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我らが太古の星シリーズ

時間

作者:尚文産商堂
プロローグ

「やれやれ…ようやくできた」
俺は、自称物理学者、川島招聘だ。
時間について考えている。
たった今、その時間に関する理論が完成した。

俺は、車に乗り込んだ。
かばんの中に、その理論を入れて。
「では、出発だ」
一人で言って、鍵をかけて、車で出かけた。

郵便局につくまで、理論をさらに拡張できるかを考えていた。
この理論は、時間の矢に関することだった。
そもそも、時間というのは不可逆的なものと見られている。
単純に言えば、氷が解けるようなものだ。
なぜそれが起きるか、そのことに絞ってずっと考えていた。
今回は、そのことから話していこう。

そもそも、時間という概念は、古代からあった。
例えばエジプト。
オベリスクが、しばしば日時計の役割を果たすことがあった。
時間のパラドクス、つまり矛盾の中で最も有名なのは、『ゼノンのパラドクス』といわれているものである。
これは、空中を飛ぶ矢は、その一瞬一瞬では止まっているため、飛ぶことは出来ないというものであるが、現実には空を飛んでいる。
そんなことを四六時中考えていたら、妻に息子を連れて逃げられた。
今は離婚が成立して、息子は妻が連れて行った。
これから結婚するかなんて、俺自身は考えていない。
どうなるかなんて、分からないんだから。

赤信号になる。
目で見える映像は、実際に起こっている時間とは極僅かにずれる。
その差は無視できるほどの小ささだが、距離が大きくなるほどに無視できなくなる。
1億光年とか言われているが、あれは、光ですら1億年かかるという時間的な隔たりがあるということだ。
「ふぅ…」
俺は、封筒に入れている一つの論文に目をやる。
時間に関する論文。
この論文さえあれば、俺は世界中で有名になれる。
野心家といわれるが、その理由はここにあるのかもしれない。
とりあえず、青になるまでちょっと待っておく。
無事故無違反、それも俺が誇れるものの一つだ。
「さて…」
問題は送ってからだ。
離婚調停によって、俺は慰謝料と必要な経費を妻にはらわなければならない。
その分の稼ぎのほかにも、おれ自身を養うための金も要る。
生きていくのにも金が要るこの世界。
どこかに飛べたら一番楽なんだが…
そうも言ってられない。

信号が青になったのを確認してから、俺は車を動かした。
時間は常に流れている。
赤から青になるのだって、時間が動いているという証拠だ。
直線的な時間軸は、いわゆる4次元目として認識される。
そんな話ばかりしていたからこそ、妻に逃げられたわけなんだが…
まあいい。

そんなこんなで、とりあえず郵便局に付いたわけなんだが…
いかんせん、論文の発想場所の住所を忘れてしまった。
本部の名前だけ覚えているから、それでどうにかしておくか…

第1章 時空理論

1ヶ月がたった。
論文に関して何の音沙汰もないまま、俺はどうにか大学の教授職で食い扶持を稼いでいた。
時間に関することは、いまなお興味惹かれる人が多く、教室が満員になる…
10人ばかりで満員になる部屋だが、それでも俺はかまわない。
「さて、今日の授業は…」
黒板に大きく書いた。
「時間移動に関してだ」
「先生、時間移動は不可能ではなかったのですか?」
生徒の一人が手を上げる。
「ああ、そういうことだった。古典的な物理学では」
教科書を横において、俺は話し出す。
「古来から、時間は超えられないものと思われていた。そのことより、理論上は出来るが現実は不可能、そういうことに言われていた。だが、いわゆるSF小説はそのようなことが出来る世界を想定して作られる。それを現実にするための理論だ」
黒板に理論を図を書いて説明する。
「時間は、このような直線とする。もちろん、左の端は宇宙が出来た瞬間で、右の端は宇宙が消滅する瞬間だ」
黒板の中心に、線を横方向へ引っ張る。
その真ん中ぐらいに、印ということで軽く点を書く。
「これが現在。時間を飛ぶためには、この数直線を飛びぬかなければならない」
「理論上は、ですよね」
同じ生徒が聞いてくる。
「ああ、これまではな」
俺はにやりと笑っていった。
「現在から時間を越えて過去、又は未来へ行くためには、その運動量に重力子分のエネルギーをかけた分のエネルギーが必要になる。重力子のエネルギーは、光子のエネルギーが近似値として流用できる」
数式を書き上げる。
「さて、この数式に従えば、エネルギーを再びもとの物質へ戻すことも可能になる。ただ、問題点がある」
俺は、一番前に座っている男子を見ながら言った。
「何か分かるか?」
「えっと…」
当てられてすぐは答えられないだろうから、ちょっと待っている。
「エネルギーを直接物質に戻すための理論がまだない…」
「そうだ。それが問題だった。時空理論といわれる理論は、時間と空間の合計4次元のそれぞれの次元が同等な存在であることを証明した。しかし、空間の理論を時間で適応できても、それは机上の空論と等しい。実際の世界で行わなければならないのだ」
俺は、それからプリントを配った。
郵便局で、送ったものと同じもののコピーだ。
「そこで、俺はこのような理論を作り出した。これから、その理論について簡単に説明をしておきたい。何かあったらすぐに言ってくれ」
全員にいきわたったのを確認してから言った。
「この理論では、エネルギーと物質をつなぐ有名な式、E=mc^2を元に、高次元でも適応できるように多少手を加えておいた。理論上はこれでうまくいくはずなんだ…実験で試してみないと分からないが」
俺はそれから、全員を見渡していった。
「作用反作用の法則では、一方の物質に与えたエネルギー方向とは反対側のエネルギー方向を受けることになっている」
誰かのメモを取る音が響く。
「その法則は、エネルギー同士でも適応できる。そのため、時間軸を旅するとき、エネルギー状態になった物体を互いに吹き飛ばして時間を旅することが可能だ」
俺はそうまとめた。
その時、誰かが入ってきた。
「すいません、豊谷教授。学会のほうからお手紙が…」
「授業中ですので、後で取に行きます」
俺は、連絡に来た事務職員の人にそう言ったが、さらに続けて言う。
「しかし、至急の印が押されているのですが…」
俺も、さすがに授業をいったん切って、手紙を受け取った。
生徒が見ている目の前で、その封筒を開けると、中から出てきたのは一枚の手紙だった。
「この手紙は、お前達も受け取ることがあるかもしれないものだ。授業は、かなり早いがこれで終わりにする。来週以降の予定は未定だ。何かあったら追って連絡が行くだろう」
そういって、全員を帰らせた。

手紙をゆっくりと何度も読み返す。
「豊谷金次教授殿。
 貴殿の論文を、本誌に掲載することに決定しました。
 なお、本論分の権利は当方と豊谷教授に存在し、
 転載等、権利上の承諾が必要な場合は、
 双方の許可がない限り無効とします。
            タム・サインス編集長」
金縁の手紙には、はっきりとそう書かれていた。
心の中で、しっかりとガッツポーズを決める。
すでに誰もいない教室で、今にもほえそうな感じだが、どうにか抑える。
教室に鍵を閉め、外へ出ると生徒の一人が待っていた。
「先生、ちょっといいですか?」
常に最前列に座っている鈴木清が聞いてきた。
「どうした」
「先生がおっしゃったことが良く分からないのですが…」
「まあ、歩きながら」
俺は冷静を保つようにして、生徒の質問に答える。
教授として職に付く以上、そのようなこともたびたびあるのだ。

質問に対して答えてから研究室へ戻ると、俺は手紙を最後にもう一度読んだ。
間違いない。
俺の論文が世界に認められたのだ。
これからのことを考えると、どうすればいいのか分からなくなってくる。
さて、何をしておいたほうがいいのだろうか……

第2章 軍からの要請

1年ほどそれから経ったとき、俺はまだ大学で教鞭をとっていた。
あいかわらず、誰かから呼ばれることもなく、毎日変わらずしていた。
変わったことといえば、国家2級勲章といわれる岡崎須磨勲章を受勲し、給料が上がったことぐらいか。

「…じゃあ、これで授業は終わりだ。来週はレポートの提出日になっているから、忘れずに研究室まで持ってくるように」
数少ない生徒にそう伝えると同時に、チャイムが鳴り響く。
授業終了を知らせる音だ。
それと同時に、本日の授業日程は、全て終わることになる。
3、4年生だけしか授業を持ってないから、週2時間だけ学校に来ればいいことになっている。
他の時間は、大概研究室にこもっているか別の大学に講義しにいっているかのどちらかだ。

生徒がいなくなってすっきりした教室を見渡しながら、俺は研究室に戻ろうとした。
荷物がやけに重く感じる。
研究室に入ろうとしたとき、軍服を着た人たちの一団がこちらにやってくるのが見えた。
関係ないだろうと思い、研究室の中に入ろうとすると声をかけられた。
「豊谷金次教授でありますか」
小隊長と思う人が、俺に聞いてきた。
「そうです、何か用ですか」
「第39軍団長キビ・カースイ中将殿がお待ちです。どうか出頭願います」

俺は軍の駐屯地につくとすぐに名札を渡され、そこに名前を書かされた。
「お帰りの際、お返しください」
受付の少尉はそう俺に伝えた。
「はいはいっと」
適当に返事をして、首からその名札をぶら下げた。
そのままの足で、軍団長室へ向かった。

「失礼します、豊谷金次教授をお連れ致しました」
「入れてくれ」
軍団長は、椅子に座って書類に目を通しながら答えた。
俺は一切気にせずにソファーに座った。
部屋の中が二人だけになると、俺から口を開いた。
「で、どんな風の吹き回しだ。大学卒業以来会ってないお前から連絡をくれるとはな」
「……あれから、こちら側はいろいろと変わった。軍に入ったのは親の意向だが、両親は宇宙軍に入ってもらいたかったらしい。嫌気がさして陸軍に転向してから、誰とも連絡を取っていない。今回、豊谷に連絡を取ったのも、時空理論に興味があったからだ」
俺はソファーにどっかりと座った。
「そんなに興味があるなら、俺の講義を受けに来たらどうなんだよ。聴講生なら1講義5000円だが」
「せめてドル換算で言ってくれ……って、そんな話ではないんだ。98年ほど前、地球を探査しに行ったチームがあるのを知っているか」
知らないわけがない。
当時、トップニュースになったほどだ。
俺自身は、その時生きていなかったからよく知らないが、急に連絡が切れて大騒ぎになったらしい。
それ以後、地球への派遣は再び封印された。
今でも、昔を振り返るときのニュースの常連だ。
「ああ、もちろん覚えてるさ。その人たちは、この軍団の出だったな」
「その人たちが、戻ってきたといったら、どう思う」
キビ軍団長は俺にそう言い返した。
「な…」
言葉が出てこない。
「情報統制を敷いているからな。どの新聞社も出すことが出来ないし、どのテレビでも聞くことが出来ない。そのような情報だよ」
やつはそういいながらも笑っていた。
「で、俺に何をして欲しいんだ」
「もうすぐ、ここにその小隊の人たちが到着することになっている。そのときに説明するよ」
そういって、笑っていた。

彼らが来る前に、とりあえず身支度をした。
そして、応接室に移動し、彼らが来るのを待った。
それから1時間しないうちに、誰かが扉を叩いた。
「イサキ・ミカガイ少佐、及び第39軍団309小隊一同、出頭しました!」
バッと衣擦れの音が聞こえそうな勢いで敬礼する。
「そこまで堅くならなくてもかまわない。とりあえず、座ってくれ」
普通に対応するキビ軍団長。
相手は、国家1級勲章受勲者と言えども、実際の階級的には少佐から少尉になる。
受勲されてからは大将と同等の権限を有しているといっても、軍団長の方が事実上上司に当たる。

それから、俺は時間を実際に飛び越えるという計画を聞かされた。
軍が全面的に補助をしてくれるとの事だったので、俺に託された仕事は、その計算だった。
彼らが出て行ってから、キビ軍団長は俺に向かって聞いた。
「…明日までに出来るか」
「ああ、やってみよう。時間は98年間でいいんだな」
「問題ない。よろしく頼む」
そういって、俺も応接室から出た。

第3章 時空跳躍

研究室にすぐに帰った俺は、パソコンと面と向かって対決を挑んだ。
計算を手作業で行っていたら、それこそかなりの時間が経ってしまうことは誰にでも分かる。
大学の採点をすっ飛ばして、ひたすらその計算に取り組んだ。

その結果、明け方5時ごろに答えが出た。
「…80ギガトン」
現在、超大型戦艦といわれているものの1隻分に当たる。
ものすごい重さが必要だということが、はっきりした。
さらに、その誤差の許容範囲は、1トンほどと計算により判明した。

俺は、朝っぱらから寝ることも難しかったので、そのまま第39軍団へ向かった。
「おはよう。昨日はよく眠れたかい」
「おかげさまで、ずっと起きてパソコンと向かい合っていたさ」
キビ軍団長は、軍団長室でいろいろやっていた。
「で、計算結果は」
「80ギガトンほど必要だ。誤差は1トンの範囲で許される」
それを聞いて、ちょっと考えた。
「…ちょっと待っていてくれ。連絡を入れておこう。無事にいったら309小隊の人たちを起こしにかかることにする」
キビがどこにかけたか俺は大体想像がついた。

「第39軍団軍団長のキビ・カースイ中将です。軍務大臣か惑星国家連合大統領閣下はいらっしゃいますか」
その言葉で、すぐに何をしているのかが分かった。
あいつは、廃艦予定の大型戦艦のうち2隻をこの実験に使おうとしているのだ。

2時間に渡る交渉の結果、どうやら了承が得られたようだ。
電話を置いて、俺の方向を向く。
「では、お願いする」
俺が後ろを振り返ると、軍曹の階級章をつけた人が音もなく立っていた。
「了解しました」
そして、扉から外へ出て、音もなくどこかへ歩いていった。
「あいつは…」
俺は何も言えずに指をさして聞いた。
「多くを知る必要はないさ。秘密は少しの人が多くを握るに限る」
そういって、309小隊の面々が来るまで待機となった。

彼らが来てから、説明をすると、徐々に顔色が変わってくるのが分かった。
しかし、そのことは何も言わずに、いくつか聞いてから、部屋から出た。
「さて、準備は整った。後は無事を祈るだけさ」
キビ軍団長はそういって、どこか遠くを見ていた。
移動中、俺はやつに聞いてみた。
「…なあ、まだあのことを引きずっているのか」
「そうさ。唯一愛した女性の死ほど、悲しいことはない。それを乗り越えるのに数年はかかった」
大学最後の年、キビ軍団長は告白をした。
大学でも美人だと評判が高い彼女の心を射止めたのは、彼だけだった。
だが、その幸せは長くは続かなかった。
彼女はその時点で病に体を蝕まれていたのだ。
徐々に弱っていく彼女の手を握り、最期を看取った彼は、俺らから離れていった。
病名は、今でも知らない。
それも、これまで連絡を取り合ってこなかった原因の一因なのだろう。

「…その時、彼女が言ったんだ。あなたは無事なんだから、今を生きてって」
初めて聞いた。
俺にすら言わなかったことがある。
秘密は個人が持つ権利だがそれをどうするかも、また個人が決めること。
俺はそう割り切って考えた。

船が止まっているドッグに付くと、ものすごい巨艦がその身を横たえていた。
「80ギガトンクラスの巨大戦艦だ。ステルス機能付き。現在航行している宇宙戦艦群の中でも最大の大きさを誇る」
小惑星でも比較的大きいものがすっぽりと収まってしまいそうな、それほど巨体だ。
「豊谷は1番艦に乗り込んでくれ。何かあったときのために、ロボット一人を乗艦させるが、かまわないよな」
「ああ、誰なんだ」
俺はキビ軍団長に聞いた。
やつは何もいわずに、船へ案内した。

「こいつが、補助ロボットだ。よろしく頼むぞ」
「へぇー」
俺はそのロボットを見た。
「若い女性か…」
「モデルは一応いるんだが、まあここで言うことは出来ないんだ。法律の壁って言うやつでな」
俺は黙って手を差し出した。
「名前は?」
突山蓉子(とつやまようこ)。今の科学技術の全てを集めて作られたロボットだよ。頭脳は疑似量子コンピューター、すべてが一人の人格を持った存在として構成されている。もちろん、食事もする」
目の前にあるロボットは、かなり精巧な人だ。
というか、言われなかったら人かどうか区別は無理だろう。
「人だな」
「その通り。こいつは人として作られたロボットだ。だが、女性とそっくりに作られている」
やつはそう言ったが、詳しくは何も聞かなかった。

「一度電源がつけられると、彼女はずっと動き続けることになる。眠ったりすることはあるが、模擬的なものになる」
そういいながらも、やつが首の後ろのスイッチを押すと、彼女は動き始めた。
「…豊谷さん、ですね」
かなり流暢に言葉がつながる。
「ああ、そうだ」
俺ははっきりといった。
キビ軍団長が俺に言ってくる。
「では、これからよろしく頼む。こいつのことは、すでに豊谷に一任することになっている」
それだけいって、やつはどこかへすぐに去った。
結局、俺は突山を連れて船に乗り込んだ。

数時間経ってから連絡が入ってきた。
「こちら司令塔。1番艦準備は?」
すぐに操縦席に座っている突山が答える。
「全チェック完了済みです。出発できます」
「了解した。追って連絡を入れる」
それだけ交わすと、再び無線を切った。
「さて、豊谷さん。わたしは今生まれてきたばかりです。これから何をする予定なんですか」
「予定では、時間を飛ぶ」
一気に混乱したようだ。
「時間を飛ぶ…?」
「ああ、理論上では実証されているが、だれも実験したことがないんだ。君には未来に飛んだか過去に飛んだかをはかってもらいたい。いいか?」
「もちろんです」
彼女はにこやかに言った。

数分してから、再び連絡が入った。
「あと30秒で発射」
「了解、最終チェック」
俺はあわててシートベルトを締めた。
「…15秒」
彼女はものすごい勢いでチェックを進めた。
「10秒前」
「最終チェック終了。カウントダウン開始」
船内が緊張に包まれる。
「5、4、3、2、1、発射!」
一気に体が沈む。
これから俺の理論が正しいかどうかを確かめる旅が始まる。
その前に、目の前がかすみだした。

第4章 過去に戻れど未来を目指せず

意識が戻ると、周りを見渡した。
荷物は全て壁に固定させていたため、船の中は整ったままだった。
わずかに動いているのが分かる。
「止めておかないと…」
俺はシートベルトをはずし、船を止めた。
突山は、眠っているようだ。
「ほら、起きろ。ついたぞ」
俺はほほを軽く叩いて彼女を起こした。
「ん…ここは…」
「過去か未来か。分かっているのは、ここは地球ということだ」
俺は手を大きく振って答える。
その時、船が近づいてくる警戒音が鳴り響いた。

「現在、未確認接近船あり。こちらに向かっているようです」
突山はシートベルトをはずすとすぐにモニターを見た。
「旧型の船ですね」
「あいつらが乗ってきた船か…だが、そうではないかもしれない」
「船体識別信号受信。500年時点のものと一致します」
俺は考えた。
戦闘体制にしなくてもかまわないだろうと判断し、そのことを言おうとしたとき。
カチッと言う音が、手のひらの下から聞こえてきた。
「え…」
一気に室内が赤くなってくる。
「攻撃を開始します」
冷たい無表情な声が頭に入ってくる。
船付属のAIだ。
何か言う前に、光が発射された。

この光の弾は、光子が集まって構成されており、その破壊力は小惑星程度なら粉砕するほどだ。
そんなものの直撃を食らえば、ひとたまりもないだろう。
俺はそのことをただ見ているしかなかった。

数発発射された光の弾に対して、向こう側からもいくつかの爆薬弾体が発射されるのが見えた。
「それじゃ間に合わない…」
俺は、彼らが死ぬことを覚悟した。
しかし、突然地球からの光の光線で、その全てが消滅した。

あっという間の出来事だった。
何が起きたか理解するのに、さらに時間がかかる。
「どういう…ことだ」
俺は突山に聞く。
「地球から放射された光によって、全ての危険物は破壊もしくはその効力をなくしました」
彼女が言っている意味が分からない。
地球からの放出といっても、地球から全員が撤退してからかなり経つ。
その間、ひたすら誰か来るのを待ち続けてきたというのだろうか。
「それと、近くに縮退炉と思われる物体が観測できます。過去の遺物のようですが、いまなお稼動可能です」
「それはすごい…」
過去、地球にあった文明は宇宙の基礎といわれていた時代がある。
今でもそのように言う人はいる。
だが、これほどまでに高度な機械を作ることが可能なほど、文明が発達していたというのは、誰も記していない。
「そのことは残しておくべきことだな」
俺はそうつぶやいた。

ちょっとして、彼らが地球へ降りていくのをみながら、俺たちもこの軌道から離脱することを考えた。
「離脱可能か」
俺は突山に聞いた。
ちょっとボタンをいくつか押してから、俺を見て言った。
「縮退炉をどうにかしたら、移動は可能です。しかし、この状態で動いたら、間違いなく離脱する前に縮退炉のエネルギーとなります」
彼女のその発言は、ここで朽ち果てろというものに等しかった。

エピローグ

それからというもの、彼らが戻ろうとしたとき、再びあの光がその船を包んだ。
俺たちはそのことを見ながら思い続けた。
「…実験は成功だ。だが、彼らからみれば失敗なんだろうな」
すでに、省電力モードに移行しており、必要最低限のエネルギーのみがこの船を維持していた。
「ですね」
突山が答える。
結局、あの光の正体は不明のままだ。
2回という観測回数の少なさ、現状を鑑みて仕方がないことだろう。
偶然にも、この船には冷凍睡眠するための装置がついており、俺は誰か来るまでそこで眠ることになった。
突山は、省電力モードと称して、一気に行動不能状態に陥った。
「おやすみ、突山」
俺はそれだけ言ってから、カバーをしめた。
空想科学祭2009
参加作品

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