第83話
邪神教への尋問は始めのうち、難航した。
当初はヴァンパイアの筆頭戦士であるヴェルゴードに任せていたのだが、大した成果もあがらず生け捕りにした人間の数が半数にまで減ってしまっていた。
「申し訳ありません。この者たちが中々口を割らず、どころか自害するものまでおりまして」
情報のひとつも手に入れられませんでした。と報告するヴェルゴードは悲壮な顔をしていた。
これはヴェルゴードの能力不足が原因ではなく、邪神教徒の口の堅さが原因だ。
邪神教徒達が洗脳系の魔法に対して強い抵抗力を持っていたことも敗因のひとつだろう。
さすが、ガチの邪神宗教だ。洗脳に対しての備えがしっかりしすぎだ。
邪神教徒は殺されても自白しないと言うことが分かったのが尋問の唯一の収穫だろうか。
仕方が無いので、アプローチの仕方を変えてみる。
まずは、環境を整える。
現在、邪神教徒は男女ごちゃ混ぜでひとつの部屋に閉じ込めている。
それを、とりあえず5~6人ほどの男女別のグループに分け、お互いの意思疎通を完全に遮断する。
次は尋問方法。
今まで部屋から適当に1人を選んで尋問していたのをグループごと尋問部屋に連れて行き、毎回同じ人間に尋問する。
尋問を受ける人間になぜ俺だけと思わせ、尋問を見ているだけの奴らと間に溝を作る。
そして、精神的にまいってきたところでマンツーマンでの邪神教の矛盾点を突く形での洗脳解除(上書き洗脳?)
具体的には、
普通の【回復魔法】で回復するお前は、正しい邪神教徒ではない。本物の邪神教徒なら回復魔法なんて受けたら発狂するはずだ(嘘)
お前は邪神教徒としても半端者だからこうして1人だけつらい目にあう(嘘)
などと迫り、不安定になったところで今からでも遅くない。真っ当な教会に入信するんだ。
などと吹き込んだ。
魔法を使わない洗脳によって改心(?)した男に他の邪神教徒のグループの給仕をやらせて、洗脳した男のグループは全て話して今は我々の味方だと説明させた。
しばらくすれば、他のグループからも寝返る者が出てくるだろう。
このように村での尋問が忙しく数日ほど街に顔を出していなかったのだが、冒険者登録しているヴァンパイア達やフレイの話を聞くと神官が俺達を探しているようだ。
しかも、すでに名前まで調べられているようだ。冒険者ギルドの依頼に名指しで『連絡求む』という依頼書が貼り付けられているらしい。
それを聞いた当初は無視を決め込むつもりだったが、とにかくしつこい。
俺はしばらく村でのんびりすることにしたのだが、どこから調べたのか、街にいたフレイや買い物中のラティアにまで声をかけてくるらしい。
あとで聞いたがシチューのおっさんもかなり質問攻めにあったらしい。
このままでは、フレイはどうでもいいが、ラティアが参ってしまう。
仕方が無いので教会に出向いてこちらに関わるなと文句を言いに行くことにした。
「先日は助けていただき、ありがとうございます。あの時は何の御礼も出来ず大変失礼いたしました」
教会の応接室でどんな文句を言ってやろうかと考えていると、神官さんが入ってきてすぐに丁寧なお礼を言われた。
「申し送れました。私、この街で神官をしております、サラ・コルトゥと申します」
******************************************
サラ・コルトゥ 17歳
神官
『癒神の選定』 効果 勇者の選定を行う 対象 個人
スキル
【回復魔法】★★
******************************************
「この前も言ったが俺は何もしていないよ」
「そんなことはありません。私を教会まで送っていただいたではありませんか。これだけは確かにあなたが私にしてくださった事です」
こちらが毒気を抜かれてしまうほどに頭を下げてお礼を言う神官さん。
少なくて申し訳ないがお礼です。と銀貨がジャラジャラと入った袋を渡されてしまった。
連日のしつこい創作に文句を言ってやるつもりで来たのだが、街中で知り合いが声をかけられて困っているのでやめさせてくれと頼む形となってしまった。
「そんな事になっていたのですか。申し訳ありません。私が深く考えずにあなた達に会ってお礼を言いたいだなんていったばかりに」
彼女は本当に知らなかったように見える。『選定神官』のお願いに周りが過剰反応しただけのようだ。
魔王の復活を公表している今の状態では、『選定神官』の言葉の重要度が上がるのは仕方がない事だろう。
「エミィさんもごめんなさいね。かえって迷惑をかけてしまったみたいで」
「いえ、済んだことですから」
それからエミィと神官さんの談笑が数十分続いた。
話題が上品過ぎてついていけない。
忘れがちだがエミィも生まれはそれなりに裕福な商人の家の娘だ。
こういった会話はお手の物なのだろう。
なんとか話が途切れたのを見計らってそろそろおいとましますと伝えた。
「じゃあ、これで失礼する」
「ええ、またいつでも来てくださいね」
「機会があれば」
次の約束を取り付けられる前になんとか教会から逃げ出す。
サラ自身は悪い娘ではないのだが、応接室の外からの気配が気になって仕方なかった。
「やっぱり、『選定神官』だから警戒されたのかな?」
「どちらかといえば、サラさんの勇者候補だと思われたんじゃないですか?」
『YES』
久しぶりに【神託】が出てきた。やはり教会関係の話だからだろうか。
『YES』
また答えがあった。ちなみに勇者の選定をする『癒神』ってのはあんたなのか?
『・・・』
これは都合が悪い質問らしい。
では質問を変えよう。勇者候補だと思っているのは周りの人間だけか?
『YES』
サラ本人にはその気が無いのか。それは、すでに自分の勇者候補を決めているから?
『NO』
サラは勇者の選定に興味が無い?
『YES』
どうやら、これからはサラ自身ではなく周りの人間に気をつけるべきらしい。
やはり教会に顔を出すのはやめておいたほうが良いようだ。
「薬草の採取を手伝って欲しいの」
そんな決意もたった2日で崩されることとなった。
全く悪気も無く、サラ・コルトゥは笑顔で俺達に用件を伝えた。
想像以上に教会の上司からのプッシュがあったようだ。
おそらく、サラにこの仕事を振れば俺達に依頼を出すことまで計算しての采配だろう。
『YES』
きっと、この街の教会のボスは出世欲の塊なのだろう。
危うく『ゴブリン村襲撃クエスト』が組まれる所だったらしい。
この街の冒険者に総出で襲われても返り討ちにする自身はあるが、こちらへのメリットが無さ過ぎる。
『YES』
さっきから知りたくも無い情報が増えていく。
ついでに薬草のある場所も教えてくれよ。
『NO』
役立たずめ。
さて、今回のサラからの依頼は森にある『滅魔薬』の原料となる薬草の採取らしい。
先日の戦闘で湯水のごとく『滅魔薬』をつかった為、在庫が無い状態だ。
だから、手伝え。とのことらしい。
断っても良かったのだが、『滅魔薬』の元になる薬草が気になったのでOKしてしまった。
報酬も森に行って、帰るだけにしてはかなりのものだったのも受ける気になった要因のひとつだ。
現在、ゴブリン村は少々金欠状態だ。サイたちが戻ればかなり楽になるとはいえ、心もとないのも事実だ。
ヴァンパイア達にも手に職をつけてもらうために色々と準備はしているが実を結ぶにはもう少し時間がかかるだろう。
こうして、俺達は慣れ親しんだ森の中でもちろんモンスターに襲われることも無く楽々と薬草を集めていった。
「今日の森の中はとても静かですね」
「まあ、モンスターが常に出るわけではないからな」
「そうなんですか?街の方々は森に入ったら生きては出られないとおっしゃっていましたが」
「そうだな、危険なときもある。油断しないように」
「はい、わかりました」
サラは今、俺達が集めた薬草を確認している。同じ種類の薬草でも『滅魔薬』に使える物と使えない物があるらしい。
大体持ってきた薬草の6割ほどが使用できないらしい。
「それって、何が違うんだ?」
「溜め込んでいる力によって使える物とそうでない物に分かれるんです」
企業秘密かと思って駄目元で聞いてみたがあっさり教えてくれた。
つまり、見分け方が難しいんだな。そう思って薬草のステータスを確認する。
******************************************
プール草(闇)
効果
空気中の魔力を吸収し、成長する。
葉には、不要な魔力が溜まる。
******************************************
どうやらプール草は、魔力を吸収して自分に不要な魔力を葉に溜め込むらしい。
サラの判別したプール草は、光の魔力を葉に集めているようだ。
使用できないほうには闇と無印がある。
つまり、『滅魔薬』も光の魔法の力で魔族にダメージを与えているわけだ。
「サラさん、この使えない草貰ってもいいかな?」
「ええ、構いませんよ。持ち帰っても使い道がありませんから」
必要な量の薬草を集め終え、サラを教会まで送り届ける。
特定の魔力を濃縮するこの草、きっと何かに使えるだろう。