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10-4.探索者ギルド

※10/05 誤字修正しました。


 サトゥーです。会員証という物は、どうしてあんなにサイフを圧迫するのでしょう。社会人になってからは枚数を絞る事を覚えましたが、学生時代のサイフは金欠のときでもパンパンに膨れていました。





「おっきな銀貨なのです」

「めだる~?」

「うん、ギリルに貰ったんだよ」

「ん、認証のメダリオン」


 たしか、ギリルもそんな事を言っていた。彼が迷宮都市にいた頃に住んでいた館を貸してもらえるという話が出た時に、受け取った品だ。


「ぎりる、いじわる~」

「そうなのです。お(うち)に入れてくれなかったのです!」

「意地悪じゃないよ。あの館では危険な薬品を使っていたから、ポチやタマの安全の為に入れないようにお願いしてあったんだ」


 前にクラゲ用の睡眠薬を作っていた時の話だ。そういえば、あの後に色々あってポチやタマをフォローするのを忘れていた。


 御者台のアリサがバンバンと天井を叩いている。

 興奮するのもほどほどにね?


「きゃっ」

「ちょっと、大変よ」


 ルルが短い悲鳴を上げながら、馬車を急停車させた。前方の門前が騒がしい。


 馬車の窓から前を覗くと、門の両脇にいた石のゴーレムが定位置より、数歩前に歩み出して片膝を突いて臣下の礼をしている。おお、ファンタジーな光景だ。


『マスター、ご帰還をお待ちしておりました』

『マスター、無事のご帰還を祝福いたします』


 エコー掛かった声が周囲に響く。声はメダルから出ていた。


「もしかして、これのせいか?」

「ん」


 ミーアが、オレの手にあるメダリオンを取り上げてゴーレムの方に翳す。


『我は主人代行なり。汝らの挨拶を嬉しく思う。なれど、汝らの任務は重要なり、疾く職務に復帰せよ』

『承知』

『承知』


 ミーアがメダリオンに語りかけると、ゴーレムたちから応答があり、元の台座に戻っていった。


「よく知っていたな」

「ん。アーゼが教えてくれた」


 できれば、ゴーレムが動き出す前に教えてほしかった。ギリルは館の鍵だみたいな事しか言っていなかったから、サプライズのつもりだったのだろう。変な所で茶目っ気のある爺さんだよ。





「見た? 門番のゴーレムが(わらわ)に、跪いたのよ!」

「お(ひい)さま、そんなにお声を上げては、はしとのうございますよ」


 前に止まっている白い豪華な馬車から、そんな声が聞こえる。AR表示では、ノロォーク王国王女となっている。ルルと同い年の女の子だ。美人ではないが茶色の髪をしたかわいい子だ。高そうな絹の服を着ている。前にロイド侯の館で写させてもらった地図によると、ノロォーク王国は、すぐ北にあるエルエット侯爵領のさらに北にある小国だ。サガ帝国との緩衝地帯になっている。


 あまり係わり合いになりたくないので、さっさと入市待ちの列に並ぼう。


 正門の前には、赤い硬革鎧(ハードレザーアーマー)の兵士達が、中に入る人の身分証をチェックしている。商人達の荷はチェックしているようだが、わりとザルなチェックで通している。他の街であるような入市税や関税も無いようだ。その為、市内に入る列は短く、貴族特権を活かす必要も無く街に入る事ができそうだ。


「迷宮都市セリビーラへようこそ、貴族様。失礼ですが、身分証をご提示ください」


 腰の低い兵士に身分証のプレートを見せる。

 しかし、よく貴族だと判るもんだ。


「失礼ですが、士爵様。セリビーラへは、初めての訪問でしょうか?」

「ええ、初めてです」


 丁寧な口調の門番に、釣られてつい敬語で話してしまう。ニナさんに聞かれたら、目下のものに敬語を使うなと怒られそうだ。


 門番氏の話を要約すると、セリビーラへの持込を制限する品は無いが、持ち出しを禁止されている品は種類が多いという事だった。特に、無許可での魔核(コア)の持ち出しは、重大な犯罪なので注意するように言われた。他にも、魔物の肉や魔物の毒腺から抽出した毒なども、持ち出しを禁止されているらしい。


「あと、これは禁止事項ではないのですが、西門付近の屋台は、魔物の肉しか扱っていないので、いい匂いだからと言って手を出さない方がいいですよ」


 そんな忠告を最後に貰って、オレ達は市内に入る。


 門を通った先には、他の都市がそうであったように、半径100メートル程の広場がある。ただし、いつもと違うのは、都市を貫く主街路(メインストリート)が無い事だ。旅行記によると、この街は魔物の襲撃がある事を基本に設計してある為に、侵入した魔物が街中に広がらないように、迷路状の街路で構成されている。この為に、長く街に住んでいる者でも、道に迷う事が多いそうだ。


 ルルを案内する為に、アリサと場所を替わろう。


「ルル、ちょっとアリサと交代するから止めてくれ」

「はい」

「どうしたの? 特等席で観光したい?」


 両手を差し出してきたアリサを受け止めて、地面に下ろしてやる。今日は珍しくセクハラ攻撃をしてこない。どうやら、興奮してそれどころではないようだ。


「ねえ、まずはギルドに行って冒険者の登録をしましょう!」


 まずは、宿を取るべきではないだろうか?

 それに、冒険者ではなく探索者だ。


「でね、でね! まずはFクラス冒険者として登録するの! そしたら『女子供がするような仕事じゃないぜ?』とか嫌な中堅冒険者が絡んできて、あっさり叩きのめしちゃうのよ!」


 貴族相手に絡んでくるような無謀なヤツはいないと思う。

 それにFって。アルファベットが知られていないわけではないようだけど、正直マイナーな文字だから使われていないと思う。


「んで! 注目を集めた後、迷宮に入って新人にはありえないほどの成果をだして、受付のお姉さんを引かせるのよ」


 引かせてどうする。


「で、成果の中にレアな変異種とかの討伐部位があって、ギルド長の部屋に呼ばれて、特別にCランクとかBランクまで一気に駆け上がるのよ~」


 中空を見つめて鼻息荒くまくし立てたアリサに、年少組が割れんばかりの拍手をしている。ルルは、微笑ましそうな顔で、小さくパチパチと無音の拍手をしていた。


「ご主人さま、ギルドに行かれるなら、門番に道を聞いてきましょうか?」


 馬を寄せてきたリザに、大丈夫と告げる。

 聞くまでも無い、正面にある3階建ての白い石造りの建物が探索者ギルドだ。


 仕方ない、このまま宿に向かったら、興奮したアリサに襲われそうだ。まだ、午前中だし、先に探索者ギルドに寄る事にしよう。





 ルルに言って、馬車を探索者ギルドの裏手にある駐車場に入れる。

 馬番らしきギルドの職員の誘導で、空いている駐車スペースへ馬車を入れる。


「先にいくわよ~」

「まって~」

「なのです!」

「ずるい」


 地に足が着いていなさそうなアリサに釣られて、ポチ、タマ、ミーアの3人もタタタッと軽快に正門の方へ駆けていった。下馬して馬を、馬番の子供らしき幼女に預けていたリザとナナに先に行ってもらう。


 他の馬車は、御者が残っているみたいだ。


「すまない、この子達の登録に来たんだ。しばらく馬車を頼めないかな?」

「はい、旦那しゃま。さまっ」


 噛んだのが恥ずかしいのか、幼女が赤くなって俯いている。ポンポンと頭を軽く撫でて「よろしくね」と頼んでおく。後で、チップを弾もう。


 ルルを連れて探索者ギルドの正門へ向かう。


 中は涼風の魔法でも掛かっているのか、ひんやりと快適だ。

 床は大理石でできており、どこか大企業のロビーのような雰囲気がしている。


 入って右手に会議ブースのような場所があり、ギルド職員らしき人間と商人らしき人が商談をしている。


 奥には銀行のようなカウンターがあり、8つほどあるカウンターのうちの2つだけに受付の職員がいる。受付は、20歳ほどのキャリアウーマンっぽい女性と、30過ぎのイケメンの2人だけだ。


 アリサ達は、なぜか女性の方で話している。イケメンでも30男はいやだったのか。他には客がいないようで、男性職員はアリサ達の方を微笑ましそうに見ている。


「早く、早く!」

「ご主人さま~」

「こっちなのです!」

「こっち」


 姦しい幼女達に呼ばれてカウンターに向かう。職員のお姉さんは苦笑いだ。


「初めまして士爵様。(わたくし)、本日の担当をさせていただきますケーナと申します。本日はご登録という事ですが、普通登録をなさいますか? それとも特別登録をなさいますか?」


 はて? ゾトル卿や公都で仲良くなった探索者の人からは、そんな話を聞いた事がないけど?


「何が違うんだい?」

「特別登録は、探索者身分証が初めから黄金証(ゴールドプレート)が受け取れます。もちろん、普通登録と違って有償ですが、こちらは魔法道具になっていて、位置特定信号を定期的に発信します。迷宮突入時に、探索帰還予定を登録しておいていただければ、猶予期間を経た後に、その信号を辿って救助部隊が急行します」


 位置特定とかノーサンキューだね。

 それに、どちらかというと救助というよりは、遺品回収が目的な気がする。


「そんなに深く潜る予定もないから、普通の登録で頼む」

「はい、了解しました。それでは、みなさんの名前をお願いします」


 胸元から身分証を取り出そうとしていたんだが、不要なのか?


「身分証はいらないのかい?」

「はい、最初の登録では名前のみで構いません。少数ですが探索者の中には、偽名や通り名で登録されている方もいらっしゃいますよ」


 ふむ、管理はかなり緩いみたいだ。資源を産出する国有鉱山みたいな場所に入らせるのに、管理しなくていいんだろうか?


 名前を告げたオレ達に、彼女は、紐の付いた木板を渡してくる。木板には、3桁、2桁、4桁の数字が書いてある。もちろん、算用数字ではなく、シガ王国で使われている数字だ。オレ達のプレートは、最初の5桁が同じ数字で、最後の4桁が連番の数字だ。どうやら、前の3桁、2桁はそれぞれ、年と月を表してるらしい。


「この木証が、当座の身分証になります。木証は、見習い探索者の証で、迷宮に入って5つ以上の魔核(コア)を持ち帰る事で、正探索者の証の青銅の身分証を与えられます」


 身分証は、木証(ウッド)青銅証(ブロンズ)赤鉄証(アイアン)、ミスリル証、黄金証(ゴールド)の5種類がある。赤鉄証は、毎月一定数の魔核(コア)を回収できる中堅以上の探索者に与えられ、ミスリル証は、階層の主(フロア・マスター)を倒すような一流の探索者に与えられるそうだ。黄金証は、貴族や大金を惜しげもなく積めるような富豪専用らしい。


「ねえ、これを貰ったって事は、迷宮に入っていいの?」

「はい、いいですよ」


 アリサの問いに、女性職員は笑顔で答え、アリサ達に一つ忠告を付け加えた。


「でも、ちゃんと装備を整えてからにしてね?」

「は~い!」

「あ~い」

「はい、なのです!」

「ん」


 アリサの楽しそうな声に続いて、年少組の楽しそうな声がギルドに響く。

 さて、それでは、迷宮に行ってみますか。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 願望が頭の悪いテンプレなの笑う 女子供ってそのあとに下世話なこと言わなきゃ普通に心配してくれる言い奴らやん
[一言] >前の3桁、2桁はそれぞれ、年と月を表してるらしい 3桁ならシガ王国歴何年、という暦なのかな?
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