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港町雑景
作:近藤義一



第二話


 中等三年の教室は三十人、男子と女子が半分づつ。午後いちの刻で正授業は終わり、あと、あんまり理解が進んでない人は補習、進学したい人は過習、それ以外は好きなことをして過ごす。
 別に学校にいる必要はないので、家に帰って遊びにいくか、そのまま家業を手伝うかする。たいていの家は仕事をしている時間だから、労働力は欲しい。が、分かりましたと手伝いをするようなのはあんまりいない。僕はどんな船乗りが店に来るのか割と楽しみにしているので、店番を頼まれれば断らないし、やっておくよとよく言うのだけど、これはこれで親が気味悪がって、友達はいるのか、小遣いやるから遊んでこいとか言い出す。難しいもんだ。
「なあ、軍艦、見にいかないか」
 並みの男よりも男らしいが女であるユウアオイが言う。惚れ惚れするほど男っぽいが、女である。
「軍艦。来てるのか」
「うん。カラミアの東部方面艦隊が寄港するってんだ。駆逐艦五隻、戦艦二隻の大艦隊だ、なかなか来ないぜ、見に行こう」
「そうだなあ」
 そんな大艦隊が入れるほどの港ではないから岬から眺めるだけだろう。さて、どうしようかなと考えていると、
「どうせお前、おばちゃんに、いってきますを言ってからだろ。さ、早く行こう」
 ユウアオイは僕のかばんを軽々と担ぎ上げて歩き出す。そんなに重たいものではないけど、勇ましい。
 

 もうじき夏、凪の季節になる。海で死んだ人の魂が、帰ってきたり、生前と同様寄っていったりするので、迎える準備をする。実際にはこの港町で死んだ人もお迎えされるから、必ずしも海から帰ってくる人ばかりではない。道で転んで死んでしまったらしいハナハマ爺さんの家も、お迎えの準備をしている。
 準備といったって、どこの家でもたいしたことをするわけではない。ご先祖様をお祀りしているところに、いつもよりも贅沢なものをお供えしたり、飾りつけてみたり、あらたまった服を着て挨拶してみたり。そもそも財産のある家は、それぞれがお値打ちのあるものだろうからたいしたものになってしまうかも知れないが、うちみたいな庶民はなんにせよありあわせである。
 実際には、死んだ人が帰ってくるのは大変難しい話のようで、父はもう四十六回もお迎えをしているが、いまだに再会したことはないと言う。今年こそは会いたいものだと言うが、現実主義かつ冗談好きの父の言うことだから、どこまで本気か分からない。
「会いたい人なんかいるの」
「母さんの前じゃ言えないな」
母は苦笑している。現実主義かつ冗談好きと長年連れ添っているだけに、余裕がある。
「お前と同じくらいの年齢のとき、とても仲良くしていた友達がいたんだ。彼は船乗りになったんだが、あるとき船が沈んだ」
「それで死んじゃったの」
「いや、何とか助かった。しかし、事故のショックで記憶を失い、それでもどうにかこうにかこの町に戻ってきたんだが、町の誰にあっても思い出さない。両親のことも忘れてしまったくらいだから、当然私のことなんか忘れている」
「ふうん。それで」
「私は思うのだけど、忘れるという現象にはいくつかの種類があると思う。時間がたって忘れてしまったというのと、事故のショックで忘れてしまったというのと、お前が宿題を忘れてしまったというのを一緒にしてしまっては」
「僕のことはいいじゃないか」
「というのを一緒にしてしまっては、なんだろう、私が感じる重みが変わってくるような気がする。記憶を失った、と言い換えはするが、お前が例えば宿題に関する記憶を失ってしまったと言っても、意味は通じてしまう」
「だから、僕のことは置いといてよ」
「全く別の話に出来ないものかな。骨折とヒナ風邪くらい違うと言えないものか」
「それだって体に受けたなんらかの障害という意味では同じなんじゃないの」
父は僕の顔をじっと見た。そして言う。
「それもそのとおりだ。どうしたものか」
 考え込んでしまったので、それ以上の追及は出来ない。記憶を失った友達がどうなったのか、思い出せば気になるのだけど、父親と話をするときに限って記憶が失われてしまうのだ。












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