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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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229/557

10-2.2つの伯爵領

※9/22 誤字修正しました。
※9/23 加筆修正しました。

 サトゥーです。船頭多くして船山を登るという言葉があります。仕切り役の居ない会議に出るたびに脳裏を過ぎる言葉ですが、異世界では、山を登る船くらい普通にいそうです。




 他の船の海路と交差しないように、オレ達の帆船はかなりの外洋を飛行(・・)中だ。波頭より少し高いくらいの高度なので、遠距離から目撃されても普通に航海しているように見えるはずだ。

 もっとも、速度は普通の帆船の3倍以上の速さなので、聡い人なら、この船の異常さに気が付いてしまうだろう。

 何度か、海賊をスルーしたり、海底遺跡を探索したり、海岸に着地して海水浴をしたりと、海の旅を満喫している。

 マップで近傍の船舶を確認しつつ、慎重なコース取りをしていたので、割と遠回りになっている。途中で、幻影魔法で、海の映像を貼り付ければいいと思い付いたのだが、あまり他の船舶に近づけないのは同じなので、実行していない。

 最初の3日で、1200キロほど西南西に進んだ。現在は、着水して速度を普通の帆船程度まで落としてある。この先の湾内にあるウケウ伯爵領の港に入港するためだ。ルル達が船酔いになりそうだが、しばらく我慢して貰おう。





 ウケウ伯爵領の港には、オレ達の船くらいの大きさのガレー船が7隻、帆船が3隻停泊している。港湾設備が乏しいのか、入港しているのは4隻だけで、残りの6隻は少し港から離れた海上で碇を下ろしている。

 オレ達の船も海上に碇を下ろして停船する。

 港で荷降ろしをする必要もないので、小船を下ろして港街を見物しに行く事にした。全員が小船に乗った所で、「理力の手(マジック・ハンド)」を使って海面に降ろす。もちろん、目立たないように港や他の船から見えない側から降ろした。

 船の留守番は、オウム型のカカシ8号に任せる。オウム型だが飛べない。できるのは監視と侵入者の通知、それからちょっとしたワイヤー操作だけだ。このワイヤー操作は、船員を模した人形を動かしたり、罠を発動させたりするのに使う。人形には戦闘能力は無いが、遠目には人間が働いているように見えるので、防犯には充分だ。

 小船の漕ぎ手をリザとナナに任せる。小船といっても、大人8人が乗れる大きさだ。

「ここってどんな港街なの?」
「ウケウ伯爵領の港なんだけど、あの山を越えるとキリク伯爵領の港に近道できるんだよ。この近道を使うと、ここから南に500キロも伸びている半島を回って来る必要が無くなるから、時間を大幅に節約できるみたいだよ」
「往復1000キロなら2日くらいじゃない?」
「アリサ、ご主人様の魔法船の速度を普通と考えてはいけません」
「そうだね。普通の船なら、半月以上かかるよ」

 リザがアリサに注意している。他の面々は興味が無い話題なのか、海面に手を浸して遊んでいる。タマがオレのヒザから必死で体を伸ばして、海面に手を触れようとしている。そんなに無理な体勢にならなくても、ヒザから降りればいいのに。

「山越えって、どのくらいかかるの?」
「山越えなら20キロほどだし、4~5キロ毎に休憩所らしき施設があるみたいだから、ここで荷降ろしする船も結構多いみたいだ」

 魔法でチョチョイと運河でも作ればいいと思う。予算が無くて魔法使いが雇えないとかかも知れない。公都と王都を結ぶ海運の要所になりそうだから、それなりに出資してくれる人が居そうだと思うんだが。





 小船を桟橋に近づけると船着場にいた役人らしき男が身振り手振りで、船を着けるべき場所へと誘導してくれる。

「やあ、商人さん。見ない顔だけど、このウケハーバの港へは初めてかい?」
「ええ、初めてです」

 船から降りるルルに手を貸してやりながら、胸元から身分証明書のプレートを出して見せる。

「これは失礼しました士爵さま。今日の分のキリク伯爵領の港への駅馬車はもう出てしまいましたから、次の便は明日の朝になります。貴族様がお泊りになれるような宿は、灯台の明かり亭くらいしかありませんので誰かに案内をさせましょうか?」
「ああ、ありがとう。夜は船に戻るから宿はいいよ。小船の停泊料は幾らだい」
「1隻だけなら無料です。警備の者が必要なら1日銅貨1枚で派遣いたします」

 ここで下船する貴族は、王都に向かう者が多いらしく、役人氏の言葉は淀みない。オレは、宿の件を断って、警備の人間を2人雇った。しかし、1日銅貨1枚って安すぎないか?

 港湾施設で働く労働者は、獣人族が多い。特に狸人族と猿人族が多めだ。小柄な鼠人族もいるが、彼らは荷の積み下ろしでは無く雑用など、力の要らない作業に従事しているみたいだ。

「そこにおられるのは、ペンドラゴン士爵では無いか?」

 そう声を掛けられて振り向いた先には、公都で何度かお邪魔した貴族の当主さんがいた。名前は、エグオン男爵。たしか、半島の延長線上にある群島まで、香辛料を仕入れるルートを持っている人だ。カレーに必要なクミンやターメリックを仕入れられたのは、彼のお陰だ。

「ご無沙汰しております。エグオン男爵」
「こんな所で会えるとは実に奇遇だな。貴殿のお陰で珍しい香辛料の売れ行きが急増してな。買い付けの強化の為に自ら足を運んだのだよ」

 そういえば、公都では未曾有の料理ブームが起きているとホーエン伯が言っていた。

 なんでも、ホーエン伯の主催で3ヵ月後に料理大会を開催するという事だ。そのせいなのだろうが、巻物を受け取りに公都に行った時、やたらと料理勝負を挑まれてしまった。先に大会の話を聞いていたので、大会優勝したら勝負を受けると空約束をしておいた。

「もう、1日ほど早ければ、レンド子爵も居たのに惜しい事だ」

 彼の言うレンド子爵は、公都で宝石を扱っている。彼の彫金工房や宝石の研磨工房などを何度か見学させて貰っていた。レンド子爵は、王都や迷宮都市に顧客を拡げに旅をしているらしい。この港までは、エグオン男爵の船で来て、先ほど聞いた駅馬車でキリク伯爵領の港に向かったらしい。

 せっかくなので、忙しそうなエグオン男爵の邪魔にならない程度に、ウケウ伯やキリク伯の人柄や領地の情報を教えて貰った。

 ウケウ伯は、良く言えば純朴、悪く言えば田舎者の貴族という事らしい。領軍は比較的強力らしいのだが、陸軍が主体で水上戦力は、ガレー船が数隻あるだけらしい。海運の安全が確保できないのでは? と心配したが、そもそも海賊は盗賊なみに何処にでも出没するらしい。なので、領軍の水上戦力は、航路の安全では無く港が魔物に襲われないようにする為のものらしい。

 キリク伯は、洒落者で商売にも明るい、だが一方で軽薄で金銭に細かい貴族らしい。領軍は弱兵らしいが、装備の充実と兵数の確保でウケウ伯の領軍に拮抗しているそうだ。水軍はウケウ伯よりは少しマシ程度らしい。

 両伯爵家の仲が悪いらしい。しかもトップだけで無く、領民同士も変に張り合っているらしく、何かに付けて争いが起きるそうだ。

 先だっても、両伯爵の港を結ぶ山越えの街道で、領境にある谷越えの橋の補修費用の負担額で揉めたらしい。そして、今度は、どちらの領土の職人に作業をさせるかでもめているらしい、とエグオン男爵が呆れ顔で教えてくれた。





 港湾施設を抜けた先に、内門があり、その先が居住区になっている。人口は8千人ほどで、4割が亜人だ。奴隷が多いが殆どは、港湾施設での荷揚げなどの労働用の奴隷達だ。
 亜熱帯の気候のせいか、街行く人達の肌の露出が多い。若い女性は胸帯にベスト、下はミニスカートという素敵な格好の者が多い。男達も丈の短いズボンや、上半身にシャツだけや上半身裸の者が多い。なぜか、女性たちは忙しそうに働いているのに、男たちは昼日中から木陰で昼寝をしたり酒盛りをしている。不思議な光景だが、そういう土地なのだろう。

「南国チックね~ せっかくだから土地の名物でも食べましょう!」
「肉~」
「肉がいいのです!」
「こういう港町では魚の方が美味しいと言います」
「果物」

 珍しくリザが魚を選んだ。手近な場所に大き目の食堂があったので入る。周囲の家と同じように細い丸太を組んだ家屋で、屋根はバナナの葉みたいな大きな葉を重ねてあるみたいだ。他の住居と違い、壁が無いので、風通しがいい。

 空いている席を確保すると、ナイスバディな女給のお姉さんが注文を取りにやって来た。黒髪の南国風の美人さんだ。

 ゲボという食欲の湧かない名前の魚を煮たモノが名物というので、それを注文する。結構大きな魚なので、1匹だけにしておいた。ここに来る途中に干物を作っている人も見かけたので、焼き魚や干物を焼いた物も追加で注文する。

 肉はあるかと尋ねたのだが、水鼠の肉しか無いと言うので、希望者の分だけ水鼠の串焼きを注文した。獣娘3人は予想通りだったが、ルルも挑戦するという。研究熱心はいいが、涙目になるなら止めておけばいいのに。

 果物は豊富らしいので、色々な種類の盛り合わせにしてくれと頼んだ。

 ゲボはクエみたいな外見の巨大な白味魚で、魚醤ベースの出汁で炊かれている。これをそのまま食べてもいいのだが、店の人のお勧めはピラフっぽいゴハンを茶碗にいれて、そこに白身をかさねてから煮汁を上からかけて丼の様にして食べるのが良いらしい。

「ちょっと臭いがきついけど癖になる味ね」
「うん、こっちの山椒みたいな粉をかけると、臭みが消えるぞ」
「お、ほんとだ」

 このゲボ煮はアタリだ。レシピは大体想像が付くので、後で何匹か仕入れておこう。磯に棲むらしいから、自分で獲って来てもいいかもしれない。魚醤は、壷で売っているのをさっき見かけたから、忘れずに帰りに買おうと思う。

「あぶら~」
「口の中がねちゃねちゃなのです」
「2人とも文句を言わずに食べなさい。ルル、あなたは無理をせずに、そちらの果物で口直しでもしなさい。あなたの残した分は私が食べますから」
「ごめんなさい、リザさん」

 どうやら、水鼠は外れだったらしい。ポチやタマが肉を嫌がる姿を初めて見たよ。値段的には、水鼠の串焼きは比較的高価で、ミーアが格闘している果物の山と同じ値段だ。

「美味いかミーア」
「ん、美味」

 ミーアの前には、文字通り山のように多彩なフルーツが積み上がっている。見知ったところでは、パイナップルに椰子の実、バナナ、キウイ、マンゴーが並んでいる。他にもオレンジ系の柑橘類が何種類もある。リンゴや梨系は無かった。キウイを切ったら果肉が赤かったとかの差異はあったが、元の世界の果物に類似している。特にバナナとパイナップルは、味も食感もそのままだった。マンゴーは「マンゴーもどき」だった。見た目も味も一緒なのに、食感がゴムのようだ。横から一切れ掻っ攫って口に放り込んだアリサは、しばらくモゴモゴしていた後に「これはこれでアリね」と感想を漏らしていた。





 南国の街を堪能したオレ達は、色々な土産を抱えて船に戻った。幸いカカシ達の出番は無かったらしい。

 日が落ちた後、夜霧を発生させる。「(フォグ)」の魔法だ。ミーアの使った場合とは違い、港全体が濃霧の中に沈む。「気体操作(エア・コントロール)」の魔法で、山の方まで霧を流し、3時間ほどかけて反対側のキリク伯爵領の港まで届かせる。

 オレは霧に紛れて船を浮上させ、マップを頼りに山を越える。

 山越えの途中、領境の橋が落ちていて、谷底にレンド子爵とその家臣が瀕死でいた。この辺りには霧が来ないようにしていたのだが、補修が延び延びになっていた橋が落ちてしまったのだろう。運の悪い人達だ。

 霧の中からだと「理力の手(マジック・ハンド)」が届かなかったので、船を濃霧の空中で静止させ、漆黒仮面装備のナナシで救助に向かう。

 残念ながら御者や馬は死んでいたが、子爵達や他の客は生き延びていたので、「理力の手(マジック・ハンド)」をこそっと使ってウケウ伯側の山道に移動させておいた。ついでに、姿を隠したまま「治癒(アクア・ヒール)」を掛けておいたので、全快しているだろう。念のため食料や水なども近くの物陰に置いておく。

 背後で騒ぎが起こっていたが、騒げるだけの元気が残っているなら大丈夫だろう。

 オレは船に戻り、今度こそトラブルに遭遇する事無く山越えを果たした。そのまま濃霧に紛れて船を飛行させて、キリク伯爵領の外れにある小さな湾に船を停泊させた。

 次回、貿易港を経由して迷宮都市に到着予定です。

 飛行帆船の速度は、サトゥーが起きているときで、40ノット(時速72キロ)程度の速度で進んだ計算です。普通の帆船が平均6ノット程度(最高15ノット前後)です。

※魔法薬で回復していたシーンを治癒魔法に変更しておきました。

※活動報告にカリナ嬢の弟サイドのSSをアップしておきました。良かったらご覧下さい。
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