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第94話






 ルクスの試合は『凄まじい』の一言だった。

 またも剣士VS魔術師の試合だったが中身は前の試合とは全く違った。

 魔術師が開始と同時に距離をとろうとバックステップを行った瞬間、魔術師の体が後方に数メートル水平に吹き飛んだ。


「えっ!?」


 審判が驚きを隠せずに吹っ飛んでいった魔術師の方をポカンと見ていた。

 いつの間にかルクスは、横凪ぎに剣を振りきっていた。

 魔術師が生きていたのは恐らく、事前に準備していた防御のアイテムか魔法のおかげだろう。


「ぐ、ゲハッ」


 魔術師は腹を押さえながら何とか立ち上がった。

 ルクスの攻撃が手加減されていたからだろう。


「まだ、続けるかい?もう防御のアイテムは無いよ?」


 恐ろしいことにルクスは防御のアイテムを前提として攻撃を放っていたようだ。

 魔術師はブルブルと震えながら降参を宣言した。


『な、なんと実況をする間もなく試合が終了してしまいました。なんという、強さ。これが『激剣』のルクスだぁ!!』


 実況にやや遅れてあがる歓声。


 ルクス!! ルクス!! ルクス!!


 すごい人気だな。


「ただいま」


 当の本人はのほほんと控え室に戻って来やがった。


「で、さっきの女の子。なんか変だったよね?」


 さっきの女の子というのは、ルクスの前に試合を行った『病弱な少女』の事だ。

 病的なほど白い肌と、全身にはしる手術痕。さながらフランケンシュタインのようないでたちだ。

 しかし、ルクスの言う『変だった』はこの場合外見のことではない。


「なんだか、そこにいるのにゆらゆらして幽霊みたいだった。あと、なんだか2人分の気配を感じたんだよね」


 そう、俺がステータスを確認してみるとステータスが『読めなかった』。

 見えなかったのではなく、『読めなかった』。


 ルクスの言う通り2人分のステータスが重なりあっていて読むことができなかった。

 わずかに読み取れたのは、スキルに【火魔法】と【氷魔法】が合ったことくらいだ。 

 

 極めつけは、彼女が『予選免除組』だと言うことだ。試合が終わるとゲヒヒと言う下品な笑い方をした男が少女に近づいてきた。

 少女と下品なおっさん。

 もうこれだけでどこか犯罪チックであるにも関わらず、男はなんの遠慮もなしに少女の体をまさぐり始めた。

 少女は時折顔を歪めるが、一言も声を発することなく男の手を受け入れていた。そこには諦めの色が滲んでいたように思う。

 ルクスが試合でいない時で良かった。いたら、正義マンのルクスが見逃すはずもない。


「よし、どうやらまだ持ちそうだな」


 男が満足そうに呟いてまさぐる手の速度を緩めた。

 少女がホッとしたのも束の間、男の手は少女の発展途上の蕾を重点的に責め始める。

 断続的な刺激に合わせて体を震わせる少女を蔑んだ目で見ながら男が少女に追い討ちをかける。


「どうした?まさか、こんなことで感じているのか?」


 少女の白い肌が、かぁっと赤くなる。


「ふん、淫売め」


 言いながらも手を止めるつもりはないようだ。とうとう少女の口から堪えきれないうめき声が漏れ始めた。


 しかし、次の瞬間会場から歓声が上がりルクスが控え室に近づいてきている。

 このままでは、控え室ここに注目が集まると判断したのだろう。引きずるように少女の腕を引っ張りそそくさと控え室から出ていった。

 これが、次の対戦相手。『病弱な少女』との初接近だ。



 さて試合は現在、第6試合目が行われている。

 七光り騎士VS拳法家の戦いである。

 一見、武器を持った騎士が有利かと思われるが猿獣人である彼の長い手足から繰り出される技の数々は、とてもLv12程度の騎士に防ぎきれるものではない。


「ま、待て、私を誰だと思って、グベラッ」


 戦闘中に大口を開けて喋ろうとするせいで、攻撃を受けた瞬間口の中は傷だらけになった。

 その痛みに耐えられなくなった騎士は降参を宣言しようとしたが血だらけの口では上手く喋れないためリングの外まで逃走することを選んだようだ。

 拳法家はできた人のようで、勝利後リング上で一礼し静かにリングを後にした。


「あの攻撃は厄介だな。剣の間合いでも拳が届きそうじゃないか?」


「そうだね、気を付けないと」


 次の対戦相手を冷静に分析するルクス。こいつには慢心とか、油断とかないのか?

 少しはあおの七光り騎士の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。


 次の試合は、剣士VSエルフ。


 異世界経験の浅い俺は勿論だが、ルクスですらエルフの知り合いは居ないらしい。

 どうもこの世界のエルフは他種族を見下す、『高飛車系』らしい。

 外見だけ見れば華奢で聡明そうで、特徴的な長い耳をしており、しかも吟遊詩人。手にハープっぽい楽器を持ってリングにあがっている。

 あれで、どうやって戦うのだろうか?

 

 試合開始と同時に実況席に何かを投げ込んでいる。どうやら、煙玉のような物のようだ。

 実況席がこの騒ぎで実況を中断している間にハープを奏でだすエルフ。どうやら実況の声が邪魔だったようだ。

 しばらくして、対戦相手の男が降参してしまった。

 彼女が持っている【音魔法】とハープの効果【感情増幅】のせいだろうと判断した。



 次の試合は、王族近衛Aが意地を見せての勝利だった。

 まあ、着ている装備の差とも言うが。


 さて、次の試合 はミスターXこと、メイドのアイリーンさんの登場だ。

 顔まですっぽりと覆うローブのままで戦っているがさすがに強い。

 俊敏な動きを見せる狼獣人をスピードと華麗な鞭捌きで圧倒してしまった。


 ケンタウロスのつがいは両方とも一回戦を突破していた。

 ♂のケンタウロスに負けた王族近衛Bが、試合後ケンタウロス♂に向かって『馬ごときが、御前試合にでるな!!』と言い放ち、ルクスが正義マンを発動してしまった。

 彼のその後は誰も知らない。


 さてもう一人の俺、つまり竜の戦士アイラの試合も呆気なくかたがついてしまった。

 対戦相手である魔物使いは、なんと王国でも両手で数えられるほどしかいない『ワイバーン使い』らしい。

 『ワイバーン使い』は強力な種族であるワイバーンを使役し、国の竜騎として調教するエリートらしい。

 中でも彼は自身もワイバーンに乗って戦う竜騎士の一人でもあるらしい。

 そんな事を実況が説明していた。


 そんなすごい相手との戦闘は、開始の合図と共に襲いかかってきたワイバーンに向けてアイラとルビーが同時に【統括者】で負荷をかけて決着がついた。

 アイラは、あくまでも動きを鈍らせる為にスキルを使ったらしいのだが、ワイバーンが背中の魔物使いを振り落として、腹を見せる服従のポーズを取ってしまった。


『これは、ワイバーンが服従の姿勢をとっている?さ、さすが、竜の戦士というべきなのでしょうか』


 貴賓席でセルヴァがドヤ顔をしているのがうざかった。


 次の試合は、奴隷戦士VS唯一、本戦に残った一般人の試合だ。

 奴隷戦士は、モーニングスターのような武器をブンブン振り回し、ヤル気満々だった。

 予選免除組の彼はどこぞの見世物の花形選手だったらしい。

 試合が始まると同時に一般人が降参しようとしたが、腹にトゲ鉄球をまともに喰らいリングの外へと吹っ飛んでいき試合終了となった。

 どうやら、一命は取り止めたようだが、本当に一命を取り止めただけのようだ。

 今回の試合の一番の被害者は彼かもしれない。

 予選で負けていればこんなことにならなかっただろうに。


 一回戦も残すところあと、3試合。

 王族近衛VS奴隷戦士♀の試合が始まった。

 奴隷戦士♀は、いわゆるアマゾネスのような部族の出身なのだそうだ。

 町に出てすぐさま悪いやつらに騙され、気がつけば奴隷になっていたそうだ。

 この大会で優勝できれば奴隷身分から解放してもらえると約束したらしい。

 ちなみに、優勝できないと別の主人に売られてしまうようだ。

 そんなことを、控え室で笑顔で俺に話してくれた。

 どうやら、優勝したら解放。までしか理解していないようだ。

 頑張れ!!アマゾネス!!

 応援の成果か、アマゾネスは勝利を納めた。

 対戦相手が正統派の戦士である王族近衛だったのが良かったのだろう。

 正々堂々と剣技の競い合いで戦っていた。


 あと2試合。

 剣士VS剣士。

 一方は、名のある大会を征したこともある有名な剣士らしい。

 一方は、生きるために剣をふるい続けてきた冒険者の剣士。


 火花を散らせる激戦であったが、試合を征したのは名のある剣士だった。

 応援の数も圧倒的に彼に軍配があがっていた。

 あるいは、それが力になっての勝利かもしれない。


 そして一回戦、最後の試合。

 ある意味、俺の中では注目度No.1の試合だ。

 『伝統勇者』VSムキムキ魔族


 『伝統勇者』は、流れるような連続攻撃を繰り出し、すべてをヒットさせている。

 しかし、ムキムキ魔族は痛がりもせず、どこからも出血していなかった。


「こんなものか。じゃあもういいよっ」


 無造作に振られた腕を剣で防ごうとしたが、剣は折れ、リング外まで吹き飛び、体に折れた剣がめり込んでいた。

 刃が突き刺さっていたのではなく、体に剣の腹が沈み込んでいた。

 一体、どんな馬鹿力だ。

 

 一回戦から波乱に満ちた御前試合。はたして勝利の栄冠を手に入れるのは誰か。


 

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