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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-11.生還の対価

※2/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。小学生の頃、祖父の家に遊びに行っていた時分に、近所の中学生が神隠しにあったとかで、山狩りが行われた事がありました。真剣な大人達の顔を今も覚えています。その中学生は、都会に遊びに行っていただけらしく、後でこっぴどく叱られていたそうです。





「宿に戻って更新手続きしたら、またすぐに突撃する?」
「ダメなのです!」
「あら? 『センジョウこそがワガふるさと』って言ってなかった?」
「ウマのさんぽ~」「なのです!」
「え~、馬なんて宿の人に散歩するように頼めばいいじゃん」
「だめだめ~?」
「アリサは判ってないのです」
「ん」

 幼女達の会話を聞き流しつつ、オレの心を占めていたのは、さっき通過した最初の広間の事だ。
 行軍用の装備を整えた甲冑姿の騎士達が、二百人近く増員されていた。要人救出ミッションでもあるのかな? 迷宮内に隣国の王子や伯爵子弟なんかもいたから、そのあたりが対象だろう。

 行きは下りでも息を切らせていたアリサも、会話しながらでも平然と階段を登りきった。やはり、レベルアップは大したものだ。

 ポチとタマが開けてくれる迷宮門を潜り、迷宮の外へ出る。

 そこには、予想さえしていなかった見知った顔があった。

「シーメン子爵! お久しぶりです」
「おお! ペンドラゴン士爵、無事だったのか!」

 落ち着いたトルマ兄からの突然の抱擁に驚きながらも、事の次第が予想できた。トルマ兄から聞いた話は、それを肯定するものだった。

 一昨日、魔核(コア)と希少素材の買い付けに迷宮都市にやって来たトルマ兄が、貴族同士のサロンで蟻蜜を手に入れようとして半壊した探索者達の噂を聞いたのが発端だったらしい。

 話を聞くうちに小さな獣人の子供や魔槍を持った鱗族の女を連れてた、ミスリルの名剣を持つ黒髪の若い貴族が探索者たちを助けた、という話を聞いて、オレを連想したそうだ。

 そして、念の為、探索者ギルドに人をやって確認したところ、オレ達が事件の日に探索者となり、そのまま迷宮に突入して帰還していないという話が出てきた。

 最初は探索者ギルドに救助部隊の派遣を依頼したらしいのだが、帰還予定日まで出発できないという一点張りで埒が明かなかったそうだ。よくやった探索者ギルド。前日に出動されていたら、色々とややこしい事になる所だった。

 そこで、迷宮方面軍の将軍に直談判して精鋭を借り受けて、救出部隊を編成して案内役の探索者を待っていた所だったらしい。もちろん、子爵自身が迷宮に入るわけでは無かったらしいが、実働隊の隊長と知り合いだったらしいので、わざわざ足を運んできたそうだ。

「それは心配をお掛けしたようで、申し訳ありません」
「いや、その様子からしても私の早とちりだったようだ。こちらこそ騒ぎを大きくしてすまん」
「だから言ったじゃないですか、下級魔族を退けるような魔法剣士なら、第4区画の魔物が束になっても怪我なんてさせられないってね」

 そういって話に入ってきたのは、甲冑姿の騎士隊長さんだ。この人は名誉子爵の位を持っている。トルマ兄が、後で兵舎に酒樽と羊5頭を届けさせるという事で、話が付いたようだ。将軍の方には、明日、トルマ兄と一緒に頭を下げに行く事になった。オレは来なくても良いと言われたのだが、さすがに、社会人として「はいそうですか」とはいかなかった。

 騎士さんたちは、せっかく準備したので、迷賊退治をしていくそうだ。さっき悶絶させたヤツラが残っているはずだから、丁度いいね。

 トルマ兄は多忙なのか、明日の約束を交わした後、雑用に部下の1人を残して行ってしまった。
 部下さんは、40過ぎの恰幅のいい男性だった。美人秘書が良かった。





 トルマ兄と別れたオレ達は、迷宮門の扉前から移動して、ギルド職員のいる買取カウンターの所に行った。

「無事のご帰還、おめでとうございます」
「ありがとうございます」

 おめでとう?
 何か違うが、祝福してくれているみたいなので礼を言っておく。

「成果はいかがでしたか?」
魔核(コア)と迷宮蟻の素材と、迷宮蛙の肉です」

 オレが肩掛け鞄から取り出す。オレ達が魔法の鞄ホールディング・バッグを所持している事を印象付けるために、わざわざこれに入れておいたのだ。変に宝物庫(アイテムボックス)を持っていないか疑われるよりは良いだろう。

 100個以上の魔核(コア)が入った小袋に、アリの胸殻と背甲を各10枚と爪10本、さらに100キロ近い迷宮蛙の肉を取り出した。

「す、すごい数の魔核(コア)ですね」

 アリサの期待通り、ギルドの受付嬢の顔が引きつっている。まだ常識の範囲なのか、騒ぎが起こる程では無いようだ。
 オレ達のレベルからすると、むしろショボイ成果だと思うが、ギルドに提示している情報は名前だけだし、初突入の探索者としては異例の成果なのだろう。キャンプ地で狩った強めの魔物の魔核(コア)を置いてきて本当に良かった。

「ペンドラゴン士爵様、以上でしょうか?」
「いえ、買取があるか判りませんが、黄奇蜥蜴の肉もあります」

 買取が無いのは覚えているけど、美味しい肉だったから、ここで待機している子供達に振舞おうと思って持ってきたヤツだ。20キロほどしかないが、振舞うには充分な量だろう。

「黄奇蜥蜴? あの伝説の食材ですか?!」
「おい、ヒューイ。この肉を鑑定してくれ。黄奇蜥蜴らしい」
「ホントかよ。あんな、逃げ足の速いトカゲを良く倒せたな」

 そういえば、タマの奇襲から逃げられかけたところを「理力の手(マジック・ハンド)」で捕まえたんだっけ。相場がやけに高いと思ったら、レア食材だったのか。鑑定して貰っている間に、他の素材に値段をつけて貰おう。

 迷宮蛙の肉がキロあたり銅貨4枚、100キロで金貨4枚になった。

 アリの胸殻1個あたり銀貨2枚、アリの背甲1個あたり銀貨1枚だった。背甲の方が色々と使えると思うんだが、需要が少ないのかな? アリの爪は、かなり安くて10本で銀貨1枚だった。1本だと銅貨2枚だ。

「間違いなく黄奇蜥蜴です。ギルドに売っていただけるなら、金貨10枚と言った所です。市内への持ち込みも可能ですが、その場合、持込税が金貨1枚かかるのでご注意ください」

 ここで売る魔核(コア)や素材は、税金が天引きされているので、別に払う必要は無いそうだ。相場は金貨20枚となっているので、持込税を払ってでも、外で売った方がお得そうだ。

 魔核(コア)は、アリから回収した103個が各銅貨1枚、黄奇蜥蜴のが銀貨1枚、迷宮蛙のが銀貨2枚だった。
 職員さんが、魔核(コア)の価格の内訳を教えてくれた。

「こちらの数の多い小さい魔核は、白9朱1なので最下級となります。この等級の魔核は、使い道が少ないので買い取り価格も最安値になってしまいますが、ご了承ください」

 せっかくなので、魔核(コア)の等級について詳しく教えて貰った。

 魔核(コア)は、赤色が濃い程良いものらしい。
 白朱赤紅と4種類の区分けがあり、「白9朱1」から「朱10」までが下級、「朱9赤1」から「赤10」までが中級、「赤9紅1」から「紅10」までが上級、この上に「血紅」と呼ばれる最上級ランクがあるそうだ。

 30レベルの蛙が「白7朱3」で、15レベルの蜥蜴が「白2朱8」だったので、レベルが高いほど等級の高い魔核(コア)とは限らないようだ。ちなみに、クジラの魔核(コア)は、濃い紅色だった。売るつもりは無いが、あの巨大な魔核(コア)が幾らになるのか少し興味がある。

 魔核(コア)は個数では無く等級と重量で値段が決まるので、職員さんは1個1個丁寧に拭いてから計量している。この計量には専用の魔法道具があり、そこに基準価格をセットすると計算までしてくれるみたいだ。なかなか優れものだね。

 しかし、「白9朱1」の最下級の魔核(コア)は使い道が無いみたいな事を言っていたが、水増し薬を作る時には普通に使えていたんだが、個人差があるのだろうか?

 ギルド職員の人が、それぞれの内訳と合計を書き出した黒板をオレに差し出す。
 迷宮蛙の肉の買取だけ、20キロほど減らしてもらった。

「この買取金額で宜しいですか?」
「ええ、結構です」

 売買が成立し、ギルド職員さんから木証を青銅証にランクアップするための書類を受け取った。不思議と、不正持込みが無いかのチェックはされなかった。チェックがザルなのだろうか?

 ギルドの職員さんの許可を貰って、カウンターの横にあるバーベキュー用のコンロを借り受けた。燃料とセットで1回大銅貨1枚で貸し出してくれるらしい。





「貴族さま、無事だったのか!」
「良かったです!」

 そう声を掛けてオレに抱きついてきたのは、「麗しの翼」の2人だった。彼女達もオレ達が、アリに敗れて巣に攫われてしまったと思っていたらしい。愛嬌さんの筋肉質な体はともかく、美人さんの柔らかな抱擁はとても素敵だ。

 蛙肉を焼くルルが、驚いたような、責めるような複雑な顔でこちらを見ているので、2人をやんわりと引き離す。アリサ達は、子供を整列させるのに忙しかったようで、こちらに気が付いていなかった。ギルティ祭りは回避できたようだ。

「お二人こそ無事でよかった」
「貴族さまのお陰だよ」
「本当に助かりました」

 彼女達が、救出部隊の案内役の探索者だったらしい。なんでも、トレインを引き起こして他の探索者だけでなく、迷宮方面軍の手を煩わしたという事で、罰金刑を受けたらしい。罰金は高く、クエストで得た賞金だけでは足りなかったそうだ。言葉を濁していたが、足りない分は借金でもしたのだろう。

 木串に刺した焼肉を振舞ってもらった子供達が、オレのところまで来てお礼を言ってから、壁際に戻って舌鼓を打っている。アリサが、肉を配る時に、振舞っているのがオレだとわざわざ宣伝していた。みんな公都での炊き出しの経験があるからか、子供達は秩序を保って並んでいる。

 少し余った僅かな肉は、獣娘達が分けあって食べていた。君ら、昨日1人10キロくらい食べてなかったか?
※再掲載
 貨幣レートは金貨1枚=銀貨5枚=大銅貨25枚=銅貨100枚=賤貨500枚です。
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