9-17.エルフたちの日常
※9/15 誤字修正しました。
※9/15 加筆しました。
サトゥーです。ゲーム作成でも、構造を理解せずに外見だけ真似て失敗する事はよくあります。仕組みを理解してこそ、応用や発展へと繋がると思うのです。
でも、稀に理解を飛び越えて新しい発想をする人もいます。天才っているんですよね~
◇
「「「ヘイ・ボーイ、来訪者だじぇ」」」
突然、食堂の壁に掛けられた複数の仮面が同時に喋りだした。
完全に不意を突かれたのか五目並べの石を置こうと身を乗り出していたタマの尻尾が膨らんでいる。ポチも椅子から落ちそうになっていたが、横に座っていたリザが支えてやって事なきを得たようだ。
この仮面はインターフォンのようなものらしい。昨日までは動いていなかったから、昨夜の来客の内の誰かが起動していったのだろう。タマと話していた悪戯好きのレプラコーンかもしれない。
壁に掛かった鏡がモニタのように来訪者の姿を映すかと思ったが、そこまでの機能は無いようだ。
オレが立ち上がると仮面の声が止んだ。
「わたしが見てきます」
ルルがパタパタと階下にお客を迎えに走っていった。
オレ達が滞在しているのは、初日に訪れた樹木の中にある家だ。ミーア一家は、地下の実家への滞在を勧めてくれたのだが、久々の親子の再会や団欒を邪魔したくなかったのでこちらに滞在する事にした。
エルフの里に着いてから、既に5日経っている。
ミーアを送り届ける目的は果たしたので、長居する必要も無いのだが、せっかくなのでエルフの里を見学したいと申し出たらアッサリと許可が下りた。むしろ、「何言ってるの? 当然、しばらく滞在するよね?」みたいなリアクションが返ってきた。エルフと人族の時間感覚は予想以上に違うみたいで、「しばらく」というのは年単位を指すようだ。
長居しても半月くらいのつもりだったんだが、あまり早いと失礼にならないか心配だ。
「ご主人様、ネーアさんたちが、昨日仰っていた料理を持ってきてくださいましたよ」
ネーアさんというのは、500歳くらいのエルフのご夫人だ。料理が趣味だそうで、勇者ダイサクが言い残した料理を再現するのがライフワークらしい。なんでも、勇者ダイサクは、料理ができなかったので口頭で雰囲気だけを伝えたらしく、上手く再現できなかったと言っていた。
今日はネーア式ハンバーグをご馳走になる事になっていた。
勇者が言い残したのは「ひき肉を捏ねて焼いた料理」という情報だけだったらしい。
ドヤ顔のネーアさんが、テーブルの上に並べたのは5皿だ。
ミートボールっぽい小玉、ペースト状にした肉を焼いたモノ、麺状にした後にそれを編んで小判サイズの塊にしてから網焼きにしたモノ、塊肉にしか見えないモノ、そして最後に見た目はハンバーグそのものが載った皿が並べられている。
「コレ以外は、どう見てもハンバーグじゃないけど、文句無く美味しいわ」
「うん、確かに。特にこのネーア式2型のペースト状のヤツと3型の編み麺が美味いな」
ハンバーグではないが、地球では見かけない料理だ。創作料理の店なんかに並んでそうな感じの料理かな。
ネーア式ハンバーグがハンバーグっぽくないのは、肉だけで作ろうとしているせいだ。ネーアさんは「牛肉100%です」と言っていたので、勇者ダイサクの伝え方に問題があったようだ。
肉だけで作るとパサパサになりやすいのだが、その辺は数百年の試行錯誤でなんとかしたらしい。気長だよな。尋ねたら、派生料理はかなりの種類が作られたそうだ。今度、いくつか伝授してもらおう。
オレとアリサが試食した後に、ハンバーグ評論家のポチとタマにも食べてもらった。
「にゅ~? ハンバーグ違う~」
「ハンバーグは、もっと柔らかくて弾力があって食べるとじゅわっとなるのです! こう、ぱくっと食べると幸せなのです」
ネーアさんの前で腕をふりふり熱く語るポチの手からフォークを奪う。危ないからね。
リザは、それぞれ一口ずつ食べてうんうんと頷いている。目じりが緩んでいるので、満足の行く味だったようだ。
ナナも興味深そうに口に運んでいる。コメントは「美味です」と言葉少なだったが、世辞ではないだろう。
そこにルルが焼きたてのハンバーグを運んできた。
ハンバーグは、ファミレスにあるような皿――木の皿の上に、熱々の黒い金属の皿が載っているタイプのヤツだ――に盛ってある。公都に滞在中に、アリサのリクエストで作ったヤツだ。
ネーアさんが、感無量と言った感じで香りを楽しみ、目に焼き付けるようにハンバーグの詳細を確認している。はやく食べなよ。
「頂きます」
ナイフとフォークで一口分に切って小さな口に運ぶ。
ポチとタマが涎を垂らしながら、そのフォークの動きを目で追っている。君ら、2時間ほど前に朝食食べたところだよね。チラリとリザの横顔を見たが、少し口が開いているだけで涎は垂れていなかった。視線に関しては不問にしよう。
え~っと、泣きながら食べるのは止めてほしいです。
ネーアさんは、滂沱の涙を流しながら食べている。彼女にとっては幻の料理だから仕方ないのかもしれない。彼女の腕なら、一度食べたらすぐにでも再現してしまいそうだ。
落ち着いて味わえるようにポチとタマを小脇に抱えて台所に向かった。
折角なので、和風ハンバーグや煮込みハンバーグ、トマトバーガーなんかも作って持っていってあげよう。もちろん、欠食児童達の分も忘れずに。
◇
戻った食堂には客が増えていた。
「ちょっとアーゼ様、一口って言っていつまで食べているんですか」
「だって、美味しいんだもん」
「だもん、じゃありません」
ネーアさんの横には、ハイエルフのアイアリーゼさんが、ハンバーグを食べながら巫女のルーアさんに怒られていた。本当に、この人は子供みたいだ。
あの初対面の翌日の午後に、ルーアさんに手を引かれてやってきたアイアリーゼさんに、悪ふざけを詫びられた。正直、まったく気にしていなかったので、素直に謝罪を受け入れた。こちらもアリサの事を詫びておく。
この2人はいいのだが、実は、午前のうちにあの場にいたエルフの長老の一人が代表して詫びにきていた。正直、深刻な口調で謝られても困ってしまうので、その時も軽めの口調で気にしていない旨を伝えてある。ちなみに、エルフの里の見学の許可は、彼が出してくれた。
「いらっしゃい、アイアリーゼ様、ルーアさん。ネーアさん、こちらのハンバーグも味見してください」
2人に挨拶してから、ネーアさんに料理の皿を差し出す。
リザとルルに頼んで、食堂に用意した予備の皿をこちらに運んでもらった。
せっかくなので、アイアリーゼさんとルーアさんにも、料理を勧める。いつも食事時になると羽妖精達やヒマなエルフ達がご相伴に与りに来るため、余分に作ってあるので問題ない。
この羽妖精達はエルフ語しか話せないので、オレやエルフ達が通訳していたのだが、気を利かせたルーアさんが、どこからともなく持ってきた翻訳指輪で解決した。なんて、ファンタジーっぽい装備だ。竜の谷の戦利品にも無いレアな品なのに、ルーアさんは1人1個ずつ翻訳指輪を無期限貸与してくれた。昔、翻訳指輪を作ることに情熱を傾けたエルフが居たらしく、ボルエナンではそれほど珍しい品ではないそうだ。
3人が食べている間にも、匂いに釣られた羽妖精達が集まってくる。そして、その羽妖精を見てエルフ達が集まるといった、ここ数日で見慣れたパターンが再現される。
どうやら「勇者の言い残したハンバーグの再現」という言葉のインパクトが強かったのか、いつも以上に集まりが良くて、何度かルルと厨房で補充分を用意する羽目になった。
オレやルルは、ハンバーグを食べに来たエルフ達が持ってきた手土産の小鉢や果物を食べながら、食堂で争うような勢いで食事を楽しむ人々を眺める。肉の在庫は結構消費したが、クジラ肉を除いても、かなりあるので当分は大丈夫だろう。
おまけに、エルフ達が材料にと提供してくれた牛や山羊が何頭かいる。貰った家畜は、馬達と一緒に、樹木の根のあたりにある広大な洞で飼っている。世話は、エルフ達が派遣してくれた動く人形に任せっきりだ。
もちろん、両親と一緒にミーアも来ていた。豆腐ハンバーグが御所望だったので、大豆だけでなく、脂分を排除した肉を3割ほど混ぜてハンバーグにしてみた。試食した感じでは、肉肉しい感じはしなかったのでミーアに出してみたら問題なく食べていた。
ミーアへの告知は、もう少し肉の割合を増やしてからにしよう。
◇
ルルの入れてくれた緑茶を飲みながら、ネーアさんとハンバーグのレシピの情報交換をする。普段は単語会話のネーアさんだが、調理方法や素材に関しては饒舌だった。基本的なレシピ自体は紙に書き出して先に渡してある。
視界の端のアイアリーゼさんが、巫女ルーアにせっつかれている。
何か用事があるようだ。
オレは、ネーアさんの相手をルルとアリサに任せて、別室に2人を誘った。
「もうしわけありません、気を使わせてしまったようで……」
恐縮するルーアさんを宥めて、2人に椅子を勧める。
アイアリーゼさんは、人見知りなのかモジモジするばかりで喋らないので、ルーアさんとの会話が主体になる。その事に焦れたルーアさんが、アイアリーゼさんをせっつき始めた。
「ほら、アーゼ様っ」
「えーと、そう、アレよ」
オレではなくルーアさんに向かって話していたアイアリーゼさんだが、ルーアさんにグイッとばかりに首をオレの方に捻られてきた。ちょっと、気持ちはわかるけど、首を痛めるよ?
オレと目が合ったアイアリーゼさんが、テンパって叫ぶように極端な緩急をつけて爆弾発言をした。
「黒竜と仲、いいんですね! 今日は勇者クロじゃないんですか!」
「ちょっと、アーゼさま」
ルーアさんが焦ってアイアリーゼさんを落ち着かせている。
「あの、何の事でしょうか?」
「申し訳ありません。私の方から、お話しさせていただきます」
トボけておいたが、オレが勇者クロだというのは、例の精霊光でバレバレだったそうだ。ルーアさんの記憶でも個人が出す精霊光としては破格らしく、「同時期に2人いるなんてありえません」と苦笑気味に断言された。
オレが黒竜ヘイロンと暴れていた後半部分と、宴会の模様をルーアさんの使い魔が遠方から眺めていたそうだ。あの時は、確かに沢山の怯える視線を感じていたので、その中に紛れていたのだろう。
オレの名前や称号が、その時と違うのは術理魔法の「偽装情報」やその上位呪文で隠していると思っていそうだ。
「ここからが本題なのですが――」
普通なら、「黙っていてやるから何々しろ」みたいに要求されると身構えるところなんだが、どうも、ここのエルフ達をみているとそんな言葉が予想できない。何かしてほしかったら、交換条件ではなく普通に頼んでくるタイプばかりだ。
「わたしが! 教えてあげます!」
拳を握り締めたアイアリーゼさんが立ち上がって宣言する。何を教えてくれるか判らないので、彼女の次の言葉を待つ。
見つめられるのが恥ずかしかったのか、真っ赤になってしゃがみ込んでしまった。微妙に面倒なタイプだよね。
「だから、その、精霊光を抑える方法とかっ! 精霊達を集めないようにする方法とかっ」
ルーアさんの背後に隠れるようにして言葉を継ぐ。
なんていうか小柄なルーアさんに隠れると、中学生の背後に隠れる気弱な先生みたいだ。
こうして、オレは非常に頼りないアイアリーゼ先生の教えを請う事になった。
すみません、PCトラブルで今朝の配信登録ができませんでした。
※9/15 翻訳指輪について加筆しました。





