挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
124/540

7-9.カリナとメイド隊

今回はサトゥー視点ではありません。
残酷な描写があるので苦手な人は注意してください。

※2/11 誤字修正しました。

 神様は意地悪です。

 せっかく嫌な男性兵隊達も居なくなって、居心地が良くなったのに、お嬢様のお守りで旅に出ることになるなんて……。
 あの可愛いメイド服をもう一度着れる日を夢見て、今は我慢しましょう。

「ピナさん、ピナさん、カリナ様が行っちゃいましたけど、止めなくていいの?」

 物思いに沈んでいた私に、部下達が呼びかけてきます。よりにもよって、お嬢様の護衛をする仲間が、問題児のタルナにエリーナだなんて、本当に神様は意地悪です。

 嘆くのを後回しにしてエリーナの指差す方を見て、血の気が引く思いでした。

 先ほどまでお嬢様は崖下を窺っていたのですが、なんの躊躇いもなく崖下に飛び降りていったのです。

「お、お嬢様っ」

 私は慌てて崖っ縁まで駆け寄りますが、今更、駆け寄っても無駄でしょう。ああ、お嬢様の自殺を止められないなんて、私はなんて無能なのでしょう。せっかくの職場もクビです。それどころか奴隷落ちでしょう。子煩悩な男爵様のことです、もしかしたら絶望のあまり斬首を言い渡されるかもしれません。ああ、なんて不幸なのでしょう。

「ピナさん、不幸に浸るのはアレを見てからにした方がいいよ?」

 大人しそうな外見の割りに、図太い神経のタルナが、ちょいちょいと崖下を指差します。もしかして骨折くらいで、どこかに引っかかっているのでしょうか?

 意を決して見下ろした崖の下では、お嬢様が元気良く盗賊を退治していました。
 どうやら、私のクビは繋がったようです。





「お嬢様、軽はずみな行動はあれほど――」
「まあ、盗賊達から領民を守るのは、ワタクシ達、貴族の義務ですわ」

 私のお小言に被せるようにお嬢様が、自分の考えを主張しています。本当に、この方は人の話を聞きません。大体、ここは公爵様の領地なので、お嬢様からしたら領民では無いのですが、指摘しても瑣末な事だと言われそうです。

「すまぬ、ピナ殿。止めようと思ったのだが、何分人の命が懸かっていたのだ。大目にみてやって欲しい」

 紳士然とした言葉でお嬢様の事を取り成してくるのは、世にも不思議な喋る魔法道具のラカ殿です。
 もっとも、お嬢様の無謀な行動に歯止めが利かなくなったのは、この魔法道具を手に入れてからだと思うのです。

 助けた相手は、これから向かう予定のダレガン市の商人一行だったようです。護衛の傭兵達は盗賊に殺されたようですが、彼ら自身は軽傷で済んでいるようです。重傷者は居ないようですし、治療は自分達でやってもらいましょう。

 タルナとエリーナの2人が、半殺しにされて気を失っている盗賊達から装備を剥いでいます。面倒ですが、わたしも手伝いました。革の鎧は鼻が曲がりそうな臭いがしますが、それなりの値段で売れるので始末する前に脱がせるのです。残念な事に彼らの所持していた青銅製の槍や剣は、あらかた破壊されていました。お嬢様が怪力に任せて破壊したのでしょうが、武器を折るならクビを折ってくれた方が実入りがいいのに勿体無いです。

 装備を剥ぎ終わった盗賊を順番に始末していきます。盗賊に身をやつした以上、こうやって退治されるのは覚悟の上でしょう。せめて苦しまないように心臓を一突きにしてあげます。
 タルナやエリーナの2人も始末を終えたようです。

 私達は、商人殿に武勇伝を語って困らせているお嬢様の元に向かいます。世間知らずのお嬢様は、謝礼を申し出た商人に「礼なんて不要ですわ」と言ってしまったそうです。今さら謝礼をくれとも言えないので、代わりに盗賊から巻き上げた装備品を商人殿に買い取って貰います。彼は相場より、かなり高い金額で買い取ってくれました。恐らく謝礼を含んでいるのでしょう。

 商人殿たっての申し出で、私達はダレガン市まで彼らと同行する事になりました。お嬢様には内緒ですが、護衛料が魅力的だったのです。これでダレガン市で宿に泊まる時に、お嬢様以外は納屋を借りるような事をせずに済みそうです。
 ニナ様がくれた路銀は、本当にギリギリでダレガン市までの往復分しかありません。男爵領の困窮する財政を考えると、これ以上出せとは言えませんでした。メイド長がこっそり銀貨1枚分の備蓄食料を手配してくれなかったら、途中で狩りをする羽目になったかもしれません。

 その日の晩は、商人殿の奴隷が作った食事を振舞われましたが、雑穀粥のみでした。しかもフスマが3割も入っているようなヤツです。商人と言ってもさほど裕福ではないのでしょう。お嬢様が、「変わった食感ね」とか感想を言っていますが、不味くてもちゃんと出されたものを平らげる所が長所だと思うのです。小さい頃から貧乏――もとい、倹約家の御家で育っただけはあります。

 はやくダレガン市に着いて、名物のサカナ料理に舌鼓を打ちたいものです。





「さて、お嬢様、太守様の所にご挨拶に伺わなくてよろしいのですか?」
「いいのですわ、挨拶するにもドレスも持ってきていませんもの。この格好で面会するわけにも行かないでしょう? それとも、ドレスを仕立てるのかしら?」

 お嬢様の言葉も尤もです。
 お嬢様が来ている服は仕立てこそいいものの、兵士まがいの服装で、淑女が着るようなものではありません。
 宿代でさえカツカツなのに、ドレスを仕立てるお金なんてあるわけがないのです。

「ピナさん、宿も取れたし、さっそくサカナ料理に行きましょうよ~」

 食いしん坊のエリーナらしい提案です。ですが、まずはお嬢様の服装を整えなければ。ここまで、碌に水浴びも出来ませんでしたから埃塗れです。

「タルナ、宿の者にお湯を運ぶように言ってきなさい。エリーナは、港に行って士爵様らしき人物を見た者が居ないか確認してきなさい。タルナもお湯の手配が終わったら、市場で聞き込みをしてきなさい」

 渋る2人に仕事を与えます。夕方までは時間もあるので一仕事してもらいましょう。

 小間使いが運んできたお湯を受け取り、ベッドに腰掛けてウトウトし始めているお嬢様を起します。されるがままのお嬢様の服を脱がせ、お湯に浸した清潔な布でお嬢様の体を拭いていきます。何時見ても暴力的なサイズの胸です。まったいらと言っていい私からすると、たまに憎らしくなります。

「はあ、さっぱりしましたわ」

 そう満足気に呟いて、お嬢様は部屋のベッドに倒れこみます。初めての長旅で疲れたのでしょう。そのまま、一糸纏わぬ姿のまま眠ってしまいました。
 私は起さないように注意しながら、新しい下着と夜着を着せていきます。2人が戻ってくるまでに、汚れ物を洗ってしまいましょう。





 予想通りと言っては可哀相ですが、2人は士爵様の手がかりを掴むことができなかったようです。
 明日一日探して手がかりが無いようなら、トルマ様を頼って公都のシーメン子爵邸に向かった方がいいでしょう。

「わー、さっかな~♪」
「ムーノ市じゃ、あんまり食べれないものね」

 宿の1階の食堂は、なかなか盛況です。護衛や謝礼で少し懐の暖かかった私達は、少し張り込んで名物のサカナ定食を注文したのです。2人が無邪気にはしゃいでいますが、わたしは慣れない魚の骨取りで、それ所ではありません。ようやく取れました。ほぐした白身を別の取り皿に移して、お嬢様の前に差し出します。本来なら2人の仕事なのですが、粗忽なエリーナやウッカリ者のタルナに任せて、お嬢様の喉に魚の骨でも刺さったら取り返しが付きません。

「まあ、塩味が効いていて美味しいですわ。このゴハン? これも珍しい食感で魚に良く合いますわ」

 お嬢様の口にあったようでなによりです。
 この街では、コメという穀物が主食なのだそうです。パンを焼くのとは別の大変さがあるそうなのですが、パンよりも腹持ちがいいそうです。
 そういえば、深夜の当直の時に、士爵様が夜食に作っていたオカユというものに近い感じです。オカユもたしかコメと塩と水だけで作ると伺いましたが、とてもそうは思えない深い味わいでした。もう一度食べてみたいものです。

 物思いに耽っていたらエリーナに袖を引かれました。

「ピナさん、ちょっと楽しい妄想は後回しにして、後ろの女傭兵たちの話に耳を澄ませてよ」

 エリーナが小声で失礼な事を囁きます。後でお仕置きが必要ですね。
 彼女が言っていたのは、3人組の少女達の事のようです。1人は随分くたびれた服ですね。肩や背中に繕った痕があるのですが、何と戦ったらあんな鉤裂きができるのでしょうか? というか、アレだけ服が破れるような状況で、良く生きていましたね。丁度、彼女達の側に、知り合いらしき別口のベテラン風の女傭兵が来たところのようです。

「よう、こんな店で食事とは珍しいじゃないか?」
「姐さん、ご無沙汰してます。ちょっとオオカミ退治で小金入ったんで、たまにはいいものを食べようと思って」
「そうかい、最近はオオカミの群れが大きくなってるから、森の奥に深追いするんじゃないよ?」

 エリーナは何を聞けというのでしょう?
 痛い所を突かれたのか、ベテランの言葉に若手3人は沈黙しているようです。

「あ、姐さん、その忠告はもうちょっと早く欲しかった」
「なんだい、オオカミの大群に追いかけられたのかい?」
「そうなんですよ、30匹の群れに追いかけられて森の中を散々追い回されて死ぬかと思いました」
「よくそれで怪我も無く生き延びたね?」
「あー信じてませんね」
「あたしなんて、服がボロボロになるくらい大怪我したんですから!」

 あの鉤裂きはオオカミですか。

「おいおい、はったりも程ほどにしなよ? そんな鉤裂きができるくらい怪我したら、アンタ今頃墓の下だよ?」
「へっへー、魔法薬! 魔法薬を飲ませて貰ったんですよ。あれは絶対、あたしに惚れたに違いないですよ! いい身なりだったし、これは玉の輿を狙うべきかな~?」
「魔法薬って、アンタね。傷跡まで消えるような上級薬なんて、金貨何枚すると思っているのさ。絶世の美女相手なら兎も角、アンタみたいな、どこにでもいるような小娘に上級薬を振舞うようなお人よしなんていないよ」

 なるほど、そんなお人よしに心当たりがあります。

 一緒に聞き耳を立てているエリーナの方を窺うと、コクコクと頷いています。恐らく士爵様でしょう。ムーノ市でも、馬車に轢かれた市井の少女に、惜しみなく高価な魔法薬を振舞ったそうですから、状況証拠としては十分です。

「まあ、百歩譲って怪我は魔法薬で治ったとして、オオカミからはどうやって逃げたんだい?」
「それが、その薬をくれた人が連れていた、3人の亜人達が瞬く間に倒しちゃったのよ」
「凄かったよね。あんなに小さな犬人族と猫人族の子供なのに、一突きでオオカミを倒していくんだもん」
「でも、鱗族の人は別格だったわよね。赤く光る黒槍で一突きで何匹も串刺しになってたもんね」

 確定ですね。
 魔槍を持つ鱗族なんて、リザ殿以外にいないでしょう。

「赤い槍? それって、もしかしなくても魔槍じゃないのかい?」

 ベテランのその言葉で、食堂の空気が変わりました。

「「「「「魔槍だと!」」」」」

 さっきまでサカナ定食を食べていた旅の貴族っぽい人達が一斉に立ち上がります。
 血相を変えて詰め寄る主従に、若手の傭兵娘達は質問されるままに答えそうになっていましたが、ベテランが上手く取り仕切って、いくばくかの情報料をせしめていたようです。

 情報を手に入れた3組の主従は、食事もそこそこに食堂を出て行きました。
 一体何事なのでしょう? 確かに魔法の武具は珍しいですが、そこまで追いかけるほど希少なものでは無いはずです。貴族なら、金貨の数十枚も積めば手に入ると思うのですが、何かの理由で魔槍が必要なのでしょうか? 士爵様が厄介事に巻き込まれる前に追いつきたいものです。

「それで、さっきから聞き耳を立てていた、そちらのお姉さん達は情報を買わないのかい?」

 どうやらバレバレだったようです。

「先ほどの話されていた方が、私共の知り合いのようなのです。その魔槍使いの名前はリザと言いませんでしたか?」
「うん、言ってた」
「小さな獣人の名前は何と呼ばれていましたか?」
「ポチとタマだったかな? 命の恩人だもの名前くらい覚えているよ」
「でも、ご主人様の名前はわかんないんだよね。名前聞くの忘れてさ」

 普通なら下心で助けるのでしょうが、士爵様らしいです。

「教えてあげますわ! ワタクシのお父様の家臣で、サトゥー・ペンドラゴン士爵と言うのですわ! 剣も魔法も達人並みですのよ!」

 ああ、カリナ様。
 そんなにキラキラした目で自慢したら……。

「へえ、お嬢のいい人なのかい?」
「いいな~ 士爵様っていう事は騎士様なの?」
「うわ~ 玉の輿逃したのか、勿体無い~」

 カリナ様は顔を真っ赤にして「ち、違いますわ。ワタクシとあの方は、そんな関係ではないのです!」と言っています。本当にいい年をして恋愛事に疎いんですから。
 エリーナとタルナも生暖かい眼差しでお嬢様を見物しています。

 彼女たちから聞き出した情報だと、士爵様は、昨日の昼ごろダレガン市の目と鼻の先まで来ておきながら、市内に入らずに、街道沿いにお隣のグルリアン市に向かったそうです。
 勘がいいというには、鋭すぎる気もしますが、カリナ様の恋路は前途多難のようです。案外、エリーナあたりの方が芽があるかもしれません。

 明日からは先回りするためにも船旅です。早く追いつかないと、納屋で泊まる日もそう遠くないかもしれません。

 せめて、士爵様の手料理を期待するくらいの妄想は許されると思うのです。
 カラアゲ、テンプラ、エビフライ、ああ色々ありすぎます。クレープもいいですね。でも、やっぱり2人きりで食べたオカユをもう一度食べたいですね。
 次回はサトゥー視点に戻ります。

 今回は本編が間に合わなかったので、ムーノ男爵領のメイド、ピナさんが語り部でした。なんとなくリザっぽくなってしまいましたが、大目に見てください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ