されるように少しずつ話し出した。

 つっかえ、つっかえの話をスムーズに語ると、こんな感じになる。

「ペンドラゴン卿は、諸国を旅して来られたのでしょう? 『命の水』という物に心当たりはないかしら?」
「私の知る限りでは、『命の水』と言うと酒類を指すのですが、どういった物をお探しですか?」

 オレの言葉に目を丸くした後、目を伏せながら、「命の水」について簡素に語った。

「お、お酒ではありません。万病に効く霊薬なのです」
「知り合いの学者にも尋ねてみましたが、天まで届く霊樹の滴とか賢者の石を溶かした水とか、愚にも付かない話ばかりで困っていますの。博識なペンドラゴン卿なら、何かご存知ないかしら?」

 ホシェスさんがじれったくなったのか、侯爵夫人が補足してくれた。ストレージにある資料を検索してみたが、該当項目は無い。だが、「天まで届く霊樹」や「賢者の石」には心当たりがありすぎる。

 その知り合いの学者とやらを、今度紹介して貰おう。

 万病に効く霊薬のレシピは複数見つかったが、どれも世界樹や賢者の石を素材とするモノだった。さすがに提供するには出所がヤバすぎる。

「申し訳ありませんが、そのような霊薬は聞いた事がありません。ですが、私も練成を嗜んでいます。どのような病か判れば、多少はご助言ができるかと」
「ゴブリン病というのを聞いた事があるかしら? 貴族や裕福な商人にしか掛からない不思議な病で――」

 話を聞きながらメニューの検索バーで、ストレージ内の蔵書を調べる。公都で手に入れた錬金術の資料に、ゴブリン病の詳細が載っていた。ほとんどは婦人の言っていた通りで、様々な快癒系の魔法薬でも、効果が無く不治の病と言われているらしい。ただし、不治だが、死に至る病では無いそうだ。寝たきりになってしまうので、放置していいわけではないらしい。

 だが、ある資料に、生野菜を大量に摂取させると治ったという記述があった。根拠がない眉唾な説だと書いてあったが、この病がビタミン不足から来るものなら、生野菜の大量摂取で治るのもありそうな話だ。

 彼女達は、言葉を濁して明言しなかったが、ホシェスさんの「病弱な息子」さんが、ゴブリン病なのだろう。

「前に公都で、お偉い博士に伺った話で恐縮ですが――」

 そう前置きをして、野菜の大量摂取の話をする。霊薬を練成して恩を売っても良いのだが、病気の子供をダシに使うのが嫌だったので、次善の策を教えた。

「そんな事で治るのですか?」

 ホシェスさんは、半信半疑だったが試してみる事にしたようだ。オレも、公都の知り合いや、他国の学者や錬金術師に霊薬が手に入らないか打診してみると約束しておいた。

 たぶん、食餌療法で治る気がするが、万一の時は、この前振りが役に立つだろう。





 相談事が終わり席を立つタイミングを見計らっている所に、メイドさんが乱入してきた。もちろん、乱心した訳では無いみたいだ。

「大変です。王女殿下がいらっしゃいません!」
「ゲリッツの部屋に遊びにいっているのではなくって?」

 侯爵夫人は不快気に眉をひそめたものの、客の前で使用人を叱責するのが躊躇われたのか、軽く嗜めた後に問い返した。

「そ、それが、ゲリッツ様もお部屋にいらっしゃらなくて」
「そんな、ゲリッツが自分の部屋にいないなんて!」

 その驚き方はどうかと思います。自分の息子を引きこもり認定とか、ちょっと酷い。オレもマップを開いて、王女とポッチャリ君を検索してみたが、迷宮都市にはいないようだ。

「王女殿下は、探索者に憧れておられました。もしかして、迷宮に入ったのではありませんか?」

 オレの言葉に「まさか」と答えつつも、侯爵夫人も思い当たる節があったのか使用人達に探索者ギルドにも人をやるように指示している。

 マップで迷宮内を検索する事も考えたが、生憎、2人をマーキングしていなかったので追跡できない。

 ほぼ万能と言って良いマップだが、実はそれなりに制約がある。一度マップのリストに載れば、マップ外に出ない限り情報がリアルタイムに更新される。これはオレがそのマップにいなくてもマップを参照する度に自動で行われる。ただし、オレがマップにいる場合は、マップ外に出て戻ってきた者もリストに再表示されるが、オレがマップにいない場合はリストに再表示されない。
 この例外となるのが、マーキングだ。マーキングされた対象は、既知のマップである限り、位置が特定できる。
 ゲームの初期状態では、マーキングできるのは1対象だけで、課金アイテムを購入する事で、無限に増やす事ができる仕様だった。オレの場合、デバッグモード準拠なのか、マーキング数に上限は無い――無いのだが、あまり無闇にマーキングしすぎるとマップのチェックがしにくくなるので、重要人物や親しい友人しかマーキングしていない。

 そういう訳で、2人の現在位置は不明だ。

 迷宮に入ったのか市外に出たのかは判らないが、2人が市外に出る理由が無さそうなので、十中八九は迷宮に入ったと考えていいだろう。

 オレが切り出すよりも早く、侯爵夫人に迷宮の入り口付近を捜してもらえないか打診された。渡りに船なので、快く引き受けておいた。

 迷宮に出かけているアリサから、緊急通信を受けたのは、そんな時だ。いつもの家電のような受け答えの後に、ようやく本題に入った。

『迷賊らしき集団に襲われていた貴族子弟を助けたんだけど、襲われたショックで腰を抜かしたのが多くてさ、まだ侯爵邸にいるなら兵士連れて迎えに来てくれない?』

 始まった時には、もう解決とか仕事が早すぎる。貴族子弟達の中には、王女や侯爵三男がいるそうだ。

 アリサに迎えに行くと告げて遠話を切った。





 アリサによると貴族子弟は、王女とポッチャリ君を入れて7人らしいので、侯爵夫人に太守の兵士を10人ほど借りて迷宮に向かった。本来なら侯爵に許可を貰うべきなんだが、どこに雲隠れしたのか、未だに連絡が取れないらしい。
 マップで検索した所、歓楽街の一角にある屋敷にいたので、愛人にお土産でも渡しているに違いない。

「し、士爵様、わ、我々は市街の警備が主任務でして、め、迷宮に入ったことがあるものは、殆どおりません」
「大丈夫だよ、戦うのは私と、このメイドの2人でするから、心配しなくていいよ」

 衛兵の隊長さんの言葉が引っかかるのは、彼を含む衛兵の皆さんが馬車を追いかけて走っているからだ。そんなに速度は出ていないはずだから、きっと運動不足なのだろう。

 迷宮の入り口で少し揉めたものの、オレとルルの赤鉄証(アイアン)が効いたのか、探索者の証明書を持たない衛兵達が迷宮に入るのを認めてもらえた。

 迷宮に入って直ぐにマップを更新する。アリサ達は11区画にいるようだ。遠話の魔法でアリサに連絡を取った。助けた貴族子弟だけで無く、捕縛した迷賊20名も一緒らしい。現在は、その捕虜を奪還しようとする迷賊50名が襲ってきたので、袋小路の先にある小部屋に篭城中との事だった。

 ルルにはダミーとして妖精の鞄(マジック・ポーチ)から小さな手鏡を取り出して「信号(シグナル)」の魔法を唱えて貰う。通信系の魔法の品にでも見えるだろう。こそこそとルルと会話した後、隊長さんに話しかける。

「仲間と連絡が取れました。11区画で王女様らしき服装の女性を見たそうです。すぐに発見場所に向かわせたので、私達も向かいましょう」

 衛兵さんの一人が「あの騎士殺しの区画にか!」とか喚いていたが、隊長さんが小声で説得してくれたら静かになったので、そのまま移動を開始する。彼の顔色が悪い気がするが大丈夫だろうか?

 移動中に遭遇する魔物を、足元の小石や妖精剣でサクサクと始末しながら回廊を進む。小走り程度の速度なのだが、衛兵さん達が遅れ気味だ。ルルでもちゃんと付いてきているのに、兵隊さんともあろう者が情けない。

 第1区画を抜けた所で、通信系の魔法の品を使っているフリをした後に、発破をかける意味も篭めて情報を提示する。

「隊長さん、仲間から連絡がありました。王女様方を無事に保護したそうです。ただ、迷賊の襲撃を受けて苦戦中だそうです」
「それは大変だ! 急ぎましょう」

 荒い息を吐く衛兵さん達に、スタミナ回復の魔法薬を飲ませて移動を再開した。
 変なところで切れてすみません。
 次回をサトゥー視点で淡々と書くか、王女視点で幕間っぽく書くかは未定です。

 今回のお話で100万文字を突破しました。登場人物とかスキル一覧とかも含むので実質は未突破なのですが、なかなか感慨深いものがあります。
 これからも完結に向けて頑張ります!
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