表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/735

9-15.ボルエナンの秘密

※8/25 誤字修正しました。



 サトゥーです。初めてサセボのホームテンボスに行った時は、その異国情緒あふれるテーマパークに驚いたものです。昼間にオランダの民族衣装を着ていたお姉さんたちが、夜中の居酒屋でTシャツにGパン姿なのを見かけた時は、少しショックでした。





 どこまで行くつもりなんだ?


「この先」


 エルフ達の自然に溶け込んだ町並みを眺めながら、ミーアの後ろを付いていく。


「こっち」


 ミーアが手招きしているのは、色とりどりのキノコを丸く輪を描くように植えてある広場だ。輪は同心円で二重になっている。

 AR表示には「妖精の環(フェアリーリング)」と表示されている。


「これは何だい?」

「環」


 何かの儀式をする場所なのかな? 婚姻とかじゃない事を祈ろう。


転移(リロケート)


 ミーアの合図で2つのキノコの輪が交互に点滅する。どこに転移するのかわからないが、ミーアのする事だから悪い事じゃないだろう。

 光の点滅速度が上がるほどに地面から噴出す光が強くなる。交互点滅が終わった時、転移が発動した。


 次の瞬間、オレ達は、平屋の家が規則正しく建つ町並みを見下ろす丘の上にいた。

 上を見上げると、木の枝のようなものに支えられた透明な天蓋がある。町全体を覆うようなサイズだ。


 地下なのか?


「本当の街」


 ミーアに手を引かれるままに、少し離れた場所にある路面電車のホームのような場所に行く。その駅のような場所には、術理魔法の自走する板フローティング・ボードの様な板が浮かんでいた。板は透明だが、色が付いているから術理魔法のとは少し違うみたいだ。

 オレ達がホームに着くのに少し遅れて、板に乗った青年が到着した。見た目は少年なんだが、似合わないヒゲを生やしているので青年としてみた。む、昔のトラウマが――似合わなくたっていいじゃないか。


「おかえり、ミーア。もう連れてきちゃったのかい? やあ、ボクはツトレイーヤ。ツーヤと呼んでほしい。ボクも100年ほど前までは人族の国に留学していたんだ」


 その青年が、オレに気さくに話しかけてくる。

 彼が言うには、先ほどまでオレ達がいたのは、来客用に演出された「いかにも」エルフらしい街として建造されたモノなのだそうだ。


 来客用の演出と言っても悪意ある詐欺のためのものではなく、あくまで客を歓迎しもてなす為のモノらしい。なんでも、400年ほど前に、戦いに疲れ、この地で余生を送ったサガ勇者が主導して作ったという話だ。


 青年の話が長いのにムクレたミーアが手を引っ張るので、青年に再会を約束してその場は失礼させてもらった。


 ホームらしき場所に浮かぶ板に、ミーアが器用に飛び乗る。板は、少し沈んだ後、元の高さに復元した。彼女の勧めるままに横にあった同じ板に飛び乗る。彼女の告げる番地のような番号を受けて、板が走り出す。オレの乗る板は何も言っていないのに、その後をついていく。


 家々は、どれも200坪ほどの敷地に、白い樹脂のような素材を外壁に使ったスレート葺きの屋根の家だ。もっとも壁には蔦が覆っているので、外壁の色が見えている場所はわずかだ。家を区切るのは(へい)ではなく生垣や花壇だ。どちらかというと花壇が優勢みたいだ。


 しかし、誰もいないな。

 みんな、上の町で宴会に参加中なのだろうか?


 板は、オレ達を乗せて時速20キロほどの速さで、街を滑るように飛んでいく。道路はアスファルトというかハードコートのテニス場の地面みたいというか、茶色の細かいビーズのような小石を固めたような感じの素材でできている。

 ミーアに聞いてみたが、興味がなかったのか、「知らない」と言われてしまった。物知りっぽかったし、ツーヤ青年に再会したときに尋ねてみよう。


 そして、一軒の家の前で、緩やかに板が止まる。板は、静かに地面に降下し、そのまま地面に吸い込まれるようにして消えた。





 ミーアに案内されて来た家は、ファンタジーというよりは近代建築の方が近い印象を受ける。

 何がそうさせるのかは、すぐに判った。


 窓だ。


 こちらの世界の窓は比較的小さな窓が多く、どれも木板で作られた換気や採光のために作られた穴だった。


 だが、目の前のミーアの家は、透明度の高い大きなガラス窓やガラス戸が使われている。公都の屋敷の中にはオークガラスを使うものもあったが、ここまでタップリ使っていなかったし、大抵は嵌め殺しになっていた。ここのは、レールのある窓枠に嵌っているので、現代建築の家のようにスライド式に開閉するのだろう。


 ミーアが入り口のドアに触れると、圧搾空気の漏れるような音がして、自動的にドアが開く。彼女に手を引かれて中に入ると、後ろで自動的にドアが閉まった。なかなかSFちっくだ。どうせなら、エアロックみたいに二重扉だったら面白かったのに。


 廊下の天井は透けていて、天蓋の向こうの太陽が差し込んでいる。

 だが、2つの硝子を透過しているせいか、その光は柔らかい。


 ミーアに手を引かれるままに廊下を歩む。

 さすがに廊下まで魔法の仕組みがあるわけではないようだ。


「ここ」


 ここはミーアの部屋らしい。

 ベッドが1つに机が1つ。ベッドの傍らにある作り付けの棚には、ペンギンのようなデフォルメされた鳥のヌイグルミが並んでいる。全体的に、淡いピンクの色調の部屋だ。観葉植物のようなものは無い。


 これは部屋を見せたかったって事かな。

 なんていうか、現代の女子中学生みたいな部屋だ。


「見ちゃダメ」


 ミーアがウォークイン・クローゼットのような衣裳部屋に入っていった。

 言われなくても覗いたりしないよ。


 黙って出てきてしまったので、「遠話(テレフォン)」の魔法を使ってアリサに連絡を取る。


「ふぁい、こひらアリサちゃんれすよ~」

「すまない、間違えた」


 明らかに酔いを感じるアリサの言葉に、そっと「遠話(テレフォン)」の魔法を解除する。今度はリザに向けて「遠話(テレフォン)」を発動するが、返答はなかった。寝ているようだ。最後にミーア母に繋いで、家にお邪魔している事を伝えておいた。


 その日は、夜半過ぎまでミーアのファッションショーに付き合う事になった。いかにもな緑の三角帽付きのエルフの民族衣装や、ワンピースのような服、七分丈のパンツに短めのスカートを合わせたような衣装など、思ったよりも豊富なバリエーションだった。


 そのまま疲れて眠くなってしまった彼女をベッドに寝かせ、オレもその横で添い寝して眠ってしまった。


 言い訳させてもらうと、昨晩は黒竜との対決や徹夜の飲み会で疲れていたんだ。


 オレは夢も見ない泥のような眠りに、落ちた。





「ギルティ オア ノットギルティ!」

「ぎるて~」

「ぎるてぃ、なのです!」

「ご主人さま、ぎるてぃです」


 目が覚めた先には、眦を吊り上げたアリサに、ベッドに楽しそうにダイブしたポチとタマ、それから泣きそうな顔のルルの姿があった。ナナとリザも一緒だったが、2人は沈黙を守っている。いや、ナナが進み出て、アリサの肩に手を置いた。


「アリサ。小官はマスターを擁護します」


 おお、弁護人が現れた。

 いや、元から無罪なんだが。


「なによ、ナナは浮気を容認するの?」

「アリサ、よく聴いてください」

「言ってみなさいよぉ」


 冷静に詰め寄るナナに、少し引くアリサ。

 なんだろう、ナナが余計な事を言う気がして仕方ない。


「マスターとミーアは、種族が違います。交配を試みても子孫は生まれません。従って、浮気はありえません」


 久々に見たナナのドヤ顔だが、予想通り、的外れな擁護だった。しかし、言外にオレがミーアと間違いを犯したと言っていないか?


「ミーア!」


 うわ、ミーア父が来てしまった。


「あらあら、仲がいいのね」

「ん、相思相愛」


 だから、恋愛感情は無いってば。

 ミーア母は分かっていて楽しんでいるようだが、ミーア父は誤解したままだ。


 ミーア父の誤解は、ミーア母が加勢してくれるまで解けなかった。いや、誤解が解けたというよりは、ミーア母のマシンガントークに溺れて有耶無耶になっただけという気もする。


 ミーア母は、たっぷり喋った後に、本題に入った。

 用事があったのなら、もっと早く切り出してください。


「さて、サトゥーさん、ミーアとの事は追々聞かせてもらうという事で、今日は、長老会の方へ顔をだしてくださらないかしら?」


 噂のハイエルフに会えるかもしれないからな。

 エルフ達を見る限り、ダイナマイトボディーは期待できそうにないけれど、普通じゃ会えないはずだから、ちょっと楽しみだ。



 


※感想の返信について

 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」33巻が8/8発売予定!
  著者:愛七ひろ
レーベル:カドカワBOOKS
 発売日:2025/8/8
ISBN:9784040760513



漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」18巻が発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2024年12月9日
ISBN:978-4040757025



― 新着の感想 ―
[一言] サトゥーの正体的に種族の壁に関係なく子供出来そうなんだよなぁ ミコ的な感じで
[一言] 時速20kmというとマラソン選手くらいですね。原付や普通免許を取る前は速く、取った後は遅く感じます。生身でその速度を維持出来るのが凄いのですが。高校生で参加した100kmハイク(県下)、20…
[一言] いよいよ、である。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ