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8-10.公爵城へ

※2/11 誤字修正しました。



 サトゥーです。学生時代によく通っていたお店のCMで「食は万里を超える」という素敵なキャッチフレーズがありました。どうやら万里どころか世界も超えてしまうようです。





 どうして、こうなった。


「士爵様、エビの殻剥き終わりました」

「あ、違うんです、これで一度(ふるい)に掛けてください」

「本当にこんな葉っぱを使うんですか?」

「はい、大葉は水にさらしておいてください」


 公爵城の厨房で、オレとルルは公爵家の料理人たちと必死でテンプラを作る羽目になっていた。


 それは数時間前の事だ――。





「士爵様、公爵様から使者の方がいらしてます」


 微笑ましいモノを見たような表情で、シェルナさんが告げる。

 居間で舞踏会の衣装合わせという名目で、オレはアリサ達の着せ替え人形の様に、オモチャにされていた。


「何か約束でもしてましたっけ?」

「いえ、本日の予定は、夕方から開催されるお城での舞踏会のみです」


 寸法合わせの余禄にペタペタ触ってたアリサを剥がして、ルルが渡してくれたローブに着替える。リザが鏡を見せてくれたが髪は乱れてなかったのでそのまま使者の待つ部屋へ行く。


 その部屋で待っていたのは、先日、公爵城で会った執政官補佐さん――ではなく、その後ろに控えていた秘書っぽい男性だった。彼が言うには内密に公爵が会いたがっているそうだ。


 内密に。


 となると、やっぱり、昨日の王子との一件だろう。

 まさかと思うがセーラ嬢の事じゃないはずだ。リーングランデ嬢が誤解して騒いでいたとはいえ、彼女はテニオンの巫女だ。名前もセーラ・オーユゴックではなく「セーラ」となっていたから、いわゆる出家して神殿に入っているのだろう。そんな彼女に言い寄ったからといって結婚できるはずもない。それ以前に、手を出す気も無いしね。


 念のため使者さんに内容を聞いたが、やはり詳しいことは知らないようだった。

 とりあえず、アリサを従者にして城へと向かう。


「アリサ」

「何? 似合うでしょ? 存分に褒めていいのよ~」


 ムーノ城のメイドさん達の正装とそっくりなメイド服だ。金髪のカツラも只のツインテールではなく、ゆるい縦ロールが掛かっている。このあいだヘアアイロンっぽい魔法道具を作れと強請ってきたのはコレがやりたかったからなのか。


「ああ、カワイイ、カワイイ。でも、登城するからコレは外しておいてくれ」


 アリサが、隷属の首輪をわざわざ付けていたので外すように言う。最近は付けていなかったはずなのに、どうした?


「メイド服に付けると背徳感急上昇で押し倒したくならない?」

「ならない」


 即答すると、「ちえー」とか不平の声を上げて首輪を外した。

 まったく、使者の人が別の馬車で良かったよ。





「レオンからの手紙に書いてあったが、卿は剣技や魔術だけでなく、料理にも秀でていると聞いた」


 レオンって誰だっけ。

 そうそう、たしかムーノ男爵の名前だった。あの人、手紙に何を書いてるかな。

 公爵と面会しているのは、先日の部屋だ。今日は隠れた護衛だけではなく、リーングランデ嬢も同室している。


「ふーん、昨日の剣技もなかなかだったけど、魔法も使えるのね。今度、指南するときは魔術と剣術の複合技を――」

「リーン」

「あら、ごめんなさい、お爺様」


 シェルナさん情報だと公爵は、孫のリーングランデ嬢に対して甘々らしい。

 おまけ情報で、「自由の翼」にセーラを誘拐させていた公爵三男は、尖塔の一つに療養と称して軟禁中らしい。

 マップで確認した範囲では、ボビーノ伯爵邸に匿われている貴族出の「自由の翼」の構成員以外は、市外に逃れた数名を除いて城の地下牢に投獄されている。


「そこでだ、今晩の舞踏会で卿の料理の腕を披露してほしいのだ」

「男爵様がどのように紹介されたかは存じませんが、私の得意なのは庶民的なものばかりで、あまり高級な料理は――」

「そういえばセーラも褒めてたわね、あなた、いつも料理で取り入っているんじゃないでしょうね」

「リーン。客人に絡むために臨席したのなら席を外せ」

「ごめんなさい、お爺様、つい」


 公爵には頭が上がらないのかショボンとしている。


「なにも宴席に出す全ての料理を作れというわけではない。レオンの書いていたテンプラという料理だけでも構わん」

「では不肖の身ながら、公爵様の期待に沿いたいと思います」


 昨日の第三王子の件には触れられなかったが、公爵の心証を良くしておいた方がいいだろう。味方になってもらえるとは思わないが、敵にはならないでいてほしい。

 第三王子の矛先がオレに向かうなら良いが、仲間の方に向かわれると困るからな。





「ちょいと、旦那ぁ、あっしにパーチィーを盛り上げるいい案があるんでさぁ」


 アリサ、なぜ小物感を出して言う。


「普通に言え」

「いいじゃない、ちょっとくらい」


 アリサの提案を纏めると、料理マンガに出てきた料理やアイデアを模倣しようという事だった。そのアイデアの中から実現できそうな案と料理をピックアップして実行する事に決めた。

 メイドさんの案内で訪れた厨房は、今晩の為の下ごしらえをする人たちで戦場のようになっていた。


「おう、アンタ、いや、え~っと、アナタ様が奇跡の料理人ってご大層な二つ名持ちの貴族様だな、ですか?」


 そんな二つ名は初耳です。

 それにしても、無理やりな敬語だ。


「すみません、うちの親方は、料理の腕は確かなんですが、言葉遣いが悪くて、敬語が碌に話せないんです」


 なるほど。


「はじめまして、サトゥー・ペンドラゴンと申します。敬語が苦手なら普通に話していただいて結構ですよ」


 オレがそう告げると料理長とそのフォロー役の料理人の男性が、あからさまにほっとした顔をする。


「そいつあ、すまないな。グルリアンの太守ん所の料理長とは昔なじみでね。アンタの事を散々褒めちぎった手紙を送ってきてたよ」


 ああ、あの人ですか。晩餐会の次の日から暇を見つけては、ソースの作り方や色々な技法を教えてもらったっけ。


「ここを使ってくれ、少し手狭だが、一通りの調理器具はある。2人ほど雑用係を付けるから食材の用意なんかはこいつらに言ってくれ」

「はい、何から何までありがとうございます」


 館に使いを出してルルを呼びに行ってもらった。最近のルルの調理の腕は本職並みなので、オレの調理法を知っているルルが居てくれると助かるからだ。





 用意した料理は3つ。


 1つは公爵のリクエストの天ぷら。この世界の揚げ物は動物性の油を使う事が多いようだが、体に悪そうなのでサラダ油っぽい植物性の油で揚げてある。大河で輸送できるからか、公爵城の食材置き場にはカツオ節が存在したので、いつもより美味しい天つゆができた。

 半数は揚げて並べておき、残り半分は、ルルや給仕補助に付けてもらった2人に、その場で揚げてもらい、揚げたてを食べてもらうという趣向にしてみた。


 2つめは、煮凝(にこご)りだ。庶民の料理としては存在していたのだが、貴族の食卓には並ばない種類のものらしい。アリサの提案で、カラフルな食材を使う事で色鮮やかに、思わず手に取りたくなる見た目にしてみた。


 カラフルなのには、もう一つ意味があり――


「ほう、料理で我が公爵家の紋章を描くとは天晴れだ」


 受けた様でなにより。

 ただ、家紋にしてしまったため、みな遠巻きに感心するだけで誰も手を出さない。


 壮年の紳士を連れたリーングランデ嬢が「美味しそう」と言って手を出さなかったら、最後まで誰も食べなかったかも知れない。図案はもう少し考えた方が良かったな。


「ふむ、初めて食べる味だが、王祖の時代の失われた料理にあるゼリーというもののようだな。実に美味だ」

「本当ですわね。この魚の物も美味しいけど、こちらの赤い物も美味しい……く、幾ら美味しくてもセーラはダメよ」


 この人も大概しつこいな。


「ほう、彼がリーンの言っていた人物か」

「はじめてお目にかかります。サトゥー・ペンドラゴンと申します」

「おお、ムーノ市防衛戦の英雄殿か。トルマが散々自慢しに来ていたよ。グルリアンでも活躍したそうじゃないか」


 この紳士は、リーングランデ嬢の父親で、次期公爵さんだ。

 それにしてもトルマが原因か。誰が英雄だ。テーブルの陰でしゃがみ込んでいたアリサが「ロビー活動とはやるわねトルマ」とか小声で呟いている。ちゃっかり小皿に料理を確保して楽しんでいるみたいだ。


「セーラは、優しい良い子だが貴族の生活に向いてないのだよ。それに今は公爵家を離れて神殿に籍を置いている。あの子を還俗させたければ、まずテニオン神殿の聖女様を口説きたまえ」

「私がセーラ様に言い寄っているというのは、リーングランデ様の誤解なのです――」


 次期公爵さんの方は、普通に弁解するだけで誤解は解けた。リーングランデ嬢も見習ってほしいものだ。


「ほう、辺境の英雄から使用人に鞍替えしたのか?」


 そんな嫌味な言い方で現れたのは、貴公子然とした衣装の第三王子だった。今日は壮年の聖騎士だけで、戦闘狂の少年はいないようだ。


 わざわざ寄ってこなくていいのに、困ったものだ。





※7/21 料理長との会話を変更しました。

 カリナの事は忘れてませんよ?

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この糞第三王子はサトゥー唯一の地雷を踏みそうだな。 サトゥーの地雷は単純だ、「仲間を傷つける奴は許さん」
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