ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  喚び寄せる声 作者:若竹
h22.11/5 改稿しました。
第19話 成長期

 シリウスが去ってから3日後。
 服を着替えているときに、何かがいつもと違う感じがした。何?この違和感。
 ん?
 鏡に映ってる私の姿が変わってた。
 髪は肩にかかるくらいだったのに、肩をこす程度まで伸びている。それに、背も伸びていた。

「えっ?!」

 一体どうしてこんな事に?
 たった一晩で10センチ位?随分と成長していた。
 もしかして私、成長期なのかな?こちらの世界ではこんな風に一気に背と髪が伸びることがあるのかもしれない。
 ……本当にそんなことってあるのかな?
 不安になる。
 あと、変わったことがあるとすれば、シリウスが私の中から出て行ったこと。
 不意にシリウスの言葉を思い出した。

 ――――ずっと君の中で眠っていたかったよ。でも、そうすると今以上に君の体に負担がかかる。

 ――――今以上。すでに負担がかかっていたの?
 もしかして、背が伸びたこととシリウスは何か関係があるのかも知れない。何にせよ、私の体はどうなってるのやら全く解らない。
 私は異常なのかもしれない。

 私は意を決して隣の部屋へと移動した。そこではヴァルサスが優雅にお茶を飲んでいた。お茶はフランが淹れた物だろう。
 ハーブのような爽やかな香りが漂っている。今朝は眼覚めに良いハーブティみたい。
 ヴァルサスは新聞を読んでいた。
 朝日がヴァルサスを照らして穏やかな空気を醸し出す。私の気分とは裏腹に。

「おはよう、ヴァル」

 私は少し緊張しながら挨拶をした。こんな私を見たヴァルサスやフランはどう思うだろう?
 ヴァルサスは、新聞から眼を離さずに返事をした。

「ああ、おはよう、ユウ。今朝も早起きだな」

 そう言って顔を上げて私を見た。とたん、少し眼を見開いて私を見る。

「ユウ、背が伸びたんじゃないか?」
「うん。朝起きたらこんなにも背が伸びて成長してた。背がニョッキリ伸びていて、本当に吃驚しちゃったよ」
「……確かにニョッキリだな」

 私が着ている服の裾は短くなっていて、手首や足首まである服の裾から腕や足がニョッキリ出ていた。この服はゆったりした服だったから着る事が出来たけれど、着れない服もあった。
 そこにフランが入ってきた。両手で茶器を乗せた盆を持っている。

「殿下、お茶のお代わりはよろしいですか?」
「ん、ありがとう。だがもういい」

 私はフランに挨拶をした。

「おはようございます、フラン」
「あら、おはようございます、ユウ。今日もお早いお目醒めですね。ユウもお茶をどうです?さっぱりしていて美味しいんですよ、このお茶。さあ、今から淹れますからね」

 そう言ってお茶を淹れてくれた後、私の変化に気が付いたフランは少し驚いたように言った。

「あら?背が伸びました?ユウ。それに髪も伸びてますね」
「うん、そうなの。朝起きたらこうなってて、驚いちゃった」
「髪もか。言われてみればそうだが、一晩で随分と伸びたものだなぁ」

 ヴァルサスは驚いていた。それに対して幾らかフランの方は落ち着いている。

「ユウにはちょっと早いですが、成長期でしょうか?普通ならもう少したってから来るものですが。成長期の子供というのは時に驚くほど背が伸びることがありますもの」

 そうなの?
 こちらの世界の人間にも成長期があるみたい。

「髪の方はちょっと解らないけど、女の子としては短すぎるくらいだったから丁度良かったですわ」
「そうかなぁ」
「ん、まぁそうだな」

 そんなものだろうか?二人の反応は随分と穏やかな気がする。
 こんなにニョキニョキと背や髪が伸びて気持ち悪くないのかな?しかし、見ている限り二人はあまり気にしているように見えない。どちらかといえば、前向きにとらえている。
 私はほっとした。
 ――――良かった、異常じゃないのかも。

「取りあえず、今の服はサイズが合っていませんね。新しいのを準備しないと!」

 心なしか、フランの声が弾んでる。

「そうだな。こういう事は女同士で決めた方がいいだろう。フラン、任せたぞ」
「はい、お任せ下さい。ユウにはこれぞという物を選んでみせます!」

 ヴァルサスに一任されたフランは、明らかに楽しそうに返事をした。なにげに力拳なんて作ってるし……。
 大丈夫かな、何だかやる気があり過ぎるような……。
 今度は違う不安が私の心に湧きあがった。




 私はヴァルサスの執務室へ出るほかに、2日前から砦の治療所へも出かけるようになっていた。
 この2日間、午前中はヴァルサスのいる執務室で過ごし、午後は治療所で過ごしていた。
 グールとワイバーンによる襲撃の際、いつもお菓子をくれる召喚士が怪我を負っていたのだ。
 私はお見舞いに行きたいとヴァルサスにお願いした。子供が行っては治療の邪魔になるかもしれないし、許可が下りないかもしれないとは思ったけれど、実際に頼んでみると彼はあっさり許可をくれた。     
 頼んだその日の内に治療所に行く事になり、なぜか治療所の先生も紹介してくれた。
 以来、私は治療所へと通っている。とは言っても、まだ今日で2日目だけど。
 ただ、ヴァルサスがあっさり許可をくれたのは何か思う所があったようで、その為に私の治療所通いを許可したみたいだった。

 ヴァルサスが言うには私には癒しの力があるそうだ。その力はとても貴重であるらしく、少しでも力の使い方に慣れていた方が良いという事らしい。

 確かにこの世界に飛ばされた時、想像もつかない程とても大きな力を使った。しかし、それは初めの時だけで、今はほんの少しも力が使えるようなことは無かった。えいっと気合を入れて声を出し、掌を壁に向けてみる。けれど、全くもって変化なし。ホント、悲しいくらいに何も無かった。
 初めの時の大きな力はもしかして、夢か幻だったのかな?
 そっちの方が納得するよ。

「こんにちはー!」

 元気良く、淡いクリーム色で統一された治療所の中に入る。

「あら、こんにちはユウちゃん。エディルさんとクリス先生なら今は回診中よ」

 中に入ると女性の医療スタッフが笑顔で迎えてくれた。奥の方からは、聞き覚えのある患者の悲鳴が聞こえてくる。

「イダッ!イダイよっ、先生。も少し優しくお願いしますよ~!!」
「何だ、大袈裟だな。これ以上無いくらい優しくしているのに。少しくらいは我慢しな」

 先生はそう言って、患者の右腕にある赤く爛れた切り傷を医療器具で洗浄する。すると、中から膿がじわっと出てきた。傷は結構深く、筋肉組織を一部切断していた。傷の長さは15センチくらいだろうか。傷は縫合してあり、いまだ糸が残っている。その傷の周囲は赤く腫れ感染をおこしていた。
 クリス先生は薬液の滲み込んだガーゼを傷口に当て、その上から乾いたガーゼを当て包帯を手際よく巻いていった。

「はい、終わったよ」
「はあぁ、ありがとうございました!」

 クリス先生は数人の助手を連れて回診にまわっている。まだ、忙しそう。回診は当分終わりそうにない。
 私は先程の情けない声をあげていた召喚士の元へと近づいた。

「こんにちは、エディルさん。今日も凄く痛そうでしたけど大丈夫?」
「ああ~、ユウちゃん。今日も見舞いに来てくれたのかい?いや~、オジサンとっても嬉しいよ!この年になると人の優しさが身に沁みるんだよね~。本当にありがとう。オジサン感激!」

 何言ってんだか。オジサンはまだまだ30代でしょ。オジサンを認めると三十路はオバサンになってしまう。ここは否定しておかないといけない。

「エディルさんは、まだまだオジサンじゃありませんよ」
「!! もう、ユウちゃんったら~、オジサン殺しだね!」

 私に言われてよっぽど嬉しかったのだろう。エディルは体をくねらせて、喜色を浮かべながら恥ずかしそうに言った。
 ちょっと気持ち悪い。

「……。私、殺っちゃいましたか」
「うん。オジサンのハートはズキッときたよ」

 結局痛かったのか?ズキッとは何だか表現が間違ってるよ。
 私はオジサンの発言を軽く受け流し、エディルに手伝える事は無いかと声をかけた。

「エディルさん、何か手伝えることがありますか?さっき傷の処置も終わってたし、今日は体を拭きましょうか?そしたらさっぱりしますよ」

 エディルは今朝方熱が出たらしく、熱が下がった後は汗をかいていた。丁度良いので声をかける。

「ええ~!良いの?ユウちゃん。オジサン恥ずかしいよぉ」

 ……何を考えてるのか。拭いてあげるのは、もちろん片手では手の届かない背中や左側の腕や体などだ。後は自分で拭いてもらうに決まってるよ。

「おいおい、なに気持ち悪い事やってんだ、エディル。いい歳したむさ苦しいオヤジが体をくねらせるんじゃない」

 驚いて振り返るとレオンが私の後ろに立っていて、呆れたようにエディルを見ていた。レオンはエディルの様子を見に来たみたいだ。

「あ、レオン。こんにちは!」
「おう。ユウ、元気にしてたか?」

 レオンは笑顔を浮かべて挨拶を返してくれた。右手で私の頭を軽く撫でる。レオンの左手には大小の袋が二つぶら下がっていた。

「副団長、いきなり現れないでくださいよ!吃驚したじゃありませんか」
「そうか?さっき部屋の入り口で声はかけたからな。いきなりじゃないぞ」
「聞こえませんでしたよ」
「ふん、それより何やってたんだ?」
「ふふふ、知りたいですか?実はですね、なんと今からユウちゃんが自分の体を拭いてくれるんですよ!実に羨ましいでしょう?副団長」

 緩んだ笑顔を浮かべたエディルは嬉しそうに言った。

「馬鹿、なに気持ち悪く喜んでんだ。こんなオヤジの体をユウが拭くなんてとんでもない、けしからん!エディル、体は俺が拭いてやるから安心しろ。恥ずかしい思いをしなくて済むぞ。それに、その調子なら数日中にも仕事に復帰出来るな」
「ええ~、そんなぁ。横暴ですよ」

 明らかに悲しそうな表情でエディルは言った。それにしても、レオンってば結構前から私達の会話を聞いてたのかも。
 そこにクリス先生が現れた。

「復帰はまだちょっと無理だぞ。傷口の感染が良くなっていないんだ。もうちょっと良くなってからにしな」

 クリス先生は美人でナイスバディな女医さんだ。栗色の髪は美しく、顔は女優さんのよう。おまけにボディラインも素晴らしい。形の良い巨乳の上に細くくびれた腰、きゅっと引き締まったヒップ。まるで不○子ちゃんだ。そのボディは私の将来の理想であり、目標だ。男性二人の視線はクリス先生の豊満な胸に釘付けだ。勿論、私の視線だって例外じゃあない。

 現状からみて理想と程遠い私のボディだが目標は高く持ちたい。

「クリス先生~。助かりましたよ」
「別に助けようとして言ったわけじゃない。事実を言ったまでさ」
「…………。まだまだここで、大人しくしとかないといけないんですね」

 本当の事を言われてエディルはがっくりと落ち込んだ。
 そんなエディルは放っといて、クリス先生は私に声をかけた。

「ユウ、待たせたね。渡した本は少しは読んでみたかい?内容はどうだった?」

 クリス先生が貸してくれた本とは医療に関する人体解剖学の本だった。解りやすくて難しくない、初心者向けの絵が多いものだ。これを読んでみると、身体の造りは元の世界の人間とこちらの世界の人間はあまり変わらないようだった。しかし、詳しくは解らないが筋肉や骨の発達具合が若干違うようではあった。
 内容はとても興味深く面白かったので、結構読んでしまった。

「はい、とても面白くて興味深い内容でした。まだじっくり読みたいのでお借りしててもいいですか?」
「ああ、いいよ。それにしても面白く感じたのなら良かった。もし、解らない所があったり難しかったらいつでもここへ質問に来ていいからね」
「はい、先生ありがとう」
「次回は癒しの力についても勉強してみよう。私の手が空いていたら、だがな」

 そういう事で癒しの力を学ぶ事となったけど、本当に私に力があるかはいまだに疑問だった。

「お、そうだ、ユウ。この間の菓子はどうだったか?美味かったろう?」
 
 レオンが思い出したように聞いてきた。

 あ、そうだ。お菓子のお礼がまだだった。あれは本当に美味しかったな。

「あっ、この前はありがとう、レオン。あのお菓子とっても美味しかったよ!ヒエンにも変わった果物を貰ったから、お礼を伝えてもらえないかな?」
「……ヒエンの果物?大丈夫かそれは。食ったのか?」
「……」
 
 食べてない。ヴァルサスがどこかへ持っていったのだ。私は返事をせずに黙った。

「ふむ、食べてないな?それならいいだろう」

 私が返事をしなかったのでレオンは察したようだ。心なしか安堵の表情をうかべた気がする。良かった、味見しないで。

「それにしても、あいつ、果物なんて一体どこから用意したのやら」

 レオンは眉を顰めた。

「まあ、いい。それより菓子を気に入ってくれたのなら良かった。今度また、王都に行くからその時にお土産で持って帰るからな。待っとけよ、ユウ。今日のは前のとは違うが美味そうだから買って来た。ほら、俺の部下の面倒を見てくれるお礼だ。取っといてくれ」

 そういうと、手に持っていた紙袋の小さい方を私にくれた。大きい方はクリス先生に渡している。

「こっちは、いつもお世話になっているクリス先生に。良かったら今度夕飯でもご一緒しませんか?」

 レオンは軽い口調でさらっと言ってのけた。
 おお、やるなこの男。私は次の展開をドキドキしながら見守った。

「副団長は巨乳が大好きですからね~」
「馬鹿野郎っ!俺を乳目当ての男のように言うなっ!」
「私を巨乳と呼ぶな。失礼なやつらだな、お前ら」
「…………」

 ……がっかり。
 レオンとエディルは、クリス先生から白い眼で見られていた。

「お、おおっ。ユウ、お前背が伸びたんじゃないか?」

 そう言ってレオンは私の頭を撫でた。明らかに話題を変えようとしているのがバレバレだ。
 しかし、私はお菓子のお礼に返事をする事にしてみた。




お気に入り登録にして下さった方が1000件を超えました。皆さん本当にありがとうございます。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。