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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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9-31.害虫駆除作戦(2)

※9/15 誤字修正しました。

 サトゥーです。古典映画祭典という催しで見た昔の映画に、小さくなって人体の中に入って冒険するものがありました。荒唐無稽と言ってしまえばそれだけですが、自分には思いつかない発想に、人の想像力の多様さを感じました。





 虚空での天駆の移動は、速度超過を気にしないと危ない。重力があるとは言っても、空気抵抗がほぼゼロのため魔法での加速無しでも音速の数倍で移動できる。もっとも加速時間を考えると制動をちゃんと考えないと危険だ。上級魔法の「慣性制御イナーシャル・コントロール」や「慣性破棄イナーシャル・キャンセル」が欲しい所だ。

 天駆での移動速度が音速を超えた所で、1つのスキルと2つの称号を手に入れた。

>「閃駆スキルを得た」

>称号「疾き者」を得た。
>称号「天空の覇者」を得た。

 今回手に入れた閃駆スキルは、天駆と縮地をセットにしたようなスキルだった。もっとも、その事を知ったのは、スキルを有効化(アクティベート)した後だ。2つをセットで使うよりは、流れるように移動できるので便利かもしれない。天駆と縮地だと、どうしても直線的な動きになってしまう。猪王クラスの敵が相手だと、先読みされる危険があるので、良かったと思おう。そう、ポイントの無駄遣いじゃ無い。

 己の心を誤魔化しながら、早速、閃駆スキルを使って、折れて落下する世界樹の枝を回収する。

 上空のクラゲ除去隊の仕事は、なかなか順調のようだ。
 このまま何事も無ければいいのだが――しまった――アリサが居たならこう言うだろう。

『それはフラグよ?』

 そんな幻聴が耳を掠めたのと、時を同じくしてオレの危機感知が僅かに反応する。反応する場所は2箇所。オレは、最寄の場所に向かって加速する。

『総員、持ち場を放棄! 全員、展望台に避難しなさい』

 アイアリーゼさんが、範囲遠話(マス・テレフォン)で作戦中のエルフ達に緊急通信を送るのが聞こえた。たしか、致命的な失敗が発生した時の最優先避難命令だ。

 エルフ達が、各々クラゲ達の入った檻を虚空に捨てて展望台へと移動している。足の遅い戦車の所には光船が出向いて搭乗員だけを回収しているようだ。

 さっきまで「睡眠」になっていたクラゲが、ゆっくりとした速度ではあるが次々と、「狂乱」に変わって行っている。

 変化の基点は2箇所。どちらも、先ほど危機感知が反応した方向だ。

『繰り返します、総員、持ち場を放棄! 全員、展望台に避難しなさい』

 アイアリーゼさんの思念が震えている。
 オレが、今向かっている方向に逃げようとしないエルフ達がいるせいだろう。困ったモノだ。「命を大事に」の指令は必須だよね。

『キーヤ、ドーア! ゴーレム戦車なんて放置して早く離脱なさい』

 ああ、あの2人か。ソトリネーヤさんの師匠で、スクラップ寸前のゴーレム戦車を自分の子供のように大切にしていた人達だ。オレもカカシ作成の時に、色々と相談させて貰った。
 あのポンコツ戦車を大切にしていたのは知っているけど、避難命令にはちゃんと従わないとね。

『サ、いえ、ペンドラゴン卿! あなたも早く逃げなさい。自分の強さを過信しないで! 世界樹の攻撃は竜でも焼いてしまうのよ!』

 自分を棚上げしていたところに、的確にアイアリーゼさんからの名指し指令が来た。無理に家名を呼ばなくても。名前でいいのに。むしろ、名前で呼んでください。

 キーヤとドーアの乗る丸っこいゴーレム戦車から見て、数百メートルほど手前の空間に球状の雷が生じる。

 果たして効くか。

「このウドの大木! 枝か根かはっきりしやがれ!」

 遠話(テレフォン)で最寄の枝に思念を叩きつける。
 どうやら、この挑発は効いたようだ。

 球雷から伸びる紫電が生き物のようにオレに向かって伸びてくる。
 もちろん、無策に挑発したわけでは無い。世界樹の攻撃方法が雷撃だというのは、アイアリーゼさんから聞いていたので、新魔法「避雷針(ライトニング・ロッド)」を発動して、雷撃を受け流す。

 中級魔法だけあって、なかなか高性能だ。
 軽く10回くらいは未来に帰れるような特大の稲妻を、「避雷針(ライトニング・ロッド)」が生んだ鈍色(にびいろ)の巨大な金属柱は見事に受け止めきった。

 擱座したゴーレム戦車を外側からチェックする。6本の足のうち片側の3本が動かないようだ。素早く閃駆で傍らに降り立ち、足の動きを阻害していた世界樹の枝の破片を取り除き、無残に破れていた動力チューブをストレージの予備品と交換する。

 インスタントラーメンが出来るほどの間に修理を終え、世界樹からの2撃目に備える。

 今度は、7つの雷撃が来た。
 魔法で捌ききれなかった雷撃を避けたら、後ろにあった太目の枝が炭化して折れた。ヤバいな、下手に回避したら世界樹に被害が出てしまう。

 世界樹の攻撃から世界樹を守るなんて、なにか不毛だ。





 クラゲ達の狂乱の原因が判った。

 数百メートル先の枝に、30匹近いクラゲの幼生が居た。楕円形の風船みたいな姿だ。人間の胴体くらいの大きさの体から、淡い緑色の光を煌々と漏らしている。

 幼生が放つ光の波動に合わせて、直近にいる檻の中のクラゲが明滅している。そういえば「卵を世界樹に植えつける」って言ってたっけ。

 前に盗賊達が騎士を捕まえるのに使っていた網を再利用してクラゲの幼生を捕らえる。「理力の手(マジック・ハンド)」は破片を拾うのに忙しいので、網を使ってみた。そのまま、網に捕らえた幼生を虚空に投げる。

 世界樹の生み出した自衛の稲妻が、情け容赦なくクラゲの幼生を消し炭に変える。もちろん、世界樹が狙ったのは、その延長線上にいたオレの方だ。

 クラゲの「狂乱」が「憤怒」に変わってしまった。
 こんな状態異常もあるのか。

『2人も脱出できたから、はやく戻って! 戻ってこないと迎えに行くわよ!』

 先ほどから、アイアリーゼさんからの懇願するような避難勧告が耳に痛い。
 彼女には悪いが、ここは勝手にさせて貰おう。このままクラゲを放置すると程なく氷の檻が破壊されてしまいそうだ。その後に元の状態に戻るだけならいいのだが、そのまま暴走が始まりそうな予感がする。

『お願いだからぁ、戻ってよぉ』

 ごめんね、アイアリーゼさん。

 オレは、公都で巻物にして貰った「万華鏡(カレイドスコープ)」と「測量光(サーベイ・レーザー)」を連続発動する。

 万華鏡という魔法の名前はアリサが命名した。この魔法は、光の収束率を変えたり、反射したりする複数枚のミラーを生み出す。このミラーは、誘導矢の様に魔法発動後に任意にコントロールできるようにした。

 測量光は、レーザーポインターが作りたくて試作したものだ。もちろん、全力で撃っても殺傷力は皆無だ。長時間照射しても、魔力はほぼ減らないエコ設計だ。

 AR表示でのみ目視できる無害な測量光が、万華鏡で反射、拡散して虚空に光の軌跡を生み出す。

 氷の檻が早くも限界に来たようだ。睡眠薬が完全に抜けていないのかクラゲ達の動きは鈍いが、虚空を這うように触手をこちらに向けて伸ばしてくる。

『もう、サトゥーのばかぁ……ミーアやアリサに言いつけてやるんだから。』

 アイアリーゼさんは、泣き声も可愛いな。
 彼女へのフォローを考えつつも、オレの意識は、測量光に向けられている。

 よし、最後のラインが確定した。

 測量光を消去し、「光線(レーザー)」を放つ。もちろん、大怪魚(くじら)のときのように120本の光線を収束したりはしない。オーバーキルになるからだ。それ以前に、レーザーの過剰出力に万華鏡が壊されてしまうだろう。

 120本の光線は、万華鏡を通り抜けた時に1万本に増える。

 虚空を貫いた無数の光は、クラゲだけを撃ち抜き、世界樹の枝の隙間を抜けて消えていった。

 誤算だったのは、氷の檻だ。レーザーが貫いた場所が蒸発して、変な加速が生まれてしまっている。氷の檻まで消滅させるようなレーザーは論外だ。そんな事をしたら熱い水蒸気が、世界樹の枝を蹂躙していただろう。

 オレは、閃駆で虚空を駆け回り、氷の檻をストレージに回収して回った。氷の檻が激突して、幾本かの太目の枝が折れてしまっていたが、この程度の被害は許して欲しい。

 元々、駆除が依頼なら簡単な話だったんだ。あくまで依頼は、「エルフ達が駆除するための方法」を確立する事だったので、大掛かりになってしまった。今回の失敗を踏まえて、駆除マニュアルに卵の除去も追記しておこう。

 いつの間にかアイアリーゼさんからの遠話が途絶えていたが、今は後始末を優先させる事にした。

 あいかわらず世界樹が撃ち出してくる稲妻を避雷針の魔法で受け流しつつ、もう一箇所のクラゲの幼生を捕獲する。クラゲホイホイの餌にできそうな気もしたが、絵面が極悪なのでやめておいた。稲妻に焼かれて消滅する幼生に黙祷を捧げ、次の作業に移った。





 クラゲ達が産卵していた70箇所ほどのコロニーを完全に破壊する。もちろん、発見方法はマップ検索だ。10日ほど前に最後に虚空を訪れた時には1箇所も無かったのに、いつの間に産卵したのやら。作戦決行前に、もう一度検索しておくんだった。

 枝の中に卵を潜り込ませていたクラゲもいたようで、「透視(スルーアイ)」の魔法で位置を確認しながら「理力の手(マジック・ハンド)」で摘出した。その時に樹皮を破ったのは許して欲しい。決して「樹液ゲットだぜ」なんて考えていない。その時に回収した樹液が「汚染された樹液」というアイテム名になっていた。

 世界樹が、クラゲを自分の一部だと誤認させたのは、クラゲの卵が作り出した毒なのだろう。枝の奥深くにも卵があったので、枝の中に侵入して排除する事にした。枝の中に潜り込んでからは、世界樹からの雷撃が止んだ。雷撃は外敵専用なのだろう。

 世界樹の枝の中は、水の満たされた土管のような空間だ。幹に近付くほどにマナが濃くなってくる。白血球的な自動防衛用らしき抗体との戦いをなるべく戦闘なしで切り抜け、クラゲの卵を排除し尽した。





「サトゥーの反応が消えちゃった」
「それは大変ですね」

 展望室の床にへたり込んだアイアリーゼさんに、そう声をかける。

「もう、何を暢気に! 彼は世界樹を救ってくれたのよ!? どうして、そんな風に言うの!」

 怒った顔も美人ですね。
 珍しく怒気を漲らせたアイアリーゼさんに「ただいま」と告げる。

 キョトンとした表情もなかなか良いです。

 けっこう幹の奥深くまで潜ってしまったので、普通に戻るのが面倒になって、公都で作って貰ったばかりの「帰還転移(リターン)」の魔法で帰ってきた。そのせいで彼女の追跡を振り切ってしまったみたいだ。見られている感じがしていたから「遠見(クレアボヤンス)」あたりの魔法で追いかけていたんだと思う。

「おかえりなさい」

 呆然と呟くアイアリーゼさん。

「おかえりなさい」

 なぜ、2回言う?

「おかえりなさい、サトゥー」

 オレは、首筋に抱きついてきたアイアリーゼさんを抱き締め返す。アリサあたりに見られたら「ギルティ」といわれそうだ。

「ただいま、アーゼ」

 オレは、そう応えて泣きじゃくるハイエルフ様の髪を、愛おし気に撫でた。

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