登校〜Going to school〜
樹 海の一日は、目覚ましの音で幕開けする。
目覚ましを止め、あくびをしながら布団から出る。庭付き一軒家のこの家には、海しかいない。
自分の部屋がある二階から下り、リビングの机を見る。
無造作に置かれた新聞と置き手紙、飲みかけのコーヒーと朝食の跡らしきパン粉が散らばっている。いつもながらひどい有り様だ。
置き手紙をのぞき込む。
【今夜も遅くなる。学校に遅れぬように。片付け頼む。父】
片付けくらい自分でしなよ
そう思ったが、このままでは自分が満足に朝食を食べれそうにない。仕方なく片付ける。
度重なる転勤と、それに伴う転校。母親とはとっくの昔に別れているが、今でも父は、こんな状態だ。
片付けたところで朝食を作る。メニューはココアとトースト。新聞を読みながら食べる。
……面白くない
新聞をゴミ箱に突っ込み、洗面所に直行。歯を磨き、顔を洗い、部屋へ戻って着替える。
今の時間は七時半。
少し早いけど……行こうか
鞄の中身を確認し、家を出る。
家から学校まで徒歩で二十分。学校にはいつも、誰にも会わないように早く登校する。朝に起こる色々なことをなるべく避けるため。
学校の外見を一言で表すならヨーロッパ。洒落た時計塔が目印。
校門を入ると、目の前に桜の並木道が広がる。ここは日本風。しばらく歩くと、右手にベンチが見えてくる。そこに、人影が一つ。
「やぁ、樹さん。今日も早いね」
大海 冬夜、秀才君A。切り揃えられた髪に眼鏡。正に“秀才”。
「では、早速……sin|(π/2)はどんな三角形?」
「………」
「これは高校生の問題だよ」
秀才でも天才でもないただの中学生に、そんなことを訊かないで欲しい……
海は、何事も無かったかのように歩き出す。出来れば、『車道の真ん中で向かって来る車に訊いてみて』と言いたいところだが、それは優しさから……と言うか、話すのが億劫なので止めておく。
この秀才君Aは、密かに海に対して淡い恋心を抱いており、毎日『秀才君B(名前不明)を待っている』という口実で、海が来るのをベンチで待っている。待ち伏せ魔。
げた箱に着くと、自分の靴箱には見向きもせずに、持ってきたビニール袋からスリッパを出す。それからロッカーに向かう。この学校では、一人に一つ、鍵付きのロッカーを提供している。鍵付きなのが嬉しい。
必要な物だけ持って教室に向かう。ガランとした校舎に、ペタペタと海の足音が響く。
ガラガラとドアを開け、窓際の自分の机へと向かう。直ぐに椅子に座らず、机を後ろに引っ張って行く。そこで机を傾ける。
ガシャシャシャ……………カタンッ タンッ
大量の手紙が、床に散らばる。
………まだ減らない
転校して一週間。昨日の時点では120通程あった。確か。全てが恋文。
……座ろう
机を元の位置に戻し、椅子に座る。現在八時。昨日借りたばかりの本で暇つぶし。 |