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7-7.巻物とチート

※8/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。空を飛ぶ人というとイカロスを思い出しますが、昔から空を飛ぶ事は人々の夢だったようです。この世界なら蝋で固めた羽ではなく魔法で飛びそうです。





 ドハル老に孫娘を嫁にやるから残れと言われたり、それを聞いたザジウルさんに睨まれたりといったお約束の別れをして、ボルエハルト市を後にした。


 最寄の都市までは4日ほどだ。

 山道なので5日は見ておいた方がいいかもしれない。


 同じ方向へ向かう馬車は何組もあるが、速度が違うので隊商(キャラバン)を組んで移動したりはしていない。普通は多少速度が違っても大きな隊商を組んで盗賊や魔物、野獣を回避するものらしい。


 他の商人達と一緒だと野営地毎に、工作や実験をしたり戦闘訓練をしたりするわけにいかないので、なるべくバッティングしないように調整している。

 それでもすれ違ったり休憩中に追いつかれたりする事はあるので、ダミーの樽や箱などの荷物は積んである。


 現在の御者はルルだ。ボルエハルト市に滞在中にアリサが御者台にもクッションを設置したので快適なのだそうだ。クッションの中の台座には鍛冶職人たちに作ってもらったコイル状のバネが入っているらしい。





 ボルエハルト市を出発して2日目、ようやく近くに夜営する隊商がいなくなったので、大量に購入した巻物を使う事にした。


 巻物を使う前に土火風氷光の5種類の魔法スキルを有効化(アクティベート)した。


 まず、「土壁(ウォール)」で粘土状の土壁を作る。高さ1メートル半、幅1メートル、厚みが5センチの「壁」ができる。軽く殴っただけで崩れそうだ。


 見ていたルル達から拍手が上がる。タマが登りたそうにしていたが、脆そうなので乗らないように注意しておく。


 次に土の壁を「泥土硬化(ハード・クレイ)」で固める。陶器のような艶は無いが、十分な強度になった。


 土壁も、硬化した壁も時間経過で元に戻ったりはしないようだ。轆轤(ろくろ)でもあれば薬瓶も自作できそうだ。そういえば陶芸スキルは持っていないので、今度試してみよう。


 土壁と硬化した壁に「岩砕き(ロック・スマッシャー)」を掛けると、どちらも半分ほど砂状になって崩れた。


 桶に汲んだ水に、「氷結(フリーズ・ウォーター)」を掛けると表面から3センチほどが凍った。冬場なので放置してもなかなか溶けないようだ。今度池を見つけたらスケートリンクを作って遊べそうだ。移動中にスケート靴を作ろう。


 風除けに「風壁(エア・カーテン)」を使ってみたが3分ほどで効果が消えてしまった。


 生活魔法はどれも微妙すぎる効果だったので省略する。「消臭(デオドラント)」は鍛錬などで体を動かした後に使えそうだ。

 後日、試しに使ってみたら、大不評だった。アリサが「少年の汗のにおいは青春の証なのよ、それを消すなんて! 消すなんて!」と叫ぶのは想定内だったが、ルルまで残念そうな顔をしていた。寝るときにポチやタマにまで「ご主人さまの匂いがしないのです」と不思議そうな顔で鼻を擦り付けられたので、よっぽど汗臭い時以外は使わない事にした。


 次に「集光(コンデンス)」を使ってみる。月明かりを集めて多少明るくなったが、それだけだ。最近活躍の場がない魔法道具の「光粒(ライト・ドロップ)」の方がよほど明るい。不良在庫だけはある。


 さらに不良在庫の「火炎炉(フォージ)」を皆から離れた場所で使う。延焼した時のためにミーアに長杖を構えて待機してもらっている。燃えたら嫌なので安いシャツとズボンに着替えた。アリサが後ろから「ローブよりシャツよね。華奢な体のラインがたまらないっ」とかバカな事を言っている。


 前に盗賊からせしめた銅の短剣を岩の上に置いて魔法を使う。この呪文は中級に属するせいか消費魔力がやや多い。巻物のほんの1メートルほど先に炎が出現するので、慌てて短剣の所に移動した。銅の短剣は、鉄製の物よりはよほど溶けやすいはずなのだが、熱くなっただけで溶けた様子はなかった。近くの草が燃えたのでミーアに消してもらった。


 残りの術理魔法を試していく。「信号(シグナル)」でナナにモールス信号を送ってみる。受信の為に、ナナにも理術で「信号(シグナル)」を発動してもらった。


「トントントン、つー、つー、つー、トントントン、です」

「じゃあ、同じの送ってみて」

「はい、マスター」


 頭の中で昔見た映画のワンシーンのような信号音が再生される。

 アリサもヒマなのか「エスオーエス」と唄いながら変な振り付けを始めた。昔のアイドルとかだろうか? アップテンポの歌なので、ポチやタマが一緒に踊りだした。ミーアまで草笛で伴奏を始める。


 いや、君達、無理に見学しなくても、飽きたなら好きな事をしてきていいんだよ?


 気を取り直して「探知(ソナー)」を使う。20メートルくらいの範囲が索敵範囲のようだ。小動物は対象外で、毒蛇や野犬などの危険動物だけが対象のようだ。これも5分ほどで効果が切れる。レーダーの反則さがよく分かるな。


 残りを順番に試す。「防護柵(フェンス)」は馬柵のような幅1メートル、高さ1メートルの透明なフェンスを作る。ただし、かなり脆く、「短気絶(ショート・スタン)」で半壊し、リザに軽く蹴飛ばしてもらっただけで全壊してしまった。

 レベルの低い盗賊相手なら使えるのかも知れないが、相手が騎士クラスなら何の抵抗もできずに蹂躙されてしまいそうだ。

 最後に使った「立方体(キューブ)」もアリサが言っていたように10センチほどのサイズでしか出現しなかった。





 さて本番だ。


 何かあってもリザ達が怪我をしないように、山2つほど奥に移動した。前に高レベルだと宣言してからは、人里以外での一人歩きに心配されたり、文句を言われる事は無くなった。ただし、人里だと風俗に行くと思われているのか、夜中には誰かが側にいた。まったく遺憾だ。この世界に来てから性欲が激減している気がするが、オレだって健康な男だ。たまには夜遊びくらいさせてほしい。


 目的地は、甲虫兵(ソルジャー・ビートル)という魔物が5匹ほどいる場所だ。軽自動車サイズのカナブンみたいな魔物で、レベルは20台前半だ。


 まず、2キロほど手前で「探知(ソナー)」を発動して近くに行く。大体1キロほどが索敵圏内のようだ。スキルレベル10のお陰だとは思うが、初期状態とはかなり違うようだ。だが、レーダーがあるので、この魔法を使うことはもうなさそうなのが残念だ。効果時間もかなり延びている。

 何より名前からして、勘のいい相手なら索敵しているのに気がつかれそうなのが痛い。実際、「信号(シグナル)」の魔法を発動中だと、「探知(ソナー)」の出すレーダー波のような魔力の波動を感じた。逆にフェイクや警告には使えそうだと思いなおす。


 500メートルほど手前まで来たので、射程距離の確認を兼ねて「短気絶(ショート・スタン)」を撃ってみる。魔法の矢と同じで、同時発射数が増やせるようだ。数は魔法の矢と同じだけ撃てるみたいだ。1匹の甲虫に1発。残りの120数発を3匹に向けて放つ。20、40、64発で振り分けた。

 結果的に1発の甲虫は甲殻が凹んで気絶しただけだったが、20発の甲虫は甲殻がズタボロになり半死半生。40発以上くらった甲虫は完全に砕けてしまった。


 気絶させるための魔法としては失格だな。


 相手が騎士とか重歩兵ならともかく、一般人に使ったら確実に殺してしまいそうだ。この呪文を解析して、スキルレベルやステータスが高くても威力の上がらないものを作成しよう。巻物にしたいからトルマ(オッサン)の実家に着くまでが期限だ。久々の納期がある仕事だと身が引き締まるようだ。


 不思議なことに、無事だった1匹がこちらに突っ込んでくる。逃げないのは知能が低いからか、仲間の復讐なのか。


 結構な勢いで飛んでくるので、「土壁(ウォール)」を試す。

 最大威力で使うと、幅300メートル、高さ20メートル、厚さ5メートルの巨大な壁ができた。

 甲虫が当たる直前を狙って作ったので、見事に命中した。突き抜けてくるかと思ったのだが、意外に固いみたいで、壁の反対側に潰れて張り付いていた。


 一夜城とか作れそうだ。


 このまま放置しても邪魔なだけなので、「岩砕き(ロック・スマッシャー)」で砕く。土壁はキメの細かい砂状になって崩れた。飲み込まれそうになったので、素早く近くの木の上に跳び上がって難を逃れる。

 もう一度、「土壁(ウォール)」を使った上で解除すると元に近い状態に戻った。さすがに破壊された森林や下草までは修復されないようだ。


 気絶していた1匹が30分ほど経ってようやく回復したみたいなので、こちらから出向く。虫のくせにナマイキに火弾を撃ってきたので「風壁(エア・カーテン)」で受け止めてみる。火弾を正面から受けたが突き抜ける事はなく、風壁の前に散ってしまった。相手が雑魚なら、防御にも使えるみたいだ。


 火弾を諦めた甲虫が体当たりを敢行してきたので、「立方体(キューブ)」で出した立方体で受け止める。最大だと1辺300メートルの巨大な立方体が作れるみたいだが、中に物があると作れないという制限があるみたいだ。1辺10メートルほどのサイズを甲虫の前に作る。甲虫は、立方体に激突しても土壁の時みたいに潰れなかった。立方体を20メートルほど押した後に、慣性を奪われて止まる。甲虫は失速して落ちかけるが、羽ばたいてオレの近くに着地して地面を走って襲ってきた。


 思う壺だ。


 地面を突撃してくる甲虫の前に「防護柵(フェンス)」で馬柵を作る。これも複数個作れるみたいだが、空間的に5個くらいしか置けないので5個作った。

 馬柵は地面に固定されているらしく、破壊されない限り後退したりしないようだ。時速30~40キロで突撃してきた甲虫が防護柵の1個目に串刺しになって絶命しているが、防護柵が動いた形跡はない。防護柵は、任意に解除できるみたいなので未使用の物を1個だけ残して消した。残したのは、効果時間の確認のためだ。


 原型を止めている甲虫の遺体は、そのままストレージに保管して、他は甲殻や魔核(コア)だけを回収するだけにした。


 瀕死の一体は「集光(コンデンス)」の犠牲になってもらう。集光の焦点はスキルレベルが上がるほど増やせるらしく、月明かりを凝縮してレーザー状にしてみた。残念ながら増幅元の光が弱いので大した威力は出なかった。誘導矢(リモート・アロー)の1発分にも満たない威力だ。その上に効果が出るまでに5分近くかかるので、昼間の拠点攻撃くらいにしか使えそうも無い。さすがに太陽の光を集めたら、もっと威力がでるだろう。何となく残酷に思えたので、誘導矢(リモート・アロー)で止めを刺した。


 続いて「火炎炉(フォージ)」の実験だ。


土壁(ウォール)」で竈を作って「泥土硬化(ハード・クレイ)」で補強する事も考えたが、「立方体(キューブ)」を利用してみる事にした。


立方体(キューブ)」を複数回使って透明な竈を作成する。「立方体(キューブ)」を隣接させる事で連結できるようだ。一度連結させた「立方体(キューブ)」は任意のブロックを消すことはできるが、分離する事はできないようなので注意が要りそうだ。


 そしてキューブ製の透明な竈の中に銅貨と鉄の短剣を置いて、「火炎炉(フォージ)」を発動する。発動してから3分ほどで銅貨が溶け、5分で短剣も溶けて液体状になった。「立方体(キューブ)」も「(シールド)」と同程度の強度があるみたいで、「火炎炉(フォージ)」の熱に負けて壊れるまで30分ほどかかった。下面の「立方体(キューブ)」を2層にする事で耐久時間を50分ほどまで拡張できる事がわかった。


 メニューを開いてマップの絞り込み検索をする。山肌から近い位置まで金属鉱脈が来ている場所を探す。近くに「鉄鉱石」と「ウーツ鋼」という金属の鉱脈があるようだ。銅の鉱脈もあったのでマーキングしておく。


 前者は地表から30メートルほど地下だったので、「土壁(ウォール)」を上手く使って鉱脈を露出させた。後は「岩砕き(ロック・スマッシャー)」の威力を調整して鉱石を切り出す。よく切れる方の聖剣を使えば一瞬なのだが、魔法の練習も兼ねて「岩砕き(ロック・スマッシャー)」を使った。


 そしてキューブ製の透明な竈の中に鉄鉱石を置いて、「火炎炉(フォージ)」を発動して精製していく。最初は加減を失敗して使い物にならなくなってしまったが、3回目くらいからは普通に精製できるようになった。光が眩しいが光量調整スキルのお陰ですぐに問題なくなった。大量の鉱石から精製できる少量のインゴットに、やや落胆しながらも作業を続ける。


 ウーツ鋼はやりすぎると黒ずんで脆くなってしまうので精製する火加減に苦労した。AR表示で正確な温度がわからなかったら精製できなかったかもしれない。

 ややこしい精製で慣れたせいか銅の精製は楽だった。


 途中で魔力が尽きるかと思ったが、MPの回復速度が速いせいか半分を切る事はなく、空が白む前に、鉄のインゴット100キロ、ウーツ鋼のインゴット20キロ、銅のインゴット70キロができた。銅のインゴットだけで金貨200枚分の価値か。やっぱり魔法は凄まじいな。


 ストレージから金床を取り出して、妖精剣で作っていたのと同じ手順で鉄剣を作ってみたが、脆い鉄剣ができただけだった。魔力が通らない事もないが、10ポイントも注ぐ前にヒビが入ってしまった。やはり、あれはミスリル用の手順だったみたいだ。


 移動中にミスリルの鉱脈が無いか探してみよう。


>称号「魔法鍛冶師」を得た。





 帰りは「立方体(キューブ)」で足場を作って空中散歩をしながら帰る事にした。誰に見られるか分からないので、銀仮面セットに着替えた。


 最初は階段状に並べて、ガラスの階段みたいにして遊んでいたのだが、空中を歩くのが楽しくて、「あいきゃんふらーい」と叫びながらどこまで上に上がれるか試してみた。我ながら、珍しくハイテンションだ。


 足場を作ってはジャンプを繰り返しているうちに、地平線に朝日が見え出した。南東方向に白い線のようなものが空に続いているのが見えるが何だろう? マップから見てボルエナンの森がある方向だ。まあ、そのうち判るだろう。


 息が苦しくなってきたので、下を見て背筋が寒くなった。


 あれ? 調子に乗りすぎたか?

 AR表示を確認したら高度4キロ弱だった。さすがにこの高さから落ちたら死にそうだ。魔力切れには注意しないといけないな。

 こんな高度なのに、思ったより恐怖心が無い、成層圏は10キロくらいあるはずだから、まだまだ宇宙に飛び出したりとかの心配は不要だ。


 そのまま10分ほど、空中で戦う練習をしてみた。立体機動と空間把握がいい仕事をしている。「立方体(キューブ)」を作る最小サイズも判ってきた。


 これなら竜や魔族とも空中戦ができそうだ。

 近くの山に大鷹という翼幅5メートルもある猛禽類が居たので、帰る途中に空中戦の練習をしてみた。滑空できる翼でもあれば、もっと戦術が広がりそうだ。


>「天駆スキルを得た」


 天駆スキルは、「立方体(キューブ)」を足場にして飛ぶのとほぼ同じ効果を、より少ない魔力で実現できるスキルのようだ。これで、夜中の散歩がよりいっそう楽チンになりそうだ。風圧や減圧に耐えられるのがオレだけなので、夜の空中散歩にアリサ達を誘えないのが残念だ。風魔法に「風防(キャノピー)」という呪文があったはずなので、オッサンの実家で巻物(スクロール)を貰うときにリクエストしよう。


>称号「翼なき飛行者」を得た。


 サトゥーの上昇高度を1キロから4キロに修正しました。成層圏は緯度によって変わり8~17キロと幅があるそうです。


※7/15 火炎炉が中級魔法である事を追記しました。

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