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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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9-32.祝勝パーティー

※9/15 誤字修正しました。

 サトゥーです。凱旋パレードをこの目で見たのは、地元出身のオリンピック選手が金メダルを取って帰ってきた時だけです。あの時見た選手は、どこか気恥ずかしそうでしたが、とても誇らしそうな表情をしていました。





「あの、お2人とも、そろそろ宜しいですか」

 ルーアさんが控えめに声を掛けて来る。その声を聞いて初めて、アイアリーゼさんが衆人環視という事実に気がついたみたいだ。オレは、もう少し前に気が付いていたんだが、せっかくの素敵シーンなので誰かが止めるまで状況を堪能していた。

「ち、違う、違うの!」

 アイアリーゼさんは、慌てたようにオレを引き離して、ルーアさんや周囲のエルフさん達に言い訳を始める。周りのエルフ達に混ざって、アイアリーゼさんの動揺っぷりを楽しむ。

「違うんですか」
「ちがっ、違うけど、そうじゃなくて」

 少し寂しそうに返すと、アイアリーゼさんが、わたわたと言い訳を始める。目をグルグルさせてあうあう言っている姿を愛でながら、ジーアさんたちにクラゲが暴れ始めた理由と、その対処法について報告を始めた。

「それじゃあ、その卵が原因で世界樹がクラゲを誤認していたんですね」
「確証はありませんが、その可能性は高いです」

 今回の失敗の原因、卵から孵化したクラゲ幼生のせいで、クラゲ達が「睡眠」から「狂乱」になり、幼生を抹殺してしまった為に「憤怒」の状態になった事を告げる。
 さらに、採取瓶に捕獲しておいたクラゲの卵をジーアさんに渡す。研究するにしても現物は必要だろうと思って少量確保しておいた。

 他の氏族への報告は、目を回してしまったアイアリーゼさんに代わって、渉外担当の長老さんがする事になったらしい。

 ここに来ているエルフさん達に、「クラゲを倒したのは勇者ナナシ」だと口裏を合わせて貰った。実際、ナナシ銀仮面バージョンで作戦に参加していたので、勇者の奇行としてあっさり了承されてしまった。好都合なんだが、ダイサク氏が過去に何をしていたのか気になる。

 残念な事に、クラゲの遺体には、魔核(コア)が存在しないようだ。クラゲの遺体を檻ごと回収した甲斐がないというものだ。魔物では無く「怪生物」となっていたのだから当然かもしれない。クラゲから得られた経験値は、魔物より少な目みたいだ。1万匹も倒したのに、たった7匹のクジラに及ばない経験値しか手に入っていない。





 地上に戻ったオレ達は、留守番をしていたエルフ達が用意してくれた宴席に参加した。カレー祭り広場では入りきらないので、メインの地下街と同じ広さのある牧場区画が開放された。

 オレは、わざわざ礼服に着替えてきたエルフ達と一緒に、凱旋パレードに参加している。

 オレの衣装は、ルーアさんの頼みで勇者っぽい聖鎧に着替えた。
 勇者っぽいというか、この聖鎧はダイサク氏の遺した装備らしい。明らかに大きすぎる装備だったのに、着込むと自然にジャストフィットのサイズに変換されてしまった。どういう仕組みなのか小一時間問い詰めたい所だが、装備を渡してくれたルーアさんは知らないようだったので、後回しにしておいた。

 パレードをする俺達の頭上を、たくさんの羽妖精たちが、楽しそうに花びらを撒きながら飛び回っている。

 会場の中央に仮舞台が設置してあり、アイアリーゼさん達と一緒に壇上に上がり歓声を浴びる。アイアリーゼさんや4人の側付きの人達は、初対面の時のように巫女装束を着ている。

「ボルエナンの子供達! 長らく母なる世界樹を穢していた害虫たちの退治が無事に終わりました――」

 アイアリーゼさんが透き通る声で、会場に集まった人々に成果を報告している。こういうのは苦手そうなのに、相手が家族みたいなものだから平気なのだろうか?

「――彼が、人族の勇者ナナシです! 感謝の拍手を!」

 彼女の横顔に見惚れている間にオレの紹介が終わっていた。少しタイミングが遅れたが、エルフ達に手を振る。

 やがてアイアリーゼさんの演説も終わり、舞台を楽隊に譲って宴会が始まる。広場の中央で音楽に合わせて踊る者、広場の周囲にたくさん設営された食事やお菓子の屋台に突撃する者、みな様々に自分の好きな事をしている。

 オレは、早着替えで勇者ナナシからいつものサトゥーに戻る。勇者の衣装はルーアさんに返しておいた。

 動く人形(リビングドール)が配る飲み物の中から、果実水のゴブレットを受け取り、軽く唇を湿らせる。ゴブレットを片手に持ったまま、人ごみを抜けてポチ達のいる場所へと向かった。

 地上に戻った時に、アリサに「遠話(テレフォン)」で連絡を取ってある。ルルがクレープ屋台を、リザが蛙肉の網焼きコーナーを出しているそうだ。リザの出品している蛙肉は、子豚くらいの大きさの巨大な蛙を使っている。魔物では無く普通の両生類だ。昨日、獣娘達とナナが、ポルトメーア女史に案内されて狩りに行っていた。

 リザの屋台は酒を片手に持った飲兵衛達が、ルルの屋台は羽妖精たちや甘いものが好きな女性陣が人垣を作っている。エルフ達は、待っている間も楽しそうにオシャベリしたり音楽を奏でたりしている。気が長いというか、彼らは「待つ」という事に対して忍耐強い。

「ご主人さま、こっち~」
「ご主人さまなのです!」

 オレを見つけたポチとタマが、エルフ達の足元を抜けて迎えに来てくれた。2人共、ふりふりのメイド服だ。2人と手を繋ぎエルフ達の間を通って屋台の前に行く。

 ミーアも手伝いに来ていたらしく、アリサとお揃いのミニスカメイド服を着ている。ナナ達年長組はロングのメイド服だ。そこは逆の方が良かったと思う。この辺の趣味は、どうもアリサと食い違うみたいだ。

「おかえり~ 無茶してないかとか無粋な事は聞かないけど、怪我は残っていないでしょうね?」
「ただいま、怪我は無いよ」

 アリサが可愛い衣装を見せびらかすようにポーズを取りながら、怪我の有無を心配してくれる。そこで終わればいいのに「今晩のお風呂で傷跡が残ってたりしないか、ちゃんと検分しないとね」とかブツブツ言ってしまうので台無しだ。

 クレープを焼いているのは、ルルとナナの2人だ。アリサとミーアは、屋台の前で客からの注文を受けたり商品を届けたりしている。食いしん坊の羽妖精達は、つまみ食いを狙っているようなのだが、近寄るとナナに捕まって胸の谷間に強制連行されるので手が出せないようだ。羨ましい。オレがつまみ食いしたいくらいだ。

 ルルが「特別です」と言って、鉄板の端で小さなクレープを1枚焼いてくれた。順番を待つエルフ達には悪いが、少し小腹が空いていたのでありがたく頂く。

 リザの屋台は、畳一畳ほどもある巨大な金網が置かれ、ポルトメーア女史がどこからか調達してきた炭を使って蛙肉を焼いている。鶏肉を焼くような良い匂いが漂ってくる。リザは、長めのトングを両手に構え、火加減を見守りつつ、焼け終わったものを客に提供している。なんというか、表情が真剣すぎる。

「よう、サトゥー。この間の竜泉酒ってもうないのかよ?」
「ありますよ、どうぞ」

 西洋人形みたいな可愛い顔をしているくせに、ポルトメーア女史の言葉遣いは悪い。公都に巻物を受け取りに向かう時に黒竜ヘイロンの所に寄ったので、竜泉酒は売るほどある。樽で大量に貰った妖精葡萄酒(ブラウニー・ワイン)を、黒竜にお裾分けに寄った時に、お返しにと受け取った分だ。

「おお、いい香りだ。この酒のためだけでも竜と仲良くしたくなるぜよ」
「ポーア、ほどほどにしておけよ」

 少し他の酒を嗜んでいたのか、ポルトメーア女史の語尾がおかしい。友人のエルフが特大のゴブレットに竜泉酒を注ぎ始めた彼女を制している。彼も酒呑みだったはずだから、忠告の半分は、自分の呑む分の酒が減るのを警戒しての事に違いない。

「もう少し味わって食べなさいポーア。酒で流し込むのは肉に対する冒涜です」
「ちゃんと味わってるってば、リザは細かいんよ」

 奉行振りを遺憾なく発揮するのを背後に聞きながら、酒宴が始まっている幾つかのテーブルに人族の酒と竜泉酒を配る。ポルトメーア女史の言葉では無いが、酒をきっかけにして交流が始まるのを少し期待している。

 配り終わって戻ってきたら、蛙肉が無くなりかけていたので、クジラ肉を50キロほど出す。手頃な大きさの肉片にカットしてから、リザの横の肉置き場に追加してやる。

「リザ~ 蛙焼き3人前追加~?」
「リザ、またまた追加注文なのです!」

 タマとポチが取ってきた注文をリザに告げている。注文を告げるときに、ヒナのように口をパカッと開けてリザに焼肉を要求している。

 リザも心得たもので、戻ってくるポチ達の姿が、人垣の向こうに見えたところで、2切れの小さな肉を小皿に避けて準備しておいたようだ。その肉をトングで掴んで、2人の口に放り込んであげている。

「ほくほく~」
「あちち、なのです!」

 リザは、そんな2人を目を細めて愛でる。一方、手は別の生き物のように素早く皿に肉をとりわけ、ポチとタマに次の配達分を手渡している。乗っている肉が注文より多いのは、ポチたちのつまみ食い用に違いない。皿を受け取ったポチとタマが、楽しそうに注文主のところに駆けて行った。

 先ほどの屋台で貰ったヤキトリを、手が塞がっているリザの口元に差し出して食べさせてやる。リザは、少し恥ずかし気に、啄ばむようにして串から鳥肉を食べていた。

 生クリームが尽きたルル達が店を畳んで、リザたちの加勢にやって来た。

 その後ろには、クレープの最後の1個を確保したらしきアイアリーゼさんの姿がある。頭の傍を飛ぶ羽妖精たちから「アーゼ、一口」「アーゼ、独り占めはずるい」という抗議の声が飛んでいるが、その声に耳を塞ぎ、両手で隠すように包んだクレープをチビチビと齧っている。ミーアもそうだけど生クリームが好きな人だ。一瞬、脳裏に生クリームまみれのアイアリーゼさんが思い浮かんだが、自重してその姿を掻き消す。落ち着けサトゥー。

 アイアリーゼさんを後ろから追い抜いて、駆けて来たアリサとミーアを抱きとめる。ルルとナナは先に奥様ネットワークで発注しておいたお弁当を受け取りに行ってしまった。

「きゃっ」

 後ろから聞こえた短い悲鳴に振り返ると、アイアリーゼさんが、クレープを地面に落としてしまったようだ。何も、そこまで絶望に沈んだ顔をしなくていいと思う。

「うう、最後の1個だったのに」
「あ~あ、し~らな~い」
「独り占めしたからバチがあたったんだよ~」
「アーゼ、残念」

 羽妖精たちの容赦の無い声に、泣きそうになっている。その様子に絆されて、つい、甘やかしてしまった。

「また、明日にでも焼いてあげますから、そんなに落ち込まないで下さい」
「本当? 約束してくれる?」
「はい」

 首を傾げながら見上げてくるハイエルフ様に、優しく頷き返す。
 左手の小指を差し出してくる彼女に応えようと、オレも小指を差し出したのだが、その指が絡むことはなかった。

 左右からアリサとミーアがオレの手を取って、さっさとルル達が仕出し料理を広げたテーブルへと連行されてしまった。

 首だけで振り返ると、寂しそうに小指を見つめるアイアリーゼさんの姿があった。そんな顔をしなくてもクレープを焼く約束を反故にしたりしませんよ。





 この10日後、アリサ達は最後の施設(アトラクション)をクリアし終わり、オレ達はエルフの里を後にする事になる。

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