9-14.ミーアの秘密
※各種アレルギーがお嫌いな方はご注意を!
※8/25 誤字修正しました。
※8/25 一部加筆修正しました。
サトゥーです。食品アレルギーがマイナーな時代は、食べられるものを探すのが大変だったそうです。もっと昔は、好き嫌いが多い人間扱いをされる事もあったのでしょう。
異世界でも、食品アレルギーはあるのでしょうか……。
◇
「甘瓜~?」
「いっぱい生えてるのです!」
「ポチ、タマ。エルフさん達が育てているものだから、勝手に取っちゃだめだよ」
それは、ミーアの家がある樹の周りに作られた螺旋階段を登っている最中の事だ。途中に生えている甘瓜や紅蜜柑を見て、ポチとタマがはしゃいでいる。
「ん」
ミーアがそのうちの一つをもぎ取って、ナイフで2つに割ったものを、ポチとタマに差し出してやっている。
「お腹が減ったら好きにもいで食べていいのよ? 遠慮なんていらないわ――」
なるほど、誰かが育てているというよりは、街路樹の銀杏みたいなものなのかもしれない。
そう思ったのだが、樹木の外側の階段だけじゃなく、内側に作られた家の中まで果物や花が生えていた。日光が差し込まないと思うんだが、よく育つものだ。
天井の高い、大きな居間に案内される。
もみくちゃにされるミーアを置き去りに、オレ達はミーアの両親に案内されて、木の切り株のようなテーブルの所に行く。
ミーア父が「椅子」と声をかけると、足元の蔦が持ち上がって椅子になった。なかなかファンタジーしている。
ミーア父が指を鳴らすと羽妖精たちが、人数分のゴブレットを持ってきてテーブルに並べてくれる。
もう一度、ミーア父が指を鳴らすと、今度は上から降りてきたウツボカズラのような植物が、ゴブレットに甘い香りのする透明な液体を注いでくれる。
飲んで大丈夫か?
だが、ポチとタマは躊躇う事無く口を付けて称賛の声を上げている。そうか、美味しいのか。
オレ達は目の前で繰り広げられるファンタジーな光景に目を奪われ、危険人物の監視が疎かになっていたようだ。
小さな抗議の声で、オレ達はその事に気付く。
『ハナセ』
『オイコラ、ハナセヨー』
『タしケテ、ラーヤ、タしケテ』
振り向くとナナに捕まった3人の羽妖精たちが、泣きそうな顔でミーア父に助けを乞うている。ナナの両手に1人ずつ掴まれ、最後の一匹はけしからん事に、ナナの胸元に押し込まれている。オレと代われ。
ミーア父もナナの胸の谷間で暴れる羽妖精を見るばかりで助け舟をださない。なんとなくミーア父と目があったので頷きあう。
あいた。
後ろからアリサに頭を叩かれてしまった。羽妖精達はルルが救出してあげたようだ。
「まったく、このオッパイ星人共め」
「誤解だ」
「ん、誤解」
アリサとルルの責める様な視線をかわして、揉みくちゃにされるミーアの方に視線を流す。やはりエルフは、みんなスレンダーだな。ぽっちゃりエルフはいないようだ。部分的にも全体的にもね。
◇
『マッタク、ヤッテランネーゼ』
『コマッタモンダ』
『ココ、イゴコチイイ』
ナナから逃げ出した羽妖精が何故か、オレの頭の上や肩の上に集っている。ヤサグレた発言をしているヤツは、オレの髪を引っ張って文句を言っている。それなりに痛いから、手で包んでテーブルに降ろす。
ボヤいている羽妖精たちに、ポチが焼き菓子を割って食べさせてやっている。
『オウ! コリャウメーナ』
『ホントダゼ』
『モット、チョーダイ』
焼き菓子の粉がポロポロ零れているが、後で生活魔法を使えばいいか。
羽妖精たちの称賛の声を聞いたのか、エルフの里中の羽妖精が集まってくる。
『ネエ、チョウダイ?』
『アタシニハ、クレナイノ?』
「あうあう、待ってなのです、も、もう無いのです」
羽妖精たちはエルフ語で話しているので、言葉が通じていないはずだが会話が成立している。
慌てるポチを見るのも楽しいが、ここは助け舟をだしてやろう。
オレは、宝物庫経由で取り出した篭一杯の焼き菓子をテーブルに出してやる。
羽妖精たちが、はしゃぎながら焼き菓子に突撃する。
……うわっ。
勢いが付きすぎたのか、篭に潜り込んで焼き菓子に刺さって足だけを残して埋没している者や、焼き菓子を抱えたままテーブルの反対側から落ちている者までいる。
ミーアと一緒に戻ってきたエルフ達も焼き菓子に興味がありそうだったので、もう二篭分の焼き菓子をテーブルに並べて振舞う。
「旨い」「うむ」「良い」「美味」
大抵は、こんな感じのミーアみたいな単語の称賛だが、中にはミーア母ほどではないが、長文を話す人もいるようだ。
「まあ、美味しいわ。すごく美味しい。ねえねえ、これはサトゥーさんが作ったのかしら? 違うわよね?」
「本当、美味しいわ」
「ね、蜂蜜とは違うけど甘くて素敵ね」
ほとんどのエルフは友好的なようだが、全員ではないようだ。
オレの前にダンッと手を付いて一人のエルフの少年がオレを睨め付ける。
「相思相愛?」
誰と誰がだ?
ミーアが、後ろからオレの首元に抱き着いてきて、その少年に見せ付けている。「当然!」とか言っているんだが、事実無根だと思う。
表情から、彼が抗議しているのは判るのだが、文句はちゃんと相手に伝わるように言ってほしい。
どうやら、その少年はミーアの事が好きなようだ。さっきから少年と言っているがミーア父と変わらない外見だ。年齢も250歳なので、ミーアよりはかなり年上だ。
「どこがいい?」
「綺麗」
は? 綺麗?
少年の質問への回答が意味不明だ。実際、周りのエルフ達も首を傾げている。
『キレー』『ウン、キレイダ』『ダヨネー』
羽妖精達の何人かはミーアと同意見みたいだ。
首を捻っていたミーアの母が、瞳の色を碧から銀色に変えてオレを見る。
「まあ、ミーアったら! たしかに綺麗だわ、見たことが無いくらい。なんて精霊の量かしら、精霊だらけで見えにくいけど、綺麗な光だわ」
「本当」
「精霊に好かれているのね」
オレを綺麗だと評する人達の共通点は「精霊視」スキルだ。
どうやら、オレの周りには精霊とやらが集まっているそうだ。精霊光とかいう精霊好みのオーラのようなモノが出ているらしく、それが美しく見えるという事だ。
地脈の噴出する場所以外に精霊が集まるのは珍しいと言われた。
オレがどこにいようとミーアが見つけるのは、この精霊の塊を目印にしていたらしい。
◇
判明したミーアの秘密は、もう一つあった。
肉だ。
「まあ、ミーアったら! 好き嫌いしていたら大人になれないわよ? ほら、避けてないで、お肉も食べなさい。食べるわよね?」
「むぅ、不要」
「食べろ」
両親に挟まれたミーアが、左右から肉を食べるように言われている。
エルフが肉を食べられないというのは、オレ達の誤解だったようだ。実際、他のエルフ達は、肉料理も食べている。
リザみたいに、肉至上主義じゃないみたいだが、菜食オンリーな者はいないようだ。
ミーアで判っていたが、エルフ達はわりと健啖家みたいなので、ルルと一緒に食事を作っているエルフの奥様方の手伝いに向かう。クジラの唐揚げや昨日の蒲焼を奥様方に味見してもらって、OKが出てから量産し始める。
人の顔みたいなコンロとか、なかなか悪趣味な調理器具もあったが、基本的には魔法道具の類のようだ。ここの器具は、どれも有機的なテイストがある。
人族の魔法具と違うのは、使い手が魔法を注ぐ必要のないところだ。息を吹きかけるだけで、コンロに火が点き、ノックするだけでオーブンに熱が入る。魚の口のような蛇口は、手を翳すだけで水が出た。
後で、エルフ達に仕組みを聞いてみよう。
量産した唐揚げや焼き飯、串焼きを大皿に盛っていく。手伝いにきたエルフや、簡略化されたピノッキオみたいな動く人形が皿を宴会場に運んでくれる。
鉄壁リザの守る「唐揚げの山」争奪戦をするポチ達や羽妖精の姿に和みながら、テラスに出て町並みを眺める。羽妖精が持ってきてくれたサクランボっぽい果実を口に運びながら、エルフ達の奏でる曲に耳を傾けた。
「サトゥー」
「どうした、ミーア。主賓が席をはずしていいのかい?」
「ん」
ミーアに手を引かれて、エルフの町並みを歩く。
みんな宴会に行っているのか、街の中には掃除をする動く人形や自動で動く馬なしの馬車しかいない。
そして、ミーアに連れていかれた先には――。
※唐揚げ争奪にリザを追加しました。
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