7-22.誰も知らない夜(4)
※8/11 誤字修正しました。
※8/11 一部加筆しました。
サトゥーです。ボスキャラが倒しても倒しても何段階も変身してくるようになったのは、いつの頃からでしょう? ゲームでも大概面倒でしたが、現実では……。
◇
恐らくヤツのユニークスキルの効果だろう。アンデッドとして蘇ってきやがった。失ったはずの上半身も、半瞬の間に再生している。倒し甲斐の無いヤツだ。
さっき上半身を破壊した時に柳葉刀が2本とも、どこかに行ったみたいなのがせめてもの救いだ。
隠しダマは幾つかあるが、ヤツが何度復活できるか判らない以上、無闇に使えない。MP回復薬も1本じゃ2割も回復しないのが辛い。
これからは、ヒマができるたびに魔剣や聖剣に魔力をチャージしよう。
「我に万夫不当の効果を使わせるとは、ヤマト以来だ。名無しよ、キサマは果たして我を倒しきれるかな? ヤマトは天竜共を引き連れて我の城を襲ってきた。キサマは一人で勇者と天竜に相当する心算ナノダな」
ふむ、名前が空欄だから「名無し」か。これからはナナシと名乗るか。
HPポーションと自己治癒スキルのお陰か腹の傷が消えた。まだ痛むが戦えないほどじゃない。これ以上は、相手に回復されるだけの悪手だな。
「天竜は、お休み中だ」
もう3本ほどMP回復薬を咥えながら、思考でストレージを操作する。
ヤツの破壊魔法が襲ってきたので、手のひらを叩きつけてコースを変える。ヤツが「バカナ」とか言っているが無視だ。手のひらがヒリヒリする。あまり触りたくない魔法だな。
「おまけに本職の勇者は帝都で巨乳美女とバカンス中だ」
本当にバカンス中だったら一発殴ろう。
ストレージから聖剣デュランダルと交換で取り出した「隠しダマその1、聖槍ロンギヌス」に回復したばかりの魔力を注ぎ込む。魔力を使いすぎてクラッとくるが耐える。
「本職の勇者だと? キサマは何ナノダ?」
「オレはパートタイムだよ。本職は観光客だ」
観光客は職じゃない。分かっているとも。
適当な言葉で、ヤツの気を逸らせればそれでいい。ヤツは破壊魔法を使ってくるが狙いが甘い。当てたければ範囲魔法で来い。
余計な事を考えるんじゃなかった。
本当に範囲魔法が飛んできた。足元の石畳を蹴り上げて盾にする。残念、畳返しスキルは付かなかったか。
ヤツの魔法は一瞬で石畳を砕いてオレに殺到する。
もともと盾を張るまでの時間稼ぎだったのだが、意味がなかった。せっかく張った盾も一瞬で突破された。体を捻って大事なところをカバーする。
イタタ。
さすがは魔王の攻撃だ。ハンパない痛さだ。一瞬で痛みが引くとはいっても、痛いものは痛い。
体力ゲージが大して減っていないところを見ると、魔法は苦手なタイプなんだろう。
今度はブレスが来たので、縮地でかわす。もちろん、前にだ。
瞬間移動の様に接近しながら技を放つ。
三連螺旋槍撃。
同時に火炎炉を発動して小盾群を焼く。
一撃目と二撃目で金猪魔王の両肩を穿ち、三撃目がヤツの心臓を貫く。そのまま聖光がその体に吸い込まれ――
ヤツの半身を爆砕する。
だが、ヤツは螺旋槍撃の効果が届く前に、己の半身を両手の刃のような爪で切り捨てた。残った半身から新しい体が生えてくる。プラナリアか。
ゼンより、よっぽど不死身だ。
今度は、ヤツの手から、半透明の触手のような物が浮かび上がって襲ってきた。多彩なやつだな。
ロンギヌスで一突きすると蒸発するので、どういう攻撃かわからないが、わざわざ食らうのは危険だろう。
ヤツの目がチカチカ光っていたが、何の攻撃かわからなかったので、ログに目を落として背筋が寒くなった。即死攻撃なら即死攻撃らしいエフェクトを出してほしいものだ。
>「即死耐性スキルを得た」
オレは攻撃を中断して、即座に有効化した。今度、同じモーションが見えたら鏡を取り出さないと。
◇
アレから何度も攻撃が命中しているのだが、ヤツはその度にユニークスキルの効果で蘇る。復活するにしても7回くらいで打ち止めにしてほしいものだ。
魔法攻撃や特殊攻撃が、オレに通用しないと思ったのか、今度は物理攻撃に変わった。
一番参ったのは、攻撃しようと接近した時だ。
気合一閃、ロンギヌスを心臓目掛けて突き入れた時に、ヤツの腕がこちらに伸びてきた。伸びる腕攻撃と判断して紙一重で避けるコースを選択したのだが――
その手のひらを突き破って、腕の骨がボウガンの矢の様に飛び出してきた。
どんどん、無茶な攻撃になってきている。
少し驚いたものの、骨の矢をアクロバティックな動きで避ける。
短気絶は、もはや牽制にもならないので使っていない。
天駆で空中を足場にして、天地逆転したままに槍を突き入れた。
心臓を貫いてもやっぱりダメか。
こうなったら、体をバラバラに切り裂いてから蒸発させるか焼却するしかないだろう。
ロンギヌスとデュランダルを交換する。
充填する魔力が残り少ないので、デュランダルの放つ青い光は弱々しい。
「ドウシタ勇者。不死身のこの体を倒す算段はつかぬノダナ?」
ヤツがわき腹から2本の肋骨を取り出して構え、短く咆哮を上げると肋骨を黒い炎が覆う。炎の魔剣か?
「我の黒炎骨刀を味わわせてくれるノダ。さあ、死の舞を踊ろうゾ」
二刀流で襲ってくる魔王だが、黒炎骨刀は、見た目はともかく、柳葉刀に比べたら脆い。刃を合わせた時に黒炎で、ちょっと火傷しそうになったくらいだ。
「キサマは何者ナノダ? 天竜さえ焼き尽くす、破滅の黒炎を浴びて、なぜ傷つかぬ?!」
レベルが高いからかな? いや、破壊耐性がMAXだからかもしれない。
それに傷は負っている。ただ、回復速度が速いだけだ。回復にもMPを使うから、なるべく怪我をしないように気をつけないといけない。痛いしね。
「傷つかぬのなら傷つくまで攻めるノダ!」
千日手とかは止めてほしい。
破壊するたびに、際限なく取り出される黒炎骨刀を斬るのに飽き飽きしてきた頃、ようやく十分な量の魔力が回復した。
黒炎骨刀を破壊する勢いのまま、ヤツの体をバラバラに切り裂く。回復を始める半瞬の間に火炎炉を発動して焼却する。
それでも、ヤツは炎に負けずに再生してくる。
さすがは、魔王。
おっと、感心している場合じゃない。
火炎炉の炎を維持したまま、ストレージから取り出した、聖短矢を装填したクロスボウセットを取り出して撃ち込む。僅かな時間で、用意してあった残りの10セットを全て叩き込んだ。
ようやく再生しようとする肉片の蠢動が止まった。
今のうちに引導を渡そう。
新しくストレージから取り出した「隠しダマその2、聖剣ガラティーン」で斬りつけて蒸発させていく。
まさか奥の手のガラティーンまで出す羽目になるとは思わなかった。ガラティーンは、手ごろな量のMPを充填して保管してあったエクスカリバーの兄弟剣だ。これでダメだったら、危険だけどエクスカリバーを使おう。
二度目の復活に備えて、ポーションをがぶ飲みする。飲みすぎて気持ちが悪い。
◇
どうやらこれ以上の復活はないようだ。その証拠にヤツらが現れた。
「クスクス、負けたね」
「負けたね、ヤマトに負けて」
「新しい勇者にも負けた」
ゼンの時に見たのと同じ紫色の小さな光が3つ浮かび上がる。
いや、少し色が黒い。たまに漆黒の光も混ざっている。感じる印象は同じだが、別モノなのか?
「所詮、オークだね」
「こんどは何を使おう?」
「イタチなんか賢そうだよ」
こちらが手を出せないと思って油断している黒紫の光を斬る。
漆黒の斬撃が三度振るわれ、3つの残滓を残して光は消える。オレは称号から「神殺し」を外し、ストレージに神剣を仕舞う。砕いた光が神剣に吸い込まれた気がしたが、神剣のステータスに変化はないので、気のせいだろう。
黒紫の光を潰した後に戦利品の獲得ログがすごい速さで流れたが、確認は後回しにしてバックスクロールさせる。ちゃんと、ログに「神のカケラを倒した!」と出ているから倒せたのだろう。
よく考えたら神を敵に回すような行為にも思えるが、考えるよりも先に行動してしまっていた。もっとも、魔王に力を貸すような存在なら、何もしなくても敵対しそうな気がする。敵対するにしても100年後とか神スケールにしてほしいものだ。
>称号「魔王殺し」を得た。
>称号「魔王殺し『黄金の猪王』」を得た。
>称号「真の勇者」を得た。
>称号「名も無き英雄」を得た。
※8/11 一部加筆しました。
魔王がサトゥーの名前を「ナナシ」ではなく「名無し」と呼ぶように変更しました。
あわせて、サトゥーが名前なしの時の自分の名前を「ナナシ」と呼ぶ事に決める行を追加してあります