不眠症と記憶の間
眠れない夜に思い出すのは辛い記憶と懐かしい記憶、やがて見出す絆に、笑顔を添えて…
眠れない。
いつもは、死ぬ様に眠る俺でも、眠れない日は少なくはない。
特に最近は、沢山の事で悩み考え、辛い想いや悲しい想いに触れ、覚悟や責任に押し潰されそうになっていた。
五月のゴールデンウィークだと言うのに雨が降り、外に出る事さけも気だるく感じる。きっと眠れないのは周りの環境ではなく、自分自身の弱さなのだろう。
昔の事を思い出したのは、深夜二時を過ぎた頃だろうか。
時計の秒針が刻々と時を刻み、刻々と俺の心を刻みつける、まるで真っ赤なハートに針を一秒毎に刺されている感覚に近い気がする。
あの頃も同じだった、眠れない日々が続き、死を望んでいた。普通に考えれば、死ぬ程でも無いだろうと笑って終える事でも、当時の俺には辛い出来事だった。
中学生時代、酷い虐めを受けた、全校生徒からの奇声罵声、仲間はずれに無視、机が無かったりした事も多かった。
そんな時に出会った奴は、頭は金髪の長髪、鋭い目付きで圧迫された、そこに居るだけで、存在がヒシヒシと伝わってくるのがわかった。
最初は軽いイザコザだった、学校の事で苛々していた俺は、夜の世界で暴れ回っていた。当然、目を付けられて追いかけ回された事もある、そんなある日、その長髪の金髪野郎と出会した。
最初は怖かった、一歩一歩近付くにつれて皮膚が千切れそうな感覚を覚えた、しかし近付く奴を見ていると恐怖は消え、逆に立ち向かおうとしている自分が居た。
結果は引き分け、その後も何度も何度も同じ事を繰り返した、しかし結論は出なかった。
違う、結論が出なかったんじゃない…引き分けた事自体が結論なんだ。
今更ながら当時の事を思い出すと馬鹿な様に笑えてくる。共に暴れて笑って泣いて、辛い時も共に歩んだ"仲間"だった。
最高な一時だった…そんな事を思い出していた矢先に、奴からメールが来る、噂をすればなんとやら…ちょっと違うが、そんな感じだ。
奴はアメリカに居る、夢の為に日本を離れた。
応援したいから見送った俺も、今じゃただの人間だ、夢も将来も無いけど、ここに居る。
人は、近くに居ても居なくても、絆があれば繋がり続ける、赤い糸ではないが、黄色い、明るい色で繋がり続けている。
相手が亡くなって様が、歳上だろうが歳下だろうが、繋がり続けている。
その分、簡単に切れやすい、だから無意味にも大切にしていまうんだと思う。
眠れなくても、絆があれば、また笑顔になれる。
不眠の苛々が喜びの笑顔に変わる。
いつだってそうだった、辛い出来事の先には、また新しい未来があるんだから、焦らなくても良い、走らなくても良い、今は自分のペースで自分を作るんだ。
だから眠れない自分も今の自分なんだ…。
雨音が遠くに消えて行く。
次第に意識も遠のいて行く。
時計の針は眠りのカウントダウンを始めた、目覚める保証もない夢の世界へと。