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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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9-6.魔狩人の街にて(5)

※2016/4/3 誤字修正しました。
 サトゥーです。勧善懲悪モノといえば、時代劇が思い浮かびますが、意外と小説やマンガでもあるようです。もちろん、異世界の物語でも。





 翌日早々に、ダザレス侯爵とその家臣達は、ひとまず公都へと船で移送される事になった。逃亡が懸念されたので、20人近い兵士が随伴している。

 大河前の街で大型の船に乗り換えるのだそうだ。

 さて、ポトン准男爵が、なぜダザレス侯爵に便宜を図ったかなのだが、少々複雑な理由があった。
 まず、ダザレス侯爵は、公都の前ボビーノ伯の紹介状を携えていたそうだ。彼は公都で、前ボビーノ伯の後援するとある団体に協力していた伝手で、公爵領内で彼の後ろ盾を得ていたらしい。
 そして、ポトン准男爵の公都の学園に通っている息子が、この団体に傾倒していたそうだ。それだけなら問題はなかったのだが、この団体が「自由の翼」という名前で、公爵から指名手配されている為に少し困った事になる。

 息子が指名手配されているからと言って、守護の役職を解任される事は無いが、守護の職を求める者は多く、足を引っ張られる可能性が高い。

 そして、この時点で、ポトン准男爵の息子が「自由の翼」に所属しているという情報は知れ渡っていなかった。

 さらに、この息子は、現在、ボビーノ伯爵家の公都外にある狩猟屋敷に匿われて無事らしい。もちろん、この場所が公都の司法機関にバレたら、彼らは捕縛され、そのまま処刑されるだろう。

 こうしてダザレス侯爵は、ポトン准男爵の息子の「醜聞」と「生命」の2つのカードでポトン准男爵から協力と服従を勝ち取ったのだ。

 もちろん、最初からペラペラ話してくれたわけでは無い。

 火魔法で脅されたとか、紹介者の前ボビーノ伯に借りがあったとか、ワイロを貰ったのだとか、色々と言い訳していて(らち)があかなかったので、尋問スキルを最大まで上げて、ようやく聞き出すのに成功したわけだ。

 オレは彼と取引をした。

 本来なら、公爵や公都の人事院に告発文を送ったり、「自由の翼」の残党を匿っている狩猟屋敷を報告するべきなのだが、彼の処遇は、彼の所属する派閥のリーダーであるロイド侯に任せる事にした。さすがに無罪放免にする訳には行かない。

 ロイド侯は自派の醜聞を隠蔽しようとするかもしれないが、その過程で、「自由の翼」の残党も処分してくれるのを期待できるだろう。
 恐らく、ロイド侯によって、ポトン准男爵は、この街の守護役は解除されてしまうだろうが、それでも、ロイド侯の政敵に利用されて、処刑や爵位剥奪などの最悪のシナリオを進むことは回避できるだろう。

 ロイド侯に顛末を書いた手紙を送ったので、ポトン准男爵には追々沙汰が下るだろう。

 さて、オレが彼に要求したのは3つ。

 1つ目は、放火貴族の被害を受けた民衆への保障を、彼個人の資産から供出する事。
 2つ目は、街営の孤児院を創設する事。
 3つ目は、引退した魔狩人による魔狩人の職業訓練所の創設だ。

 3つ目は難色を示されたが、常設では無く月一度の講習会という形でなら、という折衷案で纏まった。こちらは魔狩人の損耗を減らすという大義名分があるので、守護が替わっても大丈夫だろう。

 2つ目がすんなり受け入れられたのが意外だったが、前守護役が閉鎖するまで街営の孤児院があったそうで、建物自体は街の外れに残っているそうだ。守護が替わった場合、孤児院への資金援助が無くなりそうだが、そこはロイド侯への手紙でもお願いしておいたので大丈夫だろう。あくまでお願いだ。脅迫とかはしていない。

 さて、次に、宿を襲撃した者達の処遇だが、全員、奴隷落ちとなった。
 もちろん、オレが潜入を依頼した者達は別だ。

 宿を襲撃した無法者やほとんどの魔狩人は、犯罪奴隷に落とされた。
 だが、魔狩人が減りすぎると、街の主要産出品である魔核(コア)の収集が滞るので、それ以前に罪科を持たない者は罪一等を減じて、期間限定の一般奴隷に留められている。
 一般奴隷になった者は、プタの街の公用奴隷になり、魔物狩りを強要させられる代わりに、成果によって奴隷期間が短縮できるらしい。

 最後にオレが、今回の事件で得たものだが、実は色々とある。

 まず、ダザレス侯から没収した装備品やヤツが襲撃者達に支払った報酬、さらに犯罪奴隷を奴隷商人に売却する分の金が、オレのところに転がり込んできた。
 後者はともかく、前者がなぜオレの懐に来たのかは良く判らない。確認したところワイロというわけではなく、行政側が没収した後に、犯罪者捕縛の報酬として支払われたという事らしい。ああ、ややこしい。

 正直なところ、こんな金はいらないのだが、オレから適当に分配すればいいと思いなおして受け取る事にした。

 今回の事件で手伝ってくれたケナやオルド達に、水増しポーション数瓶と銀貨数枚ずつを報酬に配った。ケナ達は、ポーションを売却して金に換えるべきか随分と悩んでいたようだが、結局、そのまま所持する事にしたようだ。命には代えられないからね。

 ダザレスに家を焼かれた人達にも分配しようとしたのだが、恐縮されたあげく断られてしまった。
 逆に、朝一番に森で集めて来たという木の実や薬草を篭数杯分も貰ってしまった。昨日の薬のお礼らしいので、ありがたく頂く。せっかくなので、その木の実を使った大量の焼き菓子を、ポチとタマに渡して子供達に配ってもらった。戻ってきた2人が疲労困憊だったので、きっと喜んでもらえたのだろう。2人と一緒に行っていたナナは、無表情ながらもツヤツヤしていたので、幼児が沢山だったようだ。

 ダザレスに襲撃された村々には、ポトン准男爵が私費を投じて見舞金を出すという事になっているので、オレからは何もしていない。

 あと、誰が噂を流したのか知らないが、どうもオレがトマト好きという事になっているらしく、宿までご機嫌伺いに来た商人達が、お土産にと大量のトマトを携えて訪れて来ていた。
 最初に港で入手したトマトとは違う品種も混ざっていたが、トマトは幾らあってもジャマになるものじゃないから、ありがたく頂いておいた。

 だが、港に銅像を作りたいという街の名士達からの申し出は断固として断った。さすがに銅像とか恥ずかしすぎる。せめてこれだけでも、と言うので「プタ街民栄誉勲章」の方は頂いておく事にした。

 この世界の人って勲章が好きなのかな?





「お、動いた! 今ピクッて動いたよね?」
「ああ、その調子なら、さっき見せたくらいには動くようになるから頑張れよ」
「うん、ありがとう! 貴族さま」

 襲撃待ちの暇つぶしで作っていたにしては、ちゃんと動作しているな。

 コン少年に与えたのは、木製の簡単な義手だ。

 義手には、ミトン風の形状をした可動する指が付いている。魔力を通すと義手の接合部付近にある魔法回路が動作して、ワイヤーを巻きとって指が閉じる仕組みになっている。魔力の供給を止めると板バネが働いて手が開く。開閉のレスポンスが遅いので、武器を持ったり戦闘に使うのは無理だろう。

 魔力を上手く扱えない可能性を考えて、手動で巻き取りが出来るようにしてある。勿論、ロック機能も付けた。

 この義手はコン少年へのボーナスだ。彼が頑張ってくれていなければ、オレの為に行動してくれたオルド達まで犯罪者と一緒に排除してしまうところだったからな。

 他にも、狼の皮で作ったブーツや革鎧、それに甲虫の殻で作った軽いわりに頑丈な胸当てと兜を贈っておいた。義手の中ほどのジョイントに付ける甲虫の殻製の盾も付けた。

 彼の持つ武器は父親の形見という話だったので、研ぎ直すだけにしてある。

「うわ、いいの、こんなに! ちょっと見てよ姐さん、まるで探索者みたいだ!」
「しっかし、あんたみたいな駆け出しが、こんな装備していたらバカ共に巻き上げられちまうんじゃ無いかい?」
「大丈夫でしょう、たいして高価な素材は使っていませんから」

 無邪気に喜ぶコン少年に、ケナが少し懸念を抱く。
 この時はそう思っていたのだが、後日、迷宮都市で、この甲虫の殻が意外に高価な品だと知った。この街では、高価な素材じゃないという噂が、広まったようだからそれでいいだろう。

「だったらさ、だったらさ、あたし達にも作ってよ」
「お礼は体でするからさ」
「アンタの体じゃ礼どころか逆に金を払わないとダメさ」
「ひっど! アンタも変わんないじゃないさ」

 このような姦しい反応は予想していたので、既に造ってあった、甲虫の殻製の胸当てを贈っておいた。革紐で固定するタイプで弓道の胸当ての面積を大きくしたような簡単なものだ。

 もちろん、無償ではない。

 代わりに、月に1度でいいからコン少年と組んで魔物狩りに連れて行ってやって欲しいと頼んだ。この世界なら、機会さえあれば、そして生き残りさえすればレベルが上がって生き易くなるはずだ。

 ちょっと、お節介が過ぎる気がしたが、これくらいはいいだろう。

 だから、アリサ、そのニヨニヨとした笑みはヤメロ。





 襲撃の数日後に、ようやくプタの街を出発できそうだ。
 これ以上いたら馬車が、木の実やトマトで埋まっていた事だろう。

「では、幼生体達よ、しばしの別れです」
「なな、いっちゃう? いっちゃうの?」
「ナナ、一緒にいよう? ダメ?」
「なな、いかないでー」

 3~5歳くらいの幼児達に別れを告げてナナが騎乗する。
 1人、2人、連れて行きたがりそうだったんだが、意外だ。

「彼らには拠点ができました。旅するのは、幼生体の生命が、危険で過酷だと判断します」

 拠点って言うのは仮設の孤児院の事だろう。
 まだゴザを敷いただけの寝床しかないが、家の軒下や木陰で寝るよりはマシなのだそうだ。仮設の孤児院には、ナナが町中から集めてきた50人くらいの孤児達が住んでいる。孤児はその3倍くらいいるのだが、すべては集まらなかったようだ。

 孤児院の責任者に、当面の食費に金貨数枚を寄付しようとしたんだが、やんわりと断られてしまった。この街では金貨が使える場所がないそうだ。仕方がないので、米100キロと銅貨100枚ほどを寄付した。彼らが横領しない事を祈ろう。

 幼児達や獣人達、さらには魔狩人達に盛大に見送られて街を後にした。
 何人かの足の速い子供達が並走していたが、すぐに疲れて置き去りになる。

 ナナは何度か名残惜しそうに街を振り返っていたようだ。

 街道と言うよりは獣道に近い雑草生い茂る道を、馬車は進む。
 まずは最果ての村へ、そして南東の山脈を越えてボルエナンの森へ。

 感想で気にしていた人が多かったので、事件の後始末を多めに増やしてみました。

※8章の一部を改稿しました。
 詳細は活動報告をご覧下さい。

※感想の返信について
 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。


※作者からのお願い※

 誤字報告は、メッセージでは無く感想欄でお願いします。メッセージだと週末にピックアップするときに漏れやすいのです。
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