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第87話




 

 ゲルブ族との会談が終わり、やれやれこれで一息つけると迎えた朝。

 ヤクゥが見たことがないくらい上機嫌で家の掃除をしていた。


「ヤクゥ、何か良い事でもあった?」


「うん、もうすぐ兄ちゃんが帰って来るから」


「そ、そうだったな。無事に帰って来たら、また広場で宴会だな」


「本当!?私、準備とか頑張るよ!!」


「ああ、楽しみにしてるよ」


 ヤクゥはまた嬉しそうに掃除を再開した。

 

「ヤバイ、忘れてた」


 早足でエミィに確認に行く。


「そうですね、予定通りなら今日の夕方には着くんじゃないですか?」


 もちろんエミィは覚えていた。あんなに色々あったのによく覚えていられるものだ。

 エミィと相談し、帰還を祝う宴会を催す事になった。




 その日の夕方、予定通りに『ゴブリン運送』の馬車が帰って来た。

 契約の関係で直接冒険者ギルドに向かうはずなので、そわそわしているヤクゥを連れて冒険者ギルド前で待っていた。


「ただいま、ヤクゥ!!」


「お帰り、兄ちゃん!!」


 この兄妹の兄妹愛は、微笑ましいものがある。

 飛び込んでいくヤクゥをしっかりと受け止めるサイ。なぜか周りから拍手があがり、涙ぐんでいる人達までいる。

 いや、まあなぜか俺までうるっときてしまったが。


「ご苦労様、サイ」


「おう、ヒビキ。無事戻ってきたぜ。というか、本当になにもしてねぇや俺」


 どうも、護衛に選んだゴブリンたちは優秀過ぎたようだ。馬車にモンスターや盗賊を近づけさせる事もなく撃退していたようだ。


「ぜひとも、次も『ゴブリン運送(うち)』を使いたいって奴らが結構いてな、街での商人との攻防のほうが疲れたよ」


 どうやら、次の仕事も決まったようだ。ウェフベルクからの荷物も錬金術師ギルドにほとんど抑えられているので、いつでも出発できるだろう。


「色々、話したいこともあるが、それは村で聞くことにするよ」


「そうしてくれ、今日はゆっくり風呂に入って疲れを癒したいよ」


 サイは、馬車の中も悪くは無いんだけど、風呂→ベッドの連携技には抗えんからな、と笑っている。


「そうか、ゆっくり休んで、」


「兄ちゃん、背中流してあげるから!!」


 俺のセリフを遮るようにヤクゥがサイに話しかける。


「い、いや、大丈夫だぞ」 


「でも、兄ちゃん疲れてるんでしょ?」


「あ、ああ、そうだけど」


「じゃあやっぱり背中流すよ!!」


 ヤクゥは、食事状況も改善されたため出会った頃に比べてかなりふっくらしてきた。

 もちろん、10歳と言う年齢の割にはと言うことだが。

 さらに、毎日風呂に入り小奇麗になり今日は可愛らしいスカートを履いているので、もう誰もヤクゥを男と間違えることは無いだろう。


 とはいえ、風呂が一般にはほとんど普及していないこの世界において『背中流す』は、セーフだ。

 周りの観客達の頭の中には、『平桶の中で座り込んだ裸のサイ』と『手桶で兄に水をかけて背中を流す服を着たヤクゥ』が投影されているはずだ。

 それは、今見た兄妹の感動の再会の続きでしかない。

 つまり、


「よかったじゃねぇか。妹にしっかり背中を流してもらいな」


「まったく、兄貴思いの妹じゃねぇか」


 まさに外堀から埋められていく状態となった。


「い、いや、でも」


 最後の抵抗をするサイだったが、


「兄ちゃん、私の事きらいになった?」


 涙目のヤクゥのこのセリフに無条件降伏することとなった。






「良かったじゃないか、サイ」


 馬車から降りて来たのは、俺の知っている顔だった。


「やあヒビキ、久しぶりだね」


「ルクス!?」

 

 勇者候補、ハイルクス・ブレイブハートはひらひらと手を振り、俺に笑顔を向けるのであった。






 俺と別れてからのルクスは噂で聞いた通り、ブレト防衛戦でまさに一騎当千の働きだったらしい。

 モンスターとの戦闘が沈静化してからは本人の希望と教会の思惑からバーラとセイラ、両方の勇者候補としてブレトの街の復興の旗印にされていたようだ。

 そのためについたあだ名が『双天勇者』と言うらしい。

 バーラは選定神官ではなかったはずだが、何かあったのだろう。


 あだ名うんぬんはサイが教えてくれた。本人は非常に嫌そうな顔をしていたが。

 装備も、レザーアーマーから金属製の鎧に変わっていた。

 なんでも、教会が聖別した銀を使って製作した鎧らしい。 


「さすがに、オリハルコン製の鎧は正式な勇者になってからだって言われたよ。別に欲しいなんて言って無いんだけどね」



******************************************

光の銀の鎧



効果

【光の銀】

 闇魔法の耐性上昇。


******************************************


 『光の銀』は、プール草のように光魔法を纏った銀を加工した物らしい。

 

「それで、『ブレトの英雄』がどうしてこっちに戻ってきたんだ?しかも1人で」


「君だって、『ウェフベルクの英雄』だろ?」


 笑顔で答えるルクス。じろっと睨むと肩をすくめて語り始めた。


「近いうちにブレトで御前試合があるんだ。その試合に勇者候補が数人参加する」


「へぇ、お前も参加するんだよな?」


「ああ。ヒビキ、君も参加しないか?」


「脈絡がなさすぎるだろ」


「そもそも、この御前試合。未だに正式な勇者が現れない事に焦った王族が開催しているらしいんだ」


 つまり、現状で最有力のルクスがいるブレトで御前試合を行って無視できないような状態に追い込むのが狙いか。

 しかし、他の候補者も捨てがたいので試合には参加させるわけだ。


「そんな試合になんで俺が参加しなきゃいけないんだ?」


「それこそ、愚問だろ? 君はウェフベルクの危機を未然に察知してここに残り、その危機を撃破している」


 いや、それは偶々だ。ブレトのほうが大変そうだったからこっちに残ったんだよ。


「それに、街に侵入した魔族を見つけ出しその魔族も倒している」


 倒してないぞ。封印しただけだ。まだ生きてる。


「それに、サイに聞いた話じゃ差別に苦しむヴァンパイアを保護したそうじゃないか」


 保護と言うか、勝手についてきたからこき使っているというか。


「村にはリザードマンまでいた。彼らは気難しい事で有名な種族のはずだ」


 それも、あちらからコンタクトを取ってきたのだが。


「別に勇者候補として参加してくれなくてもいい。他の勇者候補にヒビキのすごさを知って欲しいんだ」


 そんな試合に参加して、勇者候補にされたらどうするんだ。


「そんな試合に出てもメリットが無いよ」


「そう言うと思ったんだ。試合で上位に入ったら王国秘蔵のアイテムを進呈するって話だよ」


 大会優勝者には、聖剣 希望の光(ライトオブホープ)

 準優勝者には、竜殺しの剣。

 第3位には、星くずの指輪。

 4~8位に金貨30枚が与えられるらしい。


「星くずの指輪?」


「あれ?そっちに食いついた?」


「いや、優勝、準優勝が剣で3位は指輪なのかと思ってな」


「ああ、そうか。なんでも持ち主に無限の力を与えるらしいよ」


 なんとかごまかせた。しかし、『星くずの指輪』は、欲しい。

 ジルの事件の時に『星くずのペンダント』を手に入れた時は偶然だと思ったが、こうも続けざまに俺の前に現れるのはなにかあるのだろう。


『YES』


 なにかあるらしい。

 とは言え、普通に参加して目をつけられるのも嫌だな。

 参加するにしても何か考えなくては。



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