表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/735

9-16.ハイエルフ

※8/25 誤字修正しました。



 サトゥーです。残念美人という言葉がありますが、完璧な美女よりは好意を感じます。もっとも、元の世界ではテレビやネットの向こうにしかいませんでしたけどね。





 ミーア父に連れていかれたエルフの長老議会の会場は、ボルエナンの森の奥、世界樹の区画に存在した。


 ここへは、地上の街から地下街に行った時の様な「妖精の環(フェアリーリング)」による転移でやってきた。ミーア父が寡黙すぎて判らないが、たぶん転移でのみ進入できる区画なのだろう。


 もちろん、この区画に入った時に「全マップ探査」をしておいたのだが、違うブロックになっているのか、世界樹の一定より上の階層と、最下層がマップに掲載されなかった。案外、「全マップ探査」に抵抗するシステムでもあるのかもしれない。


 判った範囲でいうと、この世界樹の区画は、地下5キロ近い深さがある。地殻の厚さは覚えていないが、かなり深いんじゃないだろうか? あくまで建造物のある区画の広さで、世界樹の根はもっと深く伸び、横にはボルエナンの森全体より広く伸びているようだ。昨日、ミーアの家があった場所は、世界樹区画から10キロほど離れた場所のようだ。結構近く感じたのは、世界樹が異様に大きいために錯覚したからだろう。


 それはさておき、この世界樹区画には、沢山のエルフがいる。

 なんと地上の10倍、数万人のエルフがいた。ただし、彼らは、ほとんど全て「睡眠」状態のようだ。地上のエルフとの違いは比較的高レベルな事と、高齢な事だ。一部、千歳前後の若いエルフもいるようだが、ほとんどは1万歳を越えるエルフばかりだ。しかし、長命な割りに50レベルを超えるエルフはいない。


 眠るエルフ達が、どういう状態なのかミーア父に聞いてみたいが、「なぜ知ってる」とか突っ込まれそうなので、聞くに聞けない。


 さて、待望のハイエルフだが、8人しかいない。しかも、そのうち7人は他のエルフ達同様に「睡眠」中のようだ。ハイエルフたちも50~70レベルの範囲で納まっている。エルフどころでは無いくらい長寿なのに不思議だ。


 そして、唯一起きているハイエルフが、この先の長老議会の奥の部屋にいる。


 そんな風に世界樹区画のチェックをしている間に、目的地に着いたようだ。

 さっきまで乗っていた浮遊板が地面に吸い込まれるようにして消えていく。目の前の扉は、一辺3メートルの八角形の木目調の扉だ。ここまでの廊下が樹脂製だったのに、ここだけ種類が違うようだ。

 ミーア父が一歩踏み出すと自動ドアの様に開く。左右に2つに割れて開いたのだが、そのすぐ奥側にもう1枚扉が重なっており、そちらは上下に2つに割れて開いていく。

 その先は、20メートルほどの直線通路で、行き止まりには先ほどと同じ構造の扉があった。まるでエアロックみたいだ。


「サトゥー」


 しまった、自動ドアの構造が気になって見入ってしまった。

 先に室内に入っていたミーア父に呼ばれて、早足でそちらに向かう。





「シガ王国のサトゥー。貴殿の助力に感謝する」

「シガ王国のサトゥー。邪悪な魔術士の手から幼子を救ってくれた恩を我等は忘れない」

「シガ王国のサトゥー。はるか遠方より幼子を連れ帰ってくれた事に我等は報いたい」

「シガ王国のサトゥー。よくぞ――」


 ここは、千人以上の人が入れるような広々とした講堂だった。

 そこには長老議会のお歴々が、20人ほど、その最前列に腰掛けていた。


 そして、一人一人がミーアを連れ帰った事に対してお礼を言ってくれているんだが、どうしてみんな「シガ王国のサトゥー」って最初に付けるんだろう。そういう言い回しで言うのが決まりなんだろうか。オレがエルフ語を話せるのが伝わっていたのか、彼らはエルフ語を話している。


 この長老さんたち、見た目はミーア父とほぼ同じ若さだ。


 ただ、目が違う。


 なんというか、年経た老亀の瞳というか、落ち着きというよりは無感動に近い静寂を感じる瞳だ。あまり見られているとウトウトしそうなくらい安定した不動の瞳をしている。さすがに数千年も生きている人達だけはある。仲良くなって昔話とかを色々聞いてみたいな。


 しかし、黒竜ヘイロンの方が遥かに年上なのに、このエルフの長老達より、よっぽど若く感じる。これは種族差なのか、個人差なのか気になるところだ。


 そして、全員がお礼を言い終わるのを待っていたかのようなタイミングで、部屋の奥の緞帳が上がり、部屋一つ分くらいあるような光る板に乗った人々が出てきた。


 その板にはお待ち兼ねのハイエルフさんを中心に、その四方を守るように4人のエルフの巫女さんが立っている。

 この4人の巫女さんたちは、公都のセーラ達の様な洋風の巫女さんでは無く、「和風」の衣装を着ている。それも神楽舞を舞うときのような装飾過多な巫女服だ。やっぱり巫女なら白小袖に緋袴だよね。


 残念ながらハイエルフさんの姿はまだ見えない。

 4方に立つ巫女エルフさんのすぐ内側に御簾が浮かんでいるからだ。そう、浮かんでいる。支柱も無いし巫女さんたちが支えているわけでもない。たぶん、魔法だろう。


 ハイエルフさん達を乗せた光る板が、長老さん達の間を通り抜け、オレの前で停止した。


「「「「静粛に~」」」」


 巫女さん達の持つ錫杖が、声に合わせてシャリンと鳴らされる。

 誰も喋ってないが、つっこむのは野暮というものだろう。


「「「「聖樹様よりのお言葉です」」」」


 ハイエルフさんは、聖樹様って呼ばれているのか。本名はアイアリーゼって言うみたいだから、聖樹様っていうのは役職の略称か2つ名とかだろう。AR表示では、称号は「無垢なる乙女」、職種は「世界樹:地の管理者」となっている。


 彼女を隠していた御簾がするりと開いて、ハイエルフさんが姿を現した。


 また、幼女か。


 御簾の向こうにいたのは、アリサよりも年下、5~8歳くらいの幼女だ。顔立ちはミーアに近いが、銀髪に赤い瞳をしているので、緑髪緑瞳のエルフ達とは少し違うようだ。興味本位で、年齢を確認するんじゃなかった。年齢で億という単位をはじめて見た。桁数を数えている最中に眩暈がしたよ。


 しかし、見た目が、幼女か。


「シガ王国のサトゥー。よくぞ無事にミサナリーアをボルエナンの森まで送り届けてくれた、のじゃ」


 ん?


「わっち? は、とても感謝しています、のじゃ」


 何だろう、この違和感のある喋り方は。

 途中までは、流暢に話しているのに、自分の一人称や語尾のあたりで詰まったり、棒読みになったりしている。流暢な時は落ち着きのあるしっとりとした声なのに、詰まる時は、変にアニメ声っぽく変調した声になっている。声優じゃ無い人が声優の真似をしているような感じだ。


 長老さんたちは、そんなハイエルフさんの姿を見ても、相変わらず不動だ。だけど、四方の巫女さんたちは顔を伏せて表情を窺えないものの、肩が震えている。


「どうかしたの、かや?」


 小首を傾げる幼女。


 前にムーノ市でポチ人族フォームとやらの幻影を見破った時から気がついていたんだが、どうやら、オレには幻術の類は効かないようだ。


 目の前に立つ幼女に重なって、座り込んだ20代の女性の姿が見える。少し淡い色の金髪に碧眼、薄い唇と高すぎない鼻梁、ルルほどではないにせよ、文句無く美人だ。白小袖と千早のせいで体型が見分けにくいが、胸もCカップくらいはありそうだ。座っているので背丈は判らないが、オレと同程度くらいかな。


 いい、実に良い!

 やはり、異世界には、こう言う美女との出会いが足りてないと思うんだ。ああ、ボルエナンの森を訪問して良かった。


「褒美は、何が良いでしょう――良いのじゃ?」


 幻影の幼女は自信満々の偉そうな顔だが、本体の彼女は、少し顔が赤い。

 彼女が率先して茶番をしたいわけではなさそうだ。困ったような気弱そうな表情に少し魅かれる。


「では、シガ王国のサトゥー。褒美として口付けを授ける、のじゃ」


 しまった、前後の話をちゃんと聞いていなかった。

 手を広げた幼女が、タコの様に唇を突き出している幻影が見える。本体の美女の方は恥ずかしいのか、目を伏せている。


 幼女にキスをしろといわれたら、即座に遠慮するのだが、こんな美女相手ならOKしないわけが無い。


 ミーアも、けっこう気軽にキスをしようとしていたから、きっと欧米の人みたいに挨拶代わりなんだろう。


 オレは地面を滑るように一瞬で歩み寄ると、自然な動作で本体の美女の頬に手を添えて軽いキスを交わす。本当なら、唇にキスしたかったが、仮にもエルフの里の代表だ、そこは自重した。

 ミーアを助け出した時にしてくれたのが、額へのキスだったのでオレもそれに倣って、ハイエルフさんの額にキスをした。


 反応が無いので視線を落とすと、ハイエルフさんは、ユデダコのように真っ赤になって目を回している。やけに脱力していると思ったら気絶していたようだ。


 ひょっとして、マズかったか?





「ルーア、水を頂戴」


 透明の光る寝台で寝かされていた美人さんこと、ハイエルフのアイアリーゼさんが、寝ぼけ眼で起き上がった。


 オレと一緒にアイアリーゼさんの目覚めを待っていた巫女のルーアさんが、水差しから注いだ水を彼女に手渡してあげている。水を入れたコップは、ガラスみたいな質感だが、持った感触はプラスチックに近い不思議な素材だった。AR表示では、アルアのゴブレットと表示されている。アルアが素材名なのだろう。


「うう、絶対、ダイサクの話が間違っていたのよ。ハイエルフは銀髪で幼女姿で語尾が『のじゃ』だっていうから」

「アーゼさま」


 ルーアさんが、オレの存在をアイアリーゼさんに伝えようとしているが、彼女は自分がまくし立てるのに必死で、まるで気がついていない。

 ダイサクさんとやらが、例の街を作った400年前の勇者さんかな?


「分かってるわよ、故人に愚痴を言ってはダメだって言うんでしょう?」

「アーゼさま」


 アイアリーゼさんは、ミーアのように頬を膨らませて拗ねている。

 ちょっと可愛いな。


「もう、少しくらいいいじゃない。絶対、変な女だと思われたわ。ミーアを連れ帰ってくれた恩人なのに、エルフの里の印象が最低になっちゃったんじゃないかしら」

「アーゼさま」


 それは、仕方ない。だって、変だもの。


「昨日は、ミーアに『オカエリ』って言いに行ったのに上の街に居ないし。そうよ、あのアリサっていう子も、『ハイエルフは銀髪幼女が基本だ』とか『ご主人さまは幼女がキスを求めたら必ず断る』って言ってたのに、全然違うし」

「アーゼさま」


 そうか、アリサも一枚噛んでいたか。


「もう、これだからニホンジンは油断ならないのよ。昔から人をオモチャにして」

「アーゼさま」


 歴代の日本人に何人か会った事があるんだろうけど、アリサみたいなのにばかり出会っていたのかな? オレみたいに普通なのもいるのに、不運な人だ。

 しかし、アリサが日本人って判ったのか? やはり紫色の髪のせいで気がついたのだろう。金髪のカツラを被らせておくんだった。


「もう、ルーアったら、何よ」


 ルーアさんが小さく指差す方には、オレがいる。

 本来なら女性の部屋に、男が入るなんて問題だと思うんだが、ルーアさんが構わないからと連れてきた。どうも、このエルフの里の上下関係がわからない。王政ではなく議会制民主主義って感じかな。いや、むしろ大家族という感じだろう。


 アイアリーゼさんが、油をさしていないブリキ人形の様にギギギと首を巡らせる。


 目が合った。


 あうあうと、うろたえるアイアリーゼさん。

 残念な人だが、ここは助け舟をだそう。アリサも悪いみたいだしね。


「ルーアさんから伺いましたが、朝から熱を出して臥せっていたそうですね。私の為に無理をさせてしまったようで、申し訳ありません」

「そうですよ、アイアリーゼ様。まだ熱は下がっていないのですから、今日のところは無理せずにお休みくださいませ」


 ルーアさんに、素早くアイコンタクトをする。

 彼女もオレがでっち上げた、「変な言動は高熱で朦朧としていたせい」という作り話に素早く乗っかってくれた。


 アイアリーゼさんが落ち着いた頃にもう一度伺う約束をルーアさんと交わして、その日はお(いとま)する事にした。ルーアさんによると、何か相談事があるそうだ。厄介事の予感がするが、聞くだけなら別にいいだろう。


 ミーアの家に帰って、なぜか「正座」と言われた。

 密告犯は、ミーア父ではないようだ。アリサやミーアの後ろで、3人の巫女さんが楽しそうに笑って焼き菓子を食べている。今度、激辛クッキーを差し入れしてやろう。



 ポチ成分やタマ成分が不足している……。


 ハイエルフさんが「ニッポンジン」ではなく「ニホンジン」と言っているのは誤字ではありません。


※感想の返信について

 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」32巻が3/10発売予定!
  著者:愛七ひろ
レーベル:カドカワBOOKS
 発売日:2025/3/10
ISBN:9784040758534



漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」18巻が発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2024年12月9日
ISBN:978-4040757025



― 新着の感想 ―
[一言] オレみたいに普通なのもいるのに、不運な人だ。 ゑっ!? よりにもよって、額に接吻!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ