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8-12.お茶会の日々

※9/1 誤字修正しました。



 サトゥーです。小さい頃に読んだ少女マンガでは、頻繁にお茶会をするシーンが描かれていましたが、現実では一度も見かけた事がありません。現代のお茶会は、ファミレスのドリンクバーなのかもしれませんね。





 あの舞踏会の翌日から、多忙な日々が始まった。


 予定していた工房見学のスケジュールはそのままに、貴族のお嬢様方からお茶会のお誘いを受けれるだけ受けて訪問している。

 もちろん、ローティーンの貴族の少女達が目的なのではない。もしそうなら、アリサを同行させたりしていないだろう。


 あの王子からは、意外に根に持ちそうな小物感を感じたので、今後も絡まれそうな気がしている。

 なので、何か変な陰謀に巻き込まれた時に、味方になってくれそうな人脈を増やそうとアリサに提案されたので、それに乗ったわけだ。


 お茶会には、クレープでは無く冷めても美味しいモノを選択した。薄いパンケーキに生クリームとグルリアンの粒餡や漉し餡をサンドした、洋風の餡巻きを作って持っていく事にした。餡巻きは、ムーノ市の新銘菓という触れ込みにしてある。レシピは、ムーノ男爵宛に手紙をしたためてカリナ嬢に預けてある。ゲルトさんならレシピの再現もできるだろう。ムーノ市で入手し辛い材料については、行商人を雇って配達を依頼してある。


 毎回、同じものを持っていくわけにもいかないので、オレとアリサの記憶からスイーツをメモに書き出して作れそうな品を試作して良さそうなモノを選んでいる。試作品の試食はアリサ達だけでなく、お世話になっているウォルゴック前伯爵一家にも頼んでいるのだが、なかなか好評だ。試食のし過ぎでアリサがポッチャリしてきたようなのが少し心配だ。


 お茶会には、カリナ嬢も連れていこうと思ったのだが、リザ達と修業に励んでいて取り付く島もなかった。せっかくカリナ嬢に貴族の友人を作ってもらおうと思ったのだが、なかなか上手くいかないものだ。

 カリナ嬢やリザ達の訓練には、トルマの紹介で軍の教練をやっていたアラサーの女性教官を雇ってある。闇雲に組み手をするよりは、修業になるだろう。オレも偶に見学させてもらっている。もちろん、カリナ嬢の特定部位ではなく、訓練の仕方をだ。


 お茶会の余禄として、見学を断られていた工房の見学の口利きをしてもらったり、お菓子のお礼に珍しい食材を分けてもらったりとなかなか想定外のメリットがあった。


 工房見学も順調に消化して、残りは巻物工房と結界柱工房の2箇所だけだ。

 昨日見学させてもらった、翠絹(かわせみきぬ)の工房は、子犬ほどもあるイモムシが吐く糸から絹糸を作っていた。このイモムシの吐く絹糸が名前の通り光の反射で翠がかっており、この糸で織った布は鉄製の鎖帷子並みの防刃性能があるらしい。

 こっそりAR表示で解析させてもらったところ、イモムシの餌に秘密があるようだ。主食は、普通の葉っぱだが、他にミスリル・スラグ――ミスリルを精錬した後に出る屑――を食べさせていた。翠絹の緑色の成分は、ミスリルなのかも知れない。同じ種類のイモムシは、森の奥地にそれなりに居るみたいだから、一度試してみるのもいいかもしれない。





「へ~、なかなか良い席ね」

「そうだな、闘技場の一般席の混み方を見ると、貴賓席は天国だな」


 せっかく貴賓席を確保してもらっているのに一度も使わないのは悪いので、今日は初めて利用させてもらっている。闘技場は予想より広く、東京ドームの倍くらいはあるだろう。集団での馬上試合を開催する事もあるので、それなりの広さが必要なのだろう。

 本来なら貴賓席付きの使用人が付くらしいのだが、自前の使用人がいるから、と言って断った。


「マスター、狙撃対象を確認しました。許可を」

「ダメ」

「再考を要求します」


 ナナの視線を追うと、闘技場に入場してきた選手の片方だった。

 ああ、前にアシカ人族の子供を蹴っていたヤツらの兄貴分みたいな白い虎人族の男だ。いや、あいつ自身はオレに斬りかかっただけで、子供には何もしていないだろう?


 対戦相手は人族で、タンという美味しそうな名前の探索者の魔法剣士だ。オレと同じミスリルの剣とバックラーのような小盾を持っている。本戦出場枠をかけた試合だけあって、双方レベルが高い。タン氏が42レベル、白虎人が37レベルだ。戦いの水準(レベル)も高いのを期待したい。


「う~ん、この距離だとステータスが見えないわね。前評判だと魔法が使えるタンの方が勝ちそうよね」

「アリサ、そうとも言えません。白虎殿の巨躯に加え、あの巨大な大剣の間合いと威力は侮れません。虎人族は、素早さと力強さを兼ね備えた武闘派の種族です。魔法を使わせてもらえるかで、勝負の行方が決まるでしょう」


 おお、リザが饒舌だ。

 白虎君の武器は、リザと同じような魔物の部位を使った大剣だ。攻撃力はリザの槍に劣る。前から少し疑問だったのだが、リザの槍は即席で作ったにしては強力過ぎる気がしてならない。素材がレアだったのか、場所がレアだったのか、その両方だったのかもしれない。


「サトゥー、あ~ん」


 ミーアが両手に抱えていたおやつの1つをオレの口に入れてくれる。

 これは、細いスティック状のアメかな? この公都は砂糖が安い、ここの砂糖は黒砂糖だ。クハノウ伯領の街で買ったウギ砂糖の半額くらいだ。大河の下流でサトウキビを栽培しているので安価らしい。それでも市民に手が出せる価格ではなかったりする。


「どうしたんだ、これ?」

「買った」

「貴賓席向けに売り子の方が来ていたんです」


 ミーアの小遣いの使い道は飲食関係ばかりだな。

 ルルに続いてポチとタマも帰ってきた。


「タコ串~」

「イカ串も買ってもらったのです」


 2人とも両手に3本ずつ持っている。ちゃんと皆の分もあるらしく、1本ずつ配っていっている。


 そろそろ試合が始まるみたいだ。


 あ、目が合った。

 闘技場の白虎人が、大剣をこちらに向けて伸ばして睨み付けてくる。よく覚えているもんだ。本戦に出場できた亜人はいないそうだから、是非とも頑張ってほしい。


 闘技場の中央付近に1メートルほどの円が50メートルほど離れた場所に2つ描いてあり、それぞれに対戦者が入る事で試合開始の合図が出るらしい。魔法自体は使用が禁止されている訳ではないが、あくまで「武闘大会」なので、遠距離から魔法で一撃で倒すとかは反則になるらしい。


 2人が円の中に入ったところで、係員が開幕を知らせる角笛を吹く。


「白い人が突撃したのです!」

「むぐむぐ~」

「タマちゃん、食べ終わってから喋りましょうね」


 ポチが食べ終わった串を振りながら解説し、タマは口の中を一杯にしたまま何か言って、ルルに怒られている。


「人族の方はバフ系の魔法で強化してから戦うみたいね」

「牽制」

「ん~、あの大剣だったら、ヘタな牽制くらい切り裂いて突っ込んでくるんじゃないかな~」

「膨張」

「あの体重と速度なら止められるか微妙ね」

「むぅ」


 アリサとミーアは、魔法使いとしての視点からの考察みたいだ。


 お、魔法剣士は水系の身体強化みたいだ。3秒で唱え終わったみたいだが、あの呪文は普通に唱えたら倍くらい時間が掛かるはずなんだが、標準の呪文よりも詠唱が短くなるようにアレンジしてあるみたいだな。あとは「詠唱短縮」のスキルのお陰だろう。


「ご主人様、ごーっと来て、ガツンとあたったのです」

「リザなら勝てる~?」

「むざむざ殺られるつもりはありませんが、真正面からでは、ちょっと勝てる気がしませんね」


 ポチとタマがエキサイトしすぎているので、リザの両脇に縫いぐるみみたいに抱えられている。2人は抱えられた状態でも気にせずに、グリングリンと顔を動かして観戦している。振り回している尻尾と腕が千切れそうだ。


「う~ん、凄いわね、あの大剣を捌きながら呪文の詠唱を一度もしくじってないわよ」

「冷静沈着」


 ミーアの買ってきたお菓子をボリボリ食べながら魔法剣士の闘い方を観察している2人。こぼれた菓子屑は、ルルが丁寧に掃除してあげている。


「マスター、私もあのような動きができるのでしょうか?」

「身体強化を上手く使えばできるんじゃないかな。カリナ様も、似たような動きをしていただろう?」

「タマならできる~」

「ポチも頑張るのです!」


 2人の戦いは、一見、白虎さんが優勢に見えるが、有効打が全て防がれている。魔法剣士は防戦一方だが、徐々に強化魔法(バフ)が揃ってきている。あとは纏わり付く霧(ステッキーミスト)あたりで、白虎の動きを遅くすれば勝負アリだろう。


 そのまま予想通りの展開で、魔法剣士の勝ちで勝負は終わった。ただ、白虎の動きを遅くしたのは、水魔法ではなく、雷の魔法付与(エンチャント)を武器に付与した一撃による麻痺だった。


 その後も3試合ほど行われたが、戦士同士の地味な立会いだったのでミーアとアリサの2人は、早々に飽きて寝落ちしてしまった。玄人好みだったらしく、年配の観客が野太い声援を送っていた。


「あのハカマでしたか? あの装備は素晴らしいですね。あれほど足運びが隠せるとは思いませんでした」


 リザが先ほどの試合に出ていた和装の美女の事をしきりに褒めている。

 地面に下ろしてもらったポチとタマが、2人して羽織袴の剣士の真似をしていたが、上手くできないようだ。羽織袴の人は黒髪だったが、特に日本人とかではないらしい。

 靴を脱いで足運びを実演してみせる。前にマンガで読んだ記憶なので、正しいかは自信が無い。


「ナメクジみたい~?」

「ヌルヌルと近づいていたのです! 拙者ナメクジでござる~」


 上手く足運びができなかったポチが床に寝そべって、尺取虫のようにクイクイと動いている。それは「ナメクジじゃない」と突っ込んであげるべきなのだろうか?


「ポチちゃん、せっかくの余所行きで、床に転がった悪い子は誰かしらっ!」

「あ、あう、違うのです。ルル、これは違うのです」

「何が違うの? 悪いことをしたら?」

「ごめんなさいなのです」

「ポチ、反省~」


 しまった、怒るところだったのか。ポチが反省のポーズをして謝る。

 タマはちゃっかりと、ルルに便乗して怒る側に回っている。今、しゃがむ寸前だったよね? オレの目と合うと、タマがワタワタと慌てた後に、ポチと同じ「反省」のポーズをしていた。





「マスター、飛空艇に幼生体が産まれています。アリサ、至急、あの形のクッションの作成を!」

「え~、またぁ~。もう飽きた~、やり方を教えてあげるから自分で作りなよ」

「妙案です。アリサ、指南をお願いします」


 ナナの指差す先には、小型の飛空艇が停泊している。王都からやってきた高速艇だ。乗っているのは国王――ではなく、その影武者さんだ。一緒に来ている大臣2名は、本物のようだ。


 ナナが裁縫を覚えたら、馬車が縫いぐるみで一杯になりそうな予感がする。

 アリサがナナに裁縫を覚えさせようとする横で、オレは鎧井守の皮と翠絹を使った革鎧と靴を作成していた。魔法剣士が着ていた鎧が、魔物の素材製で対衝撃や防刃性能が普通の鋼鉄の鎧より性能が高かったのを見て真似しようと思ったからだ。翠絹を裏地に使ったせいか「裁縫スキル」を取得できた。スキルを最大にして、皆のインナーを作ろう。


 そういえば、たしか盗賊のアジトで手に入れたユリハ繊維とかいう素材の服もあったな。これを加工してアリサとミーアのローブに仕立て直すか。

 その日の晩、夜なべして皆の装備と、ポチ達の新しい靴を作った。


 御伽噺の妖精さんにでもなった気分だ。



 インナーと言っても下着ではありません。服や鎧の下に着る薄手のシャツや短パンもしくはズボンです。


 翠絹(かわせみきぬ)は、正式には「かわせみきぬ」ですが、「みどりきぬ」という呼び方もされているようです。

 故ヤマトさんが、名付けたという逸話がありますが、作中にでる予定はありません。


※感想の返信について

 感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。


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― 新着の感想 ―
ナナさんが可愛い過ぎる! やたらと幼生体(赤ちゃん)に執着するのは、やはり母を知らないホムンクルスだから、自らが得られなかった母性・母親の愛を刺激する幼い存在に人一倍感じているからなのか… もしも生…
[良い点] ポチはやっぱり可愛いなぁ、可愛いなぁ(大事な事なので二度言いました
[一言] 「お茶会のお誘いを受けれるだけ受けて訪問」 →「お茶会の誘いを受けられるだけ受けて訪問」
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