8-7.夜間訓練
※2/11 誤字修正しました。
サトゥーです。最近はオンライン上にセーブデータがある上に自動で保存されるので、昔のようにリセット技が使えなくなって、少し寂しく感じます。リセットって、何かいいですよね。
◇
「どういう事だ? まさかリセットできるのか?」
「できるわよ? 言ってなかった?」
勿論初耳だ。
スキルポイントは盛大に余っているが、レベルアップの目処が立っていない以上はリセットの有無は重要だろう。
「どうやるんだ?」
「スキルリストにある『リセット』を取得して実行するのよ。ユニークやギフト以外のスキルを、全てポイントに戻してくれるの」
なんて便利な。
そしてなんて理不尽な。リストから選べないオレには縁のないスキルなわけだ。
「ちょっと、そんな顔しないでよ」
相変わらず無表情スキルをモノともしないヤツだ。
「リセットって言っても万能じゃないんだからさ」
万能だったら、それこそ戦うシーン毎にスキル構成を変更できるじゃないか。そういえば「エスパー瀬野たん」とかいうアニメでも似たような事をしてたな。
「1回使うと5~20%のスキルポイントがロストするのよ。それも回復手段無しで」
オレが使えるとしても155~620ポイントもロストするのか、代償が大きすぎるな。アリサがこれまで使わなかったのも分かる。
「あとね、コレを使いたくない理由があるんだ~」
何かと聞いたら「超、痛い」と答えられた。
なら、こんな場所でリセットしたら近所迷惑だな。鎮痛剤を用意しようとしたんだが、サガ勇者情報で、薬を使うとロストするポイントが増えた記録があったそうだ。
「騒いでも大丈夫な場所に心当たりない?」
「ちょっと待て」
覚えたての風魔法、密談空間を発動する。
これで、数時間は外に音が漏れることは無い。
「密談空間の魔法を使った。これで音が漏れることは無い」
「なら、エッチな事もし放題ね」
「解除するぞ?」
アリサのやつは本当にブレないな。
◇
憔悴するアリサを膝枕で寝かせる。
リセットスキルを実行する時に、アリサの希望で膝の上にダッコして抱きしめていたのだが、絶叫だけでなく背中に爪を立てて、腕の中で暴れまわっていた。紫色の髪が白く脱色してしまわないか心配したが、杞憂だった。リセットが終わると同時に力が抜けて気を失ってしまったので、膝枕してソファーに寝かせたのだが……。
「アリサ、セクハラするなら膝枕を止めるぞ?」
アレだけ痛がっていたくせにタフなものだ。寝返りを打つふりをしながら微妙なポジションに移動しようとするくらいだ。
「それで、上手くいったのか?」
「ま~ね、ちょいポイントが足りなかったけど、精神魔法と光魔法の代わりに、空間魔法レベル6をゲットしたわよ」
やり遂げた感のアリサだが、先に釘を刺しておかなくては。
「アリサ、命令だ。緊急時以外の風呂場への乱入や着替えを覗くのは禁止する」
「ぐはっ、せめて、せめて現行犯で捕まえてからにしてよ。乙女のちょっとした御褒美があ~~」
やはり考えていたのか。
◇
思う存分魔法が使いたいというアリサの要望を受けて、地下の迷宮跡地へ向かう。出かける事はリザに伝えておいた。
本来の転移装置やオレが掘った縦穴のある場所には、公爵の配下が張り込みをしているので、別の場所から地下迷宮への通路を作る。
「王様の耳はロバの耳」
気持ちはわかるが、巡回中の警備兵がいたらどうする。もちろん、いないけどさ。
「バカな事やってないで行くぞ」
アリサを抱えて下に下りる。繋がっている先は、魔王と戦ったフロアではなく、別の場所だ。
「はあ、死ぬかと思った」
失礼な。ちゃんと速度調節したのに。
ここだと大きい魔法を使って地上に影響がでたら怖いので、3層ほど下に潜る。
「ここって、何なの? 迷宮っぽいけど、魔物も居ないし」
「迷宮の遺跡だよ」
「へ~、本当に魔王でも出そうね」
ん?
何を言っている?
「昨日言ったろ? 魔族狩りのついでに、ポップしてた魔王を一緒に退治したって」
アリサも「おつ~」とか「アンタも大変ね~」とか言ってた癖に。
「え、マジだったの?」
「大マジ」
「うそ~ うそよ、本当なら称号が『真の勇者』になるはずじゃない!」
よく知ってるな。
せっかくなので、ナナシ勇者スタイルになって称号を「真の勇者」にする。カツラの補充をしていないので、黒髪のままだ。今度買いに行かねば。
「うあ、本当だ。どーやって倒したの? って聖剣に決まってるか」
実際に止めを刺したのはガラティーンだが、一番活躍したのはデュランダルなので、それを見せてやる。
返そうとしてくるアリサに、そのまま持っているように告げた。
「もう魔王は倒したし、アリサに預けるよ。他にも武器は沢山あるから、大丈夫だ」
何かあった時の保険に、1本くらいアリサに預けようと思ったのだが、アリサは違う解釈をしたのか必死に俺に詰め寄ってきた。
「まさか、神様から送還のオファーが来たんじゃないでしょうね」
なんの事やら。
「勇者が魔王を倒して『真の勇者』になったら、送還されるかこのまま勇者としてこの地に残るかを、神様に聞かれるらしいのよ。そこで『帰る』と答えたら、元いた世界に送り返されるっていう話なの」
「心配しなくていいよ、もし神様から元の世界帰るか聞かれても、当分はこちらにいるよ」
アリサやポチ達が、魔族に勝てるくらいに強くなってからじゃないと安心して元の世界に帰れない。
それに、普通の勇者召喚じゃない以上、本当にオレが元の世界に帰れるかわからないしな。もし、チャンスが1度と言われたら、オレ自身の代わりに家族に手紙を届けてもらおう。「元気だ」と書いておけば何となく許してくれそうな気がする。オレと違って暢気な家族だから大丈夫だろう。
「そ、それって……」
おっと、勘違いしたアリサが頬を染めているので、バカ話にしてしまおう。
「まだ、この世界の観光が終わってないからな」
「へっ?」
怒ったアリサにポカポカ叩かれたが、コレくらいは甘んじて受けよう。
◇
「何かレアドロップなかったの? 魔王核とか?」
本当にありそうだが、「魔王核」というのは存在しないらしい。
「大したモノは無かったよ。魔王の使っていた柳葉刀が2本あるんだけど巨大すぎて人間サイズだと使えない。それに1本は折れてるしね。他には、『自由の翼』の所持品らしき悪魔召喚の魔法書や例の短角を召喚するための特殊魔法陣とか、あとは雑多な小物だな」
貴族の持ち物だけあって、小物はそれなりの金額で売れそうなモノがあったが、盗難の疑いが掛けられそうなので、鋳潰して材料にさせてもらおう。
元々の回収目的だった短角も沢山あるが、わざわざ言うまでもないので省略した。
「悪魔召喚って、ケータイとかノートPC使うんじゃないでしょうね」
「ソレは無いよ」
ただ、魔王復活の儀式や、上級魔族の召喚方法なんかが載っているかなり危ない本なので、死蔵するつもりだ。焼いてもいいのだが、呪文の中身が他の魔法に応用できるかもしれないので取ってある。
初級魔法はアリサと一緒に試したが、中級以上はアリサと一緒だと危ないので、一人で別の巨大フロアに移動して試した。さすが、鍛冶用と違って本物の戦闘用の魔術だ。威力がシャレにならない。
街中だと、爆裂魔法の「爆縮」や威力が低めの光魔法の「光線」くらいしか使えそうに無い。トルマの実家で、もうちょい使い勝手のいい呪文を巻物にしてもらおう。
「おかえり」
迎えてくれたアリサは、床に敷いたクッションの上でぐったりとした姿勢だ。
さすがに疲労困憊状態のようだ。甘い匂いがしているから魔力回復薬を飲みながら魔法のテストをしていたんだろう。
「どんだけ激しい魔法使ってるのよ。迷宮が崩落するんじゃないかってビクビクしてたわよ」
おかしい。
かなり離れていた上に、覚えたての結界魔法で内壁を覆っていたのに。
「すまない、静音性が足りてなかったみたいだ」
「もういいわよ。もう、驚いてなんかあげないんだから」
つまり驚いていたわけか。
「それより、こういうの作ってくれない?」
アリサに頼まれて魔法書に書いてあった刻印板というのを作る。中級までの魔法書にある唯一の転移魔法に必要で、転移先の目印に使うものなのだそうだ。
「一人で貿易とかできそうだな」
「無茶言わないでよ。せいぜい数キロしか届かないわよ。スキルレベルが上がっても一緒に転移できる人数が増えたり、消費MPが減るくらいの特典しかないみたい」
今のところ一緒に跳べるのはアリサ自身ともう一人くらいらしい。しかもそれだけ跳ぶと魔力が殆ど尽きてしまうらしい。燃費は悪そうだ。
「本当の緊急時なら『全力全開』も併用して全員で脱出できそうよ」
おお、それは何よりだ。
魔力付与台で仕上げの終わった数枚の刻印板をアリサに渡す。これ1枚で銀貨2枚分くらいのコストがかかるので、空間魔法使いは金欠になりそうだ。
せっかくなので、刻印板の1枚をこの場所に隠して設置しておいた。
作中では省略しましたが、刻印板を作る時に製作者名が残らないように、ナナシで作っています。
作中に「魔王がポップする」という表現がありますが、「魔王が出現する」という意味のゲーム用語です。
よくある質問の回答や幕間未満のショートストーリーなども活動報告の方に書いてあるので良かったらご覧下さい。