あの橋のむこうがわ(40/60)PDFで表示縦書き表示RDF


 
 覚悟を決めて待つディーナですが・・・・・・。

 なかなか『その時』が――。
あの橋のむこうがわ
作:冴草みつな



     * かいま見た雪原


 
  初めて会ったときから、気になっていた。
 
  彼女の呼吸の浅さと、歩き方のぎこちなさ。
 
  それは普通なら誰も気にならない程の、微々たる異常――。
 
 ・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。
 
 いつまで待っても、フィルガの両手はディーナの肩を捉えたままだ。
 ――そろそろと、薄目を開けてフィルガの表情を窺う。そのまま鋭い眼光に、射すくめられてしまった。
 フィルガの灰かぶらせたかのような銀の眼と、もろにぶつかる――。
 ディーナは何故か、雪原を覆う冬の空を思い浮かべていた。
 
 あの雪が今にも舞い降りてきそうな、鈍く輝くあの空を自分はどこで・・・見たのだったろう?
 今こうやってフィルガ越しに仰ぎ見る天は、自分の瞳と同じ澄み切った空色なのに。
 
「・・・・・・ィル、ガ、・・・・・・。」
 
 何かまた大切なものを、取りこぼして来てしまった気がする。ディーナは、意識が飛んでしまいそうになるのを堪える。
 
 フ ィ ル ガ 殿 。 私 は ど こ か ら 来 た の か 、思 い 出 し た く な っ た の 。
 
 うまく言葉が紡ぎ出せなかった。気がつけば喉が渇ききっていて、からからだった。
 そういえば、ずっと声を張り上げていた事を思い出す。
 唇を動かそうとするのだが、かろうじてわななくばかりで伝えられない。
 
 だ か ら ね 、 橋 を も う 一 度 渡 っ て み よ う と ―― 。
 
 それでも、ディーナはフィルガに語り掛けていた。唇は思うように動いてはくれなかったが、それでも充分な気がした。
 不意に、強張っていたフィルガの顔が歪む。
 
「・・・・・・ディーナ、良かった」
 
 そう呟いたフィルガに、突然抱き締められた。
 腰回りをフィルガの腕が、がっちりと固定する。思わず逃れようともがくが、身動きが取れない。
 そのまま、後ろ頭を撫で回された。
「!?」
「良かった。また、行ってしまうのかと・・・・・・。」
「なんで、フィルガ殿?私のこと、ぶたないの?」
「――なぜ?」
「言うこと聞かないから、怒っているんでしょう?」
「・・・・・・。」
 
 ぶ っ た り な ん て し ま せ ん よ 。
 
 そう答える代わりかのように、フィルガは柔らかく頭を撫でてくれる。何度も何度も。
「フィルガ殿。心配掛けて、ごめんね」
 ディーナはもう一度そっと、謝った。フィルガはまた、何も答えずにただ抱きしめる腕に力を込めてくる。
「――くるしいよ」
 訴えたが、聞き入れられなかった。だから、せめてものお返しに――。
 ディーナもそろそろと腕を伸ばすと、出来るだけ抱き返してやった。
 
「私。ちゃんと、ここ・・にいるでしょう?」
 
 フィルガは答えない。ディーナの額に、唇を押し当てている。・・・・・・答える気は無いようだ。
 
 。・:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。
 
 フィルガが腕を弛めようとしないので、顔を上げる事も出来ない。
 そのまま胸に頬を押し付けた格好で、ディーナは尋ねた。
 
「ねぇ、フィルガ殿。やっぱり、橋での出来事ぜんぶ見ていたの・・・・・?」
「・・・・・・ダグレスにそそのかされて、神殿の奴に待ち伏せされていましたね」
「どうして?ぜんぶ、知っているの?」
「――俺の領域内だからです。言ったでしょう?俺は術者の中でも、上級者ハイ・クラスだと」
「言ってたね。・・・・・・ずるいよ」
「ずるくないです」
「そういえば、あの神殿の人。ギルムード?レドの事まで知ってたよ。私、
 一言も触れていないのに!第一、初対面なのに名前まで呼ばれたわ」
「アレは、シィーラに執着していますからね。間者を絶やさず送ってくるんです」 
「――え?」
 
 ディーナの存在を、彼は知っていた。それはすなわち、館内に間者が入り込んでいるという事になる。
 その狼狽を感じとったらしいフィルガは、すかさずディーナの頭頂部に唇を押し当てる。
 そして、さして気にも留めていない口調で言う。
 
「わざと隙を与えてやっているんですよ。あまり完全に締め出してもね・・・・・・。見えない分余計な妄想されて、
 いらぬ底力を発揮されると面倒ですからね。まぁ、うちも似たようなものですけど」
「そういうものなの?」
「忌々しい事に」
 
 間者。例え仕事だとしても、ジャスリート家に縁ある誰かが・・・そうだとしたら。
 何だか哀しい。自分が騒ぎの元と自覚した身の上であっては、なおさらそう感じる。
 色々事情があるとしても、きっとお互いに哀しいと思う・・・・・・。
 
「・・・・・・そう」
「アナタは気にしなくてもいいんですよ」
「もう放して!」
 
 身体が密着していると体温どころか、感情までが伝わってしまうようで気恥ずかしかった。
 ディーナは、逃れようともがく。フィルガは、腕を弛めてくれる気配は無い。
 再び、後ろ頭に大きな手のひらを押し付けられた。
 
「・・・・・・嫌です」
「は〜な〜し〜てっ!もう、放せ!」
「嫌です。もう少し、このままでディーナさん?」
「なんでよ?嫌がらせ?」
「お仕置きです」
「うっ・・・・・・だから、ごめんねってば!」
「ははは。許しません」
「や、やっぱり、めちゃくちゃ怒ってるじゃないですか!!フィルガ殿!」
 
 ディーナはもがき疲れて、ぐったりと大人しく罰を受けるしかなかった。
 
 ・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。
 
 泣き喚きすぎて、体力も限界といったところであろう――。
 ぐったりと寄りかかってくる華奢な身体を、抱きしめ続ける。
 
 フィルガは、前々から気になっていたことがあった。
 それを確かめるために、ここぞとばかりにディーナの身体を撫で回している。
 
(・・・・・・やっぱり、か・・・・・・)
 
 そっと、手のひらを背中と腰に這わせる。そうすると明らかに、伝わってくるのもがあるのだ。
 思っていた通りだった。彼女の体の腰の横がわ、右の大腿部で手が引っかかる・・・・・感覚があった。
 他にも右の腰側。そして、肩甲骨の辺りも同じく右に異常が感じ取れた。
 
(・・・・・・骨折の名残があるな。だから、ディーナは段差が苦手なのか)
 
 フィルガは暗い怒りがこみ上げてくるのを、止められなかった。悲しみ、と言ってもいい。
 自分の見立てが正しかったからだ。彼女が過去に大怪我をしたことがあるのは、これでまず間違い無いだろう。
 ディーナは実際、よく転びそうになっていた。自分で思っているよりも、上手く足が上がらないのだろう。
 歩き方からして、そのぎこちなさにフィルガは心配していたのだ。
 
(・・・・・・ディーナ)
 
 憐れみだと悟られたくは無い。だが胸に込み上げてくるものは、抑えようがなかった。
 嫌な予感があるせいだ。――これは、はずれていて欲しい。
 
 これは、転んだくらいで出来る怪我ではない。強く、殴りつけられて折れたようなあとだ。
 
(ディーナ。アナタは誰かに、暴力を振るわれて・・・・・・?だから、俺も殴るものだと?)
 
 そんな自分の推測は、間違いであって欲しい。フィルガは、ディーナから手を放すことができなかった。
 



 セクハラし過ぎですよ!フィルガ殿。そして、ディーナさん。あんたのその反応の薄さは一体。

 彼女はまだまだ、精神年齢が低いのです。

そのままで、いさせてあげたいような。もうちょっと、成長させてあげたいような。






ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「あの橋のむこうがわ」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。 (月1回)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう