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港町雑景
作:近藤義一



第悲話


 港がにぎわうのは春先と秋口。どちらも良い風が吹いて、それでいて波は比較的穏やかな時期になる、というのがひとつ。それから、その時期になると人間が動き出す、というのがひとつ。でも、人間が動き出すといっても、基本的には農作物が収穫されそれが運び出される時期だからであり、四季の移り変わりに振り回されているだけと言えば言える。
 この港町には、ものの出入りはあまりない。他の国の人に食べてもらうほどのものを作る人手はないし、外から入れるほど食べる人もいない。あ、ユウアオイはよく食べるけど、それでも輸送船一艘食べるほどではないだろう。
 交易などと仰々しい言葉で言うほど、ものの行き来があるわけでもない。だから港から離れた内陸の人には全く関係がない。いくらかなりとも上がる収益は、ほとんどが繁忙する季節のための備えに回る。僕たちが豊かになるためではない。僕の国全体を通して、それほどたくさんのものは必要ないのだ。
 ここから出る分、入る分はあくまで船乗り用である、と言える。
「僕たちは船乗りのために生きているのか」
将来について思い巡らし、行き詰っているような、ただ不安なだけな様な、そんな気分の中、同じ中等のコマエリヒバに問いかけてみた。ミズキリソウがよく日差しをはじいていた午後。問いかけてみたというより、言ってみただけ、と言うのが正しい。必ずしも正確ではないものの気持ちの一部を表している言葉を、漏らさずにはいられなかった。
「そうは言うが、船乗りたちは俺たちがいないと困るんじゃないのかい」
「そうかも知れないが、危険を省みず、ものを届け、あるいは戦に赴き、要するに何事かを行うのは彼らであって、僕たちはただその補佐しか出来ない」
「じゃあ、船乗りになればいいじゃないか」
「出来るわけない。風も読めない、波は見えない、今から船乗りになろうったって、無理な話だ」
「あれも駄目、これも駄目。何もそんなに閉じこもらなくてもいいんじゃないか」
改めて思い返してみると、自分の後ろ向きさ加減に腹が立ってくる。コマエリヒバはのんびりと、穏やかに応じてくれていたのだが、よく怒り出さなかったもんだ。
「家の仕事が嫌なのかい」
「そうじゃないと思うんだけど」
「船乗りのように生きていきたいと」
「そんな感じかな」
「海が駄目なら陸地がある。家の仕事が嫌でないのなら継いでもいい。なんだ、何でも出来るじゃないか」
コマエリヒバは生まれつき下半身が不自由だ。そのうえで僕のくだらない愚痴を聞き、そして励ましてもくれた。このときばかりじゃない、彼はいつでも、僕が充足しているがゆえにこぼす愚痴つまり甘えた物言いに、よく付き合ってくれた。
 中等に上がる前に病気が悪くなり、内陸にある大きな病院に入院することになった。急な話でもあり、見送りをしている時間もなかった。
 落ち着いたころあいに、一度だけ、お見舞いにいった。
 寝台の上に横たわっていた彼の体は、すっかり痩せてしまって、数秒の間、誰だか分からなかった。もっと早くに来なければいけなかった、自分の中のコマエリヒバを手遅れにしてしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。
 そして泣きそうになった。でも泣かないように頑張った。ここでまた泣いて、慰められでもしたら、また以前の繰り返しである。
「おかげで、何でも出来そうな気がしてきたよ。有難う」
 そう言った。嬉しそうな目元になった、と思う。
 でも、お見舞いが出来たのはそれきりだった。












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