8-落胆
「………」
真剣に見つめる『英明』の視線をなんとか受けながら、哀は確信した。──この少年はまさしく彼だ。
「あ、哀君!どうする?話すか?」
動揺する博士にわずかに考えこんだ後、哀は口を開いた。
「……一つ聞くわ。工藤新一という名前に、心当たりある?」
隣で息をのむ博士をよそに、彼は少し眉根を寄せた。
「…『コナン』に関係ある、名前なんだね」
必死に、あるかどうかわからない記憶をたどる。それは数分続いたが──。
「……わからない。聞いたことがあるような気は、するんだけど」
「そう。じゃあ、今は何も聞かない方がいいわ」
哀は内心の落胆をきれいに隠した。本名に反応するようなら、近いうち記憶が戻る可能性は高まる。そう思ったのだが。
その頭脳ゆえに勘違いしそうだが、彼の記憶自体はまったく戻っていない。どころか、今後も戻らない可能性も0ではない。
消してしまいたい可能性だが、……万一を考えると、うかつに真実を話せば、彼はますます混乱してしまう。
(この人もご主人も、記憶を戻す気はないのかしら?)
彼の記憶喪失をいいことに、完全に息子にしてしまっている茂子を見て、哀は怒りをおさえた。──そんな勝手な話があるか。
コナンが…新一が、自分にとって、子供達にとって、そして彼女にとって、どれほど大切な存在か。
「…今日はここまでね。きりをみて帰りましょ、博士」
博士と同時に『英明』にも聞こえるように言うと、哀は探偵団の所に戻った。
きっちり完食したお菓子のお礼を言うと、5人はまた、門を通って家路についた。 |