16-似ていたのは
そのふたりは、一見すると『事故の被害者のお見舞いにきた加害者』だった。
それくらい表情も暗く、雰囲気もどよんとしていた。特に茂子のほうは、ほとんど真っ青だった。
ベッドの3mほど手前で足を止めた夫妻に、コナンは苦笑した。
「初めまして、かな。江戸川コナンとしては」
その言葉でやっと顔を上げた夫妻は、まったく悪意のないコナンの表情に戸惑った。
「…怒らないの?私たちを…」
「私たちは、自分の勝手な気持ちを君に押し付けていたんだぞ?」
「だって──僕あなたたちに、何もされてないよ?」
はっとするふたり。
コナンはあの家から出ようと画策していたが、それはあくまで、『自分の家はここじゃない』と感じていたからなのだ。彼らの息子としてなら、生活に何の不便も不満もなかった。
傷の手当をし、服を用意し、食事を食べさせ、寝床を整えて。
ただコナンと『死んだ息子』を混同していただけで、犯罪に該当することはない。
「英明君は、きっと幸せだったろうね」
一息ついて、コナンは本題を切り出した。
「じゃあ、質問するよ。英明君は、どうして亡くなったの?」
ふたりは少し表情を変えたが、間はあかなかった。
「……事故だよ。もう5年も前のことだ」
茂子ももう取り乱すことはなく、ただ涙を一筋、流した。
「本当に、突然のことだった」
あんなに突然のことでなければ、ふたりとも、ちゃんとその死を受け入れることができただろう。しかしふたりには、最愛の息子と最期のときを過ごすことも、その死を受け入れることも、できなかった。
5年間、話題にすることもできなかった。同じように写真を飾ることもできず、アルバムもあまり目に付かない所に移した。
「……忘れてしまいたかった。いや、忘れられたと思ったんだね。だから、君に聞かれたときは、自分に驚いたよ」
「うん、だと思った。だから聞いてみたんだよ」
うなずくコナン。
人は言葉にして口に出すことで、その事実を再確認する。だからコナンは以前、尋ねてみたのだ。昌好が、言葉にできるかどうか。──結果はNOだった。それで、彼がまだそれを引きずっていることに気付いた。
「でも、今日はちゃんと答えてくれた。だから、もう大丈夫だね。ね、茂子さん?」
初めて目を向けられた茂子は、まだ不安そうな視線をコナンに向けたが、やがてちいさく笑った。
「……やっぱり、あなたは英明に似てるわ。瞳が、ね」
1番似ていたのは顔ではない。まっすぐな、優しいその眼差し。
コナンはそれを聞くと、最後にもう1度、笑った。
「ねえコナン君」
夫妻と入れ違いに入ってきた蘭は、ちょっと気になっていたことを訊いてみた。
「どうして、歩道橋から落ちたりしたの?」
「え?……ま、まあいいじゃない、済んだ事は」
蘭は、急に顔をそむけたコナンの前に回り込んだ。
「気になるじゃない!博士の家に行く予定だったんでしょ?」
「…あー……うん。実は、途中でひったくりを見かけてさ、追いかけててあの歩道橋を渡ったんだけど、足が滑って……」
「で、落ちちゃったの?」
「……そう」
「もう……気をつけなきゃだめよ?」
「そうだね」
世話焼きモードに入った蘭に相槌をうちつつ、コナンは盛大にため息をついた。
(歩道橋から落ちるなんてミス、もう二度とするか!)
さりげなく、人生における重大 汚点の一つになってしまったのは、ここだけの話。 |