8-6.工房見学と博物館(2)
※2/11 誤字修正しました。
サトゥーです。初めて見たときに豆腐ハンバーグの存在を信じられませんでした。最近では色々な素材のハンバーグがあるようですが、やっぱり合挽きミンチで作るハンバーグが一番美味しいと思うのです。
◇
もう夕方か。
いったい、何人の爺さんや婆さんの腰痛マッサージをしたのだろう。皆感謝してくれていたからやりがいはあったのだが、もう少し加減してほしかった。
「野戦病院は終わったみたいね。こっち、こっち来て」
美術品や宝物類を見学に行っていたアリサとナナが戻ってきた。2人に手を引かれてヤマト展の方へ行く。夕方になったせいか人が殆どいない。
「ござる~」
「ゴザルなのです!」
新撰組っぽい羽織を着たポチとタマが日本刀を模した木刀を持ってポーズを付けている。
「ふふん、似合うでしょ。コスプレコーナーというかお土産コーナーで買ったのよ」
「アリサ、無駄遣いは感心しませんよ」
リザが叱っているが、アリサの小遣いはムーノ男爵領でニナさんから支払われた給料だ。「奴隷の持ち物も主人の物」という感覚はどうも慣れない。
日本刀の展示コーナーもあったが、「古代の剣」扱いのようだ。普及はしなかったみたいだ。
刀の展示コーナーの中央に、ヤマトさんの佩剣という聖剣クラウソラスの模型が飾られている。
長さ2メートル近い大剣だ。前の世界のクラウソラスは片手剣だった記憶があるのだが、ゲーム知識だからあてにならない。
この剣を使いこなしていたとなると、ヤマトさんは意外に大柄な人だったのかもしれないな。
剣の模型の後ろに幅3メートルもの巨大な絵画が飾られている。
城の上に立つ金色の肌の魔王と立ち向かうヤマトさんの絵だ。竜の背中に乗って聖剣を振るう姿が描かれている。ヤマトさんがちょっと小さいが、魔王と竜が大きいから仕方ないのだろう。
剣が何本も空中に浮いているように描いてあるのは、絵師の創作なのだろう。アニメにでも出てきそうなシーンだ。
「竜に乗る人族などありえません」
「え~、竜騎士とか萌えるじゃない」
リザが竜に乗るヤマトさんを見て、やや不快そうだ。鱗族は竜を神聖視しているのかもしれない。
アリサの「もえる」が「燃える」じゃないのは何となくわかった。アリサの横でミーアがウンウンと頷いているが、頷いている理由を追及するのは止めておこう。
アリサ、文化ハザードは、ほどほどにね。
生前の衣装を展示するコーナーに行く手前で、閉館を知らせる係員の人が回ってきたので見学を切り上げた。時間があったら、また来よう。
先に見物していたアリサによると、色々なコスプレ衣装があったそうだが、それはコスプレじゃなくてそういう時代の人の服だと思う。
◇
伯爵邸に戻ると、置いてきぼりにされたカリナ嬢に絡まれたが、ポチ達とお揃いの新撰組の羽織と鉢巻のお土産をプレゼントしたら、あっさりと許してもらえた。現金な人だ。
今晩はオレが料理を担当すると伝えるとカリナのメイド隊から歓声が上がったが、豪勢な料理を作る気もないので、あまり喜ばれても困る。
ポチの魚嫌いを直すためにも、今日は魚料理だ。
「どうかしら、アリサが着付けてくれたのだけど、似合うかしら?」
「とてもお似合いですよ」
わざわざ調理場まで羽織姿で現れたカリナ嬢に、適当な返事を返しておく。そんなにポチ達とお揃いなのが嬉しいのだろうか。
魚を捌いてすり身にしていく。
昨日の炊き出しの団子を見ていて思いついた、魚肉のハンバーグだ。魚だけだと淡白な味になりそうなので、隠し味に山羊の脂身を少し混ぜる。繋ぎに使う卵の在庫が心もとないな。カリナのメイド隊がヒマそうだから卵の買い付けを頼むとしよう。
「ご主人さま、油が煮えました」
ルルにイモを揚げていってもらう。ハンバーグといえばポテトが無いとね。
ついでにニンジンのグラッセを手早く作る。イモにイモが重なるがマッシュポテトも付けてみよう。続いて前に買ったアスパラモドキも添える。
ソースはグルリアンの料理長さんに分けてもらったウスターソースっぽいものだ。レシピも教えてもらって自作したのだが、熟成させる必要があるそうなので当分使えない。なので、今回はもらい物をそのまま使う事にした。
「ポチ!」「タマ!」
ハンバーグを見た2人がお互いの名前を呼び合って抱き合っている。そんなに嬉しいか? そういえば前に普通の肉で作った時も大喜びしていた気がする。あの時はソースがなかったから、醤油ベースのなんちゃってソースだった。
食事が始まる前にハンバーグの御代わりが無いと伝えてあるので、みんな味わって食べている。
「うみゃ~」
「前のと違うけど、美味しいのです」
「美味しい~♪」
概ね好評のようだ。
「この料理は初めて食べますわ」
「カリナ様でも食べた事がないような高級料理が食べられるなんて!」
「エリーナ、食事中にはしたないですよ」
カリナ嬢やメイド隊の口にもあったようだ。初回はオレが誘ったのだが、いつの間にかメイド隊も一緒に食べるようになっていた。
「ポチ、美味しかったかい?」
「はい、なのです!」
「本当に?」
「ほんっっ、とーなのです!」
ポチが「ほん」で体を縮めて「とー」で体を伸ばして全身で美味しかった事を表現してくれる。可愛いが、ここで事実を伝えなければ。
「ポチ君」
「はい、隊長」
隊長なのか。
「重大な報告があります」
「あい」
なぜ敬礼だ。
「そのハンバーグの材料は、サカナです」
「サッカーナの肉なのです?」
小首を傾げるポチ。なぜ変なイントネーションを使う。
「だから肉じゃなくて魚なんだよ」
「う、ウソなのです! ご主人様が意地悪なのです」
「ポチちゃん、嘘じゃないのよ。私も横で見ていたから。確かに魚のすり身から作っていたわよ」
「が~ん、なのです」
両手を地面について落ち込むポチ。なぜそこまでショックを受ける。
タマが落ち込んだポチの肩をポンポンと叩いている。
「ポチ」
「タマぁ」
タマが指をグッと立てて言葉を続ける。
「美味しいは~正義!」
「!」
タマの言葉にポチは愕然とする。
なんとなく小芝居臭いので、アリサの方をチラリと窺うと目を逸らされた。やはり黒幕はお前か。
「タマは正しいのです。美味しいモノは最高なのです!」
顔を上げたポチが何かを悟ったような表情で空を見上げている。屋内なので天井のシャンデリアが見えるだけだとは思うが誰も突っ込まない。
とりあえず、ポチの魚への苦手意識はマシになったようだ。魚料理のたびにオレやルルに骨取りを頼んでくるが、嫌がる事は無くなった。
◇
「アリサ、この本を読むか?」
「ん~? トルマのオッサンと一緒に買ってきた本? 光の中級書とかでもあったの?」
食後にソファーで寛いでいるところに、アリサがお風呂に誘ってきたので、興味を逸らす方向に持っていった。ここのお風呂は一人用の浴槽なので乱入されると寛げないのだ。
「こ、これは!」
アリサに見せたのは光の中級魔法の魔法書に、爆裂魔法、破壊魔法の魔法書と解説書だ。
「くぅ、これで髪の毛を桃色に染めたらヒロインだってばっちりよ」
はいはい。
ついでに呪文しか載っていないが空間魔法の魔法書も出す。
「こっちは何? 随分と管理の悪そうな本だけど……」
呪文を目で追うアリサの表情が険しい。
「ねえ、まさか、空間魔法だったりしない?」
「そうだよ」
「かんっ、たんっ、に。言うな~~~」
やたら言葉に力をこめて「うがー」とばかりに吼えるアリサの姿に若干引く。
「確かに珍しいけど、空間魔法の使い手自体はそれなりにいるだろう?」
今までの街を見る限り、影魔法が一番レアだ。ゼン以外の使い手は見た事が無い。
爆裂、破壊、精神魔法が次点で、リーングランデ嬢やアリサなんかの他には魔族や魔王しか使い手が居なかった。
死霊、召喚、空間魔法がその次くらいに少ないが、大きな都市には数人くらいいた。
「何言ってるの! 空間魔法よ空間魔法! チートの定番じゃない!」
「転移魔法とかがあれば便利だとは思うが、空間魔法を覚えられるほどスキルポイントがないだろう?」
アリサの興奮度に少し引いてしまう。
喜んでいるところ悪いが、転移魔法があるとしても上級魔法だと思うんだ。
「ふははは、いつからスキルポイントが固定だと勘違いしていた!」
アリサがソファーに仁王立ちになってドヤ顔で見下ろしてくる。
それはビックリだ。
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