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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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8-26.公都の夜に別れを(2)[改定版]

※9/15 誤字修正しました。
※8/12 改稿しました(8/13 加筆)

 サトゥーです。旅立ちと言うと卒業式を思い出します。大地の反対側でも2~3日もかからず会える世界にいたからでしょうか、旅立ちを今生の別れと思うような気質は持ち合わせていません。異世界ではもう少し重いのでしょうか?





 昨晩のオークションの結果は予想より良かった。

 鋳造魔剣は予定通りの値段だったのだが、鋳造魔槍(マジック・スピア)や鋳造魔斧槍(マジック・ハルバード)がかなりの高値で売れた。特に鋳造魔斧槍は、探索者らしき男と立派な鎧を着た男の一騎打ちになったせいか、1本金貨270枚という値段で売れてしまった。やはり、電撃による麻痺機能を付けたのが高値になった勝因なのだろうか。原価は考えてはいけないのだろう。

 予想以上に儲かってしまったので、喜捨のつもりで、テニオン神殿の炊き出し基金と孤児院に金貨10枚ずつを寄付する事にした。これ以上は常識の範囲を超えるので自重する。

 落札したノートだが、中ほどで2つに破れていた。さらに用心深いヤツが書いたのか、独自の暗号が掛けられてあった。解読しようとしているうちに「暗号解読」スキルを取得したので、簡単に復号できた。

 石鹸の作り方から、ガラスや鏡の作り方、ゴムの作り方、etc……。
 ようは異世界に来た時に役に立ちそうな技術が、色々とメモされている。ただ、大半が既に作れるのが、残念だ。もう少し早く入手したかった。

 有益だったのは、カレーのレシピだ。香辛料から作る方法が書いてあった。問題は、香辛料が見つかるかどうかだな。ソバやうどんの打ち方もあったので、お買い得だったかもしれない。

 持ち主の情報は、残念ながら手に入らなかった。
 勇者ハヤトが言っていた3人目の気がするのだが、抜け目のないヤツのようなので達者で異世界ライフを堪能しているのだと思いたい。





「こんばんは、勇者ハヤト」

 勇者達が公都を出発する前夜に、少し地味目の衣装に替えたナナシモードで勇者の部屋を訪問した。ポチ達みたいに鼻が利くメンバーがいると不味いので「消臭(デオドラント)」の魔法を使ってある。

「ナナシか、どうやって侵入しやがった?」
「チートで」

 便利な言葉だ。

 窓から入室してすぐに、いきなり勇者の仲間らしき耳族の娘さんに謝られた。ただ許すのもアレなので、対価に彼女達の耳を触らせて貰った。うん、なかなかイイ。

 その次に勇者に礼を言われた。
 サトゥーの時に聞いた内容と同じだったが、礼に自分の耳を触るか? と言われたときは、思わず勇者の頭に拳骨を落としてしまった。
 勇者を殴ってしまったので、リーングランデ嬢やメリーエスト皇女に文句を言われるかと思ったが、普段からそういう扱いを受けているらしく、みんな当然のような顔をしていた。メリーエスト皇女には手加減しなくていいとまで言われてしまった。いいのか勇者。

 お礼の品と言っても、特に必要なものも無かったので、冗談で空力機関と言ったら、勇者がジュールベルヌの予備らしき空力機関を出してきて焦らされた。空力機関は自作する予定なので、せっかくの申し出だが、遠慮しておいた。メリーエスト皇女が、あからさまにホッとしていたので、けっこう貴重なものなのだろう。

 結局、勇者からは、ミスリルやオリハルコンなどの希少金属を分けてもらえる事になった。彼が迷宮の中で手に入れたモノらしいのだが、どちらも帝国の工廠に貸与してあるらしく手元には無いそうだ。
 実際に手に入るのは先なのだが、オリハルコンとか心が躍る。

 おっと、ここに来た本題を忘れていた。

「これは?」
「見たこと無いかな? 人を魔族に変える呪われた魔法道具だよ」

 オレは、ストレージ経由でポケットから出した短角(ショートホーン)を勇者に放り投げる。グルリアン市で手に入れた使用済みのものだ。

「なんですって?!」
「ど、どこでこれを!?」

 前者はメリーエスト皇女、後者はリーングランデ嬢だ。表情や口調から察するに、どうやらリーングランデ嬢は公爵から短角(ショートホーン)の話を聞いていたみたいだな。他の公爵領の都市でも討伐されている以上、公爵の関係者が知らないはずもない。

「知っていたの? リーングランデ」
「ごめんなさい、公爵令嬢の立場として知った内容だったから、漏洩するわけにはいかなかったのよ」

 変に固い人だな。立場上、明言できなかったんだろうけど、公爵も勇者に伝えて欲しくて彼女にリークしたと思うんだが。

「ねえ、お姉さん。この短角は珍しいものなのかな?」
「ええ、初めて見るわ。サガ帝国と魔族の長い戦いの歴史でも、こんな品は一度も出てきた事はないわ」

 新アイテムか。

「他の領地で下級魔族を倒した時に手に入れたんだ。もう使えないみたいだから、欲しいならあげるよ?」

 メリーエスト皇女が感謝の言葉を返しながら、恐る恐る短角を受け取り、勇者の無限収納(インベントリ)に保管して貰っている。頭の切れそうな彼女に言う必要は無いかも知れないが、「扱いは慎重にね」と釘を刺しておいた。

 このアイテムの事もあって、お互いに連絡できる魔法道具を所持しようという事になった。これは初めから渡すつもりだったようで、勇者の無限収納(インベントリ)から直ぐに出てきた。特に揉める事も無く、10日に一度の深夜0時にお互い通信機を起動して連絡を取り合う事に決まった。時間の確認用に短針しかない時計の魔法道具も貰った。
 これは後日わかった事だが、この時計をストレージに入れると時間が狂うので、宝物庫(アイテムボックス)に移動しておいた。

 追跡機能を心配したが、通信機を起動したとき以外は場所の特定は不可能なのだそうだ。元々他国に潜入している協力員との連絡用らしく、お互いの通信機以外には検知されない仕組みが使われているらしい。ちょっと分解してみたいが自重しよう。





 出発の前日は、意外とヒマだった。
 知り合いになった人への挨拶回りや、食材や調味料――特に砂糖――の調達なんかは毎日少しずつ進めていたので、慌ててやる必要は無い。

 午前中にテニオン神殿で、皆の洗礼を済ませた。

>「神聖魔法:テニオン教スキルを得た」

 いざと言う時に巫女長さんに、復活の儀式をしてもらうためだ。
 なぜか、オレとアリサだけは洗礼を受けられなかった。儀式自体は受けられたのだが、他の者と違って称号に「テニオンの信徒」というのが付かなかったのだ。

 もっとも周りからは判らないらしく、セーラ嬢に、「これでサトゥーさんもテニオン神殿の信徒ですね」と嬉しそうに言われてしまった。

「サトゥーさん、これを受け取ってください」

 セーラ嬢から、「テニオンの鈴」というアイテムを手渡された。アイテムの説明を解読したところ「テニオン神殿の大鐘と共鳴する鈴」らしい。なんでも、テニオン神殿に緊急事態が起こった時に、大鐘を慣らすのだそうだ。この鈴は、大鐘と共鳴する魔法道具で、公都と王都くらい離れていても、危機を察知できる優れた品なのだそうだ。

 受信専用らしい。

「ほら、私も持っているんです。お揃いですね」
「そうですね」

 純粋に喜んでいるらしいセーラ嬢に突っ返すわけも行かず、素直に受け取る。
 恐らく、というか十中八九、巫女長さんの差し金だとは思うのだが、鈴を付けられたような気分だ。





 洗礼を終えて館に戻ると、来客が待っていた。
 ムーノ次期男爵、カリナ嬢の弟君だ。アポは無かったはずだが、主家の若君だし、まあいいか。

「ペンドラゴン卿、突然の来訪を許して欲しい」
「若君の訪問なら、いつでも歓迎いたしますよ」

 昼から整備工場の見学に行きたいから、さっさと用件を済まそう。

「単刀直入に聞こう。君はカリナ姉さんと結婚する気はあるのか?」
「ありません」

 しまった、もう少し遠まわしに言うんだった。
 弟君が顔を真っ赤にして怒ってしまった。

「君は、姉を弄んだ上に捨てるのか! 父上の直臣の身でありながら――」
「誤解です」

 失礼に当たりそうだが、激昂している弟君の言葉に被せるように主張する。

「もう一度言いますが誤解なのです。わたしは、カリナ様と恋仲ではありませんよ?」
「しかし、グルリアン市の晩餐会では、まるで夫婦の様に仲むつまじかったというではないか!」

 仲が悪い方が良かったような言い草だな。このシスコンめ。

「晩餐会には太守から、私とカリナ様の双方が招待されていたのです。お互いに伴侶が居ない身だったので、カリナ様にご一緒していただいた次第です」

 お陰で大した散財だったが、ボリューム満点の谷間が見れたから、後悔はしていない。あれは良い景色だった。

「オリオン! あなた、何をしているの!」

 ああ、せっかく名前を呼ばない様にしていたのに。カリナ嬢、酷いよ。
 弟君の名前は、オリオン・ムーノ。オレと同じく、ムーノ男爵の勇者趣味の犠牲者だ。まあ、オレは自分で付けたんだから犠牲者というのは違うか。

 さて、誤解を解くか。

「カリナ様」
「何ですの?」

 ちょっと警戒気味にカリナ嬢が問い返す。

「私の事が好きですか?」
「な、ちょ、そんな――」
「姉上?」
「そ、そんなわけありませんわ! ワタクシがサトゥーの事を好きなんて、そんな事は絶対にありえませんもの!」

 やはり、こう言うタイプは率直に聞くと自爆してくれると思った。「はい」って答えられたら少し困ったが、そこでしおらしくなるタイプなら、こんなに邪険にはしていない。

「オリオン様、そういう訳ですので、私達が恋仲という噂は事実無根です。カリナ様には家格の釣りあう由緒正しい大貴族の子弟が相応しいでしょう」
「う、うむ、士爵が身の程を弁えた人物で良かった。今後とも宜しく頼む」
「はい、こちらこそよしなに」

 つまり、オリオン君は、成り上がり貴族は自分の身内とは釣り合わないと釘を刺しに来たのだろう。シスコンを拗らせない事を祈りたい。このオリオン君だが、リーングランデ嬢やセーラとは異腹の公爵令嬢と婚約しているらしい。相手はまだ7歳らしいので、結婚自体は先の話だそうだ。





 午後は、公爵城の飛空艇整備工場で、例の空力機関の解体をするそうなので、見学に訪れた。

 整備工場に行く途中で、前に見た絵の中の人物が動く風景画を見に行ったのだが、日替わりなのか、違う絵が掛かっていたので見れなかった。他の美術品の手入れをしていたメイドさんに、尋ねてみたのだが、そんな絵は知らないと怪訝な目で見られてしまった。そういえば、前にお茶会で話題に出した時も、ホラ話扱いされてしまった。寝ぼけて見間違えたのだろうか。不思議な話だ。

 整備工場は、何時になく人が多かったので、近くでは見れなかった。仕方ないので、少し離れた脚立の上から「望遠」スキルで見学した。空力機関は、空冷のラジエーターみたいなフィンが並べられたものだった。

 フィンの部分が、怪魚(エアフィッシュ)の素材で作られているらしい。そのフィンに魔力と空気を送り込むことで、浮力が発生するのだそうだ。
 熱気球的なものでは無いらしいので、オレの知ってる物理法則には無い仕組みだ。

 ストレージを調べたら、王子を廃人にしていた寄生虫型の魔物の何匹かが、フィンに利用できる部位を持っていたので、深夜の迷宮に潜って、解体作業を行った。そのまま利用できるものでは無いので、ボルエナンの森までの旅路の間に加工しよう。

 前に森を開拓した時の木材があったので、馬車ごと乗れるような、箱舟を作っておいた。将来的には、この箱舟に空力機関を搭載しようと思う。空力機関が完成するまでは、「理力の手(マジック・ハンド)」で持ち運ぶのもアリかもしれない。

 しかし、ここを利用できるのも今日までか。実に便利なので、このまま公都に住み着きたいくらいだ。





 翌日、前伯爵さん夫妻や使用人の皆さんに見送られて公都を旅立った。

 カリナ嬢が付いてきたそうにしていたが、ニナさんへ届ける大量の書類や手紙を預けたので、しぶしぶ男爵領に戻るのを承諾してくれた。書類の中には、ムーノ市のゲルト料理長に宛てた調理のレシピ集もある。必要な材料は、先行して送っておいた食料便に混ぜておいたので大丈夫だろう。
 他にもゾトル卿やハウト宛に鋳造魔剣を用意したのを預けた。流体操作系の魔法が手に入ってから作ったので、闇オークションで作ったのとはまったく違う構造の剣になっている。剣の外見自体も、ポチ達用に作ったのと同じ丸みを帯びた独特の形状にしてある。しゃもじを剣の長さまで伸ばしたような形状といえば想像できるだろうか? 一応、先端は突きの為に逆向きのRをかけて尖らせてある。ナナシでは無くサトゥー・ペンドラゴンの銘だ。
 それとメイドの纏め役のピナに帰りの路銀をこっそり渡しておいた。前に聞いたら、往路で商人の護衛をしたお陰で納屋で寝ずに済んだとか、年頃の娘さんとは思えない発言をしていたので、復路ではもう少しマシな旅をして欲しい。

 船が出港し始めた頃になって、セーラ嬢が見送りに来てくれた。今生の別れみたいに泣きながら手を振るのは止めて下さい。少し気恥ずかしいです。

 船で1昼夜過ごし、途中にあった人口1万弱の街で下船した。そこからは久々の馬車の旅だ。ボルエナンの森までは、同規模の町が一つある他は、村落が幾つかあるだけらしい。人跡未踏じゃないだけマシだと思おう。

 さあ行こう、エルフの森へ。
 微妙に打ち切りENDっぽいですが、幕間を2~3話挟んで、9章が始まります。

※カリナの弟の名前を修正しました。
※ポチ達の剣の形状について少し加筆しました。
※8/12 改稿しました。
  ⇒ ナナシの報酬を魔法金属に変更
  ⇒ 短角について勇者パーティーと意見交換。
  ⇒ 通信機を受け取る理由を変更
※8/13 加筆しました。
  ⇒ 通信機と一緒に時計を受け取るように変更

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