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第75話



 


「おお。ゴブリンとは言え、この数はすごいな」


 野球のために作った広場に集まったゴブリンはおよそ60匹ほどだ。

 まずは班分けを行う。ラルとハモンを班長とし、10匹の班を2つ作る。

 残った奴らは俺とルビーがまとめて指示を出すので細かい班分けを行わない。


「まさか、この戦力差で戦うつもりか?」


「いや、とりあえず護衛の時と同じ20匹に慣れておいて貰おうと思ってる」


 護衛に必要なのは攻撃力ではなく防御力。

 それも、長距離を移動するためなるべく軽装が好ましい。


 そんなわけで、軽装のサイ達を俺達が取り囲んで攻撃する予定だ。

  

「で、これが『ゴブリン運送』の制服だ」


 用意したのは揃いの軽くて丈夫なモンスター素材製の革鎧。

 先日オーガの素材が大量に手に入ったのでそれを使わせてもらっている。

 

「へぇ、いい革鎧だな。あれ?背中のほうに何か描いてあるな」


 背中に描いてあるのは、『ゴブリン運送』のロゴだ。

 黒系の革鎧に白の着色料で可愛くデフォルメされたゴブリンが両手に荷物を抱えたような絵が描かれている。


「うちのマークだ。こっちじゃ大分慣れてくれてるがあっちじゃゴブリンたちが冒険者に襲われるかも知れないからな」


 マークはジルがデザインした。粘土の時といい、芸術系に才能を持った奴だ。


「くふふ、そのマークはなかなかの出来じゃのぅ」


 ジルも広場に来ている。朝の騒ぎの時にはいなかったがしっかりと昼食時には起きてきたので捕獲しておいた。

 ジルには、仮想敵アグレッサー役を準備してもらう。


「じゃあ、ジル。早速だけど頼むよ」


「うむ、数は多目でよいのじゃな?」


「ああ、やれるだけやっちゃって」


 ジルが精神を集中し、杖を振るう。すると、地面からにょきにょきと雨の日の後の筍のようにスケルトンが生えてきた。

 俺が戦ったスケルトンウォーリアに比べると全てが劣っているように思う。レベルも20とやや低めだ。

 まぁ、ブレトまでの森の中なら一部を除けばこんなものか。


「ふぅ。主よこんなものかのぅ」


 現れたスケルトンは20体ほどだ。ただのスケルトンでもこの数はすごい。

 しかし、レベルも低めで数も同じでは普通に戦ってもゴブリンたちが勝ってしまうだろう。

 現在、ここにいるゴブリンたちのレベルの平均は30ほどだし、ラルはLv.36ムサシはLv.35になっている。

 

「ジル、数が足りない。この倍くらい欲しいな」


「無茶を言うのぅ。すでにわらわは魔力切れじゃ」


「なら、補充していい」


 ぐい、と首筋をだしてジルに近づく。


「ちょ、ちょっと待つんじゃ、我が主よ!? こんな、大勢の前で血を吸えというのか!?」


「ダメか?」


「だ、大胆すぎるじゃろ!? いくら、ここにおるのが身内だけじゃからと言って」


 そこまで言われて『叡智の書』の言っていたことを思い出した。

 ヴァンパイアにとって『吸血』は、相手を俺に限れば求愛行為の一面がある。

 つまり、みんなの前でキスしろと言っているようなものだろうか?

 しかし、キス位で取り乱すとはジルもなかなか純情だ。


「分かった。ちょっと待ってろ」


 ジルに近づいて抱き寄せ、周りを【闇魔法】で覆う。これで周りからの視線を遮断できる。

 

「さぁ、ジル?これならいいか?」


「う、う、周りにみながおるのは変わらんじゃろぅに」


「嫌ならポーションにするか?」


 俺の血を吸ってくれれば、星剣で回復できるからリーズナブルなのだが。

 ポーションを受け取るためにルビーを呼ぼうとする。


「あーー、もう。主は本当に人が悪いのぅ!!」


「なに怒ってんだよ?」


「もう、知らん!!カラカラになるまで吸い尽くしてやるからのぅ!!」


 かぷっと可愛く俺の首筋に噛み付くジル。一瞬だけチクリとしたがすぐに痛みが治まる。

 ジルが傷をつけた箇所に舌を這わせて血をすすっている。


「ちゅーーー」


 俺の血がそんなに美味いのだろうか、無言で血を吸い続けている。


「ちゅーーー」


 傷が塞がりかけるたびにキバが首筋に食い込む。


「おい、ジル。そろそろいいだろ?」


「ちゅーーー」


 俺の言葉を無視して血を吸い続けるジル。

 なんだか、スーッと力が抜けるような感覚がある。

 【自己再生】で肉体的なものは回復しているはずなのだが、魂でも吸われているのだろうか。


「ぢゅーーー」


 なんだか吸い付きもよくなっている気がする。


「おい!!いいかげんにしろ!?」


「ぢゅーーー」


 少し怖くなって無理矢理ジルを引き剥がす。ジルは両手を伸ばしてまた首筋に食らいつこうとする。


「落ち着け!!」


「へぶぅ!?」


 ジルの顔にやや強めにチョップを食らわす。


「痛いのぅ、何するんじゃ、主」


「お前こそ、どうしたんだよ。今まであんなに必死に血を吸ってたか?」


 行為の最中に首筋に噛み付くことはあってもあくまでも、アクセント程度の意味合いでしか無かったはずだ。

 先ほども言ったが行為中に盛り上がってするベロチューくらいのものだったはずだ。


「いや、どうも主の血が美味くてな。どうも迷宮から帰ってから、抑えが効かなくなってきとるのぅ」


「大丈夫なのか?別に血はいくら吸ってもいいが、一応飲みすぎには気をつけろよ」


「分かっておる。無茶な飲み方はせん」


 なんだか酒飲みの会話のようになっているが内容は真面目だ。

 

「おーい、ヒビキ?大丈夫か?」


 モヤの外でサイが声をかけてきた。さすがに時間をかけすぎてしまったようだ。


「すまん。遅くなった」


 ジルと2人でモヤから出る。サイがすぐそばにいたが何だか顔が赤い。


「どうした?」


「えっ!?いや、邪魔してすまん!!」


「邪魔?」


 サイの言葉に首を傾げるがとなりのジルを見てはっと気がついた。

 紅潮した顔のジル。ブラインドの向こうに消えた二人。

 そして、消えるまでの2人の会話は聞きようによっては痴話げんかに聞こえる。


「あー、うん、誤解だ」


「わ、分かってる。アイラさんたちには内緒だな!?」


 それから、サイの誤解を解くのに少し時間を取られてしまった。

 

 魔力を回復したジルが再度行ったスケルトンの召喚で新たに40体のスケルトンが召喚された。


「うん、なんだか調子がいいのぅ」


 召喚を終えてもまだまだ余裕のようだ。かなり血を飲んだのでそれが原因かもしれない。


「とりあえず、スケルトンで攻撃するからサイ達はアレを守ってくれ」


「ああ、分かった」


 俺が指さしたのは縦横高さが1mほどのコンテナ型の木箱だ。

 スケルトンたちにはあの木箱を攻撃目標として攻撃をさせる。


「よし始めるぞ!!」


 俺の合図と共にスケルトンたちが木箱に向かって動き始めた。


「ラル隊、正面の敵を排除!!前に出すぎるな、2対1の状況を意識しろ!!」


 サイの指示が広場に響き渡る。ラルは部下を引き連れて一番スケルトンが多い正面に展開し散発的に近づいてくるスケルトンを冷静に排除している。


「ムサシ隊、コンテナ周辺を全周防御。ラルの部隊の合流まで持ちこたえろ!!」


 ムサシの部隊を完全にコンテナに張り付かせる作戦のようだ。これならコンテナが傷つくことなくスケルトンの排除が出来るだろう。

 しかし、それでは面白くない。近くにいたジルと顔を寄せて新たなスケルトンの召喚を指示した。


「くふふ、とりあえずこれで魔力切れじゃのぅ」


 新たに20体のスケルトンを召喚してふぅと息を吐くジル。更なるスケルトンの追加もありうるのでジルを抱き寄せて首筋をジルに押し付けた。

 周りの奴らがこちらを見ていないのは確認済みだ。


「ちょ、また!?がふっ」


 ジルは文句を言いながらも血を吸い始めた。今度は理性が飛ぶことが無かったようで、適量で口を放した。


「全く、強引じゃのぅ」


 文句を言いながらもまんざらでもない顔をしているジル。女心は分からないものだ。

 さて、いちゃいちゃしている間にもスケルトンの数が減ってしまっている。

 今回召喚した20体をラル隊が展開しているほうとは逆側から隊列を組んで突撃させる。


「なっ!?追加の部隊だと!?」


 指揮だけを行っていたサイが後ろの部隊の登場でついに戦闘に参加する。

 やはりサイはかなりの腕前だ。

 密集しているスケルトンを一太刀で数体まとめて斬り飛ばしている。

 義手での戦闘にも慣れたのだろう、相手の攻撃を義手で受けるなどの防御も見せてくれた。


 どうやら、戦場は硬直状態になったようだ。重症者が出ればすぐさまおれが駆けつけられるようにしているので、この戦闘に俺は参加できない。

 なので、そろそろ真打を投入することにする。


「ルビー、頼むぞ」


 ルビーが待ってましたとばかりに体を震わせる。


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