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第86話







 族長が到着したのは、2日後の事だった。移動時間を考えればほぼ即決でこちらに来ることを決めたのだろう。


「この度は、ご足労いただきましてありがとうございます」


 俺が頭を下げて丁寧に対応するとピノの親父さんは狼狽えて辺りをキョロキョロする。



******************************************

ザザ・ゲルブ 42歳

ゲルブ族・族長 Lv.28



スキル

【水棲適応】

 水中で生活が出来る。


【ゲルブ族の掟】

 部族内の発言権が上昇する。 

 ゲルブ族のしきたりを作ることが出来る。 


******************************************


 職種が族長で、スキルにもゲルブ族を統率するものがある。

 ギーレンは職種は確かに『領主』だが、スキルは無かったはずだ。とりあえず確認してみる。


******************************************

ギーレン・ブルクス 45歳

領主 Lv.11 状態 【血の契約】




******************************************


 やはり何も無い。というか、レベル低いな、ギーレン。


「落ち着いて、お父様」


「わ、わしは落ち着いておる。『全滅』殿、これは一体どういうことじゃ?」


 ピノの親父さん、つまりゲルブ族族長、ザザがこれほど狼狽えているのには訳がある。

 その訳とは、話し合いの場所がウェフベルクの領主の城にある応接室で行われており、さらに領主であるギーレンまで部屋の中にいるからだ。


「領主様とは個人的な知り合いだったので、部屋をひとつ借りただけですよ。うちの村ではそちらに意図しない重圧をかけてしまうかもしれませんから」


 勿論、狙いは別にある。

 族長の不信感を公的な立場のあるギーレンの立ち会いで払拭し、契約を行い安くするためだ。

 ギーレンがこの部屋にいるのはギーレンの希望だ。

 ゲルブ族との友好的な関係はウェフベルクの利益にも繋がるらしい。

 ぜひ、参加させて欲しいと言われた。


「領主殿は、『全滅』殿に脅迫されていると聞いたが?」


 噂の事を聞かれるとは思っていたがこれほど直接的に聞かれるとは思っていなかった。

 

「俺達が領主様を? そんなことをして何になるんです?確かに色々と便宜を図って頂いてますが常識の範囲内だと思いますよ」


 プッと、後ろでギーレンが吹き出している。今の俺の話のどこに笑うところがあっただろうか。


「ええ、彼にお願いされたのは時々こうして顔を合わせて話がしたいといわれたくらいですよ。あとは、仕事の斡旋をこちらから依頼するくらいです」


 嘘は言っていない。それらが契約によって行われているだけだ。


「私としては、ゲルブ族とは仲良くしておきたいんですよ」


 にっこりと笑ってザザに答えるギーレン。


「何を望むのだ?」


「湖の近くにある拓けた場所をお借りしたい。もちろん、開発の資金はこちらで出しますし、そちらの生活には極力影響を与えないように致します」


 なにより、そこに店が完成すればウェフベルクまで換金に来る必要がなくなるのです。と、ザザに開拓のメリットを説明する。


「必要なものを湖近くで買うことが出来るのか?」


「そうです」


 田舎に初めてコンビニが出来る感覚なのだろうか、ザザが護衛として連れて来た若い男のリザードマンたちが、おおっ、と反応する。


「ついでに、族長殿が気にされているヒビキ君との交友も私が取り成しましょう」


 どうも、ザザは俺と目を会わせようとしない。

 逆にピノとはよく目が合う。視線が合うと縦に長い口を少しだけ開いてシャーッと音を出してくる。

 最初は、威嚇されているのかと思ったがどうやら微笑んでいるようだ。

 近くにいたヤテルコが、小さな声で、

 

「ピノお嬢様、なんと愛らしい」


 とか言ってたし。

 と言うことで、交渉はギーレン主導で行われた。

 俺としてはギーレンが話している開拓が行われれば楽になるなぁ位の気持ちで聞いている。

 そもそも、いきなり嫁さんを送り込んできたのはザザのほうなのだ。

 こちらには特に要望も無い。あるとすれば、湖周辺の薬草とか少し欲しいくらいだ。

 プール草のサンプルは多いほうがいいだろうし。

 それも、開拓が進めば自然と流通するだろう。


 部屋にいる者たちのほとんどがこの話に乗り気だった。族長であるザザを除いては。 


「しかし、ヒビキ殿はおかしな儀式を行っておりました。儀式の結果、オーガを数体呼び寄せていたのです」


「それは、偶然ですよ。それにアレは儀式なんかじゃありません」


「そうです、お父様。アレはヤキュウという遊戯なのです」


 二日の間にピノとヤテルコには野球を経験してもらった。

 ヤテルコはバットにボールを当てた時の爽快感にはまったらしく、暇さえあればゴブリンたちとバッティングの練習をしていた。

 ピノにもやらせたが、走攻守どれにも才能を見せた。やはり亜人の身体能力は侮れない。


「ヤキュウというのは、体と同時に頭も使う遊戯なのですね」


「そうだね。これは秘密なんだけど、うちのゴブリンたちの戦闘力の高さは野球で培われたものなんだよ」


 そんな、半分冗談のような俺の言葉を、なるほど、と興味深げに考えていたピノ。

 娘の熱心な言葉に少しだけ警戒心を解いたザザに野球を体験してみませんか?と誘ってみた。

 ヤテルコとピノがぜひ、と言うのでゴブリン村の野球広場でゴブリンズとリザードズの初対戦が始められた。


 とはいっても、リザードマンたちは全員素人なので、感覚的にはおっさんがビール片手にやる草野球みたいなものだ。

 魔球まほうをつかったへんかきゅうも普通の変化球も禁止にしてバカスカ打ち合う泥仕合を演出した。


「ヤテルコ!!打つのだ!!貴様が打たねば、わしまで打順が回ってこん!!」


 ザザは、ヤテルコと同じくバッティングの魅力に取り付かれたようだ。

 すでに試合は、得点の集計を行うのを放棄しており、さながら小学生の『無限野球』の様相を呈してきた。


 まぁ、種族を超えてこれだけみんなが熱くなるのだから、ザザの言うとおりこれは一種の儀式かもしれない。

 すでに観客席のゴブリンやヴァンパイア達はリザードマンたちとかなり打ち解けている。

 ピリピリした感じが無いのは得点を放棄したのが良かったのだろう。

 広場のすみでも、ゴブリンがリザードマンにバッティングの指南を行っている。

 バッティングが好みなのは種族の差だろうか。

 結局、日没で球が見えなくなるまで『無限野球』は続いた。




「昨日は年甲斐も無くはしゃぎ過ぎてしまった申し訳ない」


 ザザが恥ずかしそうに頭を下げる。


「気にしないでください。誤解も解けたようですし、野球も気に入っていただいたようですから」


「あ、ああ、あれはぜひともうちでも流行らせたい。色々とご教授いただきたいのだが」


「もちろん、喜んで」


 ゲルド族とは異文化交流という名目で10人ほどのリザードマンをうちの村に住まわせ、代わりにこちらも10匹ほどのゴブリンをゲルド族の集落に置くことになった。

 この人数も野球が影響しているのだろう。


「では、私が残ります」


 ピノがこの村に残ると言い出した。


「うむ、それが良かろう」


 てっきりザザは止めると思ったのだがなぜか乗り気だった。


「もともと、私は花嫁のなりにこの村に来たのですから」


「いや、俺断ったじゃない。そもそも、嫌だったんでしょ?」


「あの時は、ヒビキさんの人となりを知りませんでしたから。でも、今なら大丈夫です」


 また、シャーッと音のする笑顔をこちらに向けてくるピノ。

 すっと、寄り添ってくるアイラ、エミィ、ジル。


「申し訳ありませんが、ご主人様のお世話は私達で間に合っておりますので」


 エミィがそういうと、うんうんとうなずく2人。


「でも、私の嫁入りはヒビキさんにもプラスになるわよ?」


「ゲルド族の方との友好はすでに構築できています。ここで無理に婚姻を結ぶ必要は無いです」


 いつの間にかピノとエミィの一騎打ちになっている。

 俺はアイラとジルに両腕を封じられて身動きが取れない。

 はぁ、とため息を吐いて2人の言い合いが終わるのを待つしかないのだった。



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