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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-14.蔦の館

※1/19 誤字修正しました。

 サトゥーです。ミステリーでは良くある地下室ですが、日本にいた頃は一度も見たことがありません。やはり、建築法と税金の問題で地上に増築するのでしょうか?





 具体的な場所を知らない蔦の館だが、探すのは実に簡単だった。ミーアに言われて「精霊視」スキルを使うと、迷宮都市の一角に精霊が集まる場所が見えた。あとはマップにマーキングして、最短経路を進むだけの簡単な行程だった。

 蔦の館は、迷宮都市の北側にある。北門よりは西側にあり、富裕層エリアの端、歓楽街の少し手前あたりだ。城壁に程近い場所に、緑豊かな公園があり、その中に蔦の館が存在した。

 その名前の通り館の表面を蔦が覆っている。富裕層エリアにある貴族の館に比べると半分以下のサイズしか無いが、敷地面積は同程度あるようだ。生垣の外壁の外には幅2メートルほどの堀があり、透き通った水が流れている。堀の外側にも低い生垣があるので、堀も蔦の館の一部みたいだ。堀を流れる清い水は、細い水路を通って公園の池に流れ込んでいるようだ。

 この辺りは他より数メートルほど地面が高く、少しだけ高台になっている。池に流れ込んだ水は細い水路を介して都市内を流れ出しているらしい。

 蔦の館を前にして、馬車が急に進路を変えた。

「どうしたルル?」
「すみません、どうしてか、馬車の方向を変えないといけないような気がして」

 ログには「『迷いの森(リターン・ホーム)』の魔法に抵抗した」と出ている。何かの人払い系の魔法みたいだ。

「魔法が掛かっているみたいだから、ここからはミーアと2人で行って来るよ。みんなはしばらくここで待っていて」

 そう皆に告げて、ミーアと2人で蔦の館に向かう。
 この魔法はエルフには効かないのか、ミーアは平然としている。念のためギリルから預かったメダルはミーアに渡しておいた。

 正門にあたる場所にアーチ状の樹木と、腰くらいの高さの白い木の門がある。ただ、その門の向こうには、たっぷりと水が湛えられた堀があるだけで、そこを渡る橋が無い。

 魔力感知で確認してみたら、低い堀の内側に空間系の結界魔法が掛けてあるようだ。ギリルによると、ここの前の持ち主は、トラザユーヤ氏という事だが、彼は要塞でも作りたかったのだろうか? あるいは、当時はこれくらいしないと安心できないほど治安が悪かったのかもしれない。

『門よ開け、我はボルエナンの森のミサナリーア。門番よ疾く迎えいでよ』

 ミーアがメダルの裏に書いてあった開門の句をエルフ語で読み上げる。ミーアって、普段喋らない癖に滑舌いいんだよね。

 正門の向こう側で、ひょこりと覗いた童女が、オレと目を合わせて門の向こうに隠れた。彼女は家妖精(ブラウニー)だ。黒に近い緑の髪を短いポニーテールにしている。

『門番よ疾く迎えいでよ』

 重ねて最後の語句を繰り返すミーアに負けて、門の間に橋がかかる。硝子のような透き通った橋だ。

「ん」

 差し伸べられたミーアの手を握って、一緒に橋を渡る。

「ミサナリーア様、私が蔦の館の番人、ギリルの孫レリリルです」
「ミーアでいい」
「そんな恐れ多い。エルフ様を愛称で呼ぶなど! 私の事はレリリルと呼び捨てになさってください」
「ん、レリリル」

 ギリルもそうだったが、レリリルは、ギリルよりもはるかに小人っぽい。人間でいうと6~7歳くらいの子供に見える。ちなみに60歳の女の子だ。還暦とか言ったらきっと怒られる気がする。レベルは20もあって、なかなか高目だ。彼女は隠行系のスキルや種族特性を持っている。斥候なんかが得意そうだ。

「ところで、ミサナリーア様、そちらの人族の小僧は何者ですか? 人族の分際で、エルフ様のお手を取るとか無礼千万です。私が身の程を叩き込んで差し上げましょう」

 初対面で、いきなりディスられた。
 エルフの里の人たちは、人族を差別していなかったんだが、人族に囲まれてると嫌いになってしまうんだろうか? どうしてだろう、何故か人族を擁護できない気がする。

「無礼。サトゥーは婚約者」
「え? ええ? そんな冗談ですよね?」
「むぅ、両親公認」
「はわわ、そんな、そんな事ありえないですぅ~」

 ミーアの婚約者発言が衝撃的だったのか、レリリルが両手をぐるぐる回して否定していた。両親公認と聞いて限界を超えたのか目を回して倒れてしまった。





 このまま寝かせておくわけにも行かないので、木陰に連れて行ってシートの上に寝かせる。

 敷地の周囲の堀のお陰か緑が多いからか、時折り吹く風が涼しくとても爽やかだ。どこか埃っぽい迷宮都市の中で、ここや周辺の公園だけは別世界の様相を醸している。

「はっ、悪い夢を見ました」
「ん、夢?」
「はい、エルフ様が人族の小僧に誑かされる悪夢です」

 わざわざ木陰に運んで介抱した親切な若者に、なんて失礼な。
 ふらふらと起き上がり、はたっとミーアの方を振り向く。そして少し遅れてオレの気配を感じたのか、ロボットのようなぎこちない動きでこちらを振り向いた。その後の騒ぎは割愛するが、童女の相手はなかなか大変だったとだけ記しておく。

「では、ミサナリーア様にサトゥー、どうぞこちらへ」

 ようやく、オレの存在に折り合いを付けたレリリルに案内されて館に向かう。外で待つアリサ達を「迷いの森(リターン・ホーム)」の対象外にさせて、「遠話(テレフォン)」で呼んでおいたので、すぐに到着するだろう。

 入り口の橋や隔離魔法の操作は、レリリルの持つ代理者のメダルで操作できるそうだ。ミーアの持つ管理者のメダルは、レリリルのメダルよりも権限が上との事だ。

「それで、ミサナリーア様が新しい蔦の館の主という事で間違いありませんか?」
「違う。主はサトゥー」
「えっ? その小っ、サトゥーがっ、ですか?」

 小僧と言いかけたな?
 まあ、還暦のお婆ちゃんからしたら、小僧で間違いないんだけどね。

「ああ、ギリルから、迷宮都市に滞在するならこの館を使えと言われたんだ。そのメダルも彼から預かった物だよ」
「ちっ、あの耄碌爺……いえ、お爺様がですか? 信じられません」
「むぅ、事実」

 いやいや、レリリル。言い直すの遅いよ。耄碌爺(もうろくじじい)って言っちゃってるから。

「あの、お爺様はボケて、いえ体調が優れなかったのでは?」

 この子何気に口悪いよね。

「サトゥーは、ボルエナンの森の恩人。アーゼの友人」
「アーゼって、まさかハイエルフのアイアリーゼ様ですか? そんなハイエルフ様が、人族の前に姿を見せるなんて! しかも友人ですか? ハイエルフ様は、亜神とも言える天上人なのに」

 そこは恋人って詐称してもいいのに。しかし、亜神とか天上人とかアイアリーゼさんの呼称として似合わない事この上ない。

「ええ、仲良くさせて戴いてます。精霊視や精霊魔法を教えてもらったり、世界樹の展望台にも連れて行って頂きました」

 レリリルは凄く動揺した後に、平伏して今までの無礼を詫びてきた。しかも、「ハイエルフ様のご友人なら人族でも、呼び捨てにできません」と言って、以後は「殿」付けになった。後から来た他のメンバーも、アイアリーゼさんの友人という事で同じく「殿」付きで呼ばれるようになった。





「ミサナリーア様、他の皆様方もこちらへ」

 レリリルに案内されて館に入る。中は極々普通の館だ。リビングの一角にある見つけ難い細い通路の先に1枚の鏡があった。

 彼女がメダルを翳すと、鏡の表面に波紋状の光が浮かぶ。

「ついてきて下さい」

 そういう彼女が、鏡に飛び込む。おお、異世界にでも行けそうな鏡だな、ってここが異世界だっけ。マップを見るとレリリルが地下10メートルほどの所にいたので、転移門の一種なんだろう。それを確認してオレも続く。

 地下なのに非常に明るい空間だ。天井も高く3メートル以上ある。この明るさは外光のようだ。おそらく、迷宮の別荘の天井と一緒で、例の光ファイバーのような茎を持つ植物か、あるいは魔法で光を伝達しているのだろう。

 ここは半径5メートルほどの中庭のような場所で、芝生のような草が植えられている。マップで確認した所では、さきほどの公園を含む範囲の地下が蔦の館の地下施設のようだ。深さも地下30~50メートルの範囲で広がっているらしい。部屋数も百部屋以上あるようだ。トラザユーヤ氏が使っていた工房や設備もあるようなので、後で使えるか確認しに行かねば。

「ここが蔦の館の本館です。地上の館は来客用のニセモノです」
「用心深い方だったんだね」
「トラザユーヤ様は、エルフの賢者と言われるお方だったのです。発明された魔法道具や魔法技術も多くて、賢者様が迷宮に行っている間に、財産を狙った賊や国家が幾度も襲ってきたとお爺様が言っていました」

 なるほど疑心暗鬼じゃなくて、自衛しているうちにこうなったのか。

「今でも、太守の方が替わるたびに、この館を手中に収めようと武装集団を引き連れてやって来ます」

 それでも落ちないって、凄いんじゃないか?

「高レベルの探索者なら突破できそうだけど?」
「この街に住むものは絶対に、蔦の館を襲いません」

 アリサの疑問に対して、レリリルはやけに自身あり気に断言した。

「だって、この街の水源を維持しているのは、この館の偽核(フェイク・コア)ですから」
「うわっ、ライフラインを抑えるとか、やるわねトラザユーヤ。流石は賢者様だわ」

 レリリルも詳しく知らないようだったが、偽核(フェイク・コア)というのは彼の残した資料に記載されていた。それによると迷路核(メイズ・コア)の前身になった魔法道具で、かなりの量の賢者の石を使って作成したものらしい。近くの地脈から魔力を吸い上げ、プリセットされている機能を使ったり、接続されている魔法道具に魔力を供給したり、色々と使い勝手の良いシステムらしい。

 ここの場合、地下水脈を地上まで汲み上げるのに、偽核(フェイク・コア)の機能を利用しているそうだ。

「しかし、それなら、ここを拠点にするのはまずいかな?」
「そうね、館の中にいる間は大丈夫だろうけど、館の住人が外をふらふら歩いていたら、人質にされたり、色々面倒事に巻き込まれそうよね~」

 アリサも同意見か。しかし、ここの設備は使いたいんだよね。

「外に家を買って、出入りはそこを使ったら? 出入りは私かご主人様の転移魔法を使えばいいしね」
「そうだな、それで行こう」

 ダミーの家は、侯爵夫人か将軍に、適当な物件がないか聞いてみるか。
 今日はお近づきの印にお茶会をした後に、館の部屋割りと刻印板の設置だけして、宿に引き上げる。

 なお、カステラは、皆に好評だった。

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