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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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9-5.魔狩人の街にて(4)

※2016/4/3 誤字修正しました。
 サトゥーです。復讐を題材にした物語は多いですが、題材故かハッピーエンドで終わるモノは少ないようです。10倍返しだ! とでも叫んでガス抜きをして、深刻に思いつめないで欲しいものです。





「だから、待ってってば! あの人も貴族さまなんだってば! 悪い事する人なんかじゃないって」
「どきなよ、コン」
「そうだよ、宿の包囲に参加するだけで銀貨1枚だよ?」
「そうそう、ゴブリン何匹分だと思ってるんだ」
「あんたみたいな、穀潰しでも稼げるよ? この機会を逃すなんてバカを見るってモンよ」

 魔狩人達が集まる酒場から聞こえて来たのは、そんな会話だった。
 あの放火貴族のヤツ、まだ何かするつもりか。

 マップで確認したが、領主の館の近くの空き地に20人ほどの魔狩人達が集められている。他にも同数程度の若い人族の男女がいるところを見ると、魔狩人以外の無法者予備軍も集められているようだ。衛兵がその場にいない事から考えて、今回は守護のポトン准男爵は噛んでいないようだ。
 人数は42人もいるが、魔法スキル持ちはいなくて、戦士系や盗賊系のみだ。レベルも2~7なので、オレ以外の仲間達だけでも無双できそうな雑兵だ。

 放火貴族は、准男爵の館に滞在したまま動いていない。この街の神官や錬金術師のレベルが低いので予想はしていたが、体力がMAXの3割程度までしか回復していないようなので、骨折が酷くて動きたくても動けないのだろう。

 目の前の酒場には、隻腕魔狩人のコン少年と、彼と一緒に行動していた4人の女性魔狩人達、それから8人ほどの獣族の魔狩人達がいる。このオルドという獣人の仲間達は、魔狩人の中でも強めで、レベル7~9だ。他はレベル2~7で空き地にいる魔狩人達と大差ない。

「もう、オルド達も飲んでないで、姐さん達を止めてよ」
「いいじゃねぇか、行かせてやれよ」
「ちょっオルド!」

 どうやら、獣族は中立らしくコン少年の加勢はしないようだ。

「いい加減、どかないと拳骨じゃすまないよ」
「お願いだよ、姐さん」
「ケナ、止めねえけどよ」
「何だいオルド、他の魔狩人の組に意見するなんて、アンタらしくないね」
「意見じゃ無いさ、忠告だ。オレ達は宿の貴族側に付く。ボーシュの姉の恩人ってのもあるが、獣人の集会から宿の貴族を守ってくれって依頼を受けてるんだ」

 ほう? 火傷を治してあげたお礼かな。ボーシュの姉というのが誰かは判らないが、火傷を治した人達の誰かだろう。
 この話を聞いていなかったら、放火貴族の雇ったやつらと一緒に遠隔魔法の餌食にしていたかもしれない。

 さて、いつまでも聞き耳を立てていても仕方ないか。

「本気かい? オルドあんた達が強いのは知ってるけど、相手は20人以上の魔狩人だけじゃない。守護の衛兵たちも50人以上いるんだよ?」
「その心配は無いよ。衛兵達は出てこない」
「誰が言ってたんだい? あんたの母親かい? いいから引っ込んでな!」

 片目の兎人族の大男(オルド)女性達のリーダー(ケナ)の会話に割り込む。ケナはオレを振り向かずに吐き捨てるように啖呵を切る。オレを魔狩人の誰かと勘違いしているのかな?

「ポトン准男爵は、公都のコネを使って封じた。彼が破滅主義か天下無双の大馬鹿者でもなければ、兵を出したりはしないよ」

 オレの言葉の途中で、オルドの目配せに気が付いたケナ達が振り向く。帯剣しているオレを見て、ケナの仲間の女性が立ち上がり、剣の柄に手をかける。
 ケナの足元で踏みつけにされているコン少年に手を振りながら、名乗りを上げる。

「やあ、初めまして。私はサトゥー・ペンドラゴン士爵だ」

 名乗りながら酒場をゆったりと見回して、マップ検索で得た情報との整合性を確認する。

「立ち聞きする気は無かったんだが、聞こえてしまってね。そちらの――ケナ女史かな? 君達もできれば、今日の所はこの場で酒盛りでもしててくれないかな」
「酒盛り? 味方に付けに来たんじゃないのかい?」
「違うよ。ここには最果ての村から山脈までの最新の情報を集めに来たんだよ」
「はん、話を聞いてたなら、自分達のヤバイ状況が判ったんだろ? とっとと宿を引き払って逃げ出した方がいいんじゃないか? そっちのオルドに頼めば、門くらい開けてくれるよ」

 おや、意外だ。忠告されるとは思わなかった。報酬の銀貨に釣られただけで、それほど悪人でもないようだ。それなら、放火貴族の退路を完全に潰すのに一役買ってもらおうかな。

「少し相談があるんだが、いいかな?」





 宿屋に襲撃があったのは、夜半も大分過ぎた頃だ。
 いち早く気が付いたポチとタマに、仮眠していた皆を起すように頼んで、オレは時間潰しにしていた工作を中断する。

 鎧を装備したまま仮眠させていたので、すぐに臨戦態勢が取れた。寝たふりをしているので、照明はない。三階の窓から外を窺うと、怪しい集団が3方に分かれて通りの向こうからやってくる。ケナ達は上手く潜り込んでくれたようで、とある集団の後方にいる。

 彼女達には、放火貴族の家臣の捕縛あるいは逃走の阻止を頼んである。
 シガ王国の貴族に夜襲をかけた現行犯だ。本人が来ていないのは残念だが、どんなコネがあろうと国外退去くらいは免れないだろう。

「弓、3つ~?」「あそこの屋根の影にもいるから4つなのです」

 外を警戒していたポチとタマが、弓兵達を見つけている。殺人なんかの罪科を負っている2人にはクロスボウの一撃で肩を射抜かせて貰う。その上で4人を「誘導気絶弾(リモート・スタン)」で昏倒させた。弓兵の傍には誰もいなかったから、伏兵に襲われたとでも思ってくれるだろう。
 他にも屋根伝いで接近していた盗賊らしき身軽な連中も「誘導気絶弾(リモート・スタン)」で無力化しておく。落下して大怪我をしないようにタイミングを合わせるのが面倒だった。

「じゃあ、行こうか」

 ミーアやアリサの魔法使い組と魔銃を持たせたルルを最上階に残して、前衛陣を引き連れて階下に降りる。
 1階にたどり着いた頃にようやく異変に気が付いたのか、宿の警備兵達がドアを激しく叩いて緊急事態を告げている。
 完全武装で出てきたオレ達を見て驚いたようだが、彼らには有無を言わせず宿の本館の方の守りに移動してもらった。

 彼らは宿を包囲した上で、放火貴族の家臣が前に出てきて演説というか死刑宣告を始めた。この放火貴族の家臣も下級貴族のようだ。
 しかし、ここで演説とはね。何のために無灯火で接近したんだよ。

「呪われた白虎に組する愚かなる成り上がり者よ!」

 コイツラは真正のバカなのか?

「貴様の罪は、汚らわしい獣人に加担した事!」

 人種差別はイカンよ。

「貴様の罪は、我らが偉大なる主、ダザレス様を傷つけた事!」

 デモのシュプレヒコールみたいだな。
 名前を言っちゃダメだろう、と思ったが、悪事と思っていないのかもしれない。

「貴様の罪は――」

 これって、最後まで聞かなくちゃダメかな。
 家臣の言葉を要約すると、鼬人族に追われていた白虎姫一行をダザレス侯が匿ってくれたのに、ある日いきなりダザレス侯の家族を惨殺して、金銀財宝を奪い、領民達の家に放火して、民衆を虐殺したらしい。おまけに、その時に館に来訪していた先王も一緒に殺されたそうだ。

 それなら恨みに思っても仕方が無いと言いたい所なんだが、不自然すぎる。庇護者を殺すのはデメリットしか無いし、放火したり民衆を虐殺する理由はもっと無い。
 むしろ現王とか虎人族と人族が手を結んだら困る勢力(イタチ)が、白虎姫達に罪を擦り付けたと考えた方が判りやすい。

 まあ、事情はどうあれ、排除する方針は変わらないから詳細はいいか。
 中庭から外へ通じる門を開けて、彼らの前に出る。

「そろそろ満足したか? いい加減演説が長すぎて、周りの無法者たちが痺れを切らせているぞ?」
「おのれ愚弄しおって。わざわざ(へい)の向こうから出てきた事を後悔させてやる。やれ! コイツ等を皆殺しにしろ!」

 気持ちよく演説していた男は、顔を真っ赤にして激昂すると、つかえながらも号令をかけた。周りの無法者達は武器を突き上げてそれに応える。迫力あるな~
 ケナ達は集団の後方にいる放火貴族の家臣の内の残り2人の傍に控えている。あちらの2人の方が、目の前の演説家臣よりも位が高い。

「DT共よ、私が相手だと宣言します」

 襲ってきた無法者達にナナの挑発が飛ぶ。
 それじゃ意味が通じないだろう? それでも幾人はナナに向かっていったので、効果があったのかもしれない。

 ポチとタマの「殻」を発動した小魔剣が、ギャグマンガの様に無法者達をなぎ払っている。
 ナナも身体強化しているので盾で数人纏めて押し戻したり、同じく「殻」を発動した剣で大斧を持った魔狩人を撃退したりと、なかなか頼もしい。

 そして赤い残光を残して、リザの槍が、演説家臣の肩を穿つ。

 え?
 赤い残光?

 ちょっとリザ?
 少し気まずそうなリザの様子を見る限り、気合が入りすぎてしまっただけのようだ。流石に魔刃までは発動していないので、演説家臣も死んではいない。

 怪我の功名か、一罰百戒的な効果があったみたいで、無法者達が浮き足立っている。

「お、おいアレ、魔槍じゃねぇか」
「あっちの3人も魔剣使いだぜ」
「おいおい、聞いてないぞ。騎士でもないのにそんなヤツラと戦えるかよ」

 多くの無法者達が踵を返して逃げ出した。
 重犯罪者以外は放置してもいいのだが、ミーアの「刺激の霧(マスタード・ミスト)」で咳き込んで足が止まったところをタマの投石で無力化されてしまったみたいだ。

 ケナ達が足止めしてくれていた残り2人の家臣を、鞘に入ったままの妖精剣で殴り倒して捕縛した。足元で伸びているコンも大した怪我はしていないようだ。

 ちなみに宿の反対側にいた無法者達は、アリサとルルに援護されたオルド率いる獣人達によって捕縛されていた。





「ペ、ペンドラゴン卿! こんな夜遅くに何の騒ぎだ」

 縄で数珠繋ぎになった無法者達と縛られた放火貴族の家臣を引き連れて、ポトン准男爵の館を訪れた。そのオレ達を見た准男爵の第一声がコレだった。どうやら、今回の騒ぎに准男爵は絡んでいないらしい。だが、ここはアリサの助言どおり、准男爵も一味であるかのように決め付けて、保身に走らせる方向で行こう。

「まるで自分は関係ないとでもいいたいようだな。そこのダザレスの子分共が、これだけの数の無法者を連れて私の泊まる宿を襲撃してきたのだ」

 ああ、この貴族っぽい言葉遣いって慣れないな。

「な、私は関係ないぞ。私は無関係だ」

 よし、これで後は放火貴族を捕縛して公都に連行する手配をしてミッション完了だな。
 だが、事態は予想のナナメ上を進む。

「我が忠臣にまで手をかけたか、虎共の手先め! こうなっては仕方ない、我が手で始末してくれる!」

 杖で体を支えたダザレスが、ふらふらの足取りでやって来た。上着は肩にひっかけているだけなので上半身の大部分を覆う包帯が見える。バカが火弾の魔法を唱えだしたので、予め用意していた木の実を頭にぶつけて中断させる。
 ダザレスが膝を付くころになってようやく反応した衛兵達が、ヤツを押さえ込んだ。

「ポトン准男爵。今、ダザレスは、明確な殺意を持って私に火弾を唱えた。しかも傍らにいる貴方も諸共にだ。守護としての裁決を」
「わ、私の権限では貴族への死刑は宣告できない。まず公爵閣下へ引き渡し、そこから王都へ連行して貰い、陛下に裁決を委ねる事になる」

 おや、公都では始末できないのか。
 へたに王都まで行かれると白虎君達と遭遇しそうだから、公都で投獄しておいて欲しかったんだけどな。まあ、いいか。

「聞いたな。衛兵! さっさと、その犯罪者を捕縛しろ。その右手の指輪は魔法の発動体だ。外すのを忘れるな」

 実際には発動体が無くても魔法は使えるんだが、威力や精度がかなり下がる。
 さらに、准男爵の館には、魔法使いの犯罪者用の道具もあるらしく、ダザレスは「魔封じの鎖」というもので拘束されていた。これも完全に防げるものでは無いらしいが、詠唱しようとすると呪文に必要な魔力が魔封じの鎖を通して流出してしまうのだそうだ。

 魔封じの鎖に拘束されてなお暴れるダザレスが地下牢へと連行されていった。

 これにて一件落着かな。
 ポトン准男爵の処遇については公都のロイド侯に任せればいいだろう。

 さて、宿に帰って一眠りしますか。

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