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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-15.鉄の証

※2/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。昇進するほどに単位時間あたりの収入が減るのは何故なんでしょうね。まあ、少しの昇給とそれを上回る沢山の仕事の増加が原因なのは言うまでも無いですよね。





「申し訳ありません」

 カウンターの向こうで受付のお姉さんが、本当に申し訳なさそうに詫びている。
 今日は青銅証を受け取りに来たのだが――。

「実はギルド長から物言いが入りまして」

 ――横槍が入って、昇格手続きが停止しているそうだ。

「え~っ、ここは断然抗議するべきよ!」
「本当に申し訳ありません。こんな事は異例でして、ギルド長にペンドラゴン士爵から抗議があったとお伝えしておきますので……」

 アリサの不満もわかるが、この人に詰め寄ってもしかたないだろう。

「証書の昇格が許可されるにせよ、却下されるにせよ、いつ頃結果がわかるのでしょう? それまで、この仮証は所持していていいのですか?」
「は、はいっ。仮青銅証は、そのままお持ちください。長くても数日と思われますので、5日後くらいにでもギルドに顔をだして頂けると助かります」

 そうか、ギルドには連絡先も登録していないもんね。

 なおも不平を漏らすアリサを宥めながらギルドを出る。すれ違いに到着した定期馬車から降りてきたアラサーのギルド職員のお姉さんが、慌てたようにオレに声を掛けてくる。

「あ、あの、失礼ですが、ペンドラゴン士爵様ですか?」
「はい、そうですが、何か御用でしょうか?」
「ギルド長の使いで参りました。秘書官のウシャナと申します。急な話で申し訳ありませんが、私と共に西ギルドまで、おいで頂けないでしょうか?」

 後ろでアリサが「テンプレ、キター」と小声で小さくガッツポーズしている。今日はダミーの家を買おうとしていただけだから、別にギルド長の相手をしても構わないだろう。オレは承諾したと伝え、一緒に西ギルドへ向かった。





 目の前に迫ってきたのは一本の杖。

 それは槍の様に鋭く、扉を開いた俺の眼前に突き出される。リザの槍の一撃より鋭いそれを、手で軽く払って受け流す。相手は、受け流された杖を持ち替え肩越しに逆側の手から2撃目を放ってくる。これは杖術というヤツなのだろうか?

 そのまま変幻自在の長杖の攻撃を、すべて受け流し続ける。
 この人は何がしたいんだろう?

 この理不尽な攻撃を止めたのは、秘書のウシャナさんの言葉だ。

「ギルド長! それ以上、おいた(・・・)を続けるなら、セベルケーアさまに叱って頂きますよ」
「ちっ、せっかく面白い所だったのに。なあ、サトゥー?」

 そう、先ほどから長杖で攻撃していたのは、ギルド長さんだ。しかも、87歳の老婆なので反撃するわけにも行かず困っていた。彼女は、レベル52の魔法使いで、炎と光の魔法スキルを持っている。稚気に富む彼女には、テニオンの巫女長の爪の垢でも煎じて飲んで欲しい。

 ここに来ているのはオレだけだ。アリサ達は階下で、ギルド会館を見物している。

「残念ですが、奇襲されて喜ぶ趣味は持っていませんよ」
「なんだよ、初日から迷宮に泊まり込んで、100以上も魔核(コア)を回収してくるような戦闘狂じゃないのか?」

 失礼な。オレが倒した魔物なんて、精々2~30匹くらいのものだ。

「私は見守っていただけで、戦っていたのは仲間達ですよ」
「はん、そんな戯言を誰が信じるもんか。よしんば事実だったとして、自分が戦うまでもない雑魚だったんだろう?」

 恐らく当てずっぽうなんだろうけど、割と真実を突いている。
 オレが適当に誤魔化そうとしている気配を感じたのか、ギルド長が先に言葉を紡いだ。

「それに、その剣は、ドハルの爺の作った物だろう? あの爺が、雑魚いヤツに自分の鍛えた剣を持たせるもんかね。誤魔化したいなら、布でも巻いて真印を隠しておくんだね」

 公都では、誰も真印に気が付かなかったので、特に隠蔽していなかった。エルフの里には、真印付きの武具が一杯あったので、レアじゃないのかと思っていたが、違ったようだ。

「ドハル老とは、酒飲み仲間なんですよ」

 まさか、ドハル老と一緒に鍛えた剣とは言えないしね。
 なんだろう。「酒飲み仲間」と聞いた瞬間に、ギルド長の目が獲物を見つけた肉食獣のように光った。

「ほう? では、私とも酒飲み友達になろうではないか?」
「ええ、私で良ければ、酒と肴を持参してお邪魔しますよ」

 バトルマニアっぽいのは困るが、どこかドハル老と似た「憎めない老人」カテゴリーの人に思える。老害の相手はごめんだが、この人の酒の相手なら、色々と迷宮都市の面白昔話が聞けそうだ。

「よろしい、それでは宴会だ!」
「ダメです」

 楽しそうなギルド長の宣言は、浅い箱を手に持って戻ってきたウシャナさんに却下された。まだ昼間だしね。

「先に、こちらのギルド証を授与してください。宴会はその後で充分です」
「ちっ。わーったよ。サトゥー、この赤鉄証(アイアン)を受け取りな」

 はて? 青銅証のはずだが?

「不思議そうな顔をするな。あの堅物子爵が、お前さんの功績を散々語っていたぜ?」

 そう言えば、オレの救出の為にシーメン子爵が、あちこちに働きかけてくれてたんだった。その時に大げさに言っちゃったのかな?

「たしか『ムーノ市防衛戦の英雄』に『グルリアン市の魔族殺し』だったか? 丁度、あの時に、うちのギルドの中堅クラスのやつらがいたんだが、覚えているか? そいつらからの報告もあってな。下級とはいえ、魔族を無傷で倒せるような破格のパーティーを木や青銅にしておくわけにもいかん」
「だからと言って、ミスリル証はやりすぎです。せめて中級魔族と戦って勝てるくらいで無いと」
「へん、ギルド評議員のバカちん共が、頷いていれば、新記録達成だったのに、惜しかったぜえ」

 どうやら、ギルド長さんはミスリル証を、オレ達に押し付けようと画策していたらしい。オレは、見たことの無いギルド評議員の良識に心の奥で感謝した。アリサは喜びそうだが、デメリットの方が多そうだ。

 ウシャナさんが、赤鉄証の説明をしてくれる。もちろん、オレだけで無く、他のメンバーも全員、赤鉄証に昇格だ。
 簡単に貰ってしまったが、本来は、青銅証を持つ探索者が、等級の高い魔核(コア)を長期的にギルドに納めることで昇格するものらしい。普通は5年10年単位の話らしいので、この赤鉄証でも、充分トラブルの元になりそうだ。

「宜しいのですか? 私達は、1度迷宮に潜っただけですよ?」
「赤鉄証までは、ギルド長の権限で授与できます。乱発はできませんが、ここ2年ほどは1枚も発行していませんから、王都から文句が来る事は無いでしょう」

 ウシャナさんの説明は色々続き、話は赤鉄証を持つことによるメリットの話になった。ギルドでの各種手数料半額やギルド保有の家屋の家賃半額などの金銭的なモノをはじめ、細々としたメリットがあるようだ。金銭的にまったく困っていないので、あまり嬉しくない。

「最後に、一番重要な点ですが――」

 重要な事なら最初に言おうよ。

「――この赤鉄証を持つ者は、准貴族として扱われます。士爵様のように貴族特権までは付与されませんが、騎士並みの社会的地位を保証されます。これはシガ国王の名の下に保障されますので、国内は元より、他国への訪問時にも有効です」

 もちろん、人族だけで無く、亜人にも有効らしい。セーリュー市の様に根強い獣人差別の地域でも、赤鉄証を所持していれば普通に宿に泊まったりできるそうだ。

 准貴族扱いに出来るような証書を民間人が出していいのか気になったので、ウシャナさんに聞いてみた。

「探索者ギルドは、ギルドと名乗っていますが、実際はシガ王国の迷宮資源省の管理下にあるんです。ギルド長は、シガ王国の迷宮資源大臣という役職を兼ねていて、現職の間は伯爵扱いになるので問題ありません」

 なるほど、やっぱり、国が後ろにいたんだ。金のなる木を民間に管理させているのが不思議だったから納得だ。

 念の為聞いてみたが、ミスリル証を所持する者は、赤鉄証同様に准貴族として扱われるだけでなく、国王陛下から名誉貴族としての爵位が授与されるそうだ。

「時にサトゥー。宴会の予定だが、今晩でどうだ」
「はい、予定を空けておきます」
「おう、いい返事だ。小耳に挟んだのだが、エルタールの小僧がたいそう美味い酒を手に入れたとか自慢しておってな――」

 エルタール将軍を小僧呼ばわりするのはともかく、竜泉酒が人気すぎる。山羊を手土産に、黒竜ヘイロンに礼をしに行かないとね。

 まさか、酒が目当てで異例の昇格とかないよね?

「な、なんだ、その目は。違うぞ? 昇格と酒には何の関係も無いぞ?」

 あせるギルド長が、少し怪しかったが、ウシャナさんが否定してくれたので、ただの勘繰りだったようだ。

 さて、階下でワクワク顔で待っているアリサ達に、赤鉄証を持って行ってあげないとね。



 タイトルで出落ちした気がします。
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