6-就寝
幸い、こっそり抜け出したことには気付かれていないようで、彼はほっとした。
例の空き巣事件以来、防犯センサーを増やしたことで、安心しているのもあるだろう。
「………」
さっき彼女に言ったことは、事実には事実だが、実際は過去の産物だった。
癖や仕草、ついでに口調を細々と直されたのは最初の2、3日。そのあとは、無難に彼らの息子を演じていたから。
夫婦の話に違和感を感じてすぐ、食器や衣類、アルバムをこっそり調べた。そして確信した──自分は、この家の息子『英明』ではない。
そして、彼らには確かに『英明』という息子がいたのだという事もわかった。
そこでこの家を抜け出さなかった理由はいくつかあった。
今出て行ったところで、行くあてもない。これが一つ。
家出少年として警官にでも捕まれば、自分の両親だと言い張るあの夫婦の元へ戻されることが予想できた。これが一つ。
そして───あの夫婦の心の傷をなんとかしたい。…これも一つ。
(彼女に、聞いとけばよかったな。『コナン』も、こんなお人好しだったのかどうか)
家主らしい足音が近づいてきて、彼は慌ててベッドに入った。
小さな音とともに部屋に入ってきた男は、ベッド脇の机に置いてある眼鏡に目を止めた(他に乗っている物はないので、多分そうだ)。そしてベッドで眠る『息子』の布団にそっと手を添えた。
「………すまない」
それだけ零すように言うと、また静かに出ていった。
(……今日はもう、ここまでだな。あの人が、明日も来てくれればいいけど)
そう結論づけて、彼はベッドに入ったまま、ゆっくりと目を閉じた。
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