貴方は主人公になりたいですか?
そのような大事な時間にも、アルフレッドは空気も読まずに騒ぐ。
「ほら、ほらアベル! それがいいって!」
「うるさい全力でうるさい」
ミータンは甲高い声で騒ぐのをやめ、仕方ないなとため息をついた。
「ユリシーズを主人公にすれば、あとはそれだけで良かったのに」
「ヒーローは?」
「譲らないぞ!! まあ……よければこの後も頼むよアベル……永遠の生者、君ならその悲願を叶えられるだろうし」
「帰るのか。まだもう少しいるといい」
「……ん、ありがとう。気持ちは頂くよ」
でも、とミータンは黙ってしまった。
アベルには、ミータンのいう『今回限り』がよく分からなかった。それは誰に制限されているのだろうか、それほど強い掟なのか、アベルはやはり分からなかった。
しかし聞くこともなかった。アベルには関係ないことなのだ、きっとそれはいつまでも。
「あっ、リードだ」
「む、どこだ?」
「見えないよ、でもいる。じゃあねーみんな! ごめんリード、今行くから!」
「ありがとうミータン」
ミータンは一瞬動かなくなったが、まるで生きているかのような血の通った笑顔を見せる。
ユリシーズはそれに慌てて、急いで追おうとしたが、そうはならなかった。ミータンは軽い足取りで、哀れな兄弟に近づいていく。
「ガーリック、可哀想だな。どんなに一人が好きでも、二度と一人にはなれないから。君が来るまできちんと見張っておくね」
「ミータン……ありがとう、みんなにも伝えてくれ」
「そんなこと言ったら青蘭あたりキレるよ。アイアンリニスからだったら多分みんなキレる」
「でも俺からも伝えておいてよ」
それだけ言って、ミータンはさっさと歩いて行ってしまった。消える、を想像していたユリシーズは、いまさらながらミータンの死を疑う。
主人公になりたいですか?
いや、俺は
こうして、あの事件から繋がった、太陽戦争は幕を閉じた。
その後、アベルは妹と共に消えてしまった。永遠の生者が一番死者らしいと、オフィリア王は苦笑している。
ミケルはガネリル復興のため、やはりオフィリアを離れた。それにはミランも一緒であるらしい。ついていったエイプリルへの愚痴が、手紙には綴られている。
そして肝心のユリシーズは、
「おいお前! 銃弾から逃げるな! つかまえろ!!」
「うわあああ!!」
きっと元気だ。
彼はまだ若い。これから何があるか分からない。現在でなければならないのだ。
永遠の生など、ありえないのだ。ユリシーズはそれまでを必死に歩むと決めた。
「ん、ありがとうオズワールド。みんな元気ならいいよ」
「相変わらずだなあこいつら。やっぱ国王俺のがいいって」
「僕らも相変わらずだけどねー」
「お役にたてて光栄です」
そう言うオズワールドは、きょろきょろと視線を散らし、何かを気にしていた。
その動作が気になって、ミータンはテーブルに身を乗り出す。言え、という無言の圧力に他ならない。
「あの、お姉さまは」
「ああ。そろそろまた生きるって」
「は!?」
「んじゃー俺も」
「君はユリシーズくんが来るまで待たなきゃね〜」
「ちっ」
「でもまだまだ時間かかる。早めに行程済ましてオズワールドの子になるんだって張り切ってたけどな」
「子は産めませんよ!」
「産ませろよ!」
下品だと、ミータンはリードを小突いた。どっちもどっちだが、それは誰も言わず、気まずそうに笑う。
困ったように、それでも嬉しそうに。
「ユリシーズを主人公にするのは邪魔されたからね。また俺も産まれなきゃ」
「次は主人公ですか?」
「いや、俺は」
……何でもいいや。
喜劇も悲劇も、劇だろう?
Fratricide
私は無力だ。
結局は何も変わらなかった。
しかし、学んだ。学ばせるつもりで、彼らに学んだ。
穢れるための、兄弟殺しのためではない。
生が幸せではない。
命が幸せではない。
幸せは、本人にしか分からない。
故に求めるだろう何度でも。
兄弟殺しの忌まわしき歴史が、此度の争いにて絶えてしまうことを。
ダルシイ。私たちも生ある限り頑張ろう。
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