第一話
僕が住んでいる街には港があって、たくさんの船が入って、そして出て行く。
港自体はあまり大きくないけど、大国と大国の丁度中間にあって、他に適切な場所もないから結構大きな船も寄っていく。水、食料、燃料、場合によっては人足などを補給する場所でもあるのだ。
海は広いし大きいし、荒れるときは港の中もぐちゃぐちゃになるほどだけど、ならヤマあり谷ありの陸地と比べてどうかと考えてみれば、布一枚広げれば風の力で進んでいくのだから効率はいいはずだ。海によって隔てられているのではなく、海によって繋がっている、と考えたほうがいいのかな、と最近思う。だから出て行きたいと思う人もあり、ここに来たいと思う人もあり。
僕の家は船乗り相手の雑貨屋を営んでいる。それほど繁盛しているわけではないけれど、父も母ものんきな顔をしているから大丈夫なのだろう。父の父もその父も、それぞれの連れ合いとともにこの仕事をしてきたから、代々受け継がれてきた何か名物、船乗りの間でそれと知られた珍品でも扱っているかと言うと、父は内陸で作られたどこにでもある品を仕入れて店先に並べるだけだし、母は母で女学校の頃に習ったとかいうミシン縫いで小袋とか手拭とか帽子とか、手作りしました、母が。という程度の品物を並べるだけだからさほど宣伝が必要でないものばかり。いいものを作ったり仕入れたりしているのならみんなに知ってもらわなければならないけれど、これじゃあなあ。
母の手作りと言えば、長いこと店先で日向ぼっこして色味が変わってしまった帽子をたびたび被らされた。幼い頃は喜んだものだけど、中等に入る頃にやられて閉口した。
帽子は押入れに突っ込んだままだ。いまでも。
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