2-11.悪魔の迷宮(4)
※2/11 誤字修正しました。
※3/19 隠し扉の後ろの縦穴の描写を修正しました。
サトゥーです。古典の時代から迷宮は宝と魔物と謎と罠といいます。
命の危険が大きいかわりレベルアップがし易いのも迷宮の醍醐味と言えるでしょう。
戦士だけのパーティーってバランス悪いよね?
◇
さらに2度ほどの休息を挟み迷宮の出口までの行程の8割強を踏破した。
前々回の休憩から生存者どころか死体も見かけなくなってきた。
ポチとタマの装備が儀礼用の小剣に変わった。装備の変更はそれだけだが、レベルは3人とも13レベルまで上がった。人族の平均と比べると物理系の能力値は+3レベル分くらいあるようだ。
スキルはポチが「索敵」「投擲」「解体」「小剣」、タマが「投擲」「解体」「採取」「小剣」、リザが「料理」「解体」「槍」「刺突」を持っている。
最初に比べたら雲泥の差と言っていいほどの戦力強化だ。
状態異常攻撃の無い敵ならばレベル20相手でも3人だけで倒せるようになっている。盾役が居ないので複数の敵だと同レベルくらいじゃないと危ないが……。
「その壁~変?」
タマが部屋の壁の違和感を感じる場所を見つける。
見つめると「隠し扉」となっている。マップで確認すると確かにその裏側に通路がある。
だが……。
マップの表示を回転させて俯瞰視点で確認してみる。
その通路は5mほど上の部屋から真下に100mほど垂直に続いている。縦穴というか、直径3mはあるから落とし穴の罠の類か?
タマ達に近寄らないように言う。
この先に十字路があり、その先の部屋に生存者が3人ほど居るみたいだ。1時間前の休憩時にもそこに居たから安全地帯に引きこもっているんだろう。
あと5部屋ほどで出口なんだが、マップが無いと分からないから仕方ないだろう。
「みんな止まれ!」
レーダーに映った敵を示す赤点が凄い速さで近づいてくる。1体だけのようだしさっきの部屋で迎え撃つか。
戻りながら敵の情報を調べる。
死獣、不死族、体長5メートル、体高2メートル。麻痺を伴う噛み付き、爪で攻撃する。非常に素早い。弱点:聖属性。
「レベル40……だと?」
迷宮の掃除屋か……。
大昔のゲームみたいだな。時間切れでプレーヤーを殺すためだけに登場する異常に強い敵。
接敵前に部屋に戻れた。
ポチ、タマ、リザには部屋の隅に避難させた。さすがにコイツはヤバイ。ヘタに戦ったら一撃で殺されてしまうだろう。
ソイツが通路からゆったりと姿を現す。勢いのまま襲い掛かればいいものを……。
額にルビーの様な赤い角がついた漆黒の豹のような獣だ。
死獣が視界から消える!
慌ててレーダーで確認するが位置は変わっていない……。
上からの衝撃!
跳躍から天井を蹴っての体当たり!
背中の下で部屋の床にヒビが入っていくのを感じる。
アンデッド系のくせに素早いとは……。ヘタに立体に飛び回られては獣娘達をカバーできなくなるかもしれない。
まともに戦ってはダメだ。
死獣が甚振るように間をあけてから噛み付き攻撃を仕掛けてくる。
巴投げの要領で壁に蹴り付ける。
死獣は壁に着地し、
反撃しようと足に力を込めて、
……そのまま壁を突き破って落下していった。南無~。
◇
さて、生存者達と合流するか。
十字路を越えると地面に白い粘糸が張られている。
「ネチャネチャ~」
「足がくっつく~のです」
「蜘蛛の糸でしょうか?」
ポチとタマに小剣で切り開いてもらう。
部屋には7つの繭がある。生存者はそのうちの3つに居るようだ。蜘蛛がいないうちに救出するか。
オレたちが繭に近づくとそれに気がついたのか中の人がもがき出す。
一応、助ける前に中身を確認。
ニドーレン。奴隷商人、40歳、レベル11、「交渉」「調教」「算術」スキル。
ジン・ベルトン子爵。貴族、33歳、レベル15、「火魔法」「炎魔法」「社交」スキル。
ターナ・ベルトン子爵令嬢。貴族、14歳、レベル3、「社交」「礼儀作法」スキル。
子爵は戦力になりそうだ。
それにしても、どうして貴族があんな広場に?
手分けして助け出す。
オレが子爵を、リザには令嬢を、ポチとタマは商人を担当した。
半分ほど助け出したところで、下方から蜘蛛が接近してくるのをレーダーで捉えた。さきほど死獣を始末したのと同じような縦穴がココにもあるようだ。
「敵だ! ポチ、タマ、リザ、救助を一旦中止して迎撃準備!」
獣娘達は迅速に武器を構え迎撃準備を整える。
さすがに連戦続きで連携も慣れたものだ。
要救助者達の口が塞がったままだったのは不幸中の幸いだ。やかましくなくていい。
蜘蛛が床の穴から這い出してくる。
まずオレが頭に石をぶつけ意識を奪う。続けてリザが蜘蛛の頭を串刺しにしてポチ、タマが胴体の継ぎ目を小剣で突き刺す。
初撃で死んでくれていれば楽だったのだが……頭を貫いても即死しないとは、さすが魔物だ。
振り上げられた蜘蛛の前肢をリザが受け止め、その隙にポチとタマがチクチクと小剣で蜘蛛の体力を削っていく。
時間がかかりそうだったので、こっそり小石を投げて止めを刺す。
魔核の回収はタマに任せて、他のメンバーは救助に戻る。
「助かったぞ。私は王祖ヤマト様の代から続く名家、ベルトン子爵家の当主をしている、ジン・ベルトン子爵だ。ここから出られたら褒美は期待しろ!」
「ありがとうございます、子爵様。私は商人のサトゥーと申します」
お互いの自己紹介が終わったあたりで子爵を助け終わった。子爵は令嬢のところに行くとリザからナイフを取り上げて自分で救助作業を始めた。
亜人に触らせたくなかったのか、娘想いなのか。
「たすけてありがとさんです、商人のニドーレンといいます。お嬢さん方には嫌われそうですが奴隷を商っております」
「駆け出し商人のサトゥーと申します」
「商人……ですか? てっきり冒険者かと思いました」
ニドーレン氏に水を差し出しながら聞く。
「冒険者をご存知なんですか?」
「はい……ああ! シガ国で言うと探索者ですか。迷宮で魔物を倒し、魔核や財宝を得る、ハイリスクハイリターンな稼業ですな」
タマが回収してきた魔核を受け取る。
「ここの魔核は大きさはともかく、迷宮ができたばかりのせいか純度が低いですな」
ニドーレン氏によると魔核は精製して魔法の品を作るのに使われ、純度というものが高いほど魔力運用の効率が良く高度な魔法具が創れるらしい。
「それにしても見事な連携でしたな、さぞかし長い間訓練されたんでしょう。あれほどの奴隷なら1人金貨20枚は固い。一度でいいから扱ってみたいものです」
正式な奴隷じゃない事は言わないほうが良いだろう。薮蛇になりそうだ。
獣娘達に残りの繭からの遺品回収を任せる。
ニドーレン氏とベルトン子爵に食料を渡す。もちろん蛙肉じゃない方だ。子爵は粗末な品に文句を付けつつも空腹故か健啖家ぶりを発揮していた。子爵令嬢はチーズをひとかけ食べただけで、後は水を口に含んだだけだ。さすがに憔悴しているのだろう。
◇
出口まで、あと3部屋だ。子爵令嬢はベルトン子爵がここまで背負ってきた。代わりに背負いましょうか? と提案したのだが断られた。
問題は次の部屋だ。できの悪いGMの作ったダンジョンのような回避不能位置にある殺人部屋だ。
ヒトツメというレベル35魔族を筆頭に、レベル30の骸骨騎士、死鎌骸骨、骸骨戦士。他にレベル10~15ほどの骨兵士が20体ほどいる。
仮面の勇者にジョブチェンジするか?
マップを確認すると美中年神官の一行が10部屋ほど離れた位置にいる。こちらから出向いて合流するのもアリだが、子爵令嬢の消耗が激しい。それらの部屋には不死系の魔物が各々3体ずつはいる。合流してから突破だと2~3時間はかかるだろう。
この部屋さえ突破できれば、あとは敵もいない空部屋なんだが……。
偵察に出していたリザとタマが帰ってくる。
「骨いっぱい~」
「羽の生えた球体のようなものが部屋を飛んでいました。他には骸骨の魔物が20体ほどいます。迂回路を探した方が………」
正論なんだが、出口はこの先なんだよね~。
さあ詐術スキルの本領発揮だ! ……orz。
奴隷商人のニドーレンが言っていた奴隷の価格はあくまで人族だった場合の話。セーリュー市で亜人奴隷の場合、金貨1枚以上は付かないのです。
骨広間への突入の際には詐欺師スキルではなく説得スキルが作用していました。
いつか補足の要らない筆力が欲しい。