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6-28.娘さんたちの戦い

今回は多人数一人称視点です、◇で区切っています。


※9/1 誤字修正しました。

※6/16 加筆


◇ルル◇


 こんにちは、ルルです。

 どうしましょう。さっきからリザさんの様子がおかしいんです。


「村長を呼んできなさい!」

「なんだ、アンタは。獣人ごときに命令されるいわれはないぜ」


 リザさんは布で包まれた槍をドンと地面に叩きつけます。

 この街に到着するまでも馬車の運転が荒かったです。やっぱりアリサみたいにご主人様と一緒に行きたかったんでしょうか?


 体の大きな村人さんが、頑張ってリザさんに抵抗していますが、言葉ほどは勇敢ではないようです。足や声が震えています。


 よかった、向こうから温和そうな顔の男の人が子供に手を引かれて走ってきます。あの子はさっき村のほうに走っていった子です。どうやら村長さんを呼んできてくれたみたいです。


「それで、貴方の要求は何なのでしょう? 見ての通りの寒村で、差し出す財宝どころか食料さえ不足するありさまです」


 村長さんの言葉通り、子供達も、さっきの男の人も頬が痩けています。


「財宝も食料も要りません。私の偉大な主が、この石と同じものを所望です。速やかに100個用意しなさい」


 もう、リザさん、交渉ベタという水準じゃありません。ナナさんも、横で見てないで何とか言ってください。


 わたしは必死に視線で訴えましたが、ナナさんには届きませんでした。こちらを見て小首を傾げています。もう! 綺麗な上に可愛いなんて卑怯です。


 一縷の望みをかけてタマちゃんとミーアさんを振り返りますが……。


 ミーアさん! タマちゃん()遊ばないで下さい! しかも、遊ぶのに使っている紐って、前にご主人様に買ってもらったお揃いのヤツじゃないですか! ああ、タマちゃんの爪で、ああ、もう!


 そんなわたしの煩悶を他所に、交渉は纏まったようです。村長さんに指示された村の子供達や若者がザルなどを持って川に向かっています。


 あれで纏まっちゃうなんて、リザさんは、どんな魔法を使ったんでしょう?



◇タマ◇



 む~ん。リザがピリピリしてるにゃん。

 アリサに教えてもらったこの語尾が癖になってきた。どうしよう、口に出したらご主人さまに心配されちゃう。


 ご主人さまがキゾクとか言う魔物の所に行ったのが心配なんだって。


 リザもアリサも心配しすぎ。


 ご主人さまはサイキョーに強いんだから大丈夫なのに。どんな魔物がでてきてもシュパーと動いてズドドンと倒しちゃうのに。


 ごろんと寝転んでるとミーアが目の前に紐を垂らしてきた。


 失礼な。いつも、いつも釣られるタマじゃないの。


 ちょろちょろ。


 ぴくっ。


 ちょろ。ちょろちょろ。


 がまん。お姉さんだもの。ここはがまん。


 しゅるる~ん。


 とー♪


 はぁはぁ、気がついたら紐に絡まっていた。

 ミーアの紐使いは、きっと妖精のヒミツの技に違いないにゃん。



◇村長◇



 まったく、村長の家に婿入りなんてするんじゃなかったよ。


 盗賊を追い返したり、徴税官にゴマをすったり、領軍の無体をやりすごしたりするのには慣れたつもりだったけど。


 あの鱗族の目に牙。頭から齧られるかと思ったよ。


 それにさっき槍を地面に叩きつけたときに穂先の布が解けたんだ。あの見ただけで心臓を鷲掴みにされたような迫力。あれは間違いなく魔槍だ。前に野菜を買いに来た商人――盗賊が化けた者なのはわかってるけど、ちゃんと対価を払ってくれるなら見ないふりだってする――が言っていた。


 街道には魔物より怖い盗賊狩りの亜人がいる。


 それは、赤く光る魔槍を振う鱗族で、2人の獣族を配下に従えているらしい。彼らは、どんな罠を張っても食い破り、どこに伏兵を潜ませても、まるで見えているかのように伏兵を潰していくらしい。


 初めは盗賊と取引するような村だから盗賊と同じだ、とでも言われるのかと思って戦々恐々だったが、どうも違うみたいだ。


 彼女は、小石を100個寄越せという。


「小石を用意しろと言われましても、特に小石が名産というわけでもないので……」

「問答は無用。この先の川で採取できます。それと同じ赤い小石です。昼まで待ちます。速やかに用意なさい」


 好奇心でこちらを窺っていた子供に尋ねたところ、川原や川底に転がっている小石らしい。珍しいものでないなら、さっさと100個集めて村から出ていってもらおう。


 子供達や農奴に命じて川原から小石を集めさせた。20人もいれば1~2時間であつまるだろう。

 彼女達が、短気を起さないように、小石が集まるまではここにいないといけない。


 ああ、胃が痛い。



◇ルル◇



「おっけー。違う。違う。おっけー……」


 目の前でタマちゃんが小石を選別しています。

 村人さん達は、あれから1時間ほどで100個以上の小石を集めてきてくれたんですが、ちゃんと伝わっていなかったらしくて、綺麗なだけで赤くない石まで混ざっていました。この分だと3~4割しか目的の石は無さそうです。


「くしゅん」


 くしゃみの音に気がついて、そちらを振り向くと、紫色の唇をした女の子が体をふるわせていました。よく見ると服の裾や足が濡れています。この寒空で川に入ってまで探してくれたのでしょう。


 タマちゃんの選別を見る限りだと、2~3回ほど川に行ってもらう事になりそうです。みんな痩せているし体力もなさそうです。このままだと風邪を引いたり肺炎になったりしないか心配です。


 そうだ! この前にご主人様に教えてもらったリゾットを作って振舞ってあげよう。あれなら温まるし腹持ちも良かったもの。ご主人様は馬車の中の食材は自由にしていいって言ってたから材料も問題ない。

 でも、鍋が小さいかな。


「ナ、奥様、リザさん。村の皆さんにリゾットを振舞いたいのですが良いでしょうか?」


 いつもの癖でナナさんって言いそうになっちゃいました。わたしもいつか奥様って呼ばれてみたいです。もちろん旦那様は――。


「ルル? ご主人様の許可も無しに食料を使うわけには……いえ、許可は頂いていましたね。ですが、わたし達が食べるのならともかく、他の者に振舞うのは拡大解釈すぎませんか?」

「いえ、小石集めに協力してくださっている皆さんに振舞うのは、問題ないと思います」

「わかりました。ナ、いえ、奥様いかがでしょう?」

「実行を許可します」


 リザさんもナナって呼びかけたみたいです。間違えちゃいますよね。

 ナナさんは相変わらずです。


 リザさんに手伝ってもらって石を並べて竈を作り、鍋を火にかけます。初めは怪訝そうに見ていた村の人達も、雑穀が煮える匂いがし始めると遠巻きにこちらを窺うようになりました。雑穀と根菜、それから小さく切った干し肉を炊いて、最後にチーズをささがきにして蕩けさせたら完成です。


 ナナさん経由で、村長さんに用意してもらった器にリゾットを盛っていきます。小石を持ってきてくれた子供達に椀を渡しましたが、キョトンとされました。


 あら? チーズは嫌いだったのでしょうか?


「チーズは嫌いだった?」

「たべたことないの」

「美味しいわよ? 熱いから気をつけて食べてね」


 わたしが、そう言うと、その子は何度か椀と私の顔を見た後に村長さんの判断を仰いでいます。


「こんな贅沢なものを振舞われても……」

「問題ありません」

「この赤い小石のお礼です」


 村長さんの問いに、ナナさんが素早く答えてくれました。村長さんの了承を得て、はじめて子供達が椀に口を付けます。匙を渡すのを忘れていました。


「あちっ、おいし」

「あったまる」

「こんなのお祭りでも食べたこと無いよ」

「うん、おいしいね」


 子供達は口の中を火傷しそうな勢いで食べています。

 いつの間にか大人たちも集まっていました。中には「おい、父ちゃんにも一口くれ」とか言ってる人もいます。ダメですよ? 子供達のものを取るなんて。


「なあ、嬢ちゃん。小石を集めてきたらその粥を食べられるのか?」

「はい、温まりますよ」


 私の言葉を聞いて大人たちが川に向かって走り出しました。それを見た子供達もお礼を言いながら舐め取った様に綺麗になった椀を返した後、川に向かって走っていきました。


 え~っと何人いるんでしょう。


 足りるか不安でしたが、ナナさんが村長さんに交渉してくれて、村長さんの家の厨房が使えるそうです。食材はたっぷりありますし、村の奥さん達も手伝ってくれるみたいです。


 さあ、がんばって御飯を作りましょう。


 2回に分けました

 ミーアとリザの活躍は次回に持ち越しです。


 作中のリゾットはサトゥーがリゾットを作ろうとして失敗したものです。


 sideとかを使っていないので、読みにくいかもしれません。

 感想とかの返信が止まっていて、ごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
交渉での村人の態度軟化にルルちゃんが一番活躍してるなぁ この経験で人見知りが少しでも解消すればいいのだが
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