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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-24.探索者達

※6/21 誤字修正しました。
 サトゥーです。昔、何かの映画で、ゆで卵の黄身をスプーンで掬って食べる姿に驚いた記憶があります。映画そのものはもう忘れましたが、そのシーンだけが、何故か深く記憶に残っています。





「では、救援に来てくれた『ペンドラゴン』の皆に感謝を! そして俺達の生還を祝って、今日は飲み明かすぞ!」
「「「応!」」」

 リーダー氏の挨拶で宴が始まる。彼は、コシンという名前で、「白馬の(たてがみ)」というベテラン探索者パーティーのリーダーをしているそうだ。今回のように複数のパーティーを集めて奥地に行くのも初めてじゃないらしい。

 宴会場は、西門から東に300メートルほど平屋の町並みを進んだ先にある屋台が集まる広場の一角だ。30軒ほどの食べ物屋と、10軒ほどの飲み屋が交互に並んでいる。屋台の看板が光っていて明るい。どうやら、生活魔法使いが照明の魔法をかけているらしい。

 この広場は、オレ達以外にも、探索者や運搬人に加え日雇い労働者っぽいガテン系の人たちが、楽しそうに屋台で酒や食べ物を買っている。その中にちらほらと、扇情的な衣装のお嬢さん達や、変に色っぽいお兄さん達が混ざって色香を振りまいている。どちらも娼婦さんに男娼さんたちのようだ。

 今日は、広場の一角を占拠している。1軒の飲み屋の屋台と3軒の食べ物屋の屋台を貸切にして宴会を開いているそうだ。

 イスやテーブルは無く、地面に車座になって飲み食いするらしい。オレ達が座る一角はルルとリザが先にシートを敷いてくれている。

 今回の宴席のメニューは、焼肉、干し肉、茹で豆、茹で芋の4種類だ。宴会の始まる前に「えらく張り込んだね」とコシン氏をからかう声が出ていたので、貧相というわけではないのだろう。

「魔法使いさん、あの時は服をありがとう」
「むぅ?」

 ミーアの所に、「麗しの翼」の2人がやって来て、畳んだ服らしきものを渡している。困り顔のミーアがこちらに助けを求めてきたので腰を上げた。

「よろしければ、その服は、そのまま貰ってやってください。あまり、肌を露出していると悪い虫もよってきそうですから」

 2人とも、少ない布で無理矢理服を接ぎ当てているようで、大事なところこそ隠れているものの、お腹や肩がむき出しで実に扇情的だ。

「いいんですか?」
「ありがとうございます、士爵さま」

 やはり恥ずかしかったのだろう、2人は安物のシャツをいそいそと羽織った。流石にマントは暑いのか、畳んだまま横に置いている。





「かたい~」
「この肉の人はなかなか手ごわいのです」
「はは、チビちゃん達、そんな食べ方じゃ噛み切れないよ。ナイフで削ぎながら喰うんだよ」

 ブチンと音がして、ポチが肉を噛み切る。忠告してくれた屋台の店主らしき青年が、それを見て目を丸くしている。

「スジ肉なのかな?」

 ルルが小さく削いだ肉を、取り皿に入れて渡してくれる。その肉を一切れ口に含んでみたが、確かに硬い。圧力ナベで煮たら、もう少しマシになりそうだ。独特の臭みがあって美味いとは言いがたいが、吐き出すほど不味いわけではない微妙な味だ。

「これは魔物の肉だから、貴族様の口には合わないかも」
「虫肉は安いし、毎日食べてると癖になるんですけどね」

 この焼肉や干し肉は、材料が昆虫系の肉だそうだ。焼く前から真っ黒な肉で、動物のスジ肉を硬くしたような食感だ。何の虫の肉かは、その日の仕入れによって変わるらしく、探索者達も「虫肉」、あるいは、単に「肉」とだけ呼んでいるらしい。非常に安く、肉串1本で賤貨1枚しかしないそうだ。

「探索者になりたての時は、よく強いパーティーの後ろを付いていって剥ぎ取りの終わった魔物の死体から肉を回収してたよね」
「お金にはなるけど、良く意地悪されたよね」

 昆虫系の魔物は、甲殻や牙などお金になる部分だけしか回収しない探索者が多いらしく、そんなうち捨てられた魔物の肉を回収する事を専門にしている探索者もいるそうだ。そんな魔物の肉の回収者達は、「屍拾い(ルーター)」と呼ばれて、一段低く見られるらしい。こうやって食を下支えする立派な仕事なのに、不思議な話だ。

 探索者達の輪の中央では、何人かの若い探索者が曲芸のような剣舞を披露している。それが終わると、ポチとタマが中央に出てきた。

「ぽちー!」
「たまー!」
「とぅ!」

 誰かに(おだ)てられでもしたのか、2人が蟷螂の背に飛び乗った時のジャンプを実演している。ぴょーんと真上に5メートル以上も飛び上がったタマに、周りから歓声が上がる。

 落ちてきたタマはナナが受け止めていた。ポチとタマ、それに2人にジャンプを強請(ねだ)った観衆が、食事に埃が入るとリザに叱られてションボリしていた。





「こっちのお豆やお芋は、柔らかいですよ」
「ん」

 迷宮都市では、野菜が高いはずなのに沢山ある。

「これも魔物の肉なんだ、です」
「肉とは違うでしょ。歩き豆と跳ね芋っていう植物系の魔物の身なんです」

 この豆と芋も魔物から取れるらしい。迷宮は鉱山っていうだけじゃなく、牧場であり、農場でもあるのか。

 少し食べてみたが、豆も芋も普通のものと少し違うようだ。豆は表皮が硬く独特の青臭さがある。中身の方は蜜柑のスジのような白い繊維があり、この部分が少し苦い。その部分を削いで中をスプーンで掬って食べると普通の豆の味だった。

「さすが、貴族さま。上品だね~」
「私もスプーンを使ってみようかな?」

 しまった、上品ぶる気はなかったんだが。単に中身だけを取り出して味見をしたかっただけなのに、何か変な感心をされてしまった。

 芋の方は、甘みの薄いジャガ芋の味に、小芋の粘り気を追加したような感じだった。芋の中にある紫色の所は毒だから食べちゃダメと教えられた。もっとも、毒といっても腹を壊すだけで、命に別状はないらしい。

 歩き豆ウォーキング・ビーンズは、鞘に手足が付いた30センチほどの魔物で、倒すと鞘の中から2~3粒の豆が手に入るそうだ。普通のソラ豆の4倍近い大きさなので、20粒で賤貨1枚になるらしい。

 跳ね芋(ホッピング・ポテト)は、渦状の弦をバネのようにして飛び跳ねる不思議な芋型の魔物で、歩き豆と同じくらいの大きさらしい。1体で10キロほどの食用できる芋が取れる。キロあたり賤貨1枚なので、それなりに稼げるそうだ。
 体当たりで攻撃してくるので、槍を構えて待つと簡単に倒せると、中年の槍使いの男が言っていた。この人は、さっきからリザと槍について熱く語り合っている。

 どちらも14区画固有の魔物で、第1区画の魔物の取り合いに負けた成り立ての探索者達が良く狩りに行くらしい。不思議な事に、この2種類の魔物は経験値が得られないか、非常に少ないそうだ。米粒ほどの魔核(コア)を持つので魔物の一種なのは間違いないはずなのだが、1年以上狩り続けてもレベルが上がらない者もいるらしい。そのため、ここで初期装備を整えるまで金を稼いだら、別の区画に移動するのが、貧乏探索者達のセオリーだと教えて貰った。

「ささ、士爵さま。お注ぎします」
「ありがとう」

 カップに注いで貰ったエールに口を付ける。すっぱ不味い。ビールを薄めて酢を混ぜたような味だ。彼らにとっては嗜好品なようで、みんな美味しそうに飲んでいる。アルコール度数は5%以下な感じだ。

「あら、士爵さま、エールはそんなにお上品に飲んだらダメですよ! こうグィーと一気に飲んで喉越しを楽しむんです!」

 酒が入ると性格が変わるのか、「麗しの翼」の美人さんの方が、エールの飲み方を熱く語ってくる。

 うちのメンバーは、前みたいにカオスな状態になりそうなので、アルコール禁止だ。皆、オレが持参した果実水を飲んでいる。

 一緒に差し入れたワインや蒸留酒の小樽なんかは、宴会開始早々に争奪戦がおこっていた。その酒は来る途中の酒屋で買った普通の物だが、喜んで貰えたようでなによりだ。

 日が落ちて3~4時間ほど経ったあたりで、赤い硬革鎧(ハードレザーアーマー)の兵士達が見回りにやって来た。この都市でも深夜営業の時間制限はあるようで、解散するように大声で告げて回っている。

 すっかり酔いつぶれている「麗しの翼」を捨て置くわけにもいかず、送り先の住所もしらないので、リザとナナに抱えて貰って屋敷に連れて行く事にする。客間が空いていたから、そこに寝かせばいいだろう。

 オレ達は、酔って呂律の回らないコシン氏に、宴会の礼を告げて屋敷へと引き上げた。





「昨日はご迷惑をおかけしたようで」
「すみませんでした」

 二日酔いの頭痛に耐えながら、「麗しの翼」が昨晩の事を詫びてきた。普段は、酒場で酔いつぶれるほど飲む事はないそうだが、コシン氏の奢りという事で羽目を外しすぎたと反省していた。2人に二日酔いに効く魔法薬を勧め、朝食に誘う。

 ルルの作った朝食が口にあったのか、やたらと感激していた。褒めちぎられたルルが照れながら誇らしそうにしていたのが印象的だった。

 昨日の宴席の時に聞いたのだが、例の蟻トレインの罰金は1人金貨2枚だったらしい。借金して支払ったらしいのだが、利子が10日毎に3割増えるそうで、毎月利子分を払えないと奴隷として売られてしまう契約なのだそうだ。なかなか暴利な気がしたが、迷宮で死んでしまう事が多い探索者の事情を考えると、妥当なのかもしれない。

 オレは、2人に借金の肩代わりを申し出た。
 もちろん、同情したとかでは無い。

 簡単にいうと迷宮都市の孤児対策の一環だ。この間からアリサと色々知恵を絞っていたのだが、探索者志望の運搬人の子供達を、迷宮で鍛えて一人前の探索者にするのが手っ取り早いという結論になった。

 ある程度レベルが上がれば、自活できるようになるし、安定を求めるならばムーノ男爵の兵士や従士などに紹介してやる事もできる。

 一人前になった元運搬人の子供達が、次の代の子供達を育てれば良いループができそうだ。

 問題は育成方法で、オレ達が連れて行って促成栽培したのでは、最低限必要な知識が身につかないままにレベルアップしてしまう。その結果、増長したり、油断して死なせたりする事が無いようにしたい。

 そこで教師役を探していた所に借金の話を聞いたので、スカウトしてみたのだ。

 探索者として色々と苦労してきた彼女たちなら適任だろう。当面はこの2人で十分だが、蟻トレインの時の獣人の3人も金利に苦しんでいるそうなので、そのうちに増員も考えよう。

 オレは、今日明日の2日ほどアリサ達を引率できない。その期間、皆には、この2人の育成をしていて貰おう。
 次回は仲間視点で、迷宮行きの予定です。
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