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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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8-25.公都の夜に別れを

※9/15 誤字修正しました。

 サトゥーです。敵陣に潜入して、囚われの仲間や恋人を助ける。映画なんかでは定番のシーンですが、なかなか現実にはないものです。ですが、異世界ではありふれているようで……。





「やふー、ひ・さ・び・さのカラ揚げだー」
「やった~?」「カラ揚げなのです~」

 アリサは自分の皿の上に乗ったカラ揚げを見て歓喜している。
 ここ1週間ほど、揚げ物を禁止していたからな。アリサの年齢を忘れてて、ダイエットの効果が出すぎたので、間食と過食だけを禁止する方針に変えた。もちろん、アリサには計算を間違えたとは言ってない。少し緩めるとだけ伝えてある。

 ミーアの分はタケノコの炊き込みご飯と野菜の煮物だ。タケノコは、食竹(くいたけ)という見た目が青竹なのに普通にタケノコみたいに食べれる不思議(ファンタジー)食材だ。できれば灰汁抜きも不要だったらよかったのだが、そこまで甘くなかった。

「あり? 何のカラ揚げ? トリじゃないしブタじゃないし。確かに食べたことがあるんだけど、思い出せない~」

 アリサが1個目をモニュモニュと咀嚼している間に、獣娘3人が御代わりを要求してきたので、保温の魔法道具から取り出した「クジラ」のカラ揚げを皿に入れてやる。

 たくさん、あるから好きなだけお食べ。

 あんなにあるとは計算外だった。出所が出所だけに、ヘタにクジラ肉祭りとかを開催するわけには行かないのがもったいない。

 もう少し前に手に入れていたら、ムーノ男爵領への運搬を考えたのだが、ムーノ男爵領の食事事情は、既に改善済みだ。正確には手配済みと言うべきか。

 お茶会で少し話題を振ったところ、お喋りな婦人から、丁度、そういった品物をだぶ付かせて困っていた貴族を紹介してもらえた。そのお陰で、古米や魚の干物、漬物などを大量に、そして安く仕入れられた。現在、ムーノ男爵領まで運搬中だ。量が量だったので、護衛の傭兵を付ける事になった。公都の有力者であるシーメン子爵の紹介なので、間違いないだろう。

 閑話休題。
 モニュモニュと咀嚼し続けていたアリサが、ようやく何の肉か思い当たったようだ。

「わかった、鯨でしょ!」

 さすが、アリサ。

「昔、給食で大和煮とか竜田揚げとか出たわ~ でも、よく鯨の肉なんて手に入ったわね」
「ああ、丁度入荷していてね」

 そう、アリサは大怪魚を見ていない。なので、大怪魚=クジラとは気が付いていない。世の中知らない方がいい事だってあるのだ。

「ハンバーグも最強だけど、クジラのから揚げはもっと強いのです!」
「うみゃ~」

 タマが名古屋の人みたいな感想を言いながら、カラ揚げを頬張っている。口に合ったようでよかった。

「ご主人さま、この肉は高価なものでは無いのですか? 一噛み毎に力が湧いてくる様な気がします」

 そうかな、先々日に先行して毒見をした限り、そんな事はなかったんだが、リザなりの美味しさの表現なのかもしれない。

「ひとくちごとに~」「ニクワキーチーオドリグイなのです」

 うん、ポチ。気に入ったのは判ったから落ち着いて食べよう。肉が沸くとか怖いことを言わないで欲しい。
 昔ゲームで見た肉人とか思い出してしまったじゃないか。

「実に美味です。ポチ、タマ、そのカラアゲは私が確保していた物です。その両手のフォークに刺した2つで満足しなさい。ああ、ナナ、そんな無造作に飲み込まず、もっと味わってください。ルル、遠慮していると食べ損ないますよ、もっと食べなさい」

 それからリザ、落ち着け。

 みんなの御代わりが激しすぎて、落ち着いて食べれないので、保温の魔法道具から大皿に移したのは失敗だったかもしれない。

 タケノコご飯とクジラのカラアゲが良く合うのがいけないんだ。

「うー、サトゥー」

 拗ねたミーアに新しいスイーツを作ることを約束させられたが、まあ仕方ないだろう。もっと肉以外の料理を開拓しないといけないな。

 カリナ嬢達にも振舞おうと思ったのだが、弟君との約束があるとかで出かけている。
 明後日の朝には公都を出発する予定なので、明日の晩は少しご馳走を作ろうかな。





 闇オークションは、最終日という事もあって異様な熱気に包まれている。

 今日は亡国の王女とやらが出品されるとか言っていたから、それが原因かもしれない。人身売買が普通の商品と並んでいる事実をあっさり受け入れられるようになったのは、少しこの世界に毒されている気がする。

 このオークション会場は、劇場くらいの広さがあり、1階に一般の入札者の座席が並び、2階にボックス席のような貴賓席がある。前回、代理人を務めてくれた青年が気を利かせて貴賓席を1つ確保していてくれたので、今日はゆったりと出品や落札ができる。さすが、代理人やるような人間は気配りがいいね。こんなサービスをされたら、自分がVIPなんじゃないかと勘違いしそうだよ。

 オレの鋳造魔剣は最初の方の出品だったので、すぐさま落札された。冗談で10本セットの販売とかにしてみたのだが、そのまま売れてしまっている。買ってくれたのは、注文していた軍務主計官の人だ。鋳造魔剣は前回と同じく、ナナシ作の銘を空欄にしたものだ。剣の形は、公都で一番人気の鋭角的なフォルムの片手剣だ。

 実は鋳造魔剣はこの10本だけじゃなく、他にもバラで10本ほど出品している。片手剣だけじゃ無く槍や鋳造魔斧槍(マジック・ハルバード)も混ぜてある。前に、軍務主計官の人にセリ負けていた人がいたので追加しておいた。他には、前回と同じ薬品も3倍の数を出品してある。

 代理人が優秀だからほどなく売れるだろう。

 珍しい出品物としては、「祝福の宝珠(ギフト・オーブ)」というのがあった。

 なんでも使用者にスキルを与えてくれるモノらしい。今回出品されたのは「火魔法の祝福の宝珠(ギフト・オーブ)」だった。壮絶な競り合いの末に最終的に金貨200枚で落札されていた。

 代理人の話だと、魔法の祝福の宝珠(ギフト・オーブ)はいつも高値になるらしい。出所は迷宮都市で、年に5個ほど出回るらしい。祝福の宝珠(ギフト・オーブ)自体、使わずに保管すると10年ほどで効力を失ってしまうらしい。

 詠唱の祝福の宝珠(ギフト・オーブ)を所蔵している人間に心当たりが無いか聞いて見たが、知らないそうだ。怪しまれたり値を吊り上げられても困るので、「詠唱」をピンポイントには聞いていない。5~6種類ほどのスキルを上げて聞いてみた。

 意外な事に「飛空艇の空力機関」の入札は、あまり盛り上がらなかった。

 デキレースと言うと聞こえは悪いが、こういった品物を欲しがる有力貴族達の間で根回しがされていたようだ。

 もちろん、オレも入札していない。

 この間、公爵城の飛空艇の整備工場を見学させて貰った時に仲良くなった工場長さんが、近日中に壊れた空力機関の整備があるから今の内に休むとか言っていた。おそらく、コレの事だろう。明日は出発準備があるが、一度顔を出して、バラしている所が見れないか尋ねてみよう。

 オレが一番狙っていた「古代語の研究書」は、予想のナナメ上を行っていた。

 どう見ても文庫本の半分ほどのサイズのノートだ。恐らく歴代の転移者が持ち込んだものだろう。代理人には金貨40枚までで入札しろと言っていたのだが、上限を300枚まで上げた。これで中身が自作の詩集とか恨みノートとかだったら泣ける。

 自棄に張り合ってくるヤツが居たお陰で、値段が自棄に吊りあがってしまった。もし、ヤツがいなかったら金貨10枚ほどで落札できたのに、最終的に金貨114枚も掛かってしまった。

 入札していたヤツを代理人に教えて貰ったので見てみたら、知り合いだった。
 なにやってんの勇者。

 次に出品された、「黒い鑑定不能の板」で再び勇者との壮絶な入札合戦を覚悟したのだが、なぜか勇者からの入札が無かったので、金貨23枚で「スマホ」を購入できた。見た事も無い型の上に見知らぬメーカー名だが、たぶんスマホだろう。バッテリーが切れているのかスイッチを押しても電源が入らなかった。

 さきほどの「古代語の研究書」と同じ人間が持っていたのだろう。代理人に頼んで、入手経路や情報が買えないか交渉してもらった。情報量の上限は金貨10枚だ。






 そして、「亡国の王女」が出品された。9歳くらいの真っ白な幼女だった。

 タマの方が可愛いが、この子も十分可愛い。
 白い毛の虎人族(・・・)の元王女のようだ。そういえば虎人の国が、鼬人族の国に侵略されたとか言っていたからな。

 ようやく合点(がてん)が行った。

 それで、さっきから会場に侵入しようと獣人達が下水道に集結していたのか。一部の身軽な獣人は通気ダクトから侵入しているみたいだ。そちらに注意を払っている者がいないからいいが、視線が行ったら一発でばれそうだ。バランスを崩して落ちそうな栗鼠(りす)人族の少女を「理力の手(マジック・ハンド)」でこっそり押し戻してやる。

 入札は白熱し、金貨120枚まで上がっている。入札しているのは、どちらも人族だ。片方は公都の貴族のようだが、もう一人は聞いた事の無い王国の貴族のようだ。前者はわかり易い欲望に塗れた表情だからいいのだが、後者の目の血走り具合が怖い。何か恨みつらみでもありそうな感じだ。

 魔法の気配を感じたので、そちらに視線をやると、そこでは黒い玉を生み出している青年の姿があった。どうやら、あの玉で、この部屋の照明を消すらしい。

 会場の出口から「火事だー!」というお約束の声と白煙が流れ込む。ほどよくパニックになった所で、照明が消え、下水道から侵入した奪還チームが虎王女を助け出す。

 いいね~、なにか映画でも見てるみたいだ。

 警備の兵士に囲まれそうになっていたので、闇に紛れて、こっそり、「理力の手(マジック・ハンド)」で手助けをしておいた。さっきの他国の貴族が、火球の魔法詠唱を始めていたので、「理力の手(マジック・ハンド)」で適当な壷を叩き付けて昏倒させておいた。危ないヤツだな。

 虎王女の傍に「遠耳(クレアヒアリス)」を発動しておいたので、色々聞こえてくる。

>「白虎族語スキルを得た」

 しまった会話は母国語だったか。ちょっとポイントを割り振る。細かいニュアンスは脳内補完すればいいだろう。

『ルーニャ姫、お迎えに参上しました』
『ガルガオロン様、きっとわたしを助けに来てくれると信じておりました』
『ガルの兄貴、早く逃げないと』
『そうですよ、鼬共は兎も角、公都の警備兵が来たら絶対逃げれませんぜ』
『よし引き上げるぞ!』
『『応!』』

 聞き覚えのある声だったので暗闇の向こうを見ると、やはり見知った顔だった。あの時の白虎君とその取り巻きか。幼女を助けに来るような人間なのに、海驢(アシカ)人族の子供は足蹴にするのか。脱出も手伝ってやろうと思っていたが、何かその気が失せた。後は頑張れ。

 後日聞いた話では、何人かの虎人族が追跡部隊の手にかかって命を落としたらしいが、虎王女は無事逃げおおせたそうだ。それほど興味があったわけでは無いが、騒動に巻き込まれないようにマップで確認したところ、虎人の国があった方角ではなく、シガ王国の王都方面へと続く森林を移動していた。恐らく獣人の自治領を目指しているのだろう。オレ達の移動予定コースの逆向きだから、もう出会うことは無いはずだ。

 実は虎姫の後に、人族の元王女も出品される予定だったらしい。

 ただ、この騒動で闇オークションが中止になったため、公爵のお声掛りで公爵家の預かりとなったそうだ。詳しくは聞いていないが、メネア王女の婚約者のいた国の庶出の王女だったとの事だ。

 さて、異常なほど稼げたし、尾行を撒くついでに、夜の街を散策でもしよう。
 他意は無い、散歩するだけだ。

 お土産の飴玉セットまで買って帰ったのに、何故か夜遊びを責められた。

 すみません、書き漏らしたエピソードがあったので、もう1話追加しました。
 次回で公都編は終了の予定です。


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