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第74話




 魔族の叫び声を聞いてゴブリンやアイラ達がやって来た。

 今までの戦闘の音も聞こえていたらしいが俺の実験だと思われていたようだ。


 魔族はまだ生きているので近づくなと言ったらみんなが俺を警戒する。

 なぜ?と思ったが竜の鱗(こんなかっこう)では分からないか。

 顔を出そうとしたら、アイラが無警戒に近づいて来る。


「アイラ!?危険ですよ!?」


 エミィが当然の心配をするがアイラは気にしない。


「ご主人様とルビーですよ」


「えっ!?」


「そうですよね?ご主人様?」


「あ、ああ、俺だ。よくわかったな」


「二人の臭いが混ざってましたけど、ご主人様の音がしましたから」


 心臓の鼓動で判断したらしい。

 魔族の体の再生はまだ終わらない。最初の再生速度と比べるとかなり遅い気がする。 


『くそ、魔力が足りん!!』


 どうやら再生に魔力が必要なようだ。最初に半身を炭化され、次は全身をこんがり焼かれて、最後にまた半身を吹き飛ばされる。

 生きているだけでも十分すごいと言える。さすが魔族と言うところだろうか。

 今も再生が遅々として進まないだけで、どうやら命に別状は無いようだ。


「うるさいなぁ、先輩はしゃぎ過ぎじゃないですか?ってうわ、なんだあの変身ヒーローみたいな奴は!?って先輩っすか」


『ま、魔王様!?』


「うん?確かに俺は魔王だが、お前はだれだ?」


 ユウキと顔見知りと言うわけでもないようだ。魔族の口ぶりだと知り合いのように感じたが。


『お忘れですか!?魔王軍、48炎魔の1人、ザルクファー様の部下、ライクォーネル・タージナル・ファイゲルシュ・・・』


「ああ、ザルクファーとこの部下か、そんなお前がここに何のようだ?」


『そ、それは、ザルクファー様の命を受けまして、その、』


 口ごもる下っ端魔族。

 ちなみにあとでユウキに魔王軍の編制について聞いた。




  魔王(1人)

   ↓

 魔王軍四天王(もちろん4人)

   ↓

  魔将軍(12人)

   ↓

  魔族12軍(魔将軍1人に1軍。1つの軍に48人のリーダーがいる。魔族の上司、ザルクファーはここに属する)

   ↓

 エリート魔族(多数、今回の魔族は一応ここに属する)

   ↓

 ザコ魔族(多数、エヴィンに取り付いた魔族はここに属する)




 つまり、俺はザコ魔族に追い詰められていたらしい。

 今回、エリート魔族を相手に圧勝できたのは、【名声】と【灼熱竜の鱗】と星剣のおかげだろう。


 直属の上司からの命令で俺を試して来いと言われて魔王ユウキがこの場を離れている間に命令をこなそうとしたが返り討ちにあったわけだ。


『も、申し訳ありません。たかが人間に不覚を取ってしまうとは』


 どうやら魔族は俺に攻撃を仕掛けたことについては特に何も思っていないようだ。

 まぁ上司が攻撃して来いと言ったのなら魔王の意思も同じだと考えても不思議ではない。

 ただ、人間に負けたことが恥だと言っている。


「先輩、すみません。なんかうちのもんが暴走したみたいで」


「なんでここに魔族が来るんだよ」


「いやぁ、俺がここに来る理由が、先輩のスカウトってことになってるんで」


「スカウト?」


「ええ、どんな種族の奴らでも【闇魔法】さえあれば魔族にできますから。あ、別に無理矢理スカウトしてるわけじゃないっすよ。ちゃんと本人の了承を得て魔族にしてます」


 ジルのように場所によっては魔族やモンスター扱いされる種族たちをスカウトして本当に魔族にして回っているらしい。

 ファンタジーでも有名なダークエルフも、エルフを【闇魔法】で魔族化した者たちとのことだ。


「で、何度かここに来てるんで、魔王(おれ)の誘いを断るなんて許せん!!て奴らがいるみたいで」


「こいつみたいに?」


 とりあえず足元で土下座している魔族に蹴りを入れる。


「はい、こいつみたいにっす」


 ユウキも蹴りを入れる。

 とりあえず魔王ユウキの登場で大人しくなった魔族の処遇を決める。


「こいつ、うちの風呂のボイラーにするわ」


「ボイラー?」


 現在、露天風呂に入る為には村人が総出で水を汲みに行き、それをゴブリンメイジと俺で暖めるという作業をしている。

 これがとてつもなくめんどくさい。

 この魔族、【火魔法】を使えるのでコンクリートで固めて木桶の中に沈めておこうかと思っている。

 これで、木桶の中にあらかじめ水を入れておけばいつでもお湯が使えるようになるのではないか。


「でも、どうやって【火魔法】を使わせるんすか?」


「・・・【闇魔法】ってファンタジーのボスが出来そうなことは大抵できるんだろ?」


 そう、ある意味王道の『敵を洗脳して自分の都合の言いように使う』をこの魔族に行うのだ。

 水が桶に入ってきたら適温になるまで【火魔法】を使うように洗脳する。


「先輩、洗脳って可愛い女の子とかにするもんじゃないっすか?」


「だったら、今度は可愛い女の子の魔族を連れて来いよ」


 ユウキが、うーん、と悩んでいたので近いうちに可愛い女の魔族が現れるかもしれない。

 しかし、今はとにかくこの土下座してる魔族の洗脳が先だ。

 【闇魔法】は覚えて数時間しか経っていないが、星剣の補助のおかげで力技だが何とかなった。


「よし、うまく行った」


『オケニミズガキタラ【火魔法】、テキオンニナッタラトメル』


 洗脳がうまくいった。後はコンクリートでコーティングするだけだがこの様子ならその必要は無いかもしれない。


「おい、お前は今日から『ボイラー』だ」


『ワタシノナマエハ『ボイラー』デス』


 しばらくはコンクリートではなく、手錠くらいで済ませておこう。なにかあったらコンクリートで固めればいい。



 さて、スキル確認がとんだ実戦になってしまったが、実戦に勝る経験無しとも言う。

 ルビーとの合体技も編み出せたことだし、よしとしよう。



 騒動が解決するとちょうど昼飯時になった。この騒ぎでも起きてこなかったジルがここでようやく目を覚ましてきた。

 せっかくなのでサイとヤクゥを村のみんなに紹介する為に村の広場でみんなで昼食にする。


「えーと、こちらサイさん。冒険者さんです。これからこの村で生活する新しい仲間です。みんな、いじめないように」


「よ、よろしく」


 肯定の意味であろう声を上げるゴブリンたち。ちょうど沢山仲間が増えたところだ。1人や2人増えても問題ないのだろう。


「あと、この娘がヤクゥ。サイの妹だ。サイは仕事で村を留守にすることが多いかもしれないがヤクゥは村にいると思うので、仲良くしてあげなさい」


「あ、ぅ、よろしく」


 小さな声で泣きそうになりながらあいさつするヤクゥ。ゴブリンたちも拍手で歓迎している。

 さっそくゴブリンたちがヤクゥの周りに集まって昼食をとり始める。ヤクゥは助けを求めるようにサイや俺のほうを見る。

 

「お、さっそく仲良くしてくれてるんだな。良かったなヤクゥ」


「に、にいちゃん、たすけ」


「よし、俺も仲良くなるぞ!!」


 そういって、サイはラル、ムサシ、ハモンたちが食事を取っている輪に参加しようとする。

 どうやら受け入れられたようだ。ゴブリンの指揮官達と仲良くなるのはこれからのサイの仕事に取ってはプラスになるだろう。

 ヤクゥもどうやらゴブリンだらけの状況に慣れてきたようだ、さっきから用意された食事をすごい勢いで食べている。

 なんだか、ヤケクソぎみにも見えるがゴブリンたちも用意した食事を食べてもらって嬉しそうだ。



「さて、サイ。仕事の話をしようか」


「ああ、そうだな」


 食事もそこそこに広場にいくつか用意した椅子とテーブルに腰掛ける。

 とりあえず、今回が『ゴブリン運送』の初仕事だ。余裕を持った戦力で望みたい。

 

「今回は、ラルとムサシを含む20匹ほどで護衛を頼む」


「ラルとムサシか、さっき一緒に飯を食ったがどっちもかなり強いよな」


 一緒に食事をしただけでそこまで分かるらしい。やはりサイもかなりの実力者だ。

 ゴブリンの編制は、森の中なので剣を主体にゴブリンメイジを2匹つける。

 それらゴブリンたちの荷物を乗せる馬車を一台同行させる。おそらく体力の無いゴブリンメイジは馬車で待機になるだろう。


 また、護衛部隊とは別に情報収集の為に、商隊の周りにゴブリンシーフを5匹配置する。

 これは、商隊には伝えない。接敵などの戦闘に関する情報をすべてこちらで握っておきたいからだ。

 今回は、お試しの意味も込めて『ゴブリン運送』以外の護衛もいるそうだ。

 まぁ、最初から信用されるとは思っていない。

 その為、料金も少し安めだ。まぁ、今回は赤字でも構わない。


「ラルにはブレトの街の周辺でスカウトもしてもらうつもりだ」


「スカウト?」


「ああ、定期便がうまく行けば人手が足りなくなるからな。ブレトとの交流が盛んになれば便が増えるだろうし」


「なるほど、その間に俺は復路での荷物を預かればいいんだな」


「ああ、錬金術師ギルドからの依頼だけじゃ勿体無いが今回は仕方ない。次回以降の為の情報収集も頼む」


「わかった」


「最後に、うちのゴブリン達は俺の仲間だ。雑に扱わないでくれ」


「もちろんだ。たった一日だが一緒にいて情もわいてる」


 その言葉に嘘が無いと信じて俺はサイと握手をした。


「よろしく頼むよ、リーダー」


「ははっ、リーダーなんて初めてだよ」


 昼食後からゴブリンの部隊をサイの指揮で操れるように指導することになっている。

 はたしてうまくいくだろうか。


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