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幕間:プタの街の災難[前編]

※2/11 誤字修正しました。


※今回はサトゥー視点ではありません。新人魔狩人コン少年の視点です。


「ケナ! 痕跡を見つけたよ。やっぱ、この獣道はゴブリンが使ってるやつだね」

「よっし、良くやったガディ。帰ったらエールの一杯も奢ってやるからね」

「この渋ちんめ。もっといい酒を奢っておくれよ」


 ガディが、拾った枝を落ち葉の間に刺してケナにいってるけど、どこが痕跡なのかサッパリだ。


「ねぇ、ガディ。どこが痕跡なんだ」

「あんたの目は節穴かい? そこにゴブリンのフンがあるだろ?」


 ガディに小突かれたけど、ちゃんと教えてもらえた。頭を掴んで痕跡の場所を教えてくれるのはいいけど……。


 近い、近いよ!


 顔にフンが付いちゃうから!


 落ち葉の陰でよく見えなかった。こんな判りにくい場所のを、よく見つけるよ。

 ヤバい、ケナが面白くなさそうにしてる。


「ジャレ合ってないで、さっさと行くぞ」

「はいよ」

「うい~」

「うん、待ってよ」


 俺は慌てて地面に投げ出したままだった荷物を担ぐ。右手の義手に荷物のヒモを引っ掛けるところがあるので、左手は自由に使える。今みたいに傾いた地面を移動するときは、片手が使えるのは大きい。前みたいにバランスを崩して何度も斜面を転がる事が無いんだよね。





「もっと頭を低くしな」

「あいた、もう、叩く前に言ってよ」


 一緒に隠れていたポミに頭を(はた)かれる。もう、ポミはすぐ手がでるんだから。

 俺達はようやくゴブリン共の巣を見つけて、奇襲の準備中だ。ヤツらは山肌にある洞窟を根城にしているみたいだ。入り口の前には2匹のゴブリンが、何かの生肉を齧っている。


 反対側に移動したケナが合図してきた。


 ポミとガディが短弓(ショートボウ)で洞窟の外にでたゴブリンを攻撃する。ポミの放った矢は、ゴブリンの口の中に突き刺さって一発で仕留めた。でも、ガディの矢は少しそれてゴブリンの腕に当たったみたいで、倒せていない。慌ててポミが矢を放つが、ちょっと遅かった。


「ぐぎょらう、ぐる、げろらー」


 しまった、不意打ち失敗だ。

 ポミの矢が、ゴブリンの叫びに少し遅れて届く。こめかみに一撃だ。相変わらずポミの弓の腕は凄いや。


 ゴブリンの悲鳴が止まったけど、洞窟の奥が騒がしい。

 ケナとバハナが茂みを割って洞窟前に飛び出したのを合図に、俺達も茂みから突撃する。

 洞窟から飛び出してきたゴブリン達を、ケナとバハナの短槍が貫く。どちらも一刺しで倒している。仲間が殺された隙を突いて、ゴブリンたちが2人を襲うけど、2人とも蹴りで捌いて距離を空けている。


 俺も義手に付けた盾に身を隠しながら、ゴブリンの攻撃を捌く。2人と違って武器の長さが足りないから、一度受け止めてからじゃないと、相打ちになっちゃうんだ。


 先端が折れた形見の剣を、小盾の陰から見えるゴブリンの腿に切りつける。いつもなら、小さい傷を幾つも付けて相手が弱ったところで止めを刺すんだけど、今回は、ちょっと違った。


 すぱっ。


 そんな音が聞こえてきそうなくらいあっさりと、俺の剣はゴブリンの腿を半ばまで切り裂いた。何? この切れ味。


「コン! 動きを止めんな!」


 ガディに蹴られて転がってきていたゴブリンが、地面から飛び掛ってきた。しかも、今剣を振ったばかりの左側からだ。目の前のゴブリンを押しのけて、その反動で後ろに逃げるのが正解なんだろうけど、無理。


 非力な俺の腕力じゃ、現状維持がやっとだ。


 ケナ達みたいに力があったら、蹴りで捌けるんだろうけど、今足を上げたら盾で押さえ込んでいるゴブリンに押し倒されるよ。


 結局、頭がグルグルしている間に、ゴブリンの牙が俺の脇腹に突き立つ。オレは反射的に悲鳴を上げる。前に噛み付かれた時の激痛を思い出しちゃったんだ。


 いつまで経っても痛みが来ない。脇腹に齧りついたゴブリンは大口を開けてオレの肉を噛み切ろうとしている。


「コン、剣を持つ手の肘を叩き込め!」


 俺は、考えるより先に、ケナの助言に従って肘をゴブリンの頭に叩き込む。意外に簡単に剥がれたゴブリンを、駆け寄ってきてくれたポミが短剣で仕留めてくれている。


「ありがとう、ポミ」

「いいから、集中しなよ」

「うん!」


 俺の盾を引っ掻いていたゴブリンに、斬り付けて止めを刺した。いつもなら10回以上は斬り付けないとダメなのに、たった3回斬り付けただけで倒せちゃったよ。


「よし、ガディ、洞窟の外に出ているゴブリンの警戒を任せる。バハナはアタシと洞窟の入り口から出てくるゴブリンを狩るよ。ポミとコンは、ケムの生木を切ってこい――っと、コン、アンタはゴブリンに噛まれていただろう、先に治療しておけ」


 あれ? そういえば痛くない。

 貴族さまに貰ったマントが、どろりとしたゴブリンの白い唾液で汚れてるけど、穴も開いてないや。脇腹を守ってくれている白い鎧には、ゴブリンの牙が刺さった痕跡もない。


「ほら、包帯を巻いてやるから、さっさと、鎧を脱ぎな」

「それが、ケガしてないんだよ、ポミ」

「ああん? そんなわけ無いだろう? 思いっきり噛まれてたじゃないか!」


 ポミが乱暴にマントを捲る。俺の脇腹から血が出ていないのを確認して納得したようだ。そのやり取りに、他の3人から視線が集まる。


「ちょっと、ケナ。コンの小僧ったら、本当にケガしてないよ」

「ただの狼の皮で作ったマントかと思ったら、皮と裏地の間に何かすべすべした生地があるよ。これがゴブリンの牙を防いでくれたみたいだね」

「ちょっと、マントの傷を広げるの止めてよ」


 もう、繕い屋に頼むのも高いんだからさ。





 ポミがナタで切り落とした枝を、俺が腕くらいの太さの束に纏める。ポミが枝を伐るのが乱暴なせいか、やたらと虫が落ちてくる。丸々としたイモムシなら歓迎だけど、甲虫とかは殻が邪魔だし、あんまり美味しくないから嫌いなんだよね。


 纏め終わった生木の束を集めてケナのところに持っていく。

 ケナが、錬金術士から買った細い煙棒を適当な長さに切って、生木の束の間に刺していく。最後に油を少し染みこませて、火口箱を使って火を点けている。


 火を点けた途端に、もうもうと黄色い煙が出始めた。


 うえっ、臭い。

 オマケに目がショボショボするよ。


 ケナから、その束を受け取ったポミが、洞窟の奥にその束を投げ入れる。

 5つほど追加で洞窟に投げ込むと、奥から煙に追われたゴブリンが次々と出てきた。


 俺は出てくるゴブリンに、必死で剣を振る。


「ケナ、あっちに煙が出てる」

「ちっ、出口が他にもあったか。ガディ、バハナを連れて向こうの出口を張っといで」

「え~、取り分が減りそう」

「今回分は均等にしてやるから、文句を言わずにとっとと行け」

「あいよ~」


 煙の漏れている場所に向かってすぐに駆け出したガディの後を、かなり遅れてバハナが追いかけていった。





 俺達は、あの洞窟で、合計21匹のゴブリンを狩った。俺が倒せたのは3匹だけ。前と違って怪我は無いけど、剣を上手く当てられなくて倒すのに時間が掛かってしまう。早く、ケナ達みたいに上手くなりたい。


 あれ?


「どうした、コン」

「うん、向こうの山肌で、何かがキラキラしてた」

「どこだ?」


 山肌の光を見て思わず足を止めた俺を、目ざとくガディが気付く。その方向を指差すが、そこはもう光らない。


「本当に光ってたんだ」

「ああ、よく見つけた。ありゃ、槍の穂先に陽光が反射したんだろう」

「他の魔狩人かい? アタシらがこっちの山を攻めているのは、元締めに伝えてあるから、もう2、3日は誰も来ないはずなんだけどねぇ」

「あの辺なら、逃げたゴブリンを追って山向こうから来ちまったんじゃないのか?」


 他の魔狩人の組と魔物の取り合いとかになったら大変だ。ゴウツ組とかだったら、集団で囲まれて、さっきの魔核(コア)まで巻き上げられちゃいそうだ。


「あの山の向こうは、双子山だよ。多頭蛇(ヒュドラ)の出る山に向かうような命知らずは、魔狩人にはいないよ。そんな気概のあるヤツは、とっくに探索者になりに迷宮都市に向かっているさ」


 たしかに、多頭蛇なんて昔話とかで英雄とか騎士達が戦うような伝説の魔物だもんね。


 でも、それなら誰がいるんだろう?





「誰だい?」


 ケナが短槍を茂みに向ける。


「オレだ、オレ。矢を射掛けるなよ」


 茂みから出てきたのは、片目の兎人族の大男を先頭に5人の雑多な獣人の男達が出てきた。


「なんだ、オルドか。あんたら、もっと北側の山に行くって話だろ?」

「ああ、そのつもりだったんだが……」


 言い淀んだオルドを、ケナが顎で促している。ケナって、いつも偉そう。


「カタバネが、双子山の方に変な集団がいるってんで監視してたんだが、どうも、その集団がプタの街に向かっているみたいでな。こいつらの家族もいるし、一度戻る事にしたんだよ」


 へー、やっぱり獣人は家族思いなんだ。


「おい、そいつぁマジモンの話か?」

「ああ、間違いない」

「おいおい、止めてくれよ」


 片方の羽しか無くて飛べない鳥人族のカタバネが、さっきキラキラしてた方を指差して仲間に何か言っている。


「おめぇら、オレがケナと話してる最中だ。騒ぐのは後でやれ」

「大将。それどころじゃねぇんだ。カタバネが、あの集団の中に多頭蛇(ヒュドラ)がいるって言ってる」

「はあ? あの集団は多頭蛇(ヒュドラ)から逃げてんのかい?」

「ケナ、それは無いよ。山の中で多頭蛇(ヒュドラ)から逃げ切れないって」


 えーっと、もっと分かりやすく言ってほしい。

 視線を振って、教えてくれそうな人を探す。ポミと目が合った。残念、ポミも分かってないみたいだ。


「つまり、アレか。多頭蛇(ヒュドラ)を番犬みたいに飼っているヤツらが、プタの街に向かっているってのか」

「そういう事になるね」

「えーっ! 大変じゃん」


 オルドの話でようやくわかった。ちょっと驚いただけなのに、ガディにポカリと頭を叩かれた。ふふん、貴族様に貰った兜があるから痛くないんだぜぃ。そんなオレの心の言葉が聞こえたかのように、後ろに回ったガディが俺の口に指をかけて左右にムニムニひっぱる。


 いふぁいれす。


 後半に続きます。

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