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港町雑景
作:近藤義一



第友話


 寄港したときには必ず店に来てくれるお客さんがいる。四十夜に一度
くらいだろうか。
 繰り返しになるけど、特に変わったところのない店に来るのだから、
買い物が目当てではない。お愛想で何か買っていってくれるのだけど、
明らかについでである。従って、両親も大事なお客さんだからきちんと
接客しようというのではない。
 早く言えば、友達なんだろうと思う。一日二日、寝泊りして、父とお
酒を飲んだり、一人であたりを散歩したりしながら過ごし、船が出る頃
になると、店先のものをいかにも適当に選んでお金を払って、挨拶をし
て出て行く。
 来るときも別段、久々に馴染みの店に来てほっとする、海の上での緊
張を緩めてくつろいでいる、という改まった雰囲気でもなく、帰るとき
もやはりまたきますよ、程度の挨拶であり、迎えも見送りも盛り上がら
ないことおびただしい。
 宿泊施設ではない店、あるいは民家が船乗りを宿泊させることは、そ
れほど珍しいものではない。むしろ、例えば船長とか、軍人さんなら将
校だとか、地位の高い人を泊めるのは一種の自慢である。
 お金持ちの友達の家に軍艦の艦長さんが来た時は僕も見にいった。背
筋がぴいんと伸び、立派な髭を蓄え、なにやら談笑する様は、確かに自
分の父親とは違う何かを持っている人だという感じがした。お金持ちの
友達がうらやましい、と少しは思ったが、家にあんな立派な人が来ても
困る、なんか怒られそうな気がする、とも思う。
 思うのだけど、しかし、うちに泊まりに来る客は何なんだろうか。あ
まりにも漠然とした人であり、父もまあそれなりに漠然ではあるのだけ
ど、もうちょっと何とかならないか。
「船はやっぱり、大変ですか」
寝床を支度しながら、そんなことを聞いてみる。
「大変、といえば大変かな。船乗りになるのかい」
考えても見なかったことなので絶句してしまい、笑い出してしまう。
「うん、ならないほうがいいかもな、お父さんやお母さんを大事にして、
あとを継いだほうがいいよ」
「いろいろ考えてはいるんですが。どうして船乗りになろうと思ったん
ですか」 
「うーん、あんまり、なろうと思ってなったんじゃないからなあ」
「そうなんですか」
「うん、初めは手伝い程度の話だったんだけどね。ああでも、べつにい
やいややっているわけじゃないんだ。でも、気がついたら、続けていく
しかなくなっていたな」
「ふうん」
「将来を考えている人に、参考になるような話はないな。ごめん」
「いえ。ところで、父とはどういうきっかけで友達になったんですか」
「なんだったかなあ。確か、酒場で隣り合わせになったんだ」
 隣り合わせになったのは全くの偶然であったらしい。そのうち酔客同
士で口論が始まった。どうも異国の船員だったようで、どこかに向かう
ための航路を南に採るべきか、北に採るべきかというような、家の泊り
客に言わせれば一長一短どっちもどっちみたいな話で、あっちだ、こっ
ちだと言っているうちに声が大きくなってきた。
 やがて隣に座っていた父が、「そうだそうだ」とか、「いや、違うぞ」
とか、「南はそもそも鬼方位だ」とか、「北は邪角じゃないか、昔から」
とかとあおり始めた。泊り客もそれが面白くなり、「うんうん」とか、
「そうですね」とか、こちらはいくらかやわらかく相槌を打っていた。
 それが効果があったのかどうなのか、喧嘩はますます大きくなり、警
邏隊もやってくる騒ぎになってしまった。喧嘩の行く末がどうなったの
かは分からないが、それがきっかけでしばらく話をすることになり、泊
り客の生まれ国のことなどを語っているうちに、泊まって行きませんか、
となったらしい。
 喧嘩した人同士が仲良くなって、ではないところが父らしいというか、
この人らしいというか。












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